第29話:三つの事件と最高の一日
・5月4日(土曜日)
ーアンジェリカ・アルベインー
昨日はそのまま全員で街で遊んだ。
ガレスと遊びに行くことになったのは癪だが、
彼の悔しそうな顔が見れたのはとてもよかった。
ガレスをオラベラと二人きりにしないように
私、エリザ、アラベラで動き回った。
その話し合いをしていないのに
それができてしまうのは長年一緒に過ごしたからだろう。
それだけじゃない。
オラベラが幸せになって欲しいという気持ちは私たち三人同じだ。
だからこそ二人がもっとオラベラの背中を押してあげないのか理解できない。
やっとなんだぞ!
人生で初めて、あの子は『みんなのため』よりも『自分のため』を考えてる。
その一点だけだとしても、オラベラにとっては大きな変化だ。
実際に昨日は危なかった。
あと少しでガレスがオラベラと二人っきりになるとこだった。
勘違いしないでほしい。
オラベラがあのチビに惚れるとは微塵も思っていない。
だけど、ガレスは自分はまるでそれを狙ってないかのように、
オラベラが弱そうな『みんなのため』『王国のため』
などの理由をあれこれつけて、
仲良くなろうとし、オラベラを執拗に狙うだろう。
改めて言うが、それでオラベラがガレスを好きになることはない。
それで好きになるのなら、
オラベラは学園に通わずに既にテッド兄さんと結婚をしている。
だからそこは心配していない。
だけど好きにならなくともそういうことを聞けばオラベラは迷う。
『自分の幸せ』を捨てて『みんなの幸せ』をベースに考え始める。
そうなってしまえばオラベラは今の気持ちに向かい合わなくなる。
学園に通う五年間のどこかで何かを好きになり、
一度でもいいから『みんな』を優先させずに、
『自分』を優先して欲しかった。
好きな『人』である必要はなかった。
好きな『こと』でもよかったのだが、
一番効果が高いのが『好きな人』だというのは元々わかっていた。
だが、あの子のことだからそれが一番難しいということもわかっていた。
正直、その可能性は諦めていたほどだ。
それまでにオラベラは『恋愛』ということに興味がなかった。
疎いとかそういうことじゃない。
オラベラは恋愛話が大嫌いだったのだ。
アラベラが恋愛話をするたびに顔をしかめ、
もしエッチな話が出るものなら、
吐いてしまうんじゃないかと思うくらいに気持ち悪くなっていた。
それが今はどうよ?
寮に帰宅し、女子部屋でみんなで話し合いをしてたときに、
アラベラが龍次郎のことを話しても嫌な顔をするどころか
『うんうん』ってな感じで頷いてたし、
エリザがサムエルに対する気持ちを語っても嫌な顔一つしなかった。
しまいには話がちょっとエッチな方面になったとき、
何かを学ぶかのように真剣に話を聞いてしまう始末。
その変化を間近で見ていなければ、
影武者か何かがオラベラに成り代わっているとさえ思ってしまっていた。
もうそのレベルまで来ている。
自分でも否定しきれないくらいには彼を意識している。
だけどやっぱりオラベラはオラベラだった。
「オラベラは好きな人いる?」
という質問に、
「あの、ええと、い、いないかな?……でも、……ううん、なんでもない。いない」
と答えた。
……『でも』ってなに!?
『でも』って何ですか!?
本当にあの子は!!!!
ああー!!頭に来る!
『でも』って言ってる時点でいるんだよ!
じゃなきゃ『でも』って出ないんだよ!
しかもそのオラベラの答えにアルファ女子は全員呆れながらも、
何も突っ込まない優しさ。
特にエリザとアラベラは何してんのよ!?
もっと背中を押してやれって!
ここを逃せば、
あの子はもう二度と誰かを好きになることはないのかもしれないのだぞ。
別にあり得ないことを言っているわけではない。
そのくらいあの子の心をそっち方面に動かすのは難しいことなんだ。
しかも仮に『彼』をオラベラのタイプと仮定するとして、
『彼』のような人に再び巡り会えれば〜って期待も持てない。
『彼』のようなヤツなんて他に知らん!
つか、いると思えん。
むかつくけど、そんくらいの世界に一人ってレベルの男だよ。
ああー!『彼』もむかつく!
『ウィリアム』!!
人を『姉さん姉さん』って呼びよって!
なんでそれを許したのかいまだにわからない……
でも、正直そう呼ばれるのは嫌じゃない。
心地いいまである。
マジで何なの!?
特定の人に信じられないくらい気に入られ、
そうじゃない人にめっちゃ嫌われる。
どんな能力だよ?
ともかく悪いやつじゃない。
一緒に時間を過ごしてわかったことだし、
何よりもザラサを鍛えることでわかる。
ザラサはウィリアムのことばかり話す。
まるで物語の英雄のように彼のことを語るが、
私が感心するのはそうではないときの話。
「ボスが欲しい肉を買ってくれたのです。たくさん買ってくれたのです。ブヤブにも買ったのです。三人でいっぱいいっぱい仲良く食べたのです」
「ボスが野菜を食べなかったら怒ったのです。怖かったのです。でもボスの言うことが正しいのです。だから嫌でも野菜を食べたのです。でも嫌そうに食べてたらボスはザラサの嫌いな野菜半分食べてくれたのです」
「ザラサ、この前ずるい店の品を壊したのです。その店の人はずるくて、物に触れたら落ちるようにしていたのです!悪いやつだったのです!ザラサはそいつをぶっ飛ばしたかったのです!でも、ボスは何も悪くないのに、ザラサのために頭を下げて、弁償までしてくれたのです。だからザラサも、我慢して謝ったのです」
「ボスが街で困ってる子供を助けたのです。よわっちヤツを何で助けるの?と聞いたら『目の届く範囲でできることがあればやらないとな』と言っていたのです。だからザラサも弱っちいヤツが困っていたら次からは助けるのです。そしたらボスに褒めてもらえるのです」
ウィリアム、あんたは罪な男よ。
どれだけザラサの人生に影響を与えているか知らないでしょ?
あんたのおかげであの子はとてもいい方向に成長してるわ。
オラベラもそう。
あんたに出会ったことでいい方向に変わろうとしている。
自分の欲しいものを追いかけようとしている。
気づこうとしている、
みんなを守るために自分の欲しいものは諦める必要はないということを。
あんたのおかげよ。
だけど、やっぱり罪な男に変わりはない!
あんたもオラベラが好きなのでしょう?
あのライオンの子、ンズリも好きなのだろうけど、
オラベラも好きなんでしょう?
もういいじゃん!ンズリはどうかわかんないけど、
オラベラは二番目でも三番目でも受け入れるわよ!
あんたの器があれば二人くらい面倒見れんだろうが!
だからさっさとオラベラを自分のものにしろってんだ!
あんたの知らないところで多くの狼が彼女を狙ってるのだぞ!
それに一番怖いのはオラベラを狙う男どもじゃない。
もっと怖い存在がいるんだ。
だから早くオラベラと付き合え!
あんたとの関係が彼女の守らなきゃいけないものに変わったとき、
あの子は何へでも立ち向かえるはず。
……あの方にさえも。
……これを全て二人に言ってやりたい。
だけど、それを言えば今の二人の関係を壊す可能性もある。
……そっか。
エリザとアラベラが動かないのはそういうことなのか。
……でも、やっぱりダメよ。
動かないのは動かないで二人の関係が壊れることもあるんだから。
敵は学園内だけじゃない。
エリザとアラベラは忘れている。
オラベラの最大の敵はこの学園の外にいる。
オラベラが自分の感情をはっきりしないままあのお方に会ってしまったら……
もし、そのときにウィリアムも一緒だったら……
ウィリアムの性格からして取り返しのつかないほどの影響を与えることになる。
そして、彼を傷つけたオラベラはもう自分の欲しいものを追わなくなるのだろう。
自分が悪いと塞ぎ込み、いつもの『王女』様に戻るだろう。
それだけは避けなければならない。
だから、エリザとアラベラが動かないのなら、私が動く。
最大の脅威に会わせずに、二人のことをアシストしてみせる。
私ならあの『お方』のスケジュールを入手することもできる。
あの『お方』を避けながら、
二人だけの甘い時間を過ごしてもらうわよ、
オラベラ、ウィリアム。
コンコン
ドアがノックされる。
相変わらず時間通りね。
既に準備を終えていた私はドアを開けた。
「おはようございます、アンジェリカ姉さん。今日はよろしくお願いします」
ーオラベラ・セントロー
昨日、エリザとアラベラがガレス先輩をどこかへと連れ回していた際に、
お姉さんと二人っきりで話す時間ができた。
最近の状況を聞かれ、私は殺人事件について調べた内容を説明した。
クリムゾン・オウル部隊のこととレッドさんのことは言わないことにした。
クリムゾン・オウル部隊については、
その情報を知っているだけで危険な気がする。
レッドさんについては……なんて言えばいいかわからなかった。
そして何よりもお姉さんに「もうその人に会っちゃダメよ」
と言われたりしたら困る。
彼にはまだ聞きたいことが山ほどある。
だけどこの話をお姉さんにしたら、
「はぁ?殺人事件?まだそんなの調べてるの?私が聞きたかったのは……、ああー、もういい。わかった。その殺人事件をさっさと片付ける。私が手伝ってやるからその後に私の頼みを聞いてもらうわよ」
と言われた。
「お姉さんの頼みならいつだって聞きますよ」
と答えたが、
「ダメよ。私の頼みにはオラベラの全神経を注いで欲しいの。だから他のことは考えてほしくない。だからこの事件の解決を手伝う。それが終われば私のお願いを『どんなこと』であっても聞いてもらうわ。わかった?」
「はい、わかりました」
と返事したところで、
エリザとアラベラとガレス先輩が戻ってきて、
「そうだな、この前みたいに二泊三日くらいがいいわね。そんくらいの時間は必要。うん、必要。というかそのくらいの時間一緒にいれば何かしら起きるでしょ。この子が嫌がってるならともかく、押せば何とかなる状況であのケダモノが我慢できると思えないし。でもこの国の王女のあれをそんな簡単に……って王女とか知らん!オラベラは嫌ならちゃんと断れる子。大丈夫!」
のような独り言をぶつぶつと言っていた。
私はお姉さんに何を頼まれるんだろう?
