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ミレニアム学園 ―赤き終焉への抵抗―  作者: 赤のアンドレ
【1年生編 ー赤い脅威ー】 第2章:クラスリーダーと連続殺人事件
31/31

第30話:嫉妬、真実、希望と共有


・5月6日(月曜日)


ーサムエル・アルベインー


・ミレニアム学園、大広間にて


セバスチャン先生は全校生徒が集まる大広間で

俺がこの街にどれだけ貢献したのかを高々に説明した。

本来なら担任のジアンシュ先生がやるべきだが、

彼は今日も来ていない。

そこで紹介を買って出たのがセバスチャン先生だった。

これもいけなかったのかもしれない。


ジアンシュ先生なら多分、


「うん、こういうことをしたんだって。すごいね。拍手。じゃ、終わり〜」


って軽いノリで終わらせてくれそうなのに、

セバスチャン先生はこと細かく、

俺の勇気と機転、諦めない辛抱強さ、

そして明晰な頭脳を褒めてくれた。


全部いらん!

褒めるな!讃えるな!

俺は一般凡庸学生なんだ!

信じてくれ!

……と叫んでも今さら誰も信じてくれなさそうである。


セバスチャン先生の約十分にわたるスピーチが終わり、

俺は声を大きくする魔術が付与された装置の前に立たされた。

昨日、スピーチを考えるように言われている。

もちろん何も考えていない。

ショックで頭が回らなかったからだ。


「アルベインくん、いつでもどうぞ」


クイーンさんが優しく言ってくれる。

こういうときはアルベインくんなんだ。

いつもはサムエルなのに。


エリザが目をキラキラさせながら俺を見ている。

お姉さんに関してはさっきから涙が止まらない。

オメガのみんなも自分のことのように喜んでくれている。


いや、さすがにそういう反応をされると嫌な感じはしないけどさ……

あー、くそ!

やりゃいいんだろ!やりゃ!

……俺はオメガだ。

ならオメガらしく、

担任の先生を見習おう。

つまりは……俺の知ったことじゃねえ!


「一年オメガのサムエル・アルベインです。先ほどセバスチャン先生は俺がすごいみたいに話してくれましたが、……全てたまたまです。たまたま三回いいところにいただけです。なので褒められるべきは迅速な対応をしたこの街、王国の衛兵です。それはそうでしょう。アルファの生徒ならともかく、オメガの生徒がこんな大活躍するはずないじゃないか。ははははは」


「なんだよまぐれかよ」

「そりゃそうだよな、そんなスゲェならまずオメガに配属されねぇって」

「一生分の運を使い果たしたな、アイツ」


うんうん、狙った通りの反応ありがとう。

俺の言葉で多くの人が気が抜け、

俺が自分自身を笑ったことで彼らも笑った。


……そうだ、そのようにずっと油断してろ。


「ということで、これ以上言うことはありません。……ただ最後に、自分自身としてはこれからも『たまたま』いいところに立ち続け、卒業する頃には『一番』いいところに立っていようと思います。お聞きいただきありがとうございました」


なんだそのスピーチは?

みじかっ!

大したことねぇやつだったな。

オーラが全然なかった。


そのような発言をし、笑ったり、ヤジを飛ばす人がほとんどの中、

それぞれのクラスリーダーや要人たちは全く笑わずに俺を見ていた。

もちろん彼らにはわかったからだ。


俺が小さな宣戦布告をしたのを。


俺が下がると学園の校長先生、

ミレニアムグランドマスター、アレハンドロ・マグワイアーが前に出た。


「サムエル・アルベイン、ありがとう。どうやら彼には実力だけではなくユーモアと謙虚さも兼ね備えているようだ。皆様、もう一度、彼に大きな拍手を」


学園の全校生徒が拍手した。

そして校長は続けた。


「こういった大きな功績には学園も応えるのがしきたりだ、今回の三つの案件を解決させたサムエル・アルベインに個人ポイント50を与える」


ふっ、これでクレイの挑戦で失う分はチャラだな。

ていうかあれだけやって50ポイントなのか。

クラス移籍には到底及ばない数だな。

それでも課外活動で得ようとすればかなりの日数が必要になる。

少ないと見るべきか、

多いと見るべきなのか。

難しいところである。

上級生の反応を見ると「まあまあだな」って感想が多いみたいだ。

まぁ、なにももらえないよりはマシさ。

ありがたく頂く。


「そしてクラスポイント、……5ポイントを与えるものとする」


え?クラスポイント?

あの貴重なやつ?

これに対する一年生の反応は微妙だったが、

上級生は大いに驚いた。

あれ?いま一年は対抗試験も期末試験もまだない状態だから……

もしかして今オメガって……



・放課後、ホワイトシティの中央区の料理店にて


「それでは、我らがリーダーのサムエルに、そしてオメガのクラス対抗戦、現首位に乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


週が始まる月曜だというのにオメガの全員でお祝いにきた。

珍しいことに一年は全員参加、

なんと、ウィリアムとオプティマスもが同じ店に喧嘩せずにいる状態だ。

ふふ、クラスのために二人の問題を

隅に置けるのは、どちらとも大人と言える。


オメガの二年の先輩たちもほぼ参加し、

どういうわけか、


「はい、みんな今日はたくさん飲んで食べてね。全部私の奢りよ!そして改めて『私の』弟!サムエルに乾杯!!」


「「「「「乾杯!」」」」」


オメガが現時点で首位になったことを祝う名目なのに、

アルファからはお姉さん、エリザ、アラベラ、オラベラ、

まだ話してないもう二人の一年女子。

エリザからは名前がブアとスラビと聞いた。

レッド・サークル出身、一年最強の氷条龍次郎、

そして、全ての元凶『ウィンスター』がいた。


他にもデルタからンズリとクレア。

そして彼女らと一緒にデルタの狐科の獣人もいた。

誰?


とまぁ、大集団である。


「でさでさ、サムエル!何が起きたのか語ってよ。今朝の集会だと全部たまたまとか言ってたけど嘘でしょう?なんかすごいことをしたんでしょう?」


目を輝せながらシドディが言う。


「そうよ、サムエル。全てを始めから語りなさい!」


それにお姉さんが続き、


「うん、私も聞きたい。教えて……ね?」


エリザが近くに寄り、

まっすぐと俺の目を見つめながら言った。

その顔はずるいぞ。

何も断れなくなる顔だ。

そして気のせいかそれに反応してクレアが

エリオット先輩に寄り添った気がした。


「いや、本当なんだって。確かに嘘だと思われてもおかしくねえけど。俺は本当に『たまたま』いいところに立っていただけなんだって」


「うそ!そんなんであんなすごいことになるか!これ見て、サムエル。新聞の一面を飾ってるのよ。『五大貴族、アルベイン家の長男、街を救う』って見出しで。これを読んでいるとサムエルは超強くて、超頭よくて、スーパー名探偵な描かれ方をしてるもん!これが全部うそだと言うの?」


シドディは少し怒りながら聞いた。

つか、新聞にまで……

本当の意味で死んだな……俺の平凡な生活が。

……いや、諦めるのはまだ早い!

このあと五年間一切目立たなければまだ可能性はある!


「サムエル、本当のことを言って。私はサムエルがそのくらいのことしようと思えばできるって知ってるんだから」


むくれた顔でエリザに言われる。

俺はこの顔にも弱い。


「そうよ!サムエル!遠慮しないで!高々に語りな、サムエルの武勇伝を!!」


いつもの三倍の気合いと元気が溢れる姉さんからも言われる。

お姉さんのこういう攻めにも俺は弱い。

つか、俺っていろいろと弱いんだな。

そうさ、サムエルは弱いのさ。

だから、弱点がない最高に優雅で最強の強さを持つ者が必要なのさ。

と、まぁ、それはいいや。

この状況どうしよう……


答えられずに困っているとンズリが助けてくれた。


「うち、他の二つは知らないんだけど、銀行強盗の件に関してはサムエルの言っていることは本当だよ。多分、つか、かなりの確率でたまたまそうなっただけ。でもそれがわかるのってあの一瞬を見たうちらだけなんよ。あとの人にしてみればサムエルが銀行強盗を捕まえたかのように映ったはず」


「え?どういうこと、ンズリ?」


シドディが聞く。


「ええとね、私たち三人とガウラ先輩、エリオット先輩、ホウ先輩はちょうどそのとき一緒に遊んでて、銀行強盗の警報を聞いたの。うちら全員銀行強盗を捕まえよう!イェーイ!ってなったときに銀行強盗犯が目の前を通って逃げた。それを追いかけて角を曲がったところでちょうど見たの」


「何を!?」


「サムエルが何かを落としたって感じかな?それでしゃがんでそれを拾ってた。全速力で逃げていた犯人たちはしゃがんでるサムエルに気づかず、サムエルが立ち上がったときに慌てて避けようとした。それで一人は床にあったバナナの皮に滑り壁にぶつかる。もう一人はサムエルの剣の鞘に足が引っかかりそのまま顔面から地面に落ちた。二人はそれぞれ壁、地面にぶつかったときに盗んだ袋を放ち、それをサムエルがキャッチ。多分サムエルがあの件で一番すごいとこはあのキャッチよ。すごいというより反射的に取ったって感じだと思うけど。けど、犯人たちを追いかけていた衛兵が到着したときにはサムエルは盗まれたものを回収、そして二人の犯人はサムエルの足元で気絶して倒れている状況。あの一瞬を見たうちら以外にはサムエルが彼らをやつけたと映った」


「え!?そうなの?つかそんなのありえる?というか本当にそこに立っていただけ!?」


シドディはまだその話を信じられないって感じで言った。

だけど、その後に先輩たちも同じ内容を見たと説明し、

シドディを含め全員信じるしかなかった。


「キャハハハハ、ヒヒヒ。だと思ったよ。サムエルがそんなかっこいいことするわけないじゃん。それなのにエリザは『サムエルやっと本気を出したのね』とかほざいでたし。ヒヒヒ、まじうけるんですけど」


大笑いしながら隣にいる氷条の腕を何度も叩くアラベラだった。

氷条は怒っているようには見えない。


そして、

エリザが怒り出す


「それはたまたまよ!だけど他の二つはサムエルの実力だったに決まってるわ。さぁ、サムエル言ってやりなさい!」


張り合うようにエリザが言う。

なぜか命令口調になった。

こうなると姉さんにそっくりになる。


「いや……、他の二つもですね、同じような感じでして。ある角に立ってたら建物から人が出てきて、赤い粉が入っている袋を渡された。なんかの間違いと思って返そうとしたらすぐに見失った。なんかまずいと思って衛兵にその袋を渡して、どの建物からその人が出てきたのかを教えたら俺が麻薬密売の大拠点を発見したみたいな感じになって。それにその衛兵の中に銀行強盗の件で俺を見ていた人もいて『あ!銀行強盗を捕まえた人だ』みたいな感じになった」


