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理想なんてクソくらえ  作者: 末吉
第一章
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第一章 第六話

 そこからまぁ一週間が経過した。

 一週間がどのくらいかというと、大陸歴同様に古代文字から解読された日付に関連する曜日という項目に書かれていたらしく、全部で七に分割されていたそうだ。

 この星――アースの周りをまわっているというテラたちを象徴しているらしい。

 まずこのアースに光を届ける星――サンフィア。この曜日になると、大体の人たちは休むそうだ。

 次にアースの近くをまわっているサンフィアとは対照的に夜を照らす星――ムント。ムントがすべて見えるともなると、東洋の国では『オツキミ』なる行事が行われるらしい。

 あとはアースと似た環境らしいマーズラ、サンフィアに一番近く小さい星――マキュレリー、一番大きいらしいジュピテラ、マキュレリーの次にサンフィアに近いビーナル、ジュピテラと似た大きさらしいサタマ。

 サンフィアから順にサタマまでいったら一週間が経過したことになる。そういうことらしい。

 そうなると僕ってよほど時間と縁のない場所で生活していたんだなぁと考え、そういえばいつからあそこにいたのか気になった。

 けれど思い出せるわけがないのですぐさま考えるのをやめ、今は立ち止まっているお師匠様に話しかけた。


「お師匠様」

「なんだ弟子よ」

「この村……ひょっとしてセーフですか?」

「どうだろうな……」


 お師匠様がそう言いながらじっと茂みの中から村を観察してもらう。

 今はムントが綺麗に上っている。ほかのテラたちも輝いているけど。

 そんな中、僕とお師匠様は二人で同じ茂みに隠れながら村の外側を観察しています。現在怪しい動きらしい動きはありません。

 なんで僕たちなのかというと、お師匠様が指名したからに決まっている。どんだけ僕の事を殺したいんだよこの人。

 ちなみに、ナオルニシアさんたちは少し離れた場所で見張りをしてもらっている。まぁリニアさんがいるから大丈夫だろう。


「弟子よ」

「なんですか」

「お前はあの時の老人と面識はあったのか?」


 人影のない村を見張りながらお師匠様が訊いてきたので、僕は首を横に振る。


「ありませんよ。だって、僕は初めてこうして旅に出たんですから。あの時(・・・)は魔物だったじゃないですか」

「そうか…」


 そういうと考え込んでしまったので、僕はひとりで監視する。

 村自体に変な雰囲気はない。ただ人がいないだけ。

 さすがにおかしいけど、罠の可能性があるのでこうして監視するしかない。

 ぶっちゃけお師匠様が正面突破すれば楽なんだけど、それをやったら無関係だった場合多くの人を殺すことになるのでやらない。

 ひょっとして人がいないのかな…と思いながらみているけど、何の音沙汰もない。

 ……本当に誰もいないのかな? しばらく見ていたけど人っ子一人姿や気配を見せない。建物の中にいるのかどうかさえ分からない。


「どっちですかね……」

「さぁな。現時点では予想できない。ただ…」

「ただ?」

「どうやら私達の行動は筒抜けらしい」

「え?」


 お師匠様が冷静に言った言葉に僕が横を見ようとした時、「動くな」ととても警戒した声で僕の首もとに剣を突き付けてきた。

 途端に心臓の鼓動が早くなる。寒いわけでもないのに全身が震えだす。いやな汗が滝のように流れ出る。

 警戒心と殺意。その両方を受けた僕はフラッシュバックした記憶を必死に押さえつけながら動かないでいると、声の主が「お前たちは何者だ?」と質問があった。

 僕は答えられない。完全に委縮し、完全に言葉が消えているから。

 代わりにお師匠様が、とても平然としながら答えた。


「私達はここより北の村から来た。その時に襲われたため、この村でもその危険がないか監視していたところだ」

「……お前達はどこから来た」

「ちょっと訳アリでな。私達は王都へ向かっている。そういうあなた達は騎士団の者たちか?」

「!?」


 お師匠様が聞いた言葉にその人は反射的に僕の首から剣を放してお師匠様へ斬りかかろうとし、その剣をフードギリギリで止めた。

 吐き気や寒気を全部押さえつけながら見たときには止まっていた。だからどうなったのかは解らない。

 隣でそんな状態の僕はもはや気にされず、二人は言葉を交わす。


「一体何が目的だ。あの化け物たちの巣窟になってしまった王都に」

「だから訳アリだといっている……が、王都が化け物たちの巣窟だと? 一体どういうことだ?」

「シラを切るな。我々を挟み撃ちにするために来たのではないのか? 人類種の王の末裔である、ミナト=アーケイン=リゲル様の命を取りに」

「それだったら監視せずに攻めているだろ。それに、こうしてのんきに話をせずお前を殺しているはずだ」

「……」


 口元を抑えながら必死に押さえつけつつ見ていると、僕たちの間にいた人は剣を鞘に戻して息を吐いた。


「……どうやら本当に違うらしいな」

「そうだといってるだろ」


 ちょっとお師匠様喧嘩腰にならないでください。僕止められないんですから。

 そんなことを考えながら黙っていると、その人は「先程はすまなかった」と言ってから僕に手を差し伸べてくれた。

 ようやく落ち着いたので口元から手を放し、逆の手でその人の手を取って立ち上がる。お師匠様は普通に立ち上がってその人に「あの村に入っていいのか?」と質問する。

 その人――爽やかな顔立ちの金髪の男の人はお師匠様のぶしつけな質問に対し「ああ」と答えてから僕達を村へと案内した。



「あ、ジークさんにソミリナさん。無事に合流できたみたいですね!」

「…大丈夫ですかジーク様?」

「……え、あ、うん。大丈夫」


 村に入ってすこしだけ大きい家に案内された僕たちを待っていたのは、僕達の荷物を見守っていたはずのナオルニシアさんとリニアさん。それに、ところどころ服が破れているけどどこか意志を秘めた王冠を身に着けた少女。

 彼女が何者なのか瞬時に分かったけど完全に回復していない僕は、何も言わずに隅のほうへ移動する。

 リニアさんがついてきそうだったので「別に大丈夫だよ」と笑って制し、誰も視界に入れなさそうな場所に座り込んで息を吐き、蹲る。


 僕は剣が怖い。殺意が怖い。戦うということが怖い。

 だから僕は習っていたものすべてを放り投げて戦わないことにした。関わらないことにした。自分の範囲を決めた。

 だけどそれは唐突に終わった。もうそんなことを言っていられる場合じゃない。

 帰る場所はもうない。死ぬ場所はいくらでもある。

 死ぬという恐怖に晒されながらこれからも旅を続けていなくてはならないという現状。それは、集団でいることに安心していた結果呼び覚まされた感情。


 どこでも危険は付きまとっている。どんな些細なものでも僕にとっては『凶器』足りえる。


 旅はまだ始まったばかりといっても過言ではない。けれど、僕にはどうすることもできないものがある。

 本当に僕一人になった場合――僕はもう、旅をする気にならないだろう。


 今更気付いた僕の本心になおさら体を縮こまらせている僕に、誰かはじっと視線を送っていたようだったけど、そんなことは心の底からどうでもよかった。


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