ともかくそんな感じでアンジェリカお姉さんが力を貸してくれることになった。
すごく助かる。
ウィリアムくんにはなるべく一人での行動は避けるようにと言われているし、
私もそうすべきだとわかっている。
だからといっていつも彼を頼るわけにはいかない。
正直な話、
ウィリアムくんがどのくらい強いのかわからなくなってきた。
最初は弱いと思っていた。
だけど弱いということは決してない。
私よりも強いと思ったこともあったが、
今ではそれも怪しい。
相手に合わせる能力を持っている。
たとえ本気で打ち込んでも決まったパターンなら受けられる。
多少、変則的に動いてもついてくる。
何というか生き延びる術を持っている。
彼がときどき語るように、
『実戦』を生き抜いた経験ってことなのだと思う。
けど、実際にどれくらい強いのかは『不明』だ。
だから武力が必要となるシチュエーションで彼を頼ることができない。
彼が怪我でもしたら元も子もない。
それは絶対に避けないといけない。
ザラサちゃんとボールウィッグがいれば
ほぼ間違いなく大丈夫だと思うけど……
やっぱりダメ!
彼を危険なところに連れて行きたくないの!
「オラベラ、一人で何怒ってんの?くそエドワード王子のことでも思い出したか?」
「い、いいえ、言われない限り彼について考えることはありません。今のは別のヤツです」
「ふ〜ん、別のやつね」
あれ?なんで一人で怒ってるんだろう私?
ともかくウィリアムくんを危険なところへ連れて行くのはダメ。
あの人、多分自分を犠牲にしてでも私を守ろうとするから。
それに彼に何かあったらザラサちゃんとブヤブくんにも顔向けできない。
うん、危険なところにはウィリアムくんは連れて行かない。
それに比べてアンジェリカ姉さんなら
そういったところを心配することはない。
私より強いし、実戦経験も豊富で頭も切れる。
本当に完璧。
これ以上頼りになる人は……
いや、テッド兄さんがいるけど、
彼を除けば最も頼りになる人!
そんな姉さんと一緒に向かってるのは冒険者ギルドだ。
クリムゾン・オウル部隊という名前はお姉さんに言わなかったが、
殺されているのは『元高ランク冒険者』ということは伝えており、
そもそも数が少ないからまずは彼らのことを
知っていた人がいるかを調べることになった。
そして私たち二人は冒険者ギルドに到着した。
中が騒がしい。
いや、冒険者ギルドはいつでも騒がしいんだけど、
それとはまた違う様子だ。
大きな声が聞こえる。
明らかに誰かが怒鳴っている。
一度お姉さんと目を合わせ、用心してからギルドの中へ入った。
「オマエらは何かを知っていたからあの任務を断ったんだろう!?あっ!?本当のことを言え!でなければ冒険者があんな高額の報酬を断るはずがないんだ!オマエらは知っていた。知っていたのに俺らに何も言わなかったから俺らは数ヶ月監禁されただけでなく、今では一人一人が殺されているのだぞ!」
40代くらいのヘンテ(一般人族)の男性は罵倒するかのように怒鳴っていた。
その怒りが鎮まることがなく続けた。
「何とか言え!ブラック・フォックス!レッド・フォックス!あの任務を断ったのはこうなると知っていたからだろう!」
その男はこの街最強の冒険者パーティーである
フォックス・テイルのリーダーとその副リーダーに怒鳴っていた。
アンジェリカ姉さんとサムエルの家に勤める執事兼冒険者『ダニロ・ブリッツ』と
アラベラの家に勤めるメイド兼冒険者『サン』である。
ーサムエル・アルベインー
今日は土曜日だというのに俺は早起きした。
週末はいつも昼ごろまでだらだら寝ている。
だけど、今日の俺は違う!
何たって大事な人と約束があるのだからな。
ふふふ、そうさ。
俺は今日この街最強の冒険者パーティー『フォックス・テイル』
とクエストを受けに行くのさ。
つまりは楽して、
いや、何もせずして大量ポイント獲得だ。
ふふふ、さすがの俺もこういうチャンスを逃す手はない。
やはり持つべきは街最強の冒険者パーティーのリーダーの兄である。
すまんな、他のみんな。
これは貴族の特権などではない。
家族の特権だ。
ダニロ兄ちゃんは俺の大事な兄ちゃんなのだから仕方ない。
それに兄ちゃんと会うからなのか今日の俺は気分がいい。
何か冴えてる気さえする。
俺は意気揚々とポータルに向かった。
到着するとそこには小さな子供がいた。
いや、子供じゃなくてアルファクラスのヤツだ。
確か未成年の……、
って未成年だから子供は子供なのか。
ともかく子供だと思ったのはその見た目と身長の低さだ。
おそらくハーフリング。
うん、ノームよりは大きいし、ドワーフよりは小さい。
誰かを待っているかのようにポータルの前を動かない。
このままじゃ俺がポータルを使えないので声をかけることにした。
「ええと、ポータル使うの?使わないなら先に使ってもいい?」
「こんにちは。いや、まだ朝だからおはようだね。うん、そうだね。おはよう」
「?ああ、うん、おはよう」
「うん、おはよう」
笑顔で見つめられて『おはよう』と言われるが先程の質問の返事はない。
「ええと、ポータル使うの?」
「うーん、どうだろう?キミは使うの?」
「うん、使う。課外活動に行くんだ」
「そっか、じゃ僕も使おうかな」
「え?決めてないの?」
「どこで課外活動するか受付のとこで報告しないとそもそもここに来れないはずだけど」
「そうなの?僕はなんか今日ここに来るべきって思ったから来ただけなんだ。それに僕が来たときここへ降りる扉は開いてたからそのまま降りちゃったって感じだけど」
「え?見張りの人がいるよね?それはどうしたの?」
「いなかったよ。トイレにでも行ってたのかな?」
そんなことある?
どんな完璧なタイミングで動けばそうなるんだよ?
それにそれを狙ってないかのように聞こえる。
俺もやろうと思えばできると思うけどたまたまそうなることはない。
普通なら嘘だ!と言いたくなるとこだが、
なぜか彼が嘘をついてるように思えなかった。
「ふ〜ん。で、ポータルを使うか決めてない感じだったけどどうするの?」
「うん、使うことにする」
「そっか、じゃ先どうぞ」
彼はポータルを使い移動した。
その後に俺も同じように移動した。
向こう側で彼は待っており、
俺が歩き始めると彼もついてきた。
ミレニアム本部を出るまでだろうと思っていたが、
街に出てもついてきた。
「あの、キミはなんなの?」
我慢できなくなった俺はちょっと強めに聞いてみた。
「僕?僕はウィンスター。ウィンスター・サプリング。はじめまして。あ、でもはじめて見たわけじゃないからはじめましてはおかしいのかな?でも直接話すのは初めてだからはじめましてでいいのかな?うーん。難しい。言葉って難しいね。キミは誰なの?」
いや、知らずについて来てるんかい!?
なんか目的があるんじゃないのかい!?
「俺はサムエル。サムエル・アルベイン。何でついて来てるの?」
「ええとね、朝にねオラベラとおはようの挨拶したら、今日はアンジェリカさんとお出かけするんだって。それでね、なんかね、僕も行かなきゃってなったの。でも一緒に行くんじゃなくて別々にって感じで、それと他の誰かと行かなきゃって感じなんだ」
「あのさ、その何とかって感じはどうやって決まってるの?」
「うーん、よくわかんない。なんとなく?でも、僕はこのなんとなくを大事にしてるんだ」
「……。まぁ、どうでもいいけどさ。それでなんで俺についてくるの?」
「ああ、それはね。今日、僕が一緒に街に行かなきゃいけない人は多分サムエルなんだ」
「はぁ?いや、俺、用事があるから。一緒にってのはできねぇぞ」
「そう?うーん、じゃできるところまででいいよ。そのあと僕は帰るから」
断ろうとも考えたが、単純にそれもめんどくさかった。
どうせ冒険者ギルドまでだ。
そこで帰ってもらおう。
そう思って、俺はウィンスターが途中までついてくるのを了承した。
そのとき俺は知らなかった。
知る由もなかった。
これがとんでもない日の始まりになることを。
ーンズリー
今日はウィリとデート!!
……したかったんだけど断られた。
今週末は課外活動するらしい。
というかほぼ毎日やってる。
あのバカ犬が大量にポイントを減点されたせいだ!
あのバカ犬がポイントをあんなに減点されてなければ
ウィリにはもっと自由時間があったというのに〜。
はぁー、もういいや。
今日は楽しむって決めたんだから。
ルミナーレの夜、ホワイトクラウンホテルで朝まで大騒ぎをして以降、
仲良くなったオメガの先輩たちとお出かけだ。
ガウラ先輩、ホウ先輩、エリオット先輩の三人だ。
こっちはうち、クレアそして一人寂しそうにしていたグリンデルを誘った。
グリンデルはデルタで唯一面と向かってクレイと対立している狐科の獣人である。
一緒にいるとクレイに目をつけられるかもしれないが、
知ったこっちゃない。
……いや、本当はめっちゃ怖いんだけど。
正しいことをしているヤツがハブになるのはありえんだろう。
うちらだって本当はグリンデルみたいにクレイに立ち向かいたいよ。
けど、結局いろいろとその後のことを考えて、
怖くなって、それをしない。
だからグリンデルはすごいやつなんだ。
ちょっと変わってるけどいいやつでもあるし。
そして何よりも、ウィリならこうすると思う!