「え?サムエル。新聞の記事だとサムエルが一人でその拠点に乗り込み、一人で麻薬密売者全員を倒した後に衛兵が到着したってことになってるんだけど」


シドディが言う。


「うん、それは全部うそだね。俺、その日、剣を抜いてねえもん」


「キャハハハ、ヒヒヒ。あ、うける。まじうける。もう無理!まじ無理。おもしろすぎて死ぬ!やばいんですけど」


氷条の胸に完全に寄りかかりながらゲラゲラ笑うアラベラ。

氷条はされるがままのような感じでそれを受け入れる。


「さ、三件目は?」


恐る恐るエリザが聞いた。


俺は英雄扱いをしようとする衛兵からなんとか逃げて、

約束のあった冒険者ギルドにたどり着こうとしていたときに、

転んである建物のドアにぶつかり、

そのままドアを壊したこと。

その中に暗殺を目論む悪い人がいたこと。

俺がドアを壊したことで大きな音が鳴り、

元々衛兵に追いかけられていたこともあり

衛兵はすぐにその現場に到着。

暗殺計画は未然に防がれ、

俺もそこで衛兵に捕まり英雄扱いされることになったことを語った。


「じゃ、じゃ、サムエルがやっと実力を出したのって」


悲しそうな顔をして、

涙目になりながらエリザは言った。

あー、その顔は無理。

新聞に書いてあること全部が本当であって欲しいと思うほどに。

でも、うそをつくわけにはいかない。


「ごめん、エリザ。本当にたまたまなんだ。期待に応えられなくてごめん」


俺が悲しそうに言うと、

エリザはパッと姿勢を正し、


「ううん、そんなことない。いつかいつか、新聞に書かれている以上のことをサムエルがやるとわかってる。それまで私は待つ。ずっと応援してるからね」


と優しく言ってくれた。

待たれても、サムエルではすごいことをする気はないんだよ。

どうしよう……、

まぁあれだな、

それは未来の自分の問題だな、うん。


「たまたまも実力のうち!『私の』弟は世界一幸運な男よ!ってことでサムエルに乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


一瞬、場がしらけそうになったが、

姉さんのハイテンションに押され、

また盛り上がった。


たまたまでも事件を解決したのは本当であり、

個人ポイントも、

クラスポイントももらった。

たったの5ポイントでも、

他のクラスが0ポイントであることから

一時的であろうと、

今、オメガ一年が首位にいることは変わらない。

祝おう!みんなで!


この説明で俺はうそはつかなかったが、

……全てを語ったわけではない。


それは三つの事件全てにおいて、

アルファの『ウィンスター』が近くにいたことだった。


しかも衛兵がきたときには何故かいなくなり、

途中でまた鉢あう。

鉢あったときに次の事件が起きるの連続だった。

あいつは何かを持っている。

おかしい……、どんな能力なんだ?

そして、なぜ俺の平凡な学生生活を阻害した!?



ーオラベラ・セントロー


アンジェリカ姉さんの熱に押され、

サムエルのお祝い?に来た私。

本当はフェリアンさんのところに行きたかったんだけど……

というか病院までそんな遠くないよね?

一回抜け出してまた戻る?


「ベラベラ、どうしたのです?なんで難しい顔をしてるのです?誰が悪者なのです?言ってくれればザラサがぶっ飛ばすのです!」


ザラサちゃんが言ってくれる。

最近、距離が近いと思っていたけど、

一緒に寝て以来、さらに近くなった。

もうなんていうか平気でじゃれついてくる。

そしてザラサちゃんはかわいすぎるので私は大歓迎。


「大丈夫よ。悪者はいないけど、いや、いるけど。今はどこにいるかわからないの」


ザラサちゃんの頭を撫でながら言う。

そして彼女の頭を撫でるのも当たり前のように行えるようになった。

頭を撫でてやるとそのもふもふの尻尾が高速でふりふりされる。


「じゃ、見つけたらザラサを呼ぶのです!群れで戦えば無敵なのです!」


ザラサちゃんを呼ぶ……

それはウィリアムくんを呼ぶと同義である。

ブヤブくんもだ。


あんまり彼らを危ないことに巻き込みたくない。


「今日はお祝いだから楽しもう。そうだ、いっぱい肉食べようよ。ザラサちゃん肉好きでしょう?」


「きゃっは!そうなのです!お祝いは肉をいっぱい食べるのです。こっち来るのです」


ザラサちゃんに腕を引っ張られて席に連れて行かれると一緒に座った。

もちろん、ザラサちゃんはウィリアムくんの隣に座る。

そしてそれはこういうことをも意味する。


「メスライオン!ボスに近すぎなのです!離れるのです!ボスが食べられないのです!」


ンズリに向かって言う、ザラサちゃん。


「うるさい、バカ犬!うちがウィリに『あ〜ん』ってしてるんだから食べられてます〜」


そう、先ほどというかこのお祝いが始まってから

私はウィリアムくんを避けていた。

というか見ていられなかった。

見ると黒い、嫌な気持ちが込み上げてくるから。

それでも目に入ってしまう。

ンズリが彼に『あ〜ん』ってやってるのが。

私はそれをこれ以上耐えられる自信はなかった。

早くここを抜け出そう。


「そんなんじゃボスはお腹いっぱい食べられないのです!ボスはたくさんたくさん食べるのです。肉と米を同時に食べるのが好きなのです!メスライオンの与えてる量じゃダメなのです!……そうだよね、ボス?」


途中までは自信満々に言っていたザラサちゃんだが、

最後だけは恐る恐るウィリアムくんに聞いた。

ザラサちゃんはウィリアムくんの側に誰よりもいたい。

彼のことを知りたい、学びたい。

彼が何が好きなのかを、

何に喜ぶのかを、

どうすれば褒めてくれるのかを、

どうすれば見てくれるのかを。

その気持ちは痛いほどにわかる。

……私もそうなのだから。

だからそうじゃない行動を取るのがちょっと怖い。

だから恐る恐るになるのだろう。


「うん、そうだけど。大事な人に食べさせてもらう飯もすごいうまいんだよ」


ウィリアムくんは言った。

その返事にザラサちゃんは驚き、落胆した。

ンズリは勝ち誇った顔をし、

それに対してザラサちゃんはさらに怒った。


「だったら、ザラサもやるのです。全部全部ボスに食べさせてやるのです!」


そう言って大きな肉を取り、

ウィリアムくんの口に押し付けた。

それはもはやパンチに近い威力で

肉を持ったザラサちゃんの手がウィリアムくんの顔に当たった。

いきなりのことでウィリアムくんは反応すらできず、

ザラサちゃんのはたきをくらって、

肉がテーブルに落ちることになった。

ウィリアムくんが少し痛がってるのを見たザラサちゃんは涙目になった。

私は『ちょっといい気味』って思ったけど、

言わない言わない。ふふ。


「ボス、ごめんなさいなのです!ザラサはボスにいっぱい食べて欲しかっただけで……うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい。悪い子でごめんなさい」


ザラサちゃんの尻尾が床に落ち、しょんぼり。

今にも泣き出しそうだ。


「大丈夫だよ。ザラサは悪い子じゃないよ。はい、もう一回ゆっくりやってみて。このように『あ〜ん』」


ウィリアムくんがそう言うと、

肉を取り、優しくザラサちゃんの口へと運んだ。

ザラサちゃんの尻尾がピン!と立ち、

一口でガブっと食べた。


「んぬー!おいしいのです!すごくおいしいのです!!今まで食べたどの肉よりもおいしいのです!ボス!おかわり!ボス、おかわり!」


尻尾が高速フリフリしながら嬉しそうに言う、ザラサちゃん。

また食べさせるウィリアムくん、

それを見て怒るンズリ。

私は大丈夫。

だってパパが娘に食べさせるのは当たり前だもん。


「ベラベラ!ベラベラもボスに食べさせてもらうのです!すごくおいしいなのです!」


ザラサちゃんにそう言われ、

一瞬驚く私。

ウィリアムくんを見た。

彼はまるでそれが普通のことかのように私の口の近くに肉を運んだ。

どうしようかと悩んだそのとき、

ンズリが怒りの形相になったのを見た。


……これで少しは私の気持ちがわかった?

なぜか、そう思ってしまった私は、

ガブっとその肉を食べたのだった。


「あ、本当だ。おいしい」


「でしょう?ボスがくれる肉は世界一おいしいのです!」


周りでそれを見ていた学園の友人たちが


「おおー」「ヒュー、ヒュー」「熱いね、そこ」


といじりだした。

エリザは同じことをサムエルにやってほしそうな顔になっており、

アンジェリカ姉さんとアラベラはそれぞれ

サムエルと氷条くんに実際にそれをやるように頼んだ。


私は顔を下げずにもっと欲しいかのように口を開けた。

そしたら彼はまた肉を運んでくれた。

そしてさらにもう一度それをやったところで我慢できなくなったンズリが


「ね、ちょっと。うちにもやってよ!」


って言い出し、

ウィリアムくんが彼女にも食べさせてあげた。


でもいいもん!

私のが先だもん〜

……なんかわかんないけど勝った気がした。


でもずっとここにいるわけにはいかない。

調査を進めないと。

私はもう少しだけとどまり、

隙を見て、その場を後にした。



・セントラム中央病院にて


「……ええと、なんでここにいるの、ウィンスターくん?」


お祝いを抜け出し、

まっすぐ病院へと向かった私。

よし、中に入ろう!と思ったそのとき、

横に誰かいるなと思って見てみたら、

ウィンスターくんがいたのだった。


「こんにちは、オラベラ。肉おいしかったね」


「うん、肉はおいしかったね。でもウィンスターくんはなんでここに?怪我とかしてないよね?」


「怪我してないよ。やっぱり普通に食べる肉とウィリアムくんが食べさせてくれた肉だとウィリアムくんが食べさせてくれたほうの肉がおいしいの?」


「うん、そうだね。そっちのほうがだんぜんおいしかった……ってだからなんでここにいるの!?」


「ははは、照れた。ええとね、なんかね、こっちに来たほうがいいかなと思って来てみただけなんだ。というか最初からオラベラの後ろにいたよ」


「最初って?」


「オラベラが店を抜け出したとき、僕は外で少し背伸びしてたんだ。それでオラベラがどこかへ歩き出したから『おもしろそう』と思ってついてきたんだ」


ずっと後ろにいたの?

