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第29話:容疑者

 俺は小鳥のさえずりで目を覚ました。

 久々に気持ちのいい寝起きだ。

 俺は着替えを済ませると、すぐに一階へ向かった。

 皆に話さなければならない事がある。


 食卓には既に皆集まっており、丁度母さんが料理を運んでいるところだった。

「おはよう」

「あら、おはよう。どうしたの? 今日は朝から調子良さそうだけど」

 やっぱり母さんには敵わないな。いや、多分皆気付いてるのかも。

「うん。やっと、会えたんだ」

 父さんが何の事やらといった表情でこちらを見る。

「会えたって、誰に?」

「俺の……お祖母ちゃん」

 俺がそう言うと、父さんは少し動揺している様に見えた。

「み、見つかったっていうのは、その……つまり、オーアの本当の血の繋がった家族って意味か?」

「うん。あくまで向こうがそう言ってるだけに過ぎないけど、でも、俺はあの人を信じたいと思った」

 マティ姉が突然立ち上がり、こちらに近寄ってくる。

「そ、それでさ……オーアはどうすんの? ここから……出てくの?」

「……正直、あんまりそうは思ってないかな? 確かに血の繋がったお祖母ちゃんは大事だけど、それと同じ位に皆の事が大事なんだ」

 俺がそう答えると、マティ姉の体から力が抜けた様だった。

「な、何だそっか……ハハハ……い、嫌な汗かいちゃったよ……」

 きっと俺がここを出て行ってしまうと考えたんだろう。

 きっと昔の俺ならそう考えたと思う。でも、今ではこの人達も家族だ。家族を悲しませる事なんて出来ない。

 それに、まだ帰る方法も分からないし。

 そんな風に考えていると、ピールが口を開いた。

「でも、どこで会ったの? その感じだと、夜の間だよね?」

 彼女の疑問も最もだ。

 俺は昨日の夜は外出しなかったし、それに、あんなの実際に見てなければ分かる筈が無い。

「実はね……」

 俺は昨夜体験した夢の様な話をその場に居る全員に話し始めた。



「……という訳」

 俺が話し終えると、さっきまで黙っていたヘルメスお姉ちゃんが最初に口を開いた。

「あのさ……さっきのお話の中に出てきた、丸い球って、まだある……?」

「うん。俺の部屋に歩けど、何か知ってるの?」

「師匠から貰った本の中に、似た様な物があった気がする。もしかしたら、それかも……」

 俺が思っていた通りだった様だ。

 あの丸い球は錬金術に関係している道具、あるいは魔術的な普通の人には分からない様な代物だった様だ。

 俺は思わず詰め寄る。

「教えて! どういう道具なの!?」

「え、あ、いやそれは……本見ないとハッキリとは覚えてなくて……」

「じゃ、じゃあ!」

 そこまで言ったところで、母さんが俺の肩に手を置く。

「逸る気持ちは分かるけど、まずは落ち着きなさい。朝ご飯を食べてからにしましょう?」

「あ……ごめん」

 俺は焦る余り余裕が無くなっていた自分が恥ずかしくなった。

 そうだ。焦っちゃ駄目だ。落ち着いていこう。

「さぁ、食べましょう。今日は休みなんだから、食べ終わったら皆でゆっくり調べましょう?」

 母さんがそう呼びかけ、俺達は朝食をとる事にした。

 今日は休みという事もあってか、いつもよりも少し量が多く、豪華に思えた。


 朝食を終えた俺達はピールの部屋に集まっていた。

 部屋の真ん中には錬金釜が置かれ、本棚の半分は何やら難しそうな本で埋まっていた。

 俺は部屋からあの球を持ち出し、机の上に置いた。

 ヘルメスお姉ちゃんは本棚から本を一冊取り出し、次々とページを捲っていたが、あるページでその手は止まった。

「これだよ……『効果増幅装置』」

 そこには、目の前の球体と瓜二つの絵が描かれていた。

「それで、それはいったい何なんだ?」

 父さんがそう尋ねると、ヘルメスお姉ちゃんは話し出した。

「これは、植物が持つ力を再現して作られた物……なんだ」

「植物?」

「うん。私達錬金術師は、素材が持っている力を引き出して、それを混ぜ合わせる事で新しい物を造ってるの。これは、それの応用……」

 いまいちピンと来ない。

 植物にそんな力があるんだろうか?