そういう人をウィリは仲間外れにしない。
自分の保護下に置く。
ウィリがデルタだったのならザラサやブヤブを守ったように、
きっとグリンデルのことも守ったと思う。
デルタの今のクレイが好き勝手できる状況にはさせなかった。
いろいろなことが大きく違ってたと思う。
多分、今頃は毎日に一緒のベッドで寝ていただろうし、
もう付き合っていたと思うし、
え、エッチもしてたんだろうし……、
それに、ザラサともオラベラともそんなに仲良くなってなかったはずだ!
……だけど、ウィリはデルタじゃない。仕方ない。
だからこそ少しでもウィリがするようなことをうちがやる。
全部はできっこないけど、グリンデルとつるむくらいは余裕!
それで何かクレイと問題になればウィリが守ってくれる。
だから大丈夫。
「ンズリちゃん、ンズリちゃん今日は何食べたい?ンズリちゃんの食べたいものを食べに行こう!今日は俺の奢りでいいぜ」
ホウ先輩が逆立ちしながら聞いてくる。
なんか普通の人が逆立ちしてたら『この人なに?』ってなるけど、
ホウ先輩の動きが『猿』過ぎて
もはやこれが彼にとっての普通って思えてくる。
「別に奢んなくていいですよ。うち金持ってますし。それに何を食べるかはみんなで決めましょう」
「えー、冷たいよンズリちゃん。ここは先輩として後輩に奢らないとだろう?それがかっこいい男ってやつだろう?」
腕で自分の体を浮かせ、そのまま空中で体を捻り、
普通の姿勢にホウ先輩は戻った。
さらっとやってるけどすごい身体能力だ。
とういうかカッコいい男はそんなの聞かずに奢るんだよ。
ウィリみたいにね。
だけどウィリの場合は度が過ぎてるからちょっと怖くなる。
いや、うちはお礼に体で払うとか全然ありっつか
むしろ大歓迎だけど、
それを他の女子がやられると脳が飛ぶヤツがいる。
親友のクレアのように。
……まぁ、クレアがあのときにそうなったのは、
奢られたからってだけじゃないんだろうけど……
「にゃははは、何をそんなにカッコつけようとしてるのだにゃ、ホウ。オマエがいくらカッコつけてもウィリアムに惚れてるンズリが振り向くはずもないにゃ。そんくらいわかれにゃ」
ガウラ先輩が言う。
「いや、だってさ、ウィリアムはまだンズリを彼女にしていないんだろう?だったら可能性はゼロじゃねぇじゃん。万が一に一つあるじゃん!俺、ンズリがめっちゃタイプなんだよ!彼女にしたいランキング圧倒的な一位なんだよ!あの胸に顔を埋めれたらもう死んだっていい!そんなの諦めらんないんじゃん!諦めるわけにいかないじゃん!」
ホウ先輩がガウラ先輩に言う。
え?うち、ホウ先輩に狙われているってこと?
というか胸に顔を埋めれたらってマジ最悪。
そんなのウィリにしかやらせるわけないじゃん!
「にゃははは。オマエのバカはそこまで行くともはや才能だにゃ。ンズリ」
「はい」
「あるのかにゃ?ホウに万が一に一つのチャンスが」
ガウラ先輩がうちを真剣に見て聞く。
これははっきり言わないといけないやつだ。
「いいえ、ないです。ゼロです。すみません」
「なに!?そんなはっきりと言わなくとも〜、ひどいよンズリちゃん。俺の心が、心が……」
ホウ先輩が胸を押さえつけて苦しそうにする。
やばい、傷つけちゃったかな?
ってちょっと心配したとき、
「ホウ、あそこにおっぱいのでかい獣人の子がいるぞ!」
ガウラ先輩がそう言うとホウ先輩は咄嗟に立ち上がり、
「おお!めっちゃタイプ!やっぱり牛科獣人のあれはでけぇな」
と言った。
……うん、やっぱこの人はただの変態バカだ。
可能性はゼロどころかマイナスだ。
ウィリがいなくとも無理。
「ンズリ、今おかしなことを聞いた。どういうことか説明しろ」
え?なんか怒ってるの、グリンデル?
「おかしなこと?どれ?」
「ンズリがあのオメガのビーストマスター、ウィリアム・ロンカルと付き合ってないと先ほどのポン・ホウ先輩が言った。それはまことであるか?」
え?そこ?
「あ、うん、付き合ってはないかな……」
グリンデル、こういうこと平気で聞いてくる人なんだ。
「うーん。やはりわからぬな」
「?なにが?」
「貴様ら二人の関係がだ。ンズリとウィリアム・ロンカルは我の目からすればお互いを愛し合っているように写る。だが本人たちは付き合わない。それはなぜなのだ?」
ぐいぐい来るなこいつ!
いや、そういうふうに見えているのは超嬉しいんだけど。
「まぁ、そこはね、いろいろとね複雑なんよ。心の準備っていうか。自分の成長というか」
うん、うちが『どんなときでも』
ウィリと一緒にいれる女性にならなければ。
じゃなければウィリを傷つけてしまう。
「なるほど、自分の成長、つまりは力だな。恋にも力は必要だった。ふふふ、ふははははははは。いいことを聞いたぞ、ンズリ。やはり我は間違ってなかった。I need more POWER!」
「はい?」
グリンデルは意味不明なことを言って、
私たちのグループの先頭に立ち、歩いた。
なぜかその歩き方が舞台で英雄役の主人公が登場する感じになった。
やっぱり変人だな、グリンデルは。
おもしろいけど。
もちろんどこに行くかグリンデルはわかっていないため途中で、
「おい、グリンデル。そっちじゃないにゃ。こっちだにゃ」
とガウラ先輩に呼び止められていた。
やっぱり受ける。
そして最後に二人の世界に入ってしまっているクレアとエリオット先輩だ。
まるでこっちを見向きもしない。
これじゃ6人で遊んでいるのではなく4と2に分かれてる感じだ。
でも、クレアは落ち着いて見える。
サムエルのときは終始「この人はなにを隠してるんだろう?」
という不安があり、
ウィリのときは彼の存在感に圧倒されて、
身を委ねちゃうほどにテンパっていた。
だけどエリオット先輩には謎めいたところはないし、
ウィリみたいに突然心を持っていかれるようなこともしない。
だからクレアも平常心でいられる。
というかエリオット先輩がクレアに少し遊ばれちゃってる感じだ。
まぁ、そういうのも悪くないんじゃない?
うちとしてもウィリを共有せずに済むしね。
でも、クレアはダチだから、
どんな決断をしてもなるべく背中は押してあげたい。
もう少しで目的の店に着くところで大きな騒ぎが聞こえた。
「銀行強盗だ!銀行強盗が出たぞ!」
「今、銀行強盗犯が大金を奪って街を逃げ回ってるようだ!」
「捕まえれば報酬が出るってよ!行くぞ!オマエら!」
銀行強盗が起きたらしい。
「にゃにゃ、事件かにゃ。にゃははは、どうするにゃ?捕まえに行くにゃ?学園からポイントがもらえるかもだにゃ」
「ふはははは、決まっておろう。この我、グリンデルに任せろ」
グリンデルがその気になると、他のみんなも乗り気になり、
全員で銀行強盗犯を追うことにした。
いざ、行こう!
ってなったときに私たちの目の前に犯人たちだと思われる集団が走り去った。
彼らは道の角を曲がって姿が見えなくなったが、
うちらはすぐにその跡を追いかけた。
そして彼らが曲がった角に辿り着き、
先に進もうとしたとき『それ』を見てしまった。
「え?どういうこと?」
全員がうちと同じ反応であった。
ーオラベラ・セントロー
冒険者ギルドで叫んでいた男は落ち着くどころか、
さらに取り乱した。
他の冒険者も自分の席から立ち上がり、集まり始める。
サンさんはもっと人だかりができる前にその男に近づこうとしたが、
「近づくな魔女狐!私に触れるんじゃない!貴様の手の内はわかってるんだぞ!」
とサンさんに言ってしまい、さすがにこれには私を始め、多くの人が怒った。
「なんだよ!?何でみんなしてそんな目で私を見るんだ!?この魔女の手にかかれば一瞬で操られることはオマエらだって知ってるだろう!?」
『魔女』という言葉はそもそもよくない。
アラベラがエリザを赤毛魔女と呼ぶのは私は嫌いだ。
魔女という単語は過去に大きな罪を犯した人たちが呼ばれる言葉だ。
だけど、それを狐科の獣人の女性に使うということは
完全に『妲己』を連想させる。
サンさんを史上最悪の魔女『妲己』呼ばわりしたのも同然だ。
サンさんと仲のいい冒険者はその言葉に怒り、武器を手に取った。
ダニロさんも怒っているが、
まずはこの場をなんとかしようとしている。
「おいおいおい、引退したか、隠居したがしんねぇけど言っていいことと悪いことがあんだろうがよ、フェリアン!」
「そうだそうだ、俺らのサンになんてことを!ぶっ殺してやる!」
半分くらいの冒険者はサンさんを庇うように前に出るが、
「テメェらこそ黙れや!赤毛の狐って時点で永遠に怪しいんだよ!なんで冒険者ができるんだとずっと思ってるぜ」
「そうだぜ、俺はいまだにコイツがあの『妲己』じゃねぇって確信はねぇ。いつ魅了されるか心配でならねぇぜ」
もう半分はサンさんを……獣人を嫌う人たちもこの騒ぎに乗り始める。
多くの冒険者が駆け寄る。
サンさんを庇う冒険者に対してサンさんも気にしてないと落ち着かせようとするが、
彼らについた火は鎮まらない。
そして獣人を嫌う冒険者もさらに酷い言葉を浴びせる。
姉さんと一度目を合わせ、
武器を取りこの場を鎮める手伝いをする準備をした。
もうギルド内での大喧嘩が避けられないと思ったところ、
彼が執務室から出てきた。
ホワイトシティ現ギルド長にして元最高ランク(10)の冒険者。
『ブラッド・ケイジ』
「おう、おう、おう、どうなってんだ?誰が誰とやり合うんだ?オッズは?まだかけられるか?な、な?」
喧嘩を止めるどころか、
逆にお金をかけられるかと聞いてしまう始末。
聞いてて呆れる。
だけど、それは他の冒険者も同じだった。
「いやいや、ブラッド、そこは止めろよ」
「ギルド長、ギルド内はまずいっす」
「そうっすよ、つか今までなにしてたんですか?」
彼らは呆れたようにギルド長に言い、
怒りの矛先がギルド長に集まった。
だが、それも一瞬。
すぐにその場がおさまったのであった。
冒険者たちはそれぞれの席に戻り、
なにもなかったかのように自分たちのことに戻った。
あれ?鎮まった?