気がつかなかった。

ウィンスターくんには敵意とかなく、

強者の持つオーラもないから気づきにくい相手ではある。

それに、ウィンスターくんちっちゃいし。

それでもずっと気がつかなかったのはよくない。

しっかりしないと。


「そっか、でもごめんね。遊びに来てるんじゃないの。大事な調べものがあって。それで来たの。ウィンスターくんを巻き込みたくないから、悪いけど帰ってもらえる?」


うん、これでいい。

申し訳ないけど、関係ない人をこの事件に巻き込みたくない。

ウィンスターくんはしばらくは答えず、動かなかった。

じっと私を優しい目で見つめた。


「ね、オラベラはさ、知っている誰かが困ってたら助ける?」


「うん、助けるよ」


「そうだよね、オラベラはそうするよね。じゃあさ、その人は困っていて、助けが必要。オラベラはそれを助けられるけど、その人が『助けないで』って言ったらどうする?」


ええと?なにこれ?

なんで私こういう質問をされてるの?

でも、私なら、


「見て見ぬふりはできないかな。ちょっと無理にでも助けようとはすると思う。どうしても助けてほしくないなら理由くらいは話してほしい。別の打開案があるかもしれないし。そのままにしたりはしない」


「だよねだよね。ちょっと拒否られた程度では引かないよね」


「うん、そうだね」


「今の僕も同じ。だからちょっと拒否られた程度では引かないよ。時間も無駄になっちゃうと思うし、来た目的を果たすのがいいと思うよ」


あ、なんか一本取られた気がした。

……でもな、殺人事件なんだよ。

他のことならまだしも、

これには巻き込めない。

でも、引いてくれそうにないし……


「わかった。じゃ、ウィンスターくんはここで見張りをしてて。私はある人を探してるの。もしもすれ違ったときのためにここにウィンスターくんにいてほしい。もしその人が来たら、話でもして私がくるまで時間を稼いでくれるかな?」


「うん、わかった」


「うん、じゃ、私行ってくるね」


「いってらっしゃい」


そして私は彼に探している人の特徴を告げずに病院の中へと向かった。

誰かわからなければ巻き込まれようがないし。


私は病院でフェリアンさんを探し、

病院のスタッフにも聞いてみたが、

つい先ほど帰ってしまったらしい。

本当にすれ違うとは……

ついてないな。


今日も収穫なしで帰ることに。

これならそのままみんなといたかったな。

でも仕方ない。

また、明日も来よう。


だが、私は次の光景に驚いた。

病院の前で待つウィンスターくんがフェリアンさんと話をしていたのだ。


「それでキミ、私になんのようかな?」


「僕?僕は用事ないけど、多分、僕の友達が探してる人はあなたな気がする。なんとなくだけど。違う?」


「知るか!?私は誰かと持ち合わせしてなどいない。これから帰るんだ。用がないならそこをどけ」


少しその話が聞こえて駆け足で向かった。


「フェリアン・レイクスさん、あなたを探しているのは私です。オラ、」


「オラベラ王女殿下!?」


名乗れる前にフェリアンさんはそう言って膝まついた。


「よしてください。今はただの学生です。いきなりですみませんが、いくつか質問があります。これからお話しできますか?」


「……私などとなんの話を?」


「この街で起きている殺人事件についてお聞きしたいことがあります」


「……」


フェリアンさんは困った顔をした。

何かを考え、最後にこう言った。


「……もう私に頼れる者はいない。冒険者ギルドからすら見放された。オラベラ王女殿下、失礼極まりないことを承知の上で申し上げます。あなたの質問を答える代わりに私からもお願いです」


ギルドから見放された?

前日のブラッドギルド長はフェリアンさんを守るような感じだったけど……


「どういったことでしょうか?」


「私を守ってください」


元々私は殺人事件を止めるために動いている。

答えは一つしかない。


「わかりました。私のできる範囲であなたをお守りします」


そしてフェリアンさんと話すことになった。

ウィンスターくんのことをどうしようかと思っていると、


「じゃ、僕はもう帰るね。あとは僕がいないほうがいいみたい。またね、オラベラ」


「ああ、うん、またね」


そして帰って行った。

なんなんだろうウィンスターくん。

前から不思議くんと思っていたけど。

でも助かった。

やっと関係者とお話しできる。



・貧困区のどこかにて


フェリアンさんと聞き耳を立てる者がいないところに移動することに。

街を少し歩き、使われていない建物へと入った。

玄関から一階は廃墟のようになっていたが、

二階に上がると生活感がある部屋があった。


「汚いところで申し訳ございません。身を案じて泊まるところを日ごとに変えています。ここはそのうちの一つです。こんなみっともないところに王女殿下をお連れするなどあってはならないと重々わかっているのですが……」


「いいえ、気にしないでください。それに言った通り、今はただの学生です」


申し訳なさそうにしていたフェリアンさんにはっきりと言った。


「……少しお待ちください。茶を淹れてきます」


しばらくするとフェリアンさんが戻ってきた。

茶をテーブルの上に置き、彼も座った。

少しばかりの沈黙が流れた。

フェリアンさんには落ち着きがなく、

手の仕草や、肩の動きから

なにから話そうかを迷っているように思えた。

彼自身、私になにを期待しているのかがわかっていないように思えた。

なら私からいこう。

そうだね、まずはぶっ飛んだ質問から言ってみよう。

追い詰められてる彼なら何を知っているのか答えてくれるかも。


「フェリアンさん、本題に入る前にまず一つお答えください」


「ああ、はい。なんでしょう?」


「今、殺されている人たちはクリムゾン・オウル部隊のメンバーですね?」


フェリアンさんはその質問に驚かなかった。

むしろ『やはり知っていたか』って顔をしたのだ。


「やはり、ご存じだったのですね。関係者しかその部隊名を知らない。この王国の王女殿下なら関係者であってもおかしくはないとは思っていましたが、王国にもミレニアム協定にもクリムゾン・オウルについては極秘と言われていたので話していいかわからず。ですが、オラベラ王女殿下も関係者でよかったです」


少し肩の力を抜き、フェリアンさんは言った。

うーんと、違うけど、

とりあえずはちょっとそのままで話してみよう。

多分途中でバレちゃうけど、

いけるとこまでいってみよう。


「とりあえず、フェリアンさんの今の状況を説明していただけますか?ギルドにも見放されたというところを含めて」


「はい、かしこまりました。もうご存じだと思いますが、クリムゾン・オウル部隊はヒルダ大陸に戻ったあと、部隊は解散され、元メンバー全員に任務内容を極秘にせよと命令が下り、ミレニアム協定国家連合の監視下に置かれました。監視下といってもときどき仕事場や自宅に調査員が来るだけの緩いものだったので、私としては大きな問題ではなかったです。それを嫌がったメンバーもいたようですが。ともかく私たちは帰国後に冒険者をやめてそれぞれの道を歩み始めました。私はヒーラーということもあり、病院に勤めることに。そして病院で働き始めて数ヶ月が経ち、平安が戻ったとさえ思っていました。そんな中、耳にしたのはヘンリックの死のお知らせです。以前ならあの強いヘンリックがと思ったことでしょう。ですが、私は上を知ってしまった。上級冒険者と呼ばれるランク7以上が強いという感覚はもうすでに私の中にはなかった。我らなんてちっぽけで弱い存在なんだと『あそこ』で思い知りました。だからヘンリックは運悪く、もっと強い者と出会ってしまっただけなんだと重くとらえてなかった。もちろん残念な気持ちはありましたが」


ヘンリック・マース。

この連続殺人事件の最初の犠牲者であり、

元ミレニアム学園生にして元ランク8の冒険者。

そしてなぜか私の中で最初から名前が引っかかってる人である。

図書館でお願いしていた調査はもう終わったのかな?

そっちにも行かないと。

フェリアンさんは続けた。


「ですが、その次にタリッサ、グリムにサリーネ。もうこの時点で我らクリムゾン・オウルのメンバーが狙われていると思うのには十分すぎました。そして前日のカースの死でそれは否定できないほどに決定的となった」


昨日の殺人のニュースで知った五人目の犠牲者。

犬科獣人、カース。

バーサーカーの元ランク8冒険者だった。


「今では次は自分の番かと心配で夜も眠れず、どこに行っても落ち着かない状態になってしまい、ギルドに情報集めしに行ったんです。情報は入手できませんでしたが、ギルド長のブラッドはしばらく護衛をつけてくれるという話をいただきました。ですが、今日になってそれができないと急に話が変わったのです」


話が変わった?

どうして?


「その理由は聞いていますか?」


「上からの命令とブラッドは言っていました。そしてブラッド自身が介入できないように突然開催が決まったセントラム王国の主な街のギルド長会議に出席しなければいけなくなったらしいです。それを聞いたときに私は思ったんです。都合がよすぎる、無理やりすぎる。ギルドに、ブラッドにそこまでの圧力をかけられるのは王国かミレニアム協定のお偉いさんたちだけだと。そして気づきました。彼らには我らクリムゾン・オウル部隊の生き残りは邪魔でしかないのだと。彼ら、ミレニアム協定にとっては暴かれたくない秘密を知っている奴ら。私たちがこのまま消えていくのは彼らにとって最も都合がいいことなのだと」


……つまり、殺人を止めるのではなく。

殺人事件を解決させないように

ギルドや王国衛兵隊に圧力をかけている?

ちょっと待ってそれは……それは……

……あり得るのか。


そう思ってしまった。

クリムゾン・オウル部隊がミレニアム協定やこの王国にとって

不利な情報を持ってるのなら、

ミレニアム協定にとってこの連続殺人は好都合。


その可能性には頭が追いついたが、

心が置いていけぼりになった。

認めたくなかったのだ。

自分がずっと信じてきたミレニアム協定がそんなことをすることを。


……これはあくまでもフェリアンさんの仮説。

決まったわけじゃない。

もっと情報が欲しい。

あることを確定させたい。

この質問をして違っていれば

そこで私はクリムゾン・オウルの任務の

関係者じゃないことがバレてしまうが、

……賭けに出よう。


「フェリアンさん、クリムゾン・オウル部隊のメンバーが持つ、ミレニアム協定が世間に知られてはならない情報。それは『レッド・サークルへの潜入任務』のことですね」


「え?はい?ああ、ええ、そ、そうです。その通りです」


『なんでそんな当たり前なことを聞くの?』という顔で

戸惑いながらもフェリアンさんは答えた。


そして私が最も心配していたことが事実だったことが

フェリアンさんの回答によって証明された。


ミレニアム協定はレッド・サークルに人を潜入させた。

レッド・サークルの法律を犯した。

本当のレッド・デーモンは……

いや、『赤鬼』は派遣団を

無理やりレッド・サークル本島に連れて行ったわけではない。

ミレニアム協定側の特殊部隊クリムゾン・オウルが

レッド・サークルに入っていったのだ。

つまり、あの戦争が発端した原因はこちら、ミレニアム協定側だ。


あー、まずい。

様々な感情が心を支配していく。

他にも聞かなければならないことはあるというのに、

失望と怒りに支配されていく。

なんで?なんでなの?

