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全員を救うと“消される”世界で、俺は選ばないことで全部残している  作者: 夕凪リィナ


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第31話 観測されるもの

 ——また来ます。


 そう言って、女は消えた。


 だが。


 空気は、消えていない。


 残っている。


 歪みの余熱。


 圧の痕。


 そして。


 ——視線。


「……まだいる」


 私は、小さく言う。


 男が眉を寄せる。


「何がだ」


「見られています」


 短く。


 それだけ。


 男が、周囲を見渡す。


 何もない。


 当然だ。


 見えるものではない。


 だが。


 ある。


 確実に。


 私は、空を見る。


 雲。


 青空。


 何もない。


 だが。


 そこに。


 ——歪みではない何か。


「……出てきてください」


 私は言う。


 静かに。


 呼びかける。


 返事はない。


 だが。


 変化はある。


 空気が、揺れる。


 歪みではない。


 もっと、薄い。


 ——重なり。


「……気づくのですね」


 声が、落ちる。


 上からでも。


 横からでもない。


 ——その場に、現れる。


 私は、視線を動かさない。


 そのまま。


 前を向く。


 だが。


 そこに。


 人がいる。


 いつの間にか。


 立っている。


 黒い外套。


 顔は見える。


 だが。


 印象が、残らない。


 記憶に、引っかからない。


「……誰ですか」


 男が言う。


 警戒している。


 当然だ。


 だが。


 私は、違う。


 理解している。


 これは。


 敵ではない。


 少なくとも。


 今は。


「観測者です」


 その人物は言う。


 淡々と。


 女とは違う。


 感情がある。


 だが。


 抑えられている。


「……観測」


 男が繰り返す。


 意味が分からない。


 当然だ。


 私は、聞く。


「……見ていたんですか」


「はい」


 即答。


「すべて」


 その言葉。


 私は、わずかに目を細めた。


 すべて。


 なら。


 知っている。


 ここまでの。


 すべてを。


「……何のために」


 私は問う。


 観測者は、少しだけ間を置く。


 そして。


「記録のためです」


 答える。


 簡単に。


 だが。


 軽くはない。


「……誰の」


 男が言う。


 観測者は、視線をこちらへ向ける。


「構造の」


 その一言。


 空気が、変わる。


 私は、沈黙する。


 理解する。


 これは。


 影と同じ側。


 だが。


 違う。


 干渉しない。


 ただ。


 見る。


「……なら」


 私は言う。


「結果は、もう出ています」


 観測者は、首を横に振る。


「いいえ」


 否定。


 静かに。


「まだです」


 その言葉。


 私は、わずかに息を止めた。


「……何が」


 観測者は、答える。


「あなたです」


 その一言。


 男が、反応する。


「何だと——」


 だが。


 私は、動かない。


 理解する。


 これは。


 次の段階。


「……私が」


 私は言う。


「結果になると」


「はい」


 即答。


 観測者は続ける。


「あなたは、すでに」


「構造の外にいます」


 その言葉。


 私は、何も言わない。


 否定もしない。


 肯定もしない。


 ただ。


 聞く。


 男が、横で言う。


「……何を言ってる」


 観測者は、そちらを見る。


「あなたには関係ありません」


 切り捨てる。


 はっきりと。


 男の表情が歪む。


 怒り。


 だが。


 言い返せない。


 その通りだから。


「……続けてください」


 私は言う。


 観測者は、頷く。


「あなたは」


「選択の結果を変える」


「だけでなく」


「前提を変える」


 その言葉。


 私は、静かに聞く。


 理解している。


 だが。


 言語化されるのは。


 初めてだ。


「……それは」


 観測者が続ける。


「本来、許されていません」


 空気が、止まる。


 男が、息を呑む。


 私は、わずかに目を細めた。


「……なら」


 私は言う。


「どうなりますか」


 観測者は、少しだけ間を置く。


 そして。


「修正されます」


 その一言。


 静かに。


 だが。


 重く。


 落ちる。


「……修正」


 男が繰り返す。


 理解できない。


 当然だ。


 私は、聞く。


「誰に」


 観測者は、答える。


「上位構造に」


 その言葉。


 私は、空を見る。


 何もない。


 だが。


 分かる。


 これは。


 影ではない。


 もっと上。


「……いつ」


 私は問う。


 観測者は、答える。


「すでに始まっています」


 その瞬間。


 空気が、変わった。


 歪みではない。


 圧でもない。


 ——静かなズレ。


 世界そのものが。


 わずかに。


 ずれる。


「……っ」


 男が息を呑む。


 私は、動かない。


 ただ。


 見る。


 そのズレを。


 観測者が言う。


「これが」


「修正です」


 その言葉。


 私は、静かに聞く。


 そして。


 理解する。


 これは。


 今までとは違う。


 敵ではない。


 対立でもない。


 ——ルール。


 そのもの。


「……なるほど」


 私は、小さく呟く。


 そして。


 一歩、前に出る。


 ズレへ。


 触れる。


 掴む。


 その瞬間。


 観測者の目が、初めて大きく動いた。


「……触れる」


 驚き。


 初めての。


 私は、何も言わない。


 そのまま。


 ——止める。


 ズレを。


 完全に。


 静止する。


 空気が戻る。


 何もなかったように。


 観測者が、沈黙する。


 長い。


 そして。


「……やはり」


 小さく言う。


「あなたは、対象です」


 その言葉。


 私は、目を細めた。


 確定した。


 私は。


 観測される側ではない。


 ——修正される側だ。


 観測者は、ゆっくりと後ろに下がる。


「次は」


 言う。


 静かに。


「上位が来ます」


 その一言。


 空気が、凍る。


 私は、何も言わない。


 ただ。


 前を見る。


 その先。


 まだ見えない。


 だが。


 確実に。


 次が来る。


 そして。


 今度は。


 選択ではない。


 ——存在そのものが問われる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


ついに「観測者」と「修正」という新しい概念が出てきました。

敵でも味方でもない、“世界側”の存在。


そして主人公は、ついに“修正対象”に。


ここから物語はさらに一段上の構造へ進みます。


続きを見届けたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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