誰も喧嘩せずに?
ええと、ギルド長が鎮めたでいいの?
だらしないことを言っただけに見えたけど。
でも、実際におさまった。
「フェリアン、久しぶりだな。なんかいろいろと言ってたみたいだけど、どうしたんだよ?オマエはそんなやつじゃねえだろう?」
ギルド長は優しくフェリアンと呼ばれた男の肩に手を置いて、
優しく言った。
「ブラッド、私は、私は怖いんだ。次は私かも知れないんだ。あの依頼を断ったフォックス・テイルなら何かを知っているんじゃないかって思って、それで、それで……あ、私はなんてことを、サン、すまない。私は取り乱して何て酷いことを。本当にすまない」
フェリアンさんは我に返ったかのように落ち着き始め、
自分が何をしたか、何を言ったかを思い出し、
とても反省した。
「もういいのよ。あんたの立場も理解できるわ。気にしないで」
サンさんは優しく返した。
「ありがとう、ありがとう。そして本当にすまない。言ってはいけないことを言った」
「もういいって」
フェリアンさんは悪い人には見えない。
自分が言ったことをちゃんと反省した。
でも、なんで我を失うほどまでに取り乱したの?
「とりあえずフェリアン、話を聞かせろ。こっちへ来い。フォックス・テイル、オマエらもだ」
ギルド長がフェリアンさんとフォックス・テイルのメンバーに言った。
「ギルド長、申し訳ないのですが、フォックス・テイルはこの後クエストを受けることになっておりまして、」
「キャンセルだ。別のヤツに継がせろ。マイナ、誰かをそのクエストに割り当てろ」
「は、はい!すぐに手配します」
ギルド長は一瞬にして場の空気を変えた。
声も低くなり、聞いているのではなく命令しているのだとすぐに伝わった。
その圧はこちらまで伝わるものだった。
受付嬢のマイナさんは大慌てでギルド長の命令に取り掛かった。
「へー、本当にギルド長なんだね。あんなの初めて見た」
アンジェリカ姉さんが言った。
やっぱりギルド長は只者じゃない。
いつもはふわっとしてるけど、
ああいう顔もちゃんと持っているんだ。
ダニロさんが慌ててこちらのほうに走ってきた。
「オラベラ王女殿下様、アンジェリカお嬢様、大変お見苦しいところを大変申し訳ございませんでした」
「いいのよ」
「はい、気にしないでください」
「ありがとうございます。アンジェリカお嬢様、大変恐縮なのですが、一つお願い事がございます。よろしいでしょうか?」
「雇い主にお願いとは大きく出たね、ダニロ」
「滅相もございません。ですが、サムエル坊ちゃんに関することです」
「サムエル!うん!聞く!なんでも言って!」
そこでダニロさんはこのあとサムエルが
フォックス・テイルとクエストを受けるはずだったが、
今日のことでそれが無理になったことを
伝えてほしいとアンジェリカ姉さんにお願いした。
「うん、わかった。伝えとく。ふふふ、ってことはサムエルは暇ってことよね。街デートしようっと」
事件を解決することを忘れている!
姉さんはサムエルのことになるといつもこうだ。
姉さんの唯一の弱点とも言える。
再度深く頭を下げた後に去ろうとしたダニロさんに姉さんが言った。
「ダニロ」
「はい、アンジェリカお嬢様」
「あとでさっきのがどういうことか話してもらうわよ」
「それは、」
「私も聞いてるわけではないわ。命令よ」
圧を放ちながらアンジェリカ姉さんは言った。
「……話せる範囲でお話しします」
「うん、それでいいのよ」
困った顔をしながらダニロさんはギルド長の執務室に入っていった。
……姉さんも怖いな。
「さてと、早速幸運は私たちに向いてきたよね」
「どういうことですか、姉さん?」
「さっきの男はフェリアン・レイクス。引退した元ランク7冒険者よ。オラベラは知らないかもしれないけど結構有名」
「そうだったのですね。でも幸運が向いてきたというのは?」
「聞こえなかった?彼はこう言ったのよ『次は私かもしれない』と」
「あ!ってことは」
「うん、元高ランク冒険者が狙われてるんでしょう?だったら彼もそのうちの一人って可能性
は十分にある。少なくとも何かしらは知っているはずよ」
思わぬところで大きな収穫となりそうだ。
そう思ったそのときに今朝、ウィンスターくんに
「おはよう、オラベラ。今日はきっといい日になるよ」
と言われたのを思い出した。
たまたまよね?
そのあと、私とお姉さんはすぐ来るはずだったサムエルを待ったが、
何時間経っても来なかった。
「もうー!あの子ったらどこにいるのよ!?」
フェリアンさん以上に取り乱しそうなアンジェリカ姉さんだった。
ーオプティマスー
私は早朝から街を歩き回っている。
主に貧困区とスラム区を、だ。
もう既に二度ほど絡まれており、
どちらも返り討ちにした。
殺すと面倒だと思い生かしてはおいたが。
だけど目的の三人は見つからない。
ミランダを襲った三人組。
私は彼らの顔を覚えていない。
ほとんどがセバスチャン先生と
ミランダから聞いた情報を頼りに探している。
だけどこれが大都市ということか。
道の先にまた道。
路地に続く路地。
それに貧困区は面積があるだけでなく、
複雑に道が交差していて方向感覚が掴めなくなる。
もう日が落ちるか。
夕飯の時間にはミランダの家に行くことになっている。
そろそろ向かわなければ。
それにしても今日は街が騒がしかった。
かなりの数の衛兵が移動するのを見た。
その全員がすぐに戦闘体勢に入れるような眼差しをしていた。
大きな事件が中央区方面で起きたようだ。
でも、それは私の知るところではない。
今はミランダを襲った者たちに集中しなければ。
私は彼らと話し合う気はない。
見つかればその命をもらう。
これもミランダのためだ。
でも、心にそう決心してからは頭の中の声がおさまった。
不思議なことだ。
スラム区からミランダの家に向かうのは初めてだった。
いつもは中央区から彼女の家がある貧困区に向かう。
なので普段は通らない道だ。
そこである家の前を通った。
貧困区にある家にしては大きく、
その玄関先で多くの子供たちが遊んでいた。
全員が猫科の獣人だった。
フェリックスに似ていると思ったそのときだった。
「やー、オプティマス。こんなところで何してるにゃ?」
一緒に住んでいることもあって、
その特徴的な声を聞いた私は彼の顔を見る前に誰かわかった。
「フェリックス。キミこそ何をしているんだ?課外活動か?」
「違うにゃー、課外活動はあんまり金にならないにゃ。俺は金にならないことは基本的にしないのにゃ。退学にならない程度しかやるつもりはないのにゃ」
「そうか。それは人それぞれだ。私のほうからとやかく言うつもりはないさ」
「にゃはは、それはリーダーになっても変わらないのかにゃ?」
「……ああ、基本的にそれは個人の自由に任せようと思っている。ときと場合によっては協力はお願いするかもしれないがな」
「にゃははは、ちっとも誤魔化そうとしないのにゃ。サムエルに宣戦布告か?」
「どうせあの夜、私とアンバーの会話をキミは盗み聞きしているのだろう?誤魔化すも何もないさ」
「気づいてたにゃ?完璧に隠れてたつもりだったけど」
「いや、気づいてないさ。今はっぱをかけてフェリックスが認めただけだ」
「にゃにゃ!?……やられたにゃ。さすがはオプティマスというところかにゃ」
「それで、私がリーダーの座を狙っているということをサムエルに伝え、それを阻止しようとするのか?」
「まさか。言ったにゃ、俺は金にならないことはしないにゃ。誰がリーダーでもそこまでは困らないにゃ。あのときもザラサのことがなければ俺はオプティマスに投票しようと思ってたにゃ。だけど、あのとき、オメガにとって最も必要で、最も危険な生徒がザラサだったのにゃ。それを御せる人がリーダーというのは俺の中ではしっくり来たのにゃ」
「……なぜザラサが一番大事な生徒だったんだ?」
「まぁ、そんくらいはいっかにゃ。俺の調べでは、この学園には四項目で生徒の評価を測るが、ぶっちゃけ他の三項目はオマケにゃ。一項目だけ突出していればなんとかなるにゃ」
「ザラサが大事だっていうのならその一項目は戦闘力ということか?」
「その通りだにゃ。実際、一年に行われる三回のクラス対抗特別試験は最低一回以上は戦闘が発生する内容になるにゃ。それに学園の方針としても戦闘力が高い生徒に甘いことが多いにゃ。今年卒業した『最強の世代』のオメガクラスの先輩もそういう人が多かったから最後まで優勝争いができたみたいだにゃ」
「それでクラスで戦闘力評価が高いザラサが必要だったと。でもウィリアムもいるではないか」
「にゃははは。そこはオプティマスとウィリアムの違いだにゃ。あいつは会話において決してオプティマスの名前を出したりしないのにゃ。その分、オプティマスのほうが大人にゃ。オプティマスが言うようにウィリアムの戦闘評価S+、ザラサはS、これだけ見るとウィリアムのほうが優れているように写るにゃ。それにウィリアムも話を聞きないと言ってもザラサよりはマシだにゃ。……だけどウィリアムじゃダメなのにゃ」
「どうしてだ?」
「彼の戦闘力評価はボールウィッグ込みのものにゃ。クラス対抗試験において『魔獣』を使用していいのかどうかは試験によって異なるのにゃ。その試験でボールウィッグを使えなかったらウィリアムは邪魔にしかならないのにゃ。……と前までなら思ってたんだけどにゃ。にゃはは、まぁ、それはまた別の話だにゃ」
「……フェリックスはこうも言った。『オメガにとって最も必要で、最も危険な生徒がザラサだった』と。もう違うのか?」
「そうだにゃ。今はオプティマスがいるからにゃ。今、戦闘試験を受ければS評価くらいは取れんじゃないかにゃ?」
……どこまで知っている?