みんなに嘘ついて、騙して。

一人の人物に責任を全て押し付けて。

自分たちは悪くなかったかのように振る舞い続ける。

それにそのことを知っている人たちが都合よく消されてるのなら放置?

それでいいの?

人を思う、人のこと考えなければならない

上に立つ者どもがそんなんでいいの!?

いいわけがない!!


「でんか」

「王女殿下」

「オラベラ王女殿下!どうか、鎮めてください!『霊力』を鎮めてください!お願いします!」


フェリアンさんの言葉をやっと聞き取れた私は前を見た。

フェリアンさんは何かに苦しめられてるように顔を歪め、

まわりの物は吹き飛んでいた。


「あ、れ?」


自分を見たとき、

桃色のオーラが身を包んでいた。

そのオーラを意識した私はそこからとてつもない力を感じた。

だけど、その力に意識を向けるとすぐにオーラが消えてしまった。


「お、オラベラ王女殿下、な、なぜ霊力を?ま、まさか王女自らが私を口止めするために!?」


フェリアンさんはとても慌てていた。

杖を取り、魔術をいつでも撃てるように身構えた。

そこで、私はなんとなく何が起きたのかを理解した。

授業で聞いた『霊力』という力がなぜか私から溢れ出し、

フェリアンさんに……ううん、この部屋全体に放たれた。

そしてフェリアンさんはそれで

私が彼を殺しに来たんじゃないかと勘違いしている。

ギルドで取り乱したときの顔に変わっている。

まずい……そんなつもりじゃなかったんだけど。


「フェリアンさん、すみませんでした。私『霊力』とかよくわかってないです。先ほどの話で不快に思ったことがあり、気づけばああいう感じに……。フェリアンさんに危害を加えるつもりも予定もありません。どうか信じてください」


私の言葉を信じてくれたのか、

王女が一般の人に対して深く頭を下げたからなのか、

それとももう頼る人がいなかったからなのか、

フェリアンさんは杖を下げて、

床に倒れ、泣き出した。


……ずるいな私。

こんな状態の人を利用して……


私は彼に事実を打ち明けることにした。

クリムゾン・オウルのことは自力で調べたこと、

本当はクリムゾン・オウルの情報は持っていないこと、

ミレニアム協定国家連合と繋がっていないこと、

愛する街、王国のために純粋に殺人事件を追っていること、

そして、王女というその肩書きで

実際に国を動かすような力はないことを説明した。


「ははは、あー。ダメだな私は。大の大人がこんな子に騙されてしまうとは。あ!こんな子とは大変失礼しました。オラベラ王女殿下」


「いいえいいえ、こんな子でいいですよ。そっちのほうが楽です。ですが、フェリアンさん。殺人を止めたいのは本当なんです。フェリアンさんも守ります。そのことに嘘はありません。先ほども言った通り、あまり力はないのですが……」


「ははは、何を言う。先ほどの『霊力』、ミレニアムナイトにも引けを取らない。いや、それ以上でした。だから力がないということは決してないですよ」


「でも、扱えないんです。ああいうふうにオーラ?みたいのが出たのも初めてで……」


「初めての解放でそれほどまで……。大丈夫です、訓練あるのみ。扱えるようになればオラベラ王女殿下は誰よりも強くなれると先ほどの一瞬で確信しました。『桃色髪の姫』がセントロ家に生まれると王国が繁栄のときを迎えるという伝説を信じてしまうほどに」


セントラム王国にはそういう伝説がある。

私の前にも『桃色髪の姫』が二人存在したと言われていて、

彼女らの時代にセントラム王国は大きく栄えたとされている。

それで私は幼き頃から大きく期待されている。

その期待が重くて、嫌になる。


「……ありがとうございます、フェリアンさん。ですが、今はあなたを守ることを考えましょう。とりあえず、再確認なのですが、殺されている5人は全員元クリムゾン・オウル部隊ですね?」


「はい、間違いありません」


「でしたら、残りのメンバーの名前と情報を頂けますか?現在地を知っているのならばそれもお願いします」


「……かしこまりました」


少し考えた後、

覚悟をしたかのようにフェリアンさんは言った。

もう既に彼は私に情報を漏らしている。

ならば助けてくれることを願って開き直ったのかもしれない。


・レン・ウェイ、ミンの武術家

・オードリック・ファン、ヘンテのクレリック

・リサンドラ・ヴェイル、アンサーのグラディエーター

・スタン・ヴォルグ、ヘンテのシーフ

・ドルガン・スレイト、ノルディックスのソルジャー

・ジルベルト・ケイン、アレグリアノのソルジャー


ヘンテ、アンサー、ノルディックス、ミン、アレグリアノ。

全員人族の種族だ。


「この六名が私と既に殺された者を除くメンバーとなります。レン・ウェイはこの王国の貴族に仕えることになったと聞きました。他のメンバーはわかりません。といってもスタン以外は戦うしか脳がないようなやつらで冒険者をやめたとなると傭兵か護衛の仕事をするしかないんじゃないかと思います」


「わかりました。他の方の行方はこちらで探してみます。それと殺人鬼についてですが、彼は『赤鬼』と名乗っていたそうです。フェリアンさんはこの名前に聞き覚えがありますか?」


「……あります。クリムゾン・オウル部隊のメンバーなら絶対に忘れられない名前です。我らクリムゾン・オウル部隊を捕らえ、部隊リーダーであったミレニアム・ナイトのトミー・ボイルズを殺害したのがまさにその『赤鬼』です。こちらでは『レッド・デーモン』と呼ばれている人物です」


「殺人鬼が本物である可能性は?」


「間違いなく、それはあり得ません」


「なぜそう言い切れるのですか?」


「彼には姑息な殺人を行う必要がありません。堂々と正面からかかってきても我々の誰もが瞬殺されるので。というよりクリムゾン・オウル部隊全員で彼に挑んでも勝ち目はないでしょう」


クリムゾン・オウル部隊のメンバーは本物の『赤鬼』を

恐れるか、憎むかの感情を持つものだと思っていた。

だけど、赤鬼について語るフェリアンさんからは

リスペクトなようなものを感じられた。


「それほどまでにお強いのですね」


「ええ、ミレニアムマスターへ昇進が間近と言われていたトミーが敗れるのをこの目で見ました。異常な強さでした」


「では、殺人鬼は『赤鬼』を偽る偽物。本物の赤鬼は牢獄で捕まってるほうですね」


「……」


フェリアンさんはすぐには答えなかった。


「レッド・デーモンを捕まえた四人、マーシャル、ロビン、リリエ、バルニーは私も知っています。共に任務を行ったことさえあります。四人とも絶大な才能を持っていて、当時は最強の冒険者たちと言われていた我らでさえいずれは彼らに実力で超えられると思っていました」


やはり、最強の世代の先輩たちはすごいな。

プライドの高い高ランク冒険者たちにもそう思われていたのだから。


「それでも、私には『赤鬼』が負ける想像ができません。私の中では彼はジアンシュ様と同格です」


ジアンシュ先生と同格。

それは別の言葉に置き換えれば『世界最強』を意味する。


「なので、今や四英雄と呼ばれる彼らにさえ『赤鬼』が捕まるとは思えません」


「じゃ、今牢獄で捕まってるのは?」


「わかりません。もしかしたら本当に本人で私が間違ってるだけかもしれません。牢獄にも一度行ってみたのですが、面会はできませんでした」


うん、レッド・デーモンに会うことは禁じられている。

牢獄でも隔離されている場所に閉じ込められていると聞く。

でも、フェリアンさんは赤鬼という名前を知っていた。

そしてそれはクリムゾン・オウル部隊のメンバー全員が同じ。

ということは……可能性はある。

考えたくなかったことだけど。


「フェリアンさん、殺人はどれも異常なほど不利な距離から行われています。まるで直前まではそうなることを全く想像できなかったかのように。……その人を知っていて、なお信頼できる人であったかのように」


「……オラベラ王女殿下、何が言いたいのですか?」


わかっている。

怒らせることを承知の上で聞かなければならない。


「殺人鬼は『赤鬼』という名前を知っていて、被害者は殺人鬼をふところ近くまで入れさせるほどに信頼をしていた。そしてふところに入れたとはいえ、元高ランク冒険者であるクリムゾン・オウル部隊のメンバーを殺せる実力を持つ人」


「……」


「失礼を承知でお聞きします。犯人が同じクリムゾン・オウル部隊の誰かということはないのでしょうか?」


「!?」


フェリアンさんは一度私を睨みつけた。

すぐに我に戻り、落ち着いたが、

最初の反応はその質問に対する怒りだった。

だけど、そのあと、冷静に私が説明した状況を考え始めた。

しばらく考えた後にこう答えた。


「私たちは生死を共にした中だ。『赤鬼』とその部下の怪物『鬼』に完膚なきまでに倒されたあと、何ヶ月も監禁された。犯人がその過酷な時間を共に過ごした誰かと思いたくはない。……だけど、オラベラ王女殿下が言ったことには一理ある。『赤鬼』という名前は私たちとごく一部の関係者しか知らない。ここでは『レッド・デーモン』と呼ぶのが普通だ。それと私であっても元部隊のメンバーに会えば危険と思うことなく接する。なので可能性はある。だが、ヘンリックがやられているところを考えるとちょっと違うのではないかとも思えます」


「それはなぜでしょうか?」


「あの部隊でミレニアムナイトを除けば実力が突出していたものが2名います。そのうちの一人がヘンリックです。懐に入られたからといって彼に勝つことは難しい。あの部隊のメンバーのほとんどは返り討ちにあうでしょう」


「ほとんどということは可能性がある者もいらっしゃるということですね」


「……はい、ドルガンならヘンリックと互角でしたし、他の者でも『刀』という武器があればヘンリックが破れることはありえます」


「なるほど。その武器が『刀』であれば可能性がある方は誰になりますか?」


「……リサンドラとジルベルトでしょうか?あくまでも可能性で、実力は間違いなくヘンリックの方が上ですが」


「その三人の中でこういったことをするような兆しのある方って……いらっしゃいますでしょうか?」


「そこに関しては『ない』としか言いようがない。三人に限らず全員だ。私たちはあの辛い時期を共にしたことである意味家族よりも深い絆で結ばれた。だから可能性があるというオラベラ王女殿下の言葉は理解できますが、実際にそれをやるような人は私には考えられません」


