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全員を救うと“消される”世界で、俺は選ばないことで全部残している  作者: 夕凪リィナ


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第37話 残しすぎた世界

 ——始まりだ。


 そう理解した瞬間。


 違和感が、広がる。


 空気が、歪む。


 だが。


 今までの歪みとは違う。


 荒れていない。


 静かに。


 均一に。


 ——ズレている。


「……?」


 男が、周囲を見る。


「何だ……これ」


 少女も、顔を上げる。


 涙は、まだ残っている。


 だが。


 今は。


 それどころではない。


 私は、動かない。


 ただ。


 見る。


 全体を。


 そのとき。


 遠くで。


 声がする。


「……おい」


 誰かが、叫ぶ。


 振り向く。


 そこに。


 人がいる。


 ——二人。


 同じ顔。


 同じ服。


 同じ動き。


「……何だよ、これ」


 男が、息を呑む。


 私は、目を細める。


 理解する。


 始まっている。


 すでに。


 世界が。


 耐えきれていない。


 残しすぎた。


 その結果。


 ——重なっている。


「……戻ってください」


 私は言う。


 だが。


 意味はない。


 すでに。


 戻る場所が。


 曖昧になっている。


 二人の“同じ人間”が。


 同時に動く。


 同じ方向へ。


 同じ声で。


「……俺は」


「俺は」


 重なる。


 完全に。


 その瞬間。


 空間が、揺れる。


 ぶつかる。


 存在同士が。


 耐えられない。


 そして。


 ——弾ける。


 音はない。


 だが。


 確実に。


 一つが。


 消える。


 残った方も。


 崩れる。


 膝をつく。


「……っ」


 少女が、息を呑む。


 男が、顔を歪める。


「……これが」


 私は、言う。


「残しすぎた結果です」


 静かに。


 はっきりと。


 誰も、反論しない。


 できない。


 事実だから。


 そのとき。


 別の場所で。


 また、ズレる。


 建物が。


 重なる。


 同じ壁が。


 二重に。


 わずかに。


 位置が違う。


 人が、ぶつかる。


 通れない。


 押し返される。


「……何だよ、これ……!」


 叫び。


 広がる。


 混乱が。


 私は、動かない。


 ただ。


 見る。


 そのすべてを。


 そして。


 理解する。


 これは。


 単なる崩壊ではない。


 ——未確定の残留。


 選択されなかった結果が。


 すべて残っている。


 だから。


 重なる。


 衝突する。


 消える。


「……じゃあ」


 男が言う。


 声が低い。


「全部残すってのは」


 言葉が止まる。


 私は、答える。


「成立しません」


 短く。


 それだけ。


 少女が、震える。


「……じゃあ」


 かすれた声。


「どうすれば」


 私は、少しだけ間を置く。


 そして。


 言う。


「まだ、残っています」


 少女が顔を上げる。


 涙の跡が残る。


「……何が」


「今のです」


 私は言う。


「消えたもの」


 その言葉。


 空気が止まる。


 少女の呼吸が止まる。


 男も、動かない。


 私は、続ける。


「残っています」


 静かに。


 確実に。


「どこに……?」


 少女が問う。


 私は、空間を見る。


 何もない。


 だが。


 ある。


 確実に。


「ここに」


 私は、手を伸ばす。


 何もない場所へ。


 掴む。


 その瞬間。


 空気が、震える。


 わずかに。


 ——戻る。


 断片。


 ほんの一瞬。


 子どもの輪郭が、揺れる。


「……っ!」


 少女が息を呑む。


 男が、目を見開く。


 だが。


 維持できない。


 崩れる。


 消える。


 再び。


 何もなくなる。


 私は、手を下ろす。


 理解する。


 今のは。


 不完全。


 だが。


 確実に。


 可能性はある。


「……戻せるのか」


 男が言う。


 私は、首を横に振る。


「まだ」


 それだけ。


 だが。


 完全な否定ではない。


 少女が、前に出る。


「……やります」


 その目。


 揺れている。


 だが。


 逃げていない。


 私は、少女を見る。


「無理をすると」


 少女が遮る。


「それでも」


 短く。


 それだけ。


 私は、止めない。


 止められない。


 これは。


 必要なことだ。


 そのとき。


 空気が、さらに歪む。


 今度は。


 広い。


 全体が。


 揺れる。


「……来る」


 私は言う。


 男が、構える。


 少女も、息を整える。


 だが。


 今までとは違う。


 歪みが。


 一点ではない。


 全体に。


 同時に。


 重なる。


 空間が。


 二重に。


 三重に。


 存在し始める。


「……っ」


 男が、動けなくなる。


 どこが現実か。


 分からない。


 少女も、止まる。


 私は、目を閉じる。


 そして。


 見る。


 全部を。


 重なりを。


 流れを。


 そして。


 分かる。


 これは。


 ——選択の残骸。


 すべてが。


 消えずに残っている。


 だから。


 世界が。


 決められない。


「……そうですか」


 私は、小さく呟く。


 答えは出た。


 これは。


 間違いではない。


 だが。


 未完成だ。


 私は、目を開く。


 前を見る。


 そして。


 言う。


「まだ、足りません」


 その言葉。


 空気が揺れる。


 少女が、こちらを見る。


 男も。


「……何が」


 私は、答える。


「決めるものです」


 その瞬間。


 世界が、さらに揺れる。


 重なりが増す。


 そして。


 どこかで。


 何かが。


 ——崩れる。


 完全に。


 次の段階へ。


 進んだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


「全部残す」という理想が、初めて“壊れる形”で現れました。


そして見えてきたのは、

残すだけでは成立しないという事実。


ここから、物語は「答え」に向かって進みます。


続きを見届けたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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