闘技場でフェリックスを見かけたことはない。
でも彼にはいろいろとわかってるようだ。
「そう、驚くなにゃ。こんなもん朝飯前にゃ。俺はこの街一の情報屋だからにゃ。学園の情報なんてちょろいにゃ」
確かに以前にも言っていた気がする。
この街一の情報屋だと。
今の話にも役に立つ情報はいくつもあった。
情報が彼の商売ならなぜ無償でそれらを……
「これで俺がなかなかに使えるヤツだってことはわかってくれたかにゃ?リーダー候補のオプティマス」
私の考えを見透かしたかのようにフェリックスは言った。
……なるほど、自分の能力を見せることで使えることを証明し、
リーダーになるかもしれない自分にそれを植え付ける。
癪だが今ので将来、
誰かを退学にしなければならないとなったとき、
フェリックスがその第一候補になることは私の中ではなくなった。
その情報網はアンバーとはまた違う。
アンバーがおおまかに学園の全てがわかっているのだとしたら、
この男は特定の欲しい情報を調べられる力を持つ。
そう思えた。
私が何かを言える前に、
「お兄ちゃん、いつまで話してるの?今日はずっと遊んでくれる約束でしょう?」
家の前で遊んでいた幼い猫科の獣人はフェリックスにムクっとしながら言った。
「ごめんごめん。今すぐ行くにゃ。ってことでまたな、オプティマス。『ミランダ』によろしくにゃ」
「……」
ミランダのことまで。
どこまで知ってやがる?
すごいな。
……ちょっと待て。
この街一の情報屋なんだよな?
「フェリックス。家族との時間を邪魔するようで申し訳ない。キミに頼みたいことがある」
少し大きな声で言うと、
フェリックスは振り返り、
少し怖い笑顔で私に言った。
「にゃにゃ?仕事の依頼かにゃ?それは……高くつくことになるにゃ……」
ーオラベラ・セントロー
私とお姉さんはその後二時間ほどサムエルを待った。
だけど彼は現れなかった。
正直に言うとこれは珍しいことではない。
サムエルがドタキャンするのなんて日常茶飯事だ。
エリザが誘ったお遊び(デート)に現れなかったことなんてざらだ。
アンジェリカ姉さんもそれがわかってる。
でもそれであっても姉さんはすごく心配した。
それはサムエルが大好きというのももちろんあるのだろうが、
サムエルが約束していた相手が『ダニロさん』だったからだ。
サムエルはダニロさんのことが大好きだ。
彼がすることを全て真似ようとする。
ダニロさんが冒険者になって間もない頃、
自分も冒険者になると息巻いてたほどだ。
まぁ、数日でいつものサムエルに戻ったわけなのだが、
サムエルはダニロさんとの約束を破らない。
サムエルのお父さんのロイドさんやアンジェリカ姉さんの言うことよりも
ダニロさんの言うことを聞く。
だからこそ、
そのダニロさんとの約束に来なかったサムエルのことを心配した。
「ごめん、オラベラ。やっぱり私、あの子を探してくる」
耐えきれなくなったお姉さんは言った。
「もちろん、私も探しに行きます」
「ダメよ。そんなことをしたらここに来た意味がない。あの執務室で行われている話し合いが終わったら、フェリアンを追う。そして何を知ってるかを吐かせる。それとダニロからも情報を聞き出さないと。だからオラベラはここに残って。それにあの子が大遅刻してるだけかもだし」
そう言われると一理あると思いながら、
確かにサムエルが大寝坊しただけの可能性も捨てきれないと呆れてしまった。
「わかりました。気をつけてください」
「ええ、わかってるわ」
そしてお姉さんはサムエルを探しに行った。
それから三時間。
サムエルは現れず、お姉さんも戻らず。
執務室に入った人たちも出る気配はなかった。
昼飯を食べてない私の腹は先ほどからぐーぐーなっている。
「お腹すいた……」
ぽろっと漏れたときにアンジェリカ姉さんは戻ってきた。
その表情を見るとサムエルは見つからなかったのだろう。
「お待たせ、オラベラ。その様子だとサムエルは来てないわね」
「はい、来なかったです。それに中の話し合いも終わってません」
「そっか、何を話してるんだろうね?ともかく交代しましょう。何か食べてきて。お腹すいたでしょ?」
「え?あ、はい、そうですが。……でも待ちます。大丈夫です。ここで逃すほうがなんか嫌です」
「そう?じゃ、いいわ。待ちましょう」
「はい」
「話変わるけど、街がすごい騒ぎになってたわ」
「え?もしかして殺人事件ですか?」
「ううん、なんか誰かが麻薬が格納されていた場所を見つけて衛兵に通報、その場所に向かった衛兵と麻薬密売者の大抗争が起きたらしい。でも取り押さえた麻薬の量が尋常じゃないらしく。かなりの大手柄となったみたい」
「おお、それはとてもいいことですね。通報した方ナイスです」
「ええ、どうやら数ヶ月間、麻薬組織の動きを停滞させられるらしいから本当にすごいわ」
「でも、そんな場所なら徹底的に隠してたと思うんですけど、通報者はどうやって見つけたのでしょうね?」
「どうだろうね?運がよかったんじゃない?」
「いいえ、いくらなんでもそれは……」
『おはようオラベラ、今日はきっといい日になるよ』
私は今朝のウィンスターくんの言葉を思い出した。
……まさかね。
そのときだった、
ギルド長の執務室の扉が開き、
ダニロさんとサンさんが出てきた。
でもフェリアンさんは出てこなかった。
ダニロさんとサンさんは私たちがいるところに来た。
サンさんは私たちに挨拶した後に先に帰った。
「ダニロ、さっきのフェリアンという人は?」
「もうここにはいません。安全なところへとお連れしました」
「はぁ?どういうこと。オラベラはずっとここで待ってて、あんたたちはあの部屋から出なかったと聞いている」
「それは間違いではありません。ですが、フェリアンがもうここにいないのも事実です」
「もうー、家にいるときみたいな話し方して!いいわ、だったら全部教えてもらうわよ。話せること全て話して!フェリアン・レイクスはなんであんなに取り乱してたの?今街で起きている殺人事件と関係しているのでしょう?」
「今は話せません」
「はい?あのね、さっきも言ったけど、これは命令なの。あんた冒険者でもうちの執事よね?」
「ええ、だからこそどこまで話していいのかを確認しなければなりません」
「確認ってまさか」
「はい、これからロイド様にご報告に行きます。その後、何かをアンジェリカお嬢様に伝えてもいいとご許可を頂けたらお話ししましょう」
「ッチ」
アンジェリカ姉さんは困った顔をした。
うん、わかる。
親を出されると私たちは一気に弱くなる。
何もできないほどに。
「そういえばアンジェリカお嬢様、サムエル坊ちゃんは来られましたか?」
「来てないわ」
「そうでしたか、探索に人を向かわせましょう」
「いらない。緊急通報がなってないんだから無事は無事よ。どこにいるかわからないけどね」
緊急通報?
なんのことだろう。
「かしこまりました。それでは自分は一度屋敷のほうへ戻ります。アンジェリカお嬢様はどうされますでしょうか?」
アンジェリカ姉さんは一度深く考えてから話した。
「オラベラ、ダメ元で一度お父さんに会ってくるわ。今の感じだと何か教えてもらえるとは思えないけど、それでもなんとか聞き出せないか頑張ってみる」
「わかりました。お願いします」
「オラベラはもう学園に戻って。セントラム城には戻らないのでしょう?」
「はい、戻りたくありません。今日は帰って、明日また調査を再開します」
「うん、それがいいわ。もう外は夜。オラベラは強いけど、油断しないで気をつけて帰るんだよ。いい?」
「はい、わかりました」
ダニロさんは深く頭を下げて、
アンジェリカ姉さんと一緒に帰って行った。
フェリアンさんをギルドのロビーを通さずに外に出した。
あの執務室から外に出られる道?隠し通路があるということよね?