「……そうでしたか。失礼しました」


うん、そうだよね。

でも私はこの三人を中心に犯人であることの可能性を考えてみよう。

次は気になっているもう一つのことを聞いてみよう。


「もしフェリアンさんの考えるように現在、牢獄で捕まっているのは本物赤鬼ではない場合、誰が何のために捕まってると思いますか?」


「……あの戦争の後、この大陸の人たちには勝利が必要だった。トミーが敗北した時点でミレニアム協定の信用は大きく揺らいだ。そしてその揺らいでいた信用にトドメを刺したのはミレニアムマスター、フェデリコ・ロッチャーの敗北だった。ミレニアム協定に加入している国々は大いに荒れた。私は当時捕まっていた身だったので実際にそれを見ていませんが、酷い状況だったと聞いております。その後、レッド・サークルとの戦争を和解という形で終わらせても不信感は消えなかった。私が思うにその不信感を消すため、人々に勝利を与えるためにミレニアム協定が用意した『赤鬼』なのかもしれません」


そんなまさか、

ありえ……ない、とはもう言えない。

はっきりとしてきたことはある。

ミレニアム協定連合はそういうこともやる組織だということだ。


決まったわけではないけど、

牢獄にいる『レッド・デーモン』は

人々を落ち着かせるために作られた存在の可能性もある。

だけど、それもおかしい。

それなら担任の先生を殺された

マーシャルさん、ロビンさん、リリエさん、バルニーさんたちが

黙ってないはずだ。

テッド兄さんも同じだ。


……彼らは知らない?

偽物だと知らない?

彼らは本物だと思っているからこそこの話は成り立つ。

『先生の仇を取った英雄たち』という最高のストーリーが。

……ダメだ。

いろいろと複雑すぎる。

そして繋がりはあっても直接殺人事件には関係ない。

まずは殺人事件に集中しよう。


「答えていただきありがとうございます。フェリアンさん、次はあなたの安全についてです。ことがおさまるまでどこか潜める場所はありますか?終わるまで外に出ずにそこにいて欲しいんです。必要な物資があれば私が用意します」


「ないことはないが。それはできない」


「なぜですか?」


「今、私の治療を受けている患者が何人もいる。それに病院には毎日のように怪我人が押し寄せてくる。正直、冒険者のときより忙しい。彼らを放っておくことはできない」


……そっか、困ったな。

でもフェリアンさんはやっぱりいい人だ。

なんとしてでも助けないと。


「殺人は全て人通りがないようなところで行われています。その傾向なら職場で襲われる可能性は低いでしょう。危ないのは一人の時間。職場への行き帰り、そして寝るときでしょうか」


私が学校を休んで護衛としてつく?

フェリアンさんが仕事のときは学園の授業に出て……

だけどそんなことをしてたら本当の犯人を追うことなどできない。

一人じゃ二つをこなすことはできない。

……アンジェリカ姉さんに相談してみよう。

手伝ってくれると言ってくれたし。

二人ならお互いをカバーし合える。


「フェリアンさん、少しここで待っててください。これからどうフェリアンさんを守っていくかを信頼できる人と相談してきます」


「ほ、本当に大丈夫なのか?王族や貴族はミレニアム協定の関係者と繋がってるかも知れないぞ。私がオラベラ王女殿下にクリムゾン・オウルのことを話したことが知られてしまったら、殺人鬼を待たずして私は消されるぞ」


「大丈夫です。私が最も信頼している人の一人です」


「……オラベラ王女殿下がそこまで言うのなら私も信じましょう」


「はい、ではなるべく早く戻るようにします」


「かしこまりました」


階段を降りる前にまだ聞きたいことがたくさんあると思った。

だけど、まずは彼の安全が先だ。

だが、我慢できなかった私はフェリアンさんに言った。


「フェリアンさん、すみません。このことが無事終わったら、教えてくれませんか?レッド・サークルで何があったか。先の戦争の戦犯とされた『赤鬼』。本物の彼についてを」


「……かしこまりました。ことが終わったとき、私がまだ生きているのなら私が知っていることを全て教えましょう」


フェリアンさんの言葉には少しの諦めが感じられた。

自分が助かる希望はあるが、薄い。

私が彼を助けられるかどうかを疑問に思ってることだろう。

それでも彼にはその薄い希望にすがるしかない。

なんとかその期待に応えたい。守りたい。


私はサムエルを祝う会が行われていた酒場に急いで向かった。



・サムエルを祝う会の酒場の外にて


たくさんの情報と、

今まで信じてきたことがうそによって作られていたことを知って、

私は精神的に疲れていて、

同時に気持ちが痛んでいた。

だからなのか、

アンジェリカ姉さんと難しい話をする前に

ウィリアムくんと話したいな〜

って思っていた。

本当のことを言うと少し抱きしめて欲しい気分。

そんなこと絶対に頼めないけどね。

……頼んだらやってくれるのかな?

ザラサちゃんが頼んだら絶対にやるよね。

あ!もう!ハグじゃなくていいから話したい!

彼と話せばなんか回復する気がする。

話せなくともウィリアムくんとザラサちゃんの

親子ぼのぼのとした時間を見れればだいぶよくなると思う。

その気持ちが顔に出ていたのか

酒場の入り口横で立っていたンズリに言われる。


「もうウィリはいないよ。ザラサたちと課外活動に行った」


「え?あ、うん。そうなんだね。私、アンジェリカ姉さんに用があるから」


「……そう」


「うん、そう……」


ンズリと二人っきりというのは久しぶりだ。

ンズリは友達だ。

いろいろあってその友情を深めることはできなかったが、

私は今でも友達だと思っている。

でも私たちは徐々に関係がずれ始め、

あのルミナーレの夜を境に完全に変化した。


これは隠すつもりはない。

私は彼女を意識している。

彼女が何を着るか、

どのような動きをするか、

どんなことを言うのか。

そして何よりもそれらに対するウィリアムくんの反応を。


彼女がウィリアムくんの近くにいればいるほど

私の中に黒い気持ちが溜まっていく。

嫌な気持ちだ。

友達に向けていい感情ではない。

でも私にはそれを止められない。

美しさとかわいさのどちらを兼ね備えていて、

セクシーで、

自分の体の見せ方、

男の誘惑の仕方を熟知しているンズリの魅力に

いつウィリアムくんの心がこじ開けられるのか心配で心配でならない。

自分が変になりそうだった。

だから、ンズリのことを考えるのをやめた。

考えてしまうと悪い気持ちのほうが勝ってしまう。

そしていつの間にか私たちの間に距離ができていた。


でも、私はンズリが嫌いではない。

好きだ!

ウィリアムくんがいなければ大事な大事な友達になっていたはずなんだ。

あ、私って悪い人だな……

ううん、こういうのを『悪い女』と呼ぶのか。

とその言葉の意味を初めて理解した。


だけどごめん、ンズリ。

彼への気持ちを抑えるのだけで精一杯なの。

ンズリのことまで考えてたら

私は……、私は……

……ごめんなさい。


お互いに何かを言おうとしてそれが言葉にならなかった。

私は酒場に入ろうとしたところで、


「ベラ!」


ンズリに呼び止められた。


「なに?」


「うちらってダチよね?今へんな感じになってるけどうちらダチだよね?」


……ンズリ。


「うん!私はそう思ってるよ。友達って。へんな感じになってるけど私はいまでもンズリのことを大切な友達だと思っている」


「……そ、そっか。あ、あのさ!て、提案なんだけどさ。ええと、提案というかちょっとした考えつか、ちょっとしたというか、いや、これでもうち、考えに考えまくった結果というか、簡単に言うわけじゃないというか。ええと、ええと、あれ?うち何を言いたかったんだっけ」


冷や汗をかきながらぶつぶつ言うンズリ。

とても緊張しているのが伝わり、

言おうとしていることが彼女にとって簡単なことではないというのがすぐに伝わった。


私も彼女にちゃんと向き直り、

その話を真剣に聞こうとした。


「あのさ、もうわかってると思うけど。うち、ウィリが好き……。大好きなの!誰よりも何よりも好きなの!」


「……う、うん」


その言葉がナイフのように深く刺さる。


「でもね!べ、ベラのことが嫌いなわけじゃないんだ。ていうか好きなの!うちも友達と思ってんの!学園初日にすごい仲良くしてくれた子で、お姫様なのに全然気取ってなくて、むしろ庶民的な感じでノリもいいし。そ、そのなんというかめっちゃ綺麗だし。敵に回したらやばいってのは言われるまでもなくわかってるし、つかこんなキレイなヤツとどうやって戦えばいいんだよ!?って毎日パニクってるし、ええと、あれ?またへんな方向に話がいっちゃった。と、とにかくうちが言いたいのはね、言いたいのはね!」


ンズリ、そんなふうに思ってたんだ。

毎日パニクってるのこっちのほうだよ。

というかンズリのほうが何倍もキレイじゃん!

でも、そっかぁ……ンズリ『も』そういう心配してたんだね。

先ほど刺さったナイフはどこかに消え、

ンズリにすごい親近感が湧いた。


「うん、なに?」


優しく私は言った。


「本当は嫌なんだけど、嫌というか独り占めしたいんだけど、多分ウィリはうちらのことどっちも大切に思ってるし、どっちにも傷ついてほしくないはずだし。だ、だからね、何が言いたいかと言うとね。う、うち、べ、ベラとなら……ベラとなら!」


「私となら……?」


なんとなく何を言うのかそのときにわかった。

そしてンズリが言葉にする前にその答えを考えてしまった。


私もンズリが傷つくのが嫌。

もちろん自分も傷つくのも嫌。

そして、私はもう気持ちを誤魔化しきれなくなっている。

私がこの気持ちを受け入れざるを得ないのは時間の問題だ。

だから少しだけ時間をくれれば。

今、解決しようとしている殺人事件が終わるまでは。

それまでは待って。

その後なら私もこの気持ちと向き合える……気がする。


それに私は既にわかっている。

彼を先行授業で傷つけたときに学んだ。

彼を失うくらいなら……

三人でも四人でもなんだっていい!


ンズリともへんな争いをしなくていいし、

友達として向かい合えるはず。

最初はいろいろと嫌な思いもするのだろうけど、

私たち三人ならそのうちうまくやっていけるようになるはず!


