#7¦あなたと私の距離はまだ遠く¦
ルナはスマホを手に取りロックを解除する。画面が淡く白く光り馴染みのBGMが小さく流れ出した。
女性向けアプリゲーム。
『フロレンシアの誓約』
優雅な弦楽と、儚いピアノの旋律が車内に広がる。
橘がバックミラー越しにちらりとルナを見た。
「イベントランキング、どうなってます?」
「ふふ、見て」
ルナは画面を傾けて橘に見せる。見せるといっても橘は運転中なので“見せるフリ”というのが正しいかもしれない。ランキング1位の欄に、ゲーム内ネーム『Luna』が輝いている。ポイント差は2位に倍近く開いていた。
「こっちも1位独占中」
ルナの声が弾む。キャバクラのNo.1の顔とは違う、純粋な少女のような喜びが溢れていた。
「橘も一緒にやらない?このゲーム、推しが本当に素敵なのよ。ピンクの髪に海のように青い瞳のビジュがもう最高すぎて……」
橘は苦笑しながら首を振る。
「いや、俺は“いせおう”一択なんで」
通称“いせおう”
『異界王座 ~転生したら最強魔王だった件~』
橘が今ハマっている異世界アニメのアプリゲームだ。
「最近こっちの新章が熱くて。主人公が前世の知識で無双する展開がたまらないんですよね。異世界転生ものって、やっぱり最高ですよ」
「橘も相変わらずそのゲームにハマっているのね」
「ルナさんほど重課金はしてないですけどね。無理しない程度の課金、略して無課金です」
ルナはシートに深くもたれ、スマホを胸に抱く。
「私、現実で頂点にいるけど、ゲームの中でも頂点にいたくなるのよね。どっちも、負けたくない」
橘は小さく頷き、アクセルを軽く踏み込む。
「その負けず嫌いな性格が水城ルナの長所だと思いますよ」
ゲームのBGMが車内を満たしガラス越しに見る夜景をより美しいもののように演出する。
ルナは窓に額を寄せ、静かに呟いた。
「ねえ、橘」
「はい?」
「もし……私が突然、異世界に行っちゃったらどうする?」
橘は一瞬ハンドルを握る手に力を入れ、バックミラーでルナの横顔を見る。
「俺も一緒に連れて行ってほしいって神様に頼みます」
「あなた…異世界にまで付いて来る気なの」
橘は小さく笑った。
「そしてロリっ子ハーフエルフと仲良くなって幸せな異世界生活を満喫します!」
ルナはくすりと笑い、スマホの画面を再び見つめる。
「私よりロリっ子ハーフエルフが目的なの?」
「ルナさんも綺麗ですが、ハーフエルフのロリには敵いません」
「なによそれ」
「そういえばルナさん、明日出勤前に店長の頼みで買い出しがあって。送迎が出来ないんで明日の出勤はタクシーで来てもらっていいですか?」
「えぇ、大丈夫よ。気をつけて行ってきてね」
車は夜を滑るように走り続ける。まさかこの会話がルナと橘の最期の会話になるとは。
『あの子の“器”いいなぁ〜ほしいなぁ〜〜』
今はまだ神しか知らないーー