確かに直接は何も聞けなかったけど、
フェリアン・レイクスという名前は手に入った。
そこから調べてみよう。
ぐぅ〜
お腹がなる。
お腹減った。
何かを食べてから帰ろう。
ギルドの扉があるほうへと歩き、
それを開けようとしたところで先に誰かが開けた。
「え?なんで?」
驚いてた私が言う。
「ここで何してんだお姫様?」
ーアンジェリカ・アルベインー
私が家に帰ったと知られるとお母様が出てきて、
最近の学園での出来事などの近況を聞く質問攻めにあう。
お母様の質問の半分以上はサムエルに関係するものだった。
まぁ、気持ちはわからなくもない。
サムエルはかわいいから気になっちゃうよね。
普段ならサムエルについて永遠に語りたいところだけど、
今はやるべきことがある。
ダニロのほうはあいさつだけを済ませ、
すぐにお父様の執務室へと向かった。
一時間ほどが経ち、執務室からダニロとお父様が出てきた。
やっとお父様と話せると思ったら、
「アンジェリカ、帰ってきてたのか。嬉しいぞ。さっそく食事にしよう」
「お父様、先に話が、」
「ん?話なら食事の後でもできる。学園に入学してからアンジェリカと食事する機会は少ない。先に食事だ」
「いいえ、お父様。聞いてください。私は殺人事件について情報を集めるために今朝からずっと待ってるんです。先に話をさせてください」
「……アンジェリカ。食事だ」
こっちの言い分を聞く気はないという目だ。
こういう目をするお父様は好きじゃない。
というか怖い。
普段は温厚なぶん、こういうときは怖いのだ。
「……わかりました」
久しぶりにお父様とお母様と一緒に食事をとった。
急いでいる私はすぐに自分の分を食べ終えた。
だが、お父様はわざといつも以上遅く食べた。
イライラする。
「こういうふうにみんなで食べるのっていいですね。あ〜、ここにサムエルがいれば」
呑気に言うお母様。
まぁ、サムエルがいて欲しいのは私もそう思うけど。
そしてとてつもなく長く感じたその食事時間は終わった。
やっと話せると思いき、
「ジェシカ、これから仕事で出かける。遅くなる。起きて待っていなくていいぞ」
「お父様!」
私はテーブルを両手で叩き、
怒りながら立ち上がった。
「ああ、話があるのだったな、アンジェリカ。悪いがまた今度にしてくれ。今日は街でたくさんの事件が起きて、後処理で忙しいのだ」
「話す気がないなら最初からそうとはっきりと言ってください。時間を無駄にした。学園に帰る」
「家族との時間を無駄な時間とは、少し言葉が過ぎるのではないか、アンジェリカ。誰よりもお母さんに失礼だろう」
お父様はそう言いながら私に圧を飛ばした。
「……ごめんなさい」
「謝るのは私ではなく、お母さんにだ」
「……ごめんなさい、お母様」
「あらあら、いいのよ。そういうお年頃なんだから」
なんでこうなるのよ。
少しだけ話したいだけなのに
なんで怒られている状況になってるの?
「では、話があればまた今度だ、アンジェリカ。それとエージェント2。任務を与える。今回の殺人事件の真相を突き止めようとしているオラベラ王女殿下の邪魔をし、彼女が真相に至る道を防げ。ミスリードや感情に訴えかけるなどの方法は任せる」
……なんでコードネームを出すのよ。
家族での食事、家族の大切な時間なんじゃなかったの?
なんでもう一つの顔を持ち出すの?
それになんなのその命令は?
オラベラを裏切れと言ってるのと同じじゃん。
「エージェント2、任務内容は理解できたか?」
……お父様、
いや、頭領は娘に向けるべきでない圧を放ちながら言った。
エージェント2!?
ふざけんじゃないわよ。
あんたの好きなように全てがいくのだと思ったら大間違いよ。
「すみません、『お父様』エージェント2はこの世にいません。少なくともあと四年は戻って来ることはありません。それが学園に入学した際に『頭領』と交わした約束です。もし、それを破るようなら四年が経ち、学園を卒業した後でも戻って来ることはないでしょう」
言った。
言ってやった!
だって、約束と違うもん!
私は正しいはず!
「エージェント2。時と場合によっては、特にこの王国の安全に関わる場合はその限りではないとも伝えたはずだ」
「だけどお父様はそうならないように努力すると言いました。したのですか?本当に私にその任務を与えるしかない状況になるほどに努力した後なのですか?」
「これは私の決定だ。逆らうと言うのなら、」
「そこまでよ、あなた」
お父様の言葉をお母様が止めた。
「アンジェリカの言い分もごもっともだわ。今回のことに関しては急にことが動きすぎて対応をうまくできていない王国が悪いのよ。それに子供を巻き込むのはよくないわ」
「しかしだな、ジェシカ、」
「いいえ、しかしも何もありません。その任務をなぜ与えたのかを説明せずにそういう言い方をするのはよくないわ。私たちは王国を支える組織だけど、その前に家族よ。それを忘れないで」
「……うむ」
おお、やった!
お母様が味方してくれた。
「それにアンジェリカ!」
お母様が私に向かって怒鳴った。
え?なんで?
味方してくれるんじゃないの?
なんで怒ってるの?
「お父さんに向かってその口のきき方はなんですか?それにまるでもうこの家に戻ってこないような脅しまでして。その言葉の意味をちゃんとわかった上での発言ですか!?」
「え?あの、ええと、……す、すみませんでした。ごめんなさい」
「……わかればいいのよ。さぁ、ロイド。仕事に行かなきゃいけないのはわかるけど簡単にでもいいからアンジェリカになんでそんな任務を与えたのかを説明して」
「……よかろう。アンジェリカ。よく聞け。今回の事件は元冒険者が殺されているだけの単純なものではない。殺されているのはレッド・サークルとの戦争の発端の原因となったレッド・サークルに潜入入国した特殊部隊の隊員たちだ。王にとってはこのことはオラベラ王女にどうしても伏せておきたい内容だ。彼女にこのことが知られれば、オラベラ王女殿下は王国の方針に大きな疑問を持つこととなる。もっと深くことに関わろうとするかもしれない。そうすれば彼女の身に危険が及ぶ。それは絶対に避けなければならないのだ。わかったか?」
なんだよそれ。
結局この王国がしでかした内容をオラベラに知られたくないだけじゃん。
知られればあの子がそれを正そうとするのをわかってるからでしょう?
なんで大人っていつもこうなの?
やっぱり私は……
「事情はわかりました。ですが、やはり私はその任務を受けることはできません。今の私は『黒屋敷』のエージェント2ではなく、アルベイン家長女のアンジェリカです。オラベラ、エリザ、アラベラ、そしてもちろんサムエルの姉のアンジェリカです。彼女らがやろうとしていることを邪魔したりはしません。私は彼女らを支え、背中を押してあげる存在でありたいのです。……黒屋敷の事情はわかりました。今聞いたことをオラベラに伝えるようなことはしません。ですが、彼女の邪魔もしません。私は姉として妹を守ると言う役割を果たします」
私はお父様の目をまっすぐと見て言った。
先ほどの怒った感じではない、
強い意志を持って、だけど礼節を弁えて言った。
お父様はしばらく答えなかった。
「強くなったなアンジェリカ。さすが我が娘だ」
「え?」
褒められた?
「だったらそうするがよい。今の任務はなかったことにする。そのかわりオラベラ王女のことを何があっても守ってやれ」
「は、はい、かしこまりました」
「そしてアンジェリカ。ときには知らないほうがいいこともある。アンジェリカの判断でそういうことからもオラベラを守ってやれ」
「……わかりました」
「では、私はもう行くぞ」
お父様がそう言うとお母様と口付けをし、
ダニロと一緒に地下の秘密部屋へと向かった。
ーオラベラ・セントロー
ええと、あのこれってどうなってるの?