もう私の答えは決まっている。

ただ、時間が欲しい。

まだ『そうだと』と認めきれない、

認めたくないこの変な意地が崩れるまでの時間が欲しい。

少しだけ、本当に少しだけ待って欲しい。


それをちゃんと話せばンズリも待ってくれるはず。

そのくらいの条件は出してもいいはず。

それをのんでくれるのなら私は……『いいよ』


「ベラ!」


覚悟を決めたようにンズリが言った。


「はい!」


私も覚悟を決めた。


「うちと一緒にウィリを、」


「オラベラ!帰ってきてたの!?これから二次会で別の店行くよ!ついてきて!」


ンズリが言い終える前にアンジェリカ姉さんが言った。


店からアンジェリカ姉さんを筆頭にみんな出てきて、

私たちはとても先ほどの話を続けられる空気でなくなった。


『また今度ね』


言葉ではなく、

目で合図をとった私とンズリは

その話を持ち越すことになった。

でも、なぜか、

そのことがあったことで心に少しの余裕が生まれた。


私はアンジェリカ姉さんに話があると言い、

お姉さんは次の店に着くと食事と飲み物を頼んで、その会計までした。

みんなが盛り上がったのを確認したあとにそっと私と一緒に店を出た。



・フェリアンの隠し家にて


事情をアンジェリカ姉さんに説明した。

最初はすごい嫌な顔?困った顔?をされたが、

姉さんは私を手伝ってくれることになった。


もちろんクリムゾン・オウル部隊や

ミレニアム協定が国民についているうそ、

『赤鬼』――もとい『レッド・デーモン』については触れなかった。


少しばかりお姉さんから質問があるのだと覚悟していたけれど、

お姉さんは何も聞かなかった。

おかしなほどに。

……でも、姉さんは聡明だ。

自分で既に何かを掴んでいるのかもしれない。


「お久しぶりでございます、アンジェリカ・アルベイン様」


フェリアンさんが挨拶した。


「何がお久しぶりよ。私もオラベラもあんたが土曜、ギルドに犯した失態をその場で見てるわ」


「え!?その場にいたんですか?気付きませんでした。なんと見苦しいところを……」


お姉さんはフェリアンさんと少し顔見知りだったようだ。


「じゃ、オラベラ。さっきの話をまとめるとフェリアンが狙われているかもしれないから、仕事帰りから次の日、仕事に行くまで護衛すればいいのね?」


「はい、そうですね。何かいい方法はありますか?」


「冒険者ギルドに依頼は出せないの?それが一番手っ取り早いでしょう?金なら私が出すわ」


あ、そっか。

ギルドでのことを説明してなかった。

私とフェリアンさんは事情を説明し、

クエストを依頼しても受けてくれる冒険者がいない可能性があり、

私や姉さんの名義で依頼を出しても

任務内容が『フェリアンさんを護衛する』

ということが知れた時点で断られるか、

最悪の場合は受けるだけ受けて、

フェリアンさんを護衛しない可能性があると。


本来ならここで


「あんた何したのよ!?ギルドがそういう対応を取るのはよっぽどなことよ!?」


と少し怒るのがアンジェリカ姉さんである。

けど姉さんの反応は違った。


「そう……、だったら私たちでやるしかなさそうだね。とりあえず今日は私がこいつを護衛する。明日はオラベラ、交互にやっていこう」


「え?でもそれは学園では減点に。私は構いませんがお姉さんのポイントを減らすわけには」


「なあに言ってるのよ、オラベラ。学園のポイントと人の命、どっちが大切かなんて言うまでもないでしょう?それに私は今日サムエルとお泊まりする気満々だったからちゃんと寮長に許可を取ってるの。だから今日は私、明日はオラベラ。いい?」


「は、はい、わかりました。すみません。お願いします」


一日交互に護衛できるなら、

一日は事件の調査に当てられる。


早く犯人を突き止めなければ、

フェリアンさんたちの安全のためにも、

お姉さんのポイントのためにも、

ンズリとあの話の続きをするためにも、

そしてちゃんとこの気持ちと向き合うためにも!


「じゃ、今日は帰りなさい。あの店抜けてきちゃったから、一回戻って、私とオラベラはもう帰るってちゃんと彼らに説明して。あと、これから学園に泊まらない日があることをまわりの人には説明するんだよ。心配されてオラベラ捜索隊とか組まれたくないでしょう?」


「あ、はい。わかりました。そうします」


「じゃ、もう行って」


「はい、ありがとうございます。また明日アンジェリカ姉さん、フェリアンさん」


そして私は一度店に戻って、

姉さんと私も帰ることを伝えてから学園に戻った。



・オラベラが去った後のフェリアンの隠し家にて


オラベラが去ったことを確認したあと、

アンジェリカはフェリアンを睨みつけながら言った。


「さあて、元ランク7冒険者にして、クリムゾン・オウル部隊のヒーラー、フェリアン・レイクス。王国から極秘にせよと言われている内容はオラベラ王女に漏らしたりはしてないだろうな?もし彼女に何かを伝えていた場合、殺人鬼の前に『黒屋敷』がオマエを消すぞ」


フェリアンはその言葉に冷や汗をかいた。



・5月7日(火曜日)


・セントラム中央病院にて


フェリアンさんが仕事を終える時間の数分前から病院の外で待ち、

彼が現れると、少し離れて彼を追った。

フェリアンさんはこれを知っているが、

あくまでも一緒にいないというていで行動。

犯人が釣れたらラッキー程度の作戦だが、

私たちはそう行動することにした。

だが、何事もなく今日の泊まる場所に到着した。

また、使われていない廃墟のようなところだった。



・フェリアン・レイクスの別の隠れ家にて


「あーの、オラベラ王女殿下。万が一にも私がふしだらな真似をすることはありません。昨日もアンジェリカ様は部屋の中で待機しておられましたよ」


護衛の立場でありながら、

フェリアンさんの部屋ではなく

その外の廊下で座る私に恐る恐る言うフェリアンさん。


「いいえ、私はここで。フェリアンさんが何かすると思ってるわけではありません。ただ、……事情があるんです」


本当にフェリアンさんが何かしてくるとは思ってない。

それに厳密には私は寝ないんだから一緒に泊まることにはならない。

それでも、私はウィリアムくんに言ったのだ。

他の男となんて泊まったりはしないって、

ウィリアムくんだから一緒に泊まるって。

それを裏切りたくない。

でも護衛はすると決めた。

だから、これが私が出したせめての妥協案。

同じ部屋にいないこと。

廊下でいい。

部屋の扉は開いた状態にする。

それであれば廊下からでも何かがあれば間に合う。


それでも明日、午前の授業に行けなったときに何かしら気づかれるよね。

アラベラとエリザはアンジェリカ姉さんが誤魔化してくれたけど、

ウィリアムくんにそれが通用すると思えない。


そう、私はウィリアムくんにこのことを言っていない。

信用していないからじゃない。

巻き込みたくないからだ。

本当は……言いたいし、

今もそばにいて欲しいし、

でも、この問題はもう殺人事件どころか

国家レベルの陰謀にまで膨れ上がった。

彼をそこに巻き込んだりしない。


「世界一恵まれた方なのでしょうね。セントラムの花と呼ばれるオラベラ王女殿下の寵愛を受けられる、その彼は」


!!??


「ち、違います。そんなじゃありません。へ、へんなことを言わないでください」


「ははは、失礼しました。では私は少し休みます。私はこれでも元冒険者なので4時間ほど寝れば大丈夫です。そのあとはオラベラ王女殿下が休んでください」


「いいえ、私は護衛です。最後まで起きてます」


「それじゃ、持ちませんよ。全てを自分一人でやろうと思わないでください。確かに私はあなたに守られている立場ですが、私はチーム……そうですね、冒険者パーティーのように思っています。オラベラ王女はミレニアム学園生になられたということでしたね。冒険者ギルドのクエストを受けたことがありますか?クエストではパーティーのメンバーは順番に見張りをするんですよ。お互いにお互いを守るんです」


フェリアンさんにそう言われ、

みんなでダンジョンの攻略をした日を思い浮かべ、

ウィリアムくんの胸で寝てしまったときのことを思い出し、

自分でもわかるほどに顔が赤くなった。


「お、オラベラ王女殿下。大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です……これは違うやつです。……そういえばフェリアンさん、昨日聞き忘れていたことがありました」


「……はい、なんでしょう?」


「このコインに見覚えはありますか?グリムさんが殺害された彼の工房に落ちていたものです」


フェリアンさんはコインを手に取り、確認した。


「申し訳ございません。見覚えはないですね。それに私はこれでも冒険者時代にさまざまな国に行き、多くの通貨を見てきたのですが、このコインは見たことがありません」


「そうでしたか。あの、クリムゾン・オウル部隊のメンバーの中に魔力に耐性がある人はいましたでしょうか?それか魔術、特に強力な雷属性の攻撃をくらった後でも動けるような……」


しばらくフェリアンさんは考えた。


「実はクリムゾン・オウルは一つの任務のために集められた部隊なんです。それまでは別々に活動していたものたちです。全員がランク7以上の上級冒険者ではあったため全員が全員の名前は知っておりましたが、任務前まではお互いのことをよく知っていたわけではありません。話したことがなかった人もいたくらいです。なので基本的なことは知っていても能力の詳細は全て知っているわけではありません」


「そう、だったのですね……」


サリーネさんの殺害状況に合わせて犯人を少しでも絞れればと思ってたんだけど。


「なので、確実なことは言えませんが、ドルガンとジルベルトなら可能だったのではと思います。ジルベルトはアレグリアノで高い魔力耐性がありました」


ウィリアムくんと同じアレグリアノ。


「そしてドルガンは魔力というより『痛み』にとてつもない耐性がありました。ノルディックスゆえの特徴とも言えますが、ノルディックスの中でも異常なほどでしたね」


ドルガンさんとジルベルトさんか。


「わかりました。教えていただきありがとうございます」


「ええ、では私は休むことにします。4時間後に起きます。オラベラ王女殿下は休むかの判断は任せますが、日が昇るまで危険事態でない限りは近づかないことを約束します」


「……ありがとうございます」


フェリアンさんの気遣いに感謝しながら、

他の男と同じ部屋に泊まらないという約束を守れそうなことに安堵した。



・5月8日(水曜日)


ホワイトシティ、ミレニアム区にて


今朝、フェリアンさんの護衛を終えると学園に向かったが、

午前の授業には間に合わなかった。

ポータルも使えないとなると当たり前である。

アラベラとエリザに先生に伝えておくように言っていたため、

大きな問題にはならなかったが、

午後の授業に出たときに

『どうしたの?』

といろんな人に聞かれた。


そして、一番困ったのが専攻授業で彼に聞かれたときだった。


「オラベラ、大丈夫か?何かあったか?」


「う、うん、大丈夫。何かはあったけど、大丈夫なの。心配しないで」


「……わかった。何かあれば頼れ。『オマエなら』オレは助けるからな」


『私』なら!?

