11.
エアコンの......リモコンが......遠い......
値踏みするような女の声が、隙間から漏れ聞こえてくる。
よく見ると凪以外に数人がいるのが見える。
だが目を開けているのは凪だけだ。
「早く寝なさい。その方が楽よ」
楓は手元のタブレットに視線を落とした。
指先を滑らせ、この粗末な区画の電力系統へと一瞬で干渉する。
パツン、と短い電子音が響き、物置の中を照らしていた唯一の蛍光灯が完全に消え去った。
「んっ――停電?」
暗闇に動転した女の声が響く。
その瞬間、かつ繊細な弦の音が響き渡った。
シヴォンが背中から素早く引き抜いたバイオリン。
その弓が吸い付くように弦へと滑り、放たれた重厚な旋律が、目に見えない不可視の波動となって部屋を駆け抜ける。
シヴォンの能力が生み出した見えない鎖は暗闇の中で女を正確に捉えて、その身体を雁字搦めにした。
「能力者じゃなくてよかったわ。前にこの技をお披露目したときはあっさり抜け出されたもの」
楽器を構えたシヴォンは、ふっと得意げに唇の端を上げた。
パチ、と小気味いい音がして、しずなが持参していた小型のライトが室内を照らし出す。
白い光の中に浮かび上がったのは、見えない力で完全に床へ縫い付けられた女と、その前ですでにタブレットを構えている楓の姿だった。
「楓……さん……?」
「そうです、凪。楓ですよ」
現場に出ている楓と己の状況を薬のせいで朦朧とする凪の頭では処理しきることができなかった。
しずなは油断なく周囲に目を光らせ、凪の周りで倒れている数人の状態を確認する。
「みんな眠らされてるだけだね」
しずなの冷静な言葉に、楓は小さく頷いた。
そしてシヴォンの能力で身動きを封じられた女の元へ歩み寄り、その懐からスマートフォンを、デスクの上から簡易的なノートPCを、それぞれ回収する。
「......っ」
「ごめんだけど、私の能力が働いてる限りは喋られないわよ」
抵抗もできず、女はシヴォンに見下ろされる。
「あ、忘れてた。リーダー、凪を見つけたよ」
『......音声は常にオンだから大体状況は把握してる』
「リハビリにもならない敵の量でしたね。ここは下部組織の一つのようです。そして、本拠地のデータも、一部回収できました」
回収したデバイスが用済みになり楓はそれらを床に落として破壊した。
その時、外から監視していたアイデンの淡々とした声が飛び込む。
『......数人外にいる。中に入ろうとしているようだ』
「回収にきた人たちかしら」
『数車両確認できる』
概ね予想通りだと楓は頷く。
「この人数を外に運び出すのは大変なので人を呼びましょうか」
『誰のことだ』
陣の困惑の声に楓は微笑んで、もう一言。
「病院の先生たちです」