「ベラベラ早く頼むのです!頼んだらおっさんが焼いてくれるのです!いっぱいいっぱい食べるのです!」
ザラサちゃんが言う。
「ザラサの言う通り、好きなもの頼んでいいから。ここの肉はどれも美味いぞ」
ウィリアムくんが続ける。
ブヤブくんも首を縦に振る。
「あ、うん。わかった。じゃ、これとこれをお願いします」
「おっさん、じゃ、今のやつを10人前くらいな」
「10人前?私そんなに食べられないよ!」
「大丈夫大丈夫、結局隣にいるザラサに半分以上取られるからこれでちょうどいい感じだよ」
どういうことかというと、
私は課外活動帰りで冒険者ギルドに戻った
ウィリアムくん、ザラサちゃん、ブヤブくんの三人に会った。
会った瞬間に顔が真っ赤になるほどにお腹がなって、
ウィリアムくんに盛大に笑われた。
でも、それもあって食事に誘われ、
ウィリアムくんが報告を手際よく済ませた後に一緒に食べることとなった。
ブアちゃん経由でウィリアムくんは
ンズリをミレニアム区の豪華なレストランに
連れて行くことを聞いていたので少し不安だった。
そういうところだと貴族やお偉いさんがいるのが当たり前で、
いけばその話はすぐに王城にまで届く。
そうなればあとあと面倒ごとになる。
だけどウィリアムくんが向かったのは中央区と貧困区の狭間にある焼肉の屋台。
犬科の獣人のおじさんが経営している。
店の席がちょうど四つだったので私たちで全席を使用している状態だ。
おじさんはウィリアムくんのことを見ると、
自分の息子が家に帰ったかのように暖かく向かい入れた。
ザラサちゃんとブヤブくんもおじさんと仲良く挨拶してたから
いつもここに来てるのがすぐに伝わった。
私は来るのが初めてだったのでおじさんは
「おいおいおい、ウィリアムこんなべっぴんさんをこのしけた店へ連れてくんじゃね!どう見たって育ちのいいところの佇まいじゃねぇか。こういう子と一緒に食事する時くらいもっと立派な店に行かんかい!」
と言っていた。
「いやいや、自分の店をしけた店って言うなよ、おっさん。それにボロボロだけど、ここの肉はミレニアム区のどんなレストランにも負けないくらい美味しいと思ってるんだぜ」
その物いいでウィリアムくんがおじさんを信頼しているのが伝わった。
「ちっ、言ってくれるじゃねえか。そう言われちゃ腕を振るうしかねぇな。美しいお嬢ちゃんよ。もっと豪華なところに行きたかっただろうけど、今回は俺に免じてウィリアムのやつを許してやれ。こいつこういうところに絶世の美女を連れてくるほどのアホだが、悪いやつじゃないんだわ」
「ふふふ、何を言いますか。先ほどからいい匂いがして食べるのを待ちきれません。それに確かにウィリアムくんアホですが、悪い人じゃないのはちゃんとわかってるつもりです」
「おい、お姫様。さらっとアホ呼ばわりしてんじゃねぇよ」
「え?なんのことかしら?」
こういう流れで今から食事をする。
ウィリアムくんの家族と私。
みんなで。
それだけでなんか嬉しくてももうお腹がいっぱいって感じ。
ぐっ〜
いや、お腹はすごく減ってるけど気持ち的な意味で。
おじさんは頼んだものを次々に調理して出していき、
私たちはそれを食べていった。
どの肉も塩加減と調味料の加減が絶妙で食がじゃんじゃん進んだ。
そしてウィリアムくんが言ってたとおり、
半分くらいか以上かはザラサちゃんが取っていく。
どれが誰のかを気にせず食べたくなったときに目に入ったものを取ってる感じだ。
礼儀も作法もない、その自由な食べ方が私ははとても好きだった。
時間を忘れ、私たちは食べに食べまくった。
もう食べられないほどに。
ウィリアムくんとザラサちゃん、
ブヤブくんとおじさんといっぱいお話ししながら
心までが満足する至福の時間を過ごした。
「それにしてもおどれえたよ。こんなに育ちのいい感じの子がここまでの食べっぷりとは。恐れ入った」
おじさんが言ってくれる。
「ふふふ、ありがとうございます。ですが、おじさんの料理がうまいのがいけないんです。気づけば肉がなくなってるの」
「ははは、それは嬉しいことを言ってくれる。オマエは幸運なヤツだなウィリアム。慕ってくれる仲間がいて、それにこんなべっぴんな彼女がいてよ。正直、オマエに釣り合わねえぜとヤジを言いたいところだが、ほんまにお似合いだよ。ははは」
「彼女!?いいえ、違います。ウィリアムくんとは……と、友達です」
「なんだと!?おい!ウィリアム何してるんだ。こんなべっぴんさん王国中を探してもみつかりゃしねぇぞ。見たことはねぇがこの王国のお姫様『セントラムの花』オラベラ王女殿下様にも引けは取ってねぇと思うぞ。さっさと自分のものにせんかい!他の奴らに取られるぞ」
あ、あははは。
それ私なんですけど……
「別にかまいやしねえさ。他のヤツのとこに行くような女だったのならこっちから願い下げだ。オレは自分の女は自分しか見て欲しくねぇ。迷ってるくらいなら他をあたってくれと思うよ。それにおっさん。セントラムの花のお姫様に引けを取らないとか言ってるけど、引けを取らないも何も『本人』だぞ」
なんで言っちゃうの!?
まぁ、確かにおじさんなら大丈夫だと思うけど。
「はあー!?んなわけねぇだろうが、この国のお姫様がオマエとこうやってラブラブしてるだけじゃなく、こんなちっぽけな店に来るかってんだ。いい加減な嘘をつくのも大概にしろ。な、お嬢さん。お嬢さんも迷惑だろう?」
おじさんに聞かれる。
うーん、嘘ついてもなー。
秘密にしてる訳ではないし。
そもそも嘘つきたくないし。
ウィリアムくんが信用している人だし。
「あ、ええと、『本人』です」
「もうー、お嬢ちゃんもこいつの悪ふざけに乗らなくていいから。ね、本当のことを言って。な?」
「いいえ、本当です。セントラム王国第一王女、オラベラ・セントロです」
「……え?はい?……本当に!?」
慌て始めるおじさんはウィリアムくんを見た。
「だから、はなっから『お姫様』って呼んでんだろう」
「いや、それは自分の好きな子に対する呼び方とかって思うだろうが!本物のお姫様って……ああー!オラベラ王女殿下様たびたびの失礼な言動、本当に誠にすみませんでした」
地面にひれ伏した状態でおじさんが言う。
だから、王女って知られるのが嫌なんだよな……
「ちゃんとおっさんに説明しな。オマエはそんなんじゃないって。普通に接してくれるのが嬉しいんだって。これからもここに来るんだから。今のうちにはっきりさせな」
これからもここに来る?
……一緒にってこと?
私はおじさんに自分のことを簡単に説明した。
そして、失礼な内容は一つもなく、
今後も私が王女だって知る前のように接してほしいとお願いした。
おじさんは困惑しながらも理解してくれた。
「わ、わかりました。オラベラ王女殿下様のおっしゃる通りに致します」
……元には戻んないか。
「だからそういうとこだよ、おっさん。知る前に王女殿下なんて呼ばなかったし、そんなかしこまった話し方じゃなかったろう?それをやめろって言ってんだ。じゃなきゃ、オレはもうこいつをここに連れてこねえぞ」
ウィリアムくんがはっきりとおじさんに言ってくれた。
そういうところは本当にずるいくらい格好いいと思う。
どこまで私のことをよくわかってるのって感じ。
というかまたここに連れてきてくれるんだ。
ふふふ、嬉しいな……
「そうか。そうだな。わかった。では、私はオラベラ王女殿下をウィリアムのよき友人のオラベラとだけ思うことにしよう。で、なければ普通に接せる気がせん。そ、それでよろしいのだろうか?」
声を震わせながらおじさんが言う。
「はい、それで構いません」
「ははは、なんか変な感じだな。でも、こういうお姫様がいるのはなんかいいな。これから通ってくれよ」
「ええ、もちろんです」
「ただし、一人ではやめておけ。ここはもう貧困区なんだ。特に遅い時間は危ない。来るときは誰かと……そうだな。ウィリアムと一緒に来るがよい」
そう言われた私は一度ウィリアムくんを見た。
彼は頷いてくれた。
「はい、わかりました」
やっぱりまた、一緒に来るんだ……
そう思いながら私はおじさんに返事をした。
気づけば時間が大分経っていた。
おじさんは店締まりをし始め、
ウィリアムくんたちが当たり前のようにそれを手伝い出したので、
私も手伝った。
おじさんは一瞬それを止めようとしたが、
ぐっと堪えて何も言わなかった。
その後、おじさんと途中まで歩き別れた。
「このあとはどうするんだ、オラベラ?」
ウィリアムくんに聞かれる。
こうやってときどき名前を呼ばれるのにまだ慣れない。
胸が高鳴って、心臓が跳ねる。
「学園に帰るよ。もう遅いし。って今何時?」
「学園に帰れる時間じゃねぇってことだけは確かだよ。寮長には外で泊まることは伝えてないのか?」
「ううん、念のためそれは伝えておいた。帰れるかわかんなかったから」
「じゃ、大丈夫だね。どこかに泊まるなら送るぞ。それとも……」
「それとも、何?」
「オレらと一緒に来るか?」
「どこへ?」
「どこへでもさ。街を冒険するんだ」
「街を冒険?」
よくわからなかったがなんだか楽しそうな気がした。
「ベラベラも来るのです!一緒に来るのです!群れでいたほう楽しいのです」
ザラサちゃんが言ってくれる。
「うん、みんなのほうが楽しい。オラベラが疲れてなければ一緒に行こう」
ブヤブくんも言う。
二人に言われる前から行きたいと思っていた私だが、
二人に背中を押されたことでもう答えは決まっていた。
「うん、一緒に行く」
「よし、決まりだ」
ウィリアムくんは笑顔で言った。
その後、私たち四人は街を楽しんだ。
通ったこともない路地を通り、
行ったことのない場所へと行った。
特に目的はなく、
探検するかのように街を駆け回った。
途中でザラサちゃんがある建物の屋根に登り、
私たちはそれを追いかけた。
気づけば屋根から屋根へと飛んで渡る冒険が始まった。
楽しかった。
私たちは四人で笑いながら、
話しながら、楽しい時間を過ごした。
中央区を通ったときに大きな人だかりができていたことに気づいた。
まさか、また殺人?
そう思い、ウィリアムくんに相談して
何が起きたのかを聞き込みすることに。
だけど、私の予想と違い、
事件は起きたのではなく、阻止されていたのだ。
とある貴族を襲おうとしていた集団のアジトが見つかり、
事件に未遂に防ぐことができたとのことだった。
詳しくはわからなかったけど、
私が調べている殺人事件とは無関係に思えた。
「ごめん、ウィリアムくん。違ったみたい。もう大丈夫。次はどこ行く?」
「ははは、お姫様は元気だな。だけど今日はもう休もう」
私はその言葉に少し残念な気持ちになった。
この楽しい時間が終わってほしくなかったから。
だけど仕方ない、楽しい時間はいつか終わるもの。
「……うん、そうだね。わかった」
「寂しそうな顔すんなって。また冒険しよう、みんなで、一緒に」
「うん!」
次があることを聞いて嬉しくなる、
けどそこで終わりではなかった。
「じゃ、泊まるとこ探すか。またあのでかいホテルにでも行こっか。オラベラも来る?」
「え?いいの?」
「当たり前だよ。なんでここでオラベラを一人にするんだよ?嫌じゃなければ来い」
「嫌じゃない!いく!」
そして、私たちはホワイトクラウン・グランドホテル向かった。
到着したらウィリアムくんに、
別々の部屋にする?
