第41話:3番目のリオン
俺達は不気味な程の明るさを常に持っている洞窟をひたすらに前に進み始めた。やがて俺達はある開けた空間に辿り着いた。
その場所は円形になっており、周囲の壁には素人の俺には見た事も無い様々な武器が置かれていた。そして、その場所の真ん中には見覚えのある人物が立っていた。
「よく来たね」
「あなたは……」
その顔は、俺と戦い、約束を守ってくれた彼女『リオン』と瓜二つだった。
あの時リオンは、自分の事を作られた存在だと言っていた。戦場でしか生きられない生体兵器だと。まさか今目の前に居るのは、彼女と同じ様な存在なのか……?
父さんが俺を守る様に立つ。
「またお前か。どういうつもりだ?」
「あー……なるほど、姉さんに会ったんだ? そういうハナシでしょ?」
「姉さんだと? 何言ってるんだ?」
リオンと思しき存在はゆっくりとこちらに歩き始める。
「ねぇ、そこ退きなよ」
「素直に聞く訳ないだろ。オーアは俺の大事な息子だ」
母さんは俺を守る様に軽く抱き寄せる。
「あなたが誰なのかは知りませんけど、絶対にあなたの思う様にはさせません」
ズィーブント達は母さんのその言葉を聞き、更に俺の方へと寄り、守りを固くした。しかし、リオンは歩みを止めるつもりは無いらしく、少しずつ近付いてきていた。
「息子、ねぇ……これはあの爺さんから聞いた話なんだけど、その子、あんたらの子供じゃないんでしょ?」
「いいや。俺達の子供だ。誰が何と言おうとな」
「んー……よく分かんないハナシかな私には。ま……でもいいか」
そう言うとリオンは左手を前に向けた。その瞬間、聞いた事も無い様な炸裂音が洞窟内に響き渡った。
「いずれにせよ、その子以外皆殺しにしろってハナシだし」
父さんを見ると、いつの間にか頬から血が伝っていた。
いったいあいつ、何をしたんだ……? 攻撃をした瞬間が全く見えなかった。この感じからすると銃を使ったっぽいが、でもどこに銃があった……?
「そんな物で……俺が怯むと思ったか?」
「いや? 今のは一応警告だったんだけど」
「不要だ。俺の心はただ一つ。大切な家族を守る。それだけだ」
「なるほどね。あんたには警告は無意味ってハナシか」
俺は父さんを押しのける様にして前に出る。
「待ってくれ!」
「何の話かな?」
「お前らの狙いは俺なんだろ? 父さん達は関係ないだろ! 頼むから狙うんなら俺だけにしろ!」
「それは出来ないってハナシかな」
リオンは視線を外す事無く横へと歩き出し、やがて壁に掛けてある槌の様な物を手に取る。
「私の使命は君を捕まえてくる事だからね。必要があれば他の奴は殺していいって事になってる」
「なら! いいだろ!」
「そうは行かなくなっちゃったハナシだよ」
リオンはズィーブントの方を見る。
「あんたさ、話しちゃったんでしょ?」
「……ああ」
「私もさ、無意味な殺生はしたくない訳だ。でもさ、あんたが寝返って話しちゃったってなったらさ、もう仕方ないってハナシでしょ?」
「確かに俺は、最初あの人の味方をしていながら、今は彼の味方で居る。裏切り者扱いは当然だ」
ズィーブントは前に出て父さんと並ぶ。
「だが、やはり俺は彼の罪を見逃す訳にはいかない」
「ふーん。命を助けてもらった分際で?」
「ああ。彼には恩がある。だからこそ、彼の罪を見逃す訳にはいかない」
そう言うと、ズィーブントはリオンの体の中心である鳩尾の辺りに火種を出現させ、それを一気に燃え上げさせた。その炎は人一人を焼き殺すのには十分過ぎる程の火力だった。
しかし、リオンを包み込んでいた炎は、リオンが手に持っていた槌を横に薙いだだけで綺麗に消し飛ばされた。その皮膚には火傷の様な症状は一切見られず、傷一つ付いていなかった。
「……まさか、君は……」
「話には聞いてたんじゃない? 『リオンシリーズ』の三番目、だよ」
「おい何だ、知ってるのか?」
「ありえない……! リオンシリーズとして作られたのはあの二人だけの筈……!」
何だ、ズィーブントはリオンの事を知ってるのか? 今の言い方だと、リオンは少なくとも3人居る事になる。トリスメギストスが作った、のか?
「まあそうだね。確かに前までは2人だけだったよ。でもそれは前までの話。わざわざあんた達を殺すために作られたんだよ、私はね」
「君は……どう思ってるんだ?」
「何を?」
「君は兵器として作られた。人を殺す兵器として……。それは、本望なのか?」
「それが私の役目じゃん? まあ姉さん達はそんな使命をほっぽり投げて好きにやってるみたいだけどさ」
リオンは槌を振り上げ、勢い良く地面に叩きつけた。それによって地面にヒビが入り、まるで地震の様に洞窟内を揺るがせた。
「私は姉さん達とは違う。役目から逃げ出した姉さん達とは違う。私に与えられた使命を……必ず果たす」
リオンから鋭い殺気を感じ、すぐさま体の自由を奪おうと意識を飛ばしてみたものの、何故か今までの様にリンクさせる事が出来ず、見えない障壁の様な何かに防がれてしまった。
「言っとくけど無駄なハナシだよ? 私は君を捕まえるためだけに作られたんだ。そんな技が通じる訳無いだろう?」
「オーア! 逃げろ!」
「そういかないよ! あいつの狙いは俺なんだ! だから……!」
俺がそう言った瞬間、ズィーブントが指を鳴らした。それを合図とする様に突然目の前に炎の壁が出現し、父さんとズィーブントの姿を隠した。
母さんが叫ぶ。
「あなたっ!!」
「母さん、親父なら大丈夫だよ。危ないから近付かない方がいい」
「でもマティ!」
マティ姉の言う通りだ。今チラッと見て気付いたが、ズィーブントはこの炎の壁を作る時、リオンの逃げ場が無くなる様に円形に作っていた。つまり、この空間の壁に沿っていけば、奥に進む事が出来るって事だ。
「母さん、マティ姉の言う通りだよ。ズィーブントは俺達を先に進ませるためにやってくれてるんだ」
「わ、私もそう思う……あの人はきっとオーアのために……」
マルデダは炎を見つめる。
「……さっさと行くぞ。兄貴が作ってくれたチャンスだ。無駄にする訳にはいかねェだろ」
焦燥した様子の母さんの手をピールが繋ぐ。
「お母さん、行こう? 今は前に進むしかないよ。お父さん、今まで私達の期待を裏切った事無かったでしょ?」
母さんは少しの間目を瞑っていたが、やがて覚悟を決めた様に目を開いた。
「……そうね。あの人は結婚してから一回だって私を裏切った事は無かった。きっと大丈夫よね……」
「行くぜオーア。兄貴が作ったチャンス、無駄にすんなよ」
「ああ」
俺達は父さんとズィーブントにその場を任せ、壁伝いに奥へ奥へと進んでいった。