……もういきなり心が跳ねることを言わないでよ。

なんかもう全部言いたくなっちゃうじゃん!

こっちはあんたを巻き込みたくなくて我慢してるの!

ダメだ。この事件が終わるまでウィリアムくんの近くにいないほうがいい気がする。

思わずその目に吸い込まれて、気づいたら全部言ってそう。


「うん、ありがとう」


私はなんとかそう返事した。

でも、何かがあるとわかってるのに深掘りしないのって

なんというか……かっこいいってなる。

というか深掘りされたら全部言っちゃう自信がある。


そんな感じでなんとか学園のみんなには

フェリアンさんのことがバレずに進んでいる。

今日はアンジェリカ姉さんがフェリアンさんを護衛する日。

なので私は街に出て、クリムゾン・オウル部隊のメンバー探し。

放課後から夜遅くまで聞き回ったが、

彼らのことを知っている人は多くとも、

今どこにいるのかを知っている人はいなかった。


疲れた私はビランシア教会前のベンチに座った。


…………あれ?

確かクリムゾン・オウル部隊のメンバーの一人はクレリック(神官)だったよね?

ええと、オードリック・ファンさん。


ちょっと中に入って聞いてみよう。


中に入ってすぐに会った神官にオードリック・ファンさんについて聞いてみたら、

今週の金曜、明後日にこの教会を訪れることになっていると聞けた。

やったー!

よし、金曜はちょうど私がフェリアンさんの護衛じゃない日。

オードリック・ファンさんに会ってもっと情報を集めよう。


……オードリック・ファンさんは神官だし、

殺人鬼ってことはないよね?



・5月9日(木曜日)


ーサムエル・アルベインー


俺は月曜日、夜遅くまで祝われた。

まぁ、目立つのは嫌いだが、

嫌な気分ではなかった。


そして学園で有名になってしまって。

今週ずっと、


「街のヒーローだわ」

「一人で同日に事件を三つ阻止したやつか」

「事件を解決しただけじゃなく、なかなかにイケメンなのね」

「かっこいいわ。彼女はいるのかしら」

「しかもセントラム五代貴族の跡取りなんだって」

「わたし、狙っちゃおうかしら」

「ダメよ!もううちが先に目をつけたんだから!サムエル様と私は運命の赤い糸で結ばれてるの」


という調子である。

本人がそこを通っているのにいろいろとギャギャ言う学園生。

仕方ない、まだ日が浅いところの話じゃない。

数日も経っていないのだ。

しばらくすれば落ち着いて、

そのうち忘れられるだろう。


今日の俺の目的は一つ!

ウィンスターだ。

ヤツがどんな能力を使って俺をおとしいれたのかを暴いてやる。


その日、俺は

同学年(一年生)でアルファクラスの

ハーフリングの男子、ウィンスター・スプリングに注目した。


頭がいいわけでも悪いわけでもないようだが、

授業中にわからない感じでいると不思議と指されない。

逆にわかってそうだなというときは指される。


教室移動などで別の場所へ移動したとき、

彼は今日だけで三度も、お金を拾っている。

しかも律儀にそれを毎回先生に届けている。


そして昼食、

彼は間違いなく無料の日替わり定食を頼んだはずなのに、

なぜか渡されたのが最も高価な黒毛魔牛定食の肉大盛りオプション付き。


どうなっている?

どんな能力なんだ!?

一日中バレないように後を追ったが、

答えはわからずじまい。

魔力とか何らかのエネルギーを発しているわけでも、

特殊な術を使ったような動きはなかった。


……何もしていない。

そう!それが一番ビシッと来る。

アイツは特に何もしていないのだ。


だけど、小さなイベントが彼の周りで度々起きる。


「ふん、これじゃただ単に運が良すぎるだけの普通のやつとしか思えん」


そう言ったとき、


「うん、多分それで合ってるよ」


「いやいや、まさかな。そんなやつがいるわけないでしょ。そんなことが事実なら神秘よりもレアだっつの」


「そうかな?神秘のほうが強そうだけどな。サムエルは神秘を扱えるの?」


「そうだな、俺は神秘のうち、よ……ってなんでテメェがここにいんだよ!?」


いつの間にかウィンスターが自分の横に立っていた。

さっきまで見張ってたはずなのに、

どうやってここまで?


「ん?僕はサムエルいるなと思ってまっすぐ歩いただけだけど?サムエルはなにか考えごとをしていたみたいでそれに気がつかなかっただけだよ」


「ああ、そうなのか……ってそんなわけあるか!確かに一瞬目を閉じて考えごとをしていたけど、そんな完璧なタイミングがありえるか!オマエやはり何かの特殊な能力を持ってんだろ!?それか何か訓練で身につけた絶技か?」


「えー?そんな能力ないよ。戦闘訓練も学園に入るまでしたことなかったし。みんな強いよね。どうやったらあんなに強くなれるんだろう」


ウソつけ!って言いたいところだが、

ウソをついているようには見えない。

というか加護の力でウソをついているかなんとなくわかる。

だからこそあの完璧に見えるアンバーを信用しきれないし、

ぶっきらぼうで自分勝手なのにウィリアムは信用できる。


嘘とか自分に対して悪い想いが向けられると

ビンビンと警告がなるのだ!

だけど、こいつからは一切それがない!

まさかアラームの故障か?

加護をくれたヤツにクレームをつけなければ、


(加護がうまく機能してません!返金願います!)


って、まぁ、金なんて払ってないんだけど。


「はははははは、キミおもしろいね。なんとなくだけどお姉ちゃんが言ってた人に似てるから加護あげちゃおうと。私はお姉ちゃんのように自分のヴェネディクトに惚れないから期待しないでね」


といきなりヒョイヒョイ飛んできて言われ、

加護を与えられたのだ。

つか、おもしろ半分で加護あげるなよな。

加護ってひょっとしてそんなレアじゃない感じ?

バーゲンセール感覚でもらえる感じ?

あれ?俺なんでこんなことを考えていたんだっけ。

そうだ!ウィンスター!


「おい、オマエ!」


って、いなくなってやがる。

やはり暗殺者系の訓練受けてんだろうアイツ!

俺から簡単に姿を隠すとは。


と思ってたらちょっと歩いた先の角でしゃがみ何かしらを覗いていた。


「おい、ウィンスターそこで何を」


「シッ!今、大きな声ダメ」


はぁ?コイツ何を?

ってあれは不良くんのクレイ?

それと一緒にいるのは……


俺はウィンスターをまねて隠れ、

不良くんの話をこっそり聞いた。


「エリヴィナ、わかってんだろうな?受ける誘いは断らずに全て保留にしとけ。ホームカミング当日までだ。いいな?」


「貴様ってやつはそこまでゲスなのか!?私はオマエと舞踏会に行くと承諾した!だったら他の誘いは断らせろ!私にパートナーがいることを知れば彼らも他に行きたい人と行くことができる。それに参加受付は昨日で締め切りなのだろう?もう彼らは挑戦を抜けることはできない。オマエは何も損をしないはずだ!」


「なんだ、自分のクラスじゃない知らないヤロウの心配まですんのかテメエは?先輩の鏡だな。ははは。だけどよ、それじゃダメだ。最後の最後までヤツらに希望を与えろ。もしかしたらオレが優勝するかもという高揚感を味わさせろ。そして舞踏会当日にそれをぶっ壊してやるんだよ」


「下郎が……」


「なんとでも言え。オマエはオレ様に借りがある。エリヴィナ・ヴァン・シュタイナーは借りを返す女なのだろう?」


「ッチ。ああ、借りは返す。だが、それで終わりだ!今後、私やベータクラスの誰かに近づいたら容赦せんぞ!」


「ははは、随分と嫌われてしまったな。まあ、オマエの利用価値なんて今回の件くらいだろうよ。困りやしないさ。ただ、今回の件においてはオレ様の指示通りに動いてもらうぞ。でなかれば……わかってんだろうな?」


「……わかっている」


「よし、いい子だ」


……思った通り、

クレイには挑戦を確実に勝利できる方法があった。

誘えば勝ちが確定する二柱のうちの一柱を抑えていた。


それに今の会話から察すると、

挑戦は受け付け締め切りを過ぎると抜けられなくなるらしい。


ホームカミングまでまだ期間があるのに、

挑戦を出してから一週間のうちに参加締め切りを設定したのには

人が気を変わる前にまだ彼への恩や

思惑が生きているうちに参加メンバーを集めることが理由だと思っていたが、

参加を決意したメンバーが挑戦を

抜けられないようにするも狙いもあったのだろう。

もしかすると途中でエリヴィナ先輩のことが

バレたときの対策でもあったのかもな。


はあー、わかっていたことだが、

やっぱりやり方が美しくないヤロウだぜ。


まあ、クレイはおいといて、

それよりもやっぱりこの男よ。

こんなタイミングよくこのような場面に鉢合わせるか?

ウィンスター・スプリング……

やはり何かを持っている。



・オメガ寮にて


「ふふ、さすが我鷲丸様です。これならどちらがお手紙を読んだとしてもいい方向に行くでしょう」


「うむ、さすがは俺である」


オメガ寮のロビーで話すアンバーと我鷲丸。


どうやらアンバーの指示でアルファの三女神の部屋に

彼女らを舞踏会に誘う手紙を置いてきたらしい。

アンバーが言うのには、

アルファの三女神の三人は美人ランキング上位にも関わらず、

誘ってくれる人がすごく少ないため意外に狙える穴らしい。


それに三女神のミラリス先輩は基本的に誘われれば断らず、

三女神のリーダー格であるセレナ先輩は

我鷲丸みたいな顔(金髪、碧目イケメン)

が大の好みらしい。

よって二人のうち誰かが読んでも可能性があるとのこと。

アエル先輩が読んでしまったとしても、

自分が誘われていると思うことはなく、

残りの二人に手紙を渡すとも言っていた。


どうして他クラスの違う学年の人がどう動くのがわかるんだ?

どんなリサーチ能力なんだそれ?

でもそれはうそではないようだ。

アンバーがうそをつくと鳴るアラームが鳴っていないのだ。

ちなみにさっきは別のことで鳴ったので、

アラームが壊れてないことが証明された。

つまりアンバーには俺が理解できない方法でそれがわかるのだろう。


アンバーの中にはウェイチェンがアエル先輩と、

我鷲丸がセレナかミラリス先輩の誰かと、

で、俺が残りの人と行くことで

オメガの男子三人がアルファの三女神を誘うという形にしたいらしい。


「すごくいいじゃないですか。アルファの中でも最も美しいと言われる三女神が最底辺と呼ばれるオメガの生徒と一緒に舞踏会に行くのはいろんな意味で盛り上がりますよ。ふふふ」


……どんな遊びなんだそれは。

そんなことして楽しいのか?