 そう考えていると、今度はピールが話し始めた。

「植物は土の中にある栄養を元に大きくなる。そういう事でしょ?」

「うん。ピール、ちゃんの言う通りだよ。この球の中に物を閉じ込めて、それを地面に埋める。すると、中に閉じ込められた物は本来持っている力をどんどん増幅させていくの」

 ここまで聞いて、俺はハッとした。

 そうだ。あの時ムラードが言ってたのはそういう事だったんだ。

 『俺は失敗作ではない』。あいつが、俺を埋めたと言っていたのもそういう事だ。

 つまりあいつらは、俺の持っている能力に気付いていて、その能力を増幅させるために、俺を何らかの方法でここに連れてきてあの中に閉じ込めたんだ……。

「う、うーん……俺にはさっぱりだなぁ……錬金術っていうのは、そんな事も出来るのか?」

「うん。本当は、この技術は素材の持つ力を最大限引き出すために造られた技術なんだけど……」

 マティ姉を見ると、怒りに振るえているのが分かった。

「つまりさ、こういう事でしょ? あのウィルスばら撒いてた奴が、オーアの事閉じ込めて埋めた」

「マティ姉、落ち着いて。あいつはただ埋めただけだよ。一番の問題は、それを指示した奴がいるって事だ」

 ムラードに指示した人物……恐らく俺の前に姿を現してはいないのだろう。姿を出すメリットが無いしな。

 ただ、気になるのは、どうして俺を殺そうとしたのかだ。

 もし俺の能力が必要なら、最初から記憶を奪った俺を引き取って、仲間にしてしまえば良かったじゃないか。それなら、わざわざ殺そうとしなくても済んだ筈だ。

 自分で言うのもなんだが、俺は自分の事がよく分かってるつもりだ。

 もしも、家族や大切な人から能力を使って欲しいと頼まれたら、きっと使ってしまうだろう。

「ヘルメスお姉ちゃん……一つ、いいかな?」

「な、何……?」

「増幅させた力を素材からそのまま抜き取って、その力だけを使うなんて事は出来る?」

 そう聞かれたヘルメスお姉ちゃんはページを捲る。

「……無いわけではないかな。でも、錬金術師にとってそれをする利点が無いよ。引き出した力はそのまま錬金釜の中で混ぜちゃうし、意味が無いよ」

「あるにはあるんだね?」

「うん……」

 その話を聞いて、何となくだが分かってきた。

 要は、あいつらは俺の能力を自由に使いたかったんだ。

 考えてみれば当然か。意思を持っていて逆らう可能性がある人間よりも、意思を持たない力だけの方が便利だもんな。

「ただね……?」

 ヘルメスお姉ちゃんが言葉を繋げる。

「引き出した力だけを使おうとすると、暴走する可能性があるんだ」

「暴走……?」

「元々は素材の中に含まれてた力だからね……。どこかしら居場所を作ってあげないと安定しないんだ」

 だとしたら、奴らにとっても俺が掘り出されたのは想定外って事か?

 俺を殺そうとしてるのは、最終手段って事なのか?

 俺がそう考えていると、母さんが尋ねる。

「ちょっと待ってもらえる? 錬金術を使えば、その器を作れるんじゃないの?」

「えっと……確かに出来るには出来るんだけど、それはあくまで錬金釜の中での話しなんだ……。だから、錬金釜の外でそういう事をやろうとしても、出来ないの」

 それを聞いたピールが質問する。

「今までに、人が素材に使われてた事ってあるのかな……?」

「そ、それは無いと思う……。そんな事をするメリットが無いし……それに、成功するかどうかも分からないし……」

 だとすると、俺が掘り出されたのは想定外という線で考えた方が良さそうだな。

 ここまで分かれば、後少しだ。

 俺はヘルメスお姉ちゃんに尋ねる。

「ねぇ。ヘルメスお姉ちゃんが知ってる錬金術師、全部教えて?」

「え、え?」

「そういう技術、知識を持ってるって事は、つまりそういう事でしょ?」

 マティ姉がヘルメスお姉ちゃんの両肩を掴む。

「ねぇ頼むよヘルちゃん! 知ってんでしょ?」

「う……あ、あの……二人位しか知らない……」

「それでもいいからさ! オーアを助けたんだよあたしは!」

 俺はマティ姉のその言葉が嬉しかった。他の皆も彼女と同じ事を思ってくれているのは、今までの経験で明らかだった。

 俺はマティ姉に手を離させ、座っているヘルメスお姉ちゃんに目線を合わせた。

「言いにくいのは分かるよ。師匠さんも含まれてるんだよね?」

「う、うん……でも、師匠はそんな事する人じゃないよ……」

「悪いけど、俺は師匠さんには会った事無いから、完全に信じる事は出来ないよ」

 ヘルメスお姉ちゃんは今にも泣きそうになっている。

 心苦しいが、どうしても俺はハッキリさせたかった。

「師匠さんと、もう一人は誰?」

「う……はぁ……はぁ……へ……ヘルムート、王国の……王様……」

 それを聞いた父さんは顎を手で触り始める。

「ヘルムート王国と言えば、ここから北の方にある国じゃなかったか?」

「そうですね。でも、あそこは凄く平和な国の筈だけど……」

 どうやら父さんと母さんは知ってる様だ。

 まだ、その人物が黒幕と決まった訳ではないが、調べてみる価値は十分にある。

「ありがとう。答えてくれて」

「うぅ……」

 俺は立ち上がる。

 すると、父さんが手を掴んできた。

「何……?」

「行く気か?」

「……うん」

 その言葉を聞いてか、父さんの手の力が上がった。

「一人で行くのは危険だ」

「大丈夫だよ。問題無いって」

 俺を見る父さんの目に揺るぎは無かった。何としてでも行かせないという意思を感じた。

「今までもお前はそう言って無茶ばかりしてきた。何度も死に掛けたのを忘れたのか? どうしても行くんなら、父さんも一緒に行く」

「と、父さんが……?」

 正直不安でしかなかった。

 父さんは確かにガタイがいいし、力も強い。でも、あくまで一般人だ。もしも何かあった時、守りきれる自信が無い。

「よし! 決まりだな! 決まり決まり!!」

「え、ちょっと……」

 結局そのまま押し切られる様に決まってしまった。

 俺の事を心配してくれているのは嬉しいが、俺の心は不安で満たされてしまった。

 だが、ああなってしまった父さんを説得するのは不可能だ。ここは大人しく従っておこう。

 俺は出発に備えて、準備をする事にした。

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