それとも一緒の部屋にする?
と聞かれ、私は後者を選んだ。
最後までみんなと一緒にいたかった。
そうしたら、
「.……オマエ、オレがなにかするとか思わねぇのかよ」
そこで初めて私は気づいた。
『そういう意味』で彼が言っているのを。
ちょっとそれはまだ早いというか、
私まだよくわかってないし、
前まですごく嫌で気持ち悪かったし、
今は……前よりはって感じだけど、
前よりはといってもウィリアムくん限定の話だし、
それ以外は相変わらず気持ち悪いし、
……ウィリアムくんは……したいのかな?
「す、するの?……なにか?」
「いや、しねえけど。ホイホイ男と同じ部屋に泊まるのはよくないぜ。オレじゃなかったらな、何されるか」
「泊まらない!他の人となんて泊まらない!ウィリアムくんだから……信用してるから。ウィリアムくんじゃない他の男とは同じ部屋になんて絶対泊まったりしないから!」
ウィリアムくんの言葉を遮るように
なぜか大きな声で言ってしまう私。
言ったあとに恥ずかしくなって顔が真っ赤になる私。
もう誤魔化しきれなくなってきている私……
「……わかったよ。じゃ、一緒の部屋な」
「……うん」
私たち四人は同じ部屋に泊まることになった。
ウィリアムくんはとても大きな部屋を借りた。
寝室の真ん中に巨大なベッドがあって、
四人全員でそこに寝れるほどに大きかった。
それを見た私は一瞬、
『楽しそう』と思ったが、
その部屋の横にも普通のベッドがあることに気がづき、
少し残念な気持ちになった。
全員動き回った後で、
汗をかいており、
男子は男子で、
女子は女子で風呂に入った。
ザラサちゃんは私に体を洗われてとても嬉しそうにしていた。
ザラサちゃんを洗っているとあることに気づいた。
というより、前から気づいていたのだけど
このときにはっきりと別のことと繋がった。
「ザラサちゃん、目の瞳が紫で綺麗だね」
「うん!そうなのです!ザラサの目は綺麗なのです!ボスがそう言ったから間違いないのです!……ん?ベラベラの瞳も紫なのです!ザラサと一緒なのです!」
「うん、ははは、そうだね。一緒だね」
「だったらベラベラも目が綺麗なのです!ボスが紫の瞳が世界で一番綺麗って言ってたのです!」
ウィリアムくんがそう言っていた……
紫の瞳……初恋の相手。
やっぱりウィリアムくんは紫色の瞳の子がタイプなのかな?
確か珍しいんだよね、紫色の瞳って。
最も珍しい瞳の色なんだっけ?
自分の瞳の色は紫で、
それがすごいことだって言われてたけど、
今までそんなことをちゃんと考えたことはなかった。
顔、体、容姿も褒められたことは何度もあるけど、
私自身がそう思っていないため
嬉しいと思ったことはない。
だけど、初めて自分の体の特定の部分『瞳』が好きになった。
私がこの瞳を持つことで彼が見てくれるのなら、
それは自慢できるくらいに嬉しい体の特徴だから。
……あと、絶対胸も好きだよね……
彼の周りの女性、
私、ザラサちゃん、ンズリ全員、胸大きいし。
専攻授業中とかめっちゃ見てくるし、
見てるのを隠そうともしないからそれで攻撃くらっちゃうし。
ふふふ、なんで気持ち悪くならないのだろう?
前だったら嫌悪感半端なかったのに。
いや、でも気持ち悪いのは気持ち悪いのか、
他の人に見られると嫌だもん。
ウィリアムくんになら見られてもいいってこと?
ンズリみたいに胸元が開けた服を着たら、
……もっと見てくれるのかな?
……ああ、やっぱり最近の私はなんか変だ。
そう思いながらも、
私は瞳と同じく、
胸が大きいということも嬉しくなった。
風呂が終わると、
ウィリアムくんが布団を動かしていた。
ベッドは四つあったが、
ウィリアムくんは床に布団を敷いてザラサちゃんの寝所を作った。
ザラサちゃんは床で寝るのが好きらしい。
だけどザラサちゃんはなぜかソワソワしていた。
それに気づいたウィリアムくんは聞いた。
「どうしたの、ザラサ?」
「あの、ええと、ボス。……今日はザラサ、ベラベラと寝たいのです。ベラベラと一緒に寝てもいいのです?」
え!?私と?
「だそうだ。どうだ、オラベラ?」
「うん、私は構わないよ」
「いいって。じゃ、今日はオラベラと寝な」
「きゃっは!やったなのです!ベラベラと寝るのです!一緒に寝るのです!」
飛んで喜ぶザラサちゃん。
かわいいな。
そしてウィリアムくんとブヤブくんはそれぞれのベッドで、
私とザラサちゃんは一緒のベッドで寝ることに。
ザラサちゃんは寝ちゃうギリギリのところまで
ずっとウィリアムくんの話をしていた。
私はその話をずっと聞ける気がした。
ううん、もっともっと聞きたかった。
そしてザラサちゃんが寝た後に私の瞼が閉じた。
ウィンスターくんが言ったように
『最高の一日』になった。
こんなに楽しかったのは子供の頃以来だった。
・5月5日(日曜日)
幸せいっぱいで目を閉じた私は
ザラサちゃんに抱きつかれながら目を覚ました。
ウィリアムくんは既に起きていて、
ブヤブくんと指を指で触って対戦する遊びをしていた。
そのあとにザラサちゃんも起きてみんなで朝食をとった。
彼らは今日も課外活動。
私は調査の続きがあることで冒険者ギルドで別れた。
そして、私は冒険者に聞き込みをすることで、
フェリアンさんの職場を聞き出すことができた。
中央区にあるセントラム中央病院だった。
さっそく向かったが、
フェリアンさんは非番でいなかった。
日を改めようと学園に帰る際に、
新聞を売る子供の声で知ることになる。
「号外号外!元ランク7冒険者『大牙のキーズ』殺害!また同じ殺人鬼の仕業か?」
5人目の犠牲者の知らせだった。
・5月6日(月曜日)
ーサムエル・アルベインー
……どうしてこうなった?
なぜこうなった?
この結末は避けられないものだったのか?
俺は何度も考えた。
分析し、解析した。
だが、そもそもこうなった原因、要因は全くわからなかった。
正直、ありえなさすぎて呆れて笑っちゃうほどだ。
俺は普通の平安で平凡な学生生活を送りたかったのだ。
もちろんいろいろと楽しむつもりであったが、
それはサムエル・アルベインとしてではない。
そのためにいろいろと準備もしたというのに!
全てが台無しだ……
いや、全てではないが、
このあとに普通を装うのが困難を極めると言ってもいい。
これはもう公開処刑と何ら変わらない。
比喩などではない。
俺にとっての平凡な学園生活の死を意味するのだ。
は、はは、はははは……
最悪だ……
公開処刑の時間を待ちながら、
待つように言われた椅子に座ることしかできない。
逃げるか。
逃げる?
どこへ?
それで問題はなくなるか?
……否。
騒ぎがもっと大きくなるだけである。
そう、正直この場に俺がいてもいなくともあんまり変わらん。
名前がバレた時点で詰んでるのだ。
くそ!チキショウ!
本当にもう終わりなのか?
なんとかできないのか!?
俺って一応天才だよな?
自分で言うのもあれなんだけどさ、
ぶっちゃけ俺って天才なのよ。
その俺が突破口を見出せないわけが……ダメだ。
思いつかん。
先ほども親への報告が済んだとも言われた。
完全に詰んでいる。
終わった……
そう、終わったのだ……
短い幸せな平凡な生活は終わりを迎えたのだ。
これが『死』か……
「時間です、こちらに来てください」
柄に似合わず、
最後の時の余韻に浸る俺に無情にもお呼びがかかる。
まぁ、死ぬ前に見る人の姿が
スーツに身を包んだ美しいダークエルフ
『クイーン』さんであったのがせめてもの救いか。
でももし選べたのなら最後に見る人の姿は『エリザ』がよかったな。
それか『お姉さん』でもよかったけど。
このあと起こることを知っているが故に
動きたくない俺の体に鞭を打って無理やり動かす。
そして一歩一歩歩き出す。
……終わったのだ。
せめて受け入れよう。
優雅に!
カーテンの向こうには見知った多くの顔と
見たことあるけど話したことない顔と、
てめぇら誰だよ!?
というたくさんの人がいた。
全員が俺に注目している。
そして処刑人(セバス先生)は
斧を振り下ろした(裁きを下した)。
「ではこれより、先日、5月4日(土曜日)にて街の大危機になり得た事件三つ、
・セントラム中央銀行の強盗事件
・麻薬密売組織のメインアジトの発見
・貴族殺害計画の阻止
これらを全てたった一人で防いだ、生徒の表彰を行います。
――、一年オメガクラス、サムエル・アルベイン前へどうぞ」
俺の平凡な人生が終わった瞬間であった。
キャラクターイメージイラスト:ダニロ・ブリッツ
キャラクターイメージイラスト:サン
イメージイラスト:オラベラとザラサ添い寝
今回も読んでくださってありがとうございました。
少しずつですが、
それぞれの想いと事件の流れが一本に繋がり始めてきました。
次話ではオラベラとンズリ、
この二人がついに向き合うことになります。
ぜひ見届けてもらえたら嬉しいです。
そして殺人事件のほうも、
いよいよ真相に大きく迫っていきます。
まだ全部が明らかになるわけではありませんが、
「何が起きているのか」「誰が何を隠しているのか」
がかなり見えてくるはずです。
4月にも1話投稿予定です。
次回も物語が大きく動く回になると思うので、
楽しみに待っていただけたら嬉しいです。
引き続き、よろしくお願いします。