「ふふふ、こういうの考えるのってすごく楽しいですね」


……楽しいらしい。

アラームも鳴っていないので本当に楽しんだろう。

女ってわからん!

それに俺はまだアンバーに舞踏会をどうするかの答えを出していない。

迷っている。

三女神も悪くはないんだろうが、

できればエリザか姉と行きたい。


でも、クレイの優勝が決まっているあの状況を覆して、

吠え面をかかせたい気持ちが0.5パーセントくらいあるのだ。


でもそれをするのにはルールを変えてもらうか、

それこそアルドニス先輩を連れていくしかない。

俺がアルドニス先輩を誘ってOKしてもらえる可能性は……

ゼロだな。

そもそも接点は選考授業くらいしかないし。

だとするとアンバーが言うように可能性があるのはオプティマス。


…………と、ウィリアムだよな?

学園の初日からアルドニス先輩はウィリアムを気にかけていた。

あれは明らかにウィリアムを気に入ってる側だ。

つまりウィリアムが動けば一波乱起こせるかもな。


…………あ、ダメだ。

俺がウィリアムを動かせる可能性もゼロだわ。

いや、ゼロじゃねんだろうけど、

難しい気がする。

可能性があるとしたらウィリアム自身に

アルドニス先輩と行きたいように思わせる。

無理じゃないんだろうけど……うん、めんどいな。


まぁ、今はアンバーがオプティマスを

アルドニス先輩を誘えるように

サポートしてくれてるから任せていいでしょう。


それと、本日の昼に聞いてしまったあの会話。

クレイがエリヴィナ先輩を舞踏会のパートナーにしていることを

伝えたいのだが、

現在ここにデルタの三人が居座っているためなかなかそれができない。


その三人とはンズリ、クレア

そして最近二人と一緒にいるようになったグリンデル。


前までならンズリはウィリアム関係でしかここに来なかったが、

ルミナーレの夜以来オメガの先輩たちと仲良くなってからは

毎日のように来ている。

ウィリアムがいればラッキー!

そうじゃなくとも楽しい!

ってのが露骨に伝わる。


「先輩、明日金曜日じゃないですか!夜街に出て遊びません?踊りに行きましょう!踊りに!」


ンズリが先輩たちに言う。


「ごめんにゃ、今週二年に課題が出たのにゃ。うちらバカだから週末はエンマに教えてもらわないとまずいのにゃ。いけないのにゃ」


ガウラ先輩がそう答えると、他の先輩たちも同じであった。


「そっか、残念。でも、また今度行きましょうね」


「うん、今度だにゃ」


それで話が終わったかと思いきや、

ンズリは俺らのところにきた。


「みんなはどう?一緒に行かない!?みんなでパッと遊ぼうよ」


元気にそう言うと、


「うむ、この英雄王が一緒に行くとしよう」

「我鷲丸が行くなら俺も行こう」

「にゃははは、面白そうだにゃ。行くにゃ」

「うちも行く!武器作りをするためにもリフレッシュしないとな」


我鷲丸、ウェイチェン、フェリックス、シドディがその誘いに乗ったのである。


「申し訳ございません、私とオプティマス様は明日行くところがあるので遠慮させていただきます」


アンバーは丁寧に断った。

ンズリはオプティマスが行かないことに安堵した様子で、

(あっぶねぇ〜)

って思ってたのが顔ですぐに伝わった。

別にオプティマスが行ったところでウィリアムは怒らないと思うけどな。

でもオプティマスが来れば確実にウィリアムは来ないだろうけどね。


「サムッチは?どうすんの?」


ンズリに聞かれ、


「俺か、うーん、どうしようっかな」


と悩んでいたら、


「行こうよ。久しぶりにみんなで遊ぼう」


とクレアが続けた。


面倒ごとに巻き込まれたくはないが、

遊びに行くだけならいいっか。


「うん、そうだね。俺も行く」


俺が返事すると、


「よっしゃ!決まりー」


とンズリが嬉しそうに跳ねた。


「ウィリ早く帰ってこないかな。めっちゃお願いすれば来てくれるよね?今週末くらいは課外活動を休むよね?」


心配そうにクレアに言うンズリ。


「わかんないけど、ダメ元で誘ってよ。私も頼むし。何ならこの前言ってた胸を当てながら超密着上目遣いを二人でやってもいいよ」


クレアが言う。

エリオット先輩がびっくりした顔をする。


「クレアもやるの?完全におっぱいをウィリに当てちゃうやつだよ?いいの?」


「……うん、いいよ。ウィリアムが来てくれるならそんくらいはするって」


「ね!またルミナーレのときみたいな顔になってる!」


「なってない!ンズリのためを思って手伝おうと言っただけなのにマジで信じらんない」


拗ねるクレア。


「ちょ!怒んないでよ。わかった。わかったから。ウィリ帰ってきたら二人でお願いしに行こう」


「……うん」


……やっぱり女ってめんどくせえな。

つかエリオット先輩めっちゃ悲しそう。

大丈夫かな?

最近クレアと仲良くなってたもんね。

つかクレアっていつからウィリアムに体を触られても大丈夫になったの?


というかあいつも大変だな。

ンズリにザラサ。

それといまだに信じられないけどオラベラ。

そしていつの間にかクレア。

フェリス先輩もたまに来て添い寝してるみたいだし、

本当に忙しいやつだな。

俺には無理だな。

そんなに女いたらめんどくせ以外の何でもない。

女は一人で十分。

そしてしばらくは一人でいたいし。

まぁ、そのうち決めないといけないのはわかってんだけど。


そんなことを考えていたら

変な組み合わせが寮に戻ってきた。


ウィリアムたちである。

いや、別にウィリアム、ザラサ、ブヤブが寮に戻るのは普通だよ。

そこにヤツがなぜいる!?

なぜいるんだ、悪の根源『ウィンスター』!?


「ウィリおかえり!」


ウィンスターに目もくれずにウィリに飛びついて抱きつくンズリ。

抱きつかないけどめっちゃ近くまで行くクレア。

嫌な顔をするザラサ。


「おい、メスライオン、ボスから離れるのです。ボスは疲れてるのです。これから休むのです。オマエに構ってる暇はないのです」


ザラサがそう言うと、

それに反発したンズリが


「そうね、こんな犬とずっと一緒にいたら疲れるよね。よし一緒に風呂に入ろうね、ウィリ」


「ボスと風呂に入るのはザラサなのです!メスライオンは帰るのです!ガルルル!」


と言い合いになり『いつもの』が始まる。


「……テメェら黙れ」


そして『いつもの』セリフで


「ごめんウィリ、怒らないで」

「ボス、ごめんなさいなのです」


と落ち着く二人。


そこでやっとンズリが異常物質に気づいた。


「あれ?この子誰?ええと確か、同じ学年だよね?」


「うん、僕はアルファのウィンスター。はじめましてキレイなライオンのお姉さん」


「あ、うん。って今キレイって!?……この子めっちゃいい子じゃない」


ンズリに頭を撫でられるウィンスター。


「なんでウィリといるの?」


「あのね、学園を歩いてたら迷っちゃって、ウィリアムくんが助けてくれたんだ」


迷うか普通!?


「そうだったんだ。ウィリ困ってる人がいたら助けちゃうもんね」


ンズリがそう言った瞬間、

ウィリアムは少し首を傾げた。

まるでそれは違うぞと表現するかのように。


そして作戦実行のときがきた。

ンズリとクレアは目で合図をとり、

ウィリアムにぐっと近づく。


「ね、ウィリ。明日の夜ね。みんなで踊りに行こうってなったんだけどウィリも来る?つか来てよ!ね、ね、お願い!ウィリと踊りたいの!」


ウィリアムの腕に絡まり、

これでもかってなくらいに胸を当てて、

上目遣いでウィリアムに言うンズリ。


「……うん、お願い。来て欲しいの……だめ?」


クレアも逆の腕に絡まり言う。

そしてそれを見ていたエリオット先輩は崩れ、

ガウラ先輩に慰められていた。

その慰め方がエリオット先輩の顔を

自分の胸に埋めて頭を撫でることだったので、

ポン・ホウ先輩が隣で羨ましいと文句を言い、

エンマ先輩は呆れていた。


ウィリアム周辺だが、

ブヤブはいつも通りマイペース。

ザラサはブチギレ寸前。

そしてンズリの攻めまでは予想していたウィリアムだったが、

クレアのは予想外ってのが隠しきれないくらいに驚いていた。


二人とも胸を当てたままウィリアムを離さない。

いや、ときどき離れては再度押し付ける。

それが何度も行われる。

あれは地獄だ。天国という名の地獄だ。


うん、これは断るのは無理だな。


「わかったよ。じゃ、踊りに行こう」


「やった!」「やった!」


作戦が成功したことにンズリとクレアが喜んでいると、


「ザラサ、ブヤブ。今週末は課外活動はおやすみだ。踊りに行くぞ」


ザラサとブヤブは即返事したが、

ンズリの顔が一瞬歪んだ。

すぐに笑顔に戻したけど。


ザラサには来て欲しくないのだろう。

でもそんなことを言えばウィリアムに一発で嫌われる。

ンズリもバカそうに見えて案外したたかなのだ。


まぁ、久しぶりにみんなで遊ぶか。

軽い気持ちでそう思っていたときだった。

明日、必ず事件が起こると凶兆するような一言がンズリの口から出た。


「ウィンスターくんも一緒に来る?」


「……うん、僕も行こうかな」


そうウィンスターが答えたのだった。



キャラクターイメージイラスト:ウィンスター・サプリング

挿絵(By みてみん)


イメージイラスト:オラベラとンズリ会話その2

挿絵(By みてみん)


イメージイラスト:ダンスへの誘い

挿絵(By みてみん)


今回も読んでくださってありがとうございました。


次回、第31話

アンバーとオプティマスがアルドニス攻略に向けて動き出す。

暴かれるクレイの罠。

そしてオラベラが直面する『最悪の一日』の結末を見届けよ。


5月にも1話投稿予定です。

楽しみに待っていただけたら嬉しいです。

引き続き、よろしくお願いします。

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ウィンスター面白い!ただのラッキーなやつなのか、何かの能力なのか、確実に普通ではない(笑) イメージイラストいいね!
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