オーガ討伐
ライトは側から見て満身創痍である。それでも、笑ってオーガを直視している。
(分からんなぁ。何故死を恐れない。貴様の最後の足掻きは失敗したぞ)
(ふ、もうそろそろかな)
(何を言って……)
(ドン)
そんな物々しい音と共に、ダークとシャルムが空から降ってきた。
(何者だ!)
そんな声を無視し、ライトに話しかけるダーク。
「あれ敵?」
(ハイ、かなりの強敵で、物理攻撃のみですが、強度が高いです)
「よし、分かった。休んでてくれ」
(よろしくお願いします)
そんなやりとりをしていると、オーガは短気なのか突進してくる。
(我を無視するとは、シネ)
「おいおい短気だなぁー」
そんな他人事みたいなことを喋りながら、オーガに対し、ウィンドスラッシュを放つのだが、かすり傷もつかない。
「お、硬い。シャルム、足止め」
(久しぶりに活躍してやるのじゃ、アイスワールド)
その魔法は、あたり一面を真っ白にし、オーガの下半身に分厚い氷が覆われている。氷の世界という名前に相応しい魔法に、一瞬目を奪われながらも、魔法を構成し始める。
今回は相手は1人、そして防御力が高い。だったら強力無慈悲な攻撃を叩き込む!
風は今まで、強力とは言い難い魔法だと言われ、普通という概念を植え付けられてきた。これが奥義。無駄を省き、一撃の威力を極大に上げた魔法。
「ウィンドディメンション」
風を操る。それはつまり、大気中の粒子を操るのと同じ。それを極限まで高め、次元の操作を可能とした。
相手の胴体に、ウィンドディメンションを発動すると、その場所は粒子の無い状態、宇宙空間となる。それは一瞬のため、周りの粒子が元の場所に戻ろうとし斬撃をオーガに与える。
此れは、防御力を考慮しない。つまり、幾ら高い防御力だろうが関係なし。
この魔法の発動後、オーガは呆気なく死んだ。
時は流れ
一年後
「は、は、は」
俺は必死に走っている。いやこの言い方はよく無い。逃げている。実にガチで。
(ギャロー)
そんな声をあげるのは、神話上の生き物だった筈の八岐大蛇である。
現在此処は、勇魔の遺跡十三階層。勇者と魔王が戦った遺跡の中にあるダンジョンに挑んでいる。そこは数多の冒険者、英雄はたまた魔族でさえ亡き者にしてきたダンジョンである。
そんな無謀に対し、横から切羽詰まった叫び声が聞こえる。
(ダークヤバイぞー)
そんな声をあげるのはシャルムである。八岐大蛇は、首が九本あり、胴体は六本足。見た目は、水色で神聖さを醸し出している。
そして、九本とも、目の色が異なる。
十三階層に続く転移門を潜った瞬間、いきなり高位魔法師以上の魔法を八個打ってきた。
大地を穿つ巨大な隕石、骨まで溶かすような灼熱のレーザー光線、海を一刀両断するような水のブレス、冥界へと誘うような全ステータスを下げるデバフなどなど。
こんなのが一瞬で放たれたら逃げるしか無いだろ!今までSランクの魔物と戦ったことは3回だけあるが、これ程イカれた攻撃は始めてだ。俺の半分のHPを持っていった。
「クッソ、死ぬ」
マジで絶対絶命。ノータイム、予備動作無しで放たれまくる極大魔法。その数々を必死に避け、防ぎ、カウンターを放つのだが、白い目をした首の結界のせいで攻撃が入らない。
このチートな魔物め。
(ダーク、魔力が底を切る)
「分かってる」
そんな事は理解しているが、どうしようもない。
生きるか死ぬかの瀬戸際。人はどのような選択をし、どんな結末を辿るか。そんな自問自答をしてた過去の自分に対し、なんとも言えない感覚になる。
「クッソたれー」
全魔力を込めた、暗黒魔法と暴風魔法の合体魔法。
「ダークウィンドディメンション」
滅茶苦茶長く、名前がダサい割に高威力の魔法は九の首を切断する筈だった。
(パリン)
そんな音と共に、俺の渾身の魔法が消滅する。(ダーク、神話の魔物は、一定回数のみ、高ダメージを無効化するのじゃ)
「ガハ」
全魔力を失った俺は、猛烈なだるけが来て、八岐大蛇の尻尾の攻撃に反応できず、壁に打ち付けられる。
(大丈夫かぁー、、ぐは)
シャルムも打ち付けられる。
神話の魔物のに対し俺は打つ手がない。2人とも、肌は傷つき血を流し、体の骨は折れている。シャルムは始祖の吸血鬼なので再生できる筈なのだが、魔力がない。
(ズシン。ズシン)
そんな物音を立てながら歩いてくる。あたかも、魔法など要らず仕留められるような眼差しでだ。そしてあと一息で殺せそうな所まで首を近づけ、こう尋ねる。
(貴様ら名は?)
異議を許さない様な質問に、素直に答える。「ダークリーフだ」
(シャルムじゃ)
(強者であった2人は、八岐大蛇が殺して、血肉としよう)
そう言い、口を開け、俺を飲み込む。
そして、俺は死んだ。
「あれ?」
(ようこそ勇者様。異世界に行き、魔王を討伐してください)
そんな声を発したのは、異世界に行った俺でも見たことの無い完璧な容姿に、心地の良い音、そして体型。百人いや、1万人が聞いて全員が美しいと答える女性がそこに居た。
「俺は死んだのでは?あとシャルムはどこに?」(貴方のお仲間は、現在魔王に幽閉されています。ですので、ぜひ魔王討伐を)
俺はまた転生したのだった。
これまでお読み頂き有難う御座います。著者として、精一杯発想を巡らせましたので、楽しまれたら幸いです。
本編に次作は有りません。




