二話
乳首に絆創膏を貼りだしてから約四ヶ月。もはや日課になっていた絆創膏貼りをしている時母親にこう言われたのだ。
「聖也……あんた胸少し膨らんだ?」
「は? 女子の第二次成長期じゃあるまいし胸が膨らむわけ……」
そう言って俺は鏡に向き直る。
鏡の前には少しは男らしくなろうと毎日腕立てを三十回しているのに全く脂肪の燃焼されない男子にしては少しばかり膨らんだ胸。
腹筋も一緒にしているので引き締まった……くびれ?
「なんか俺……腰細くね?」
改めて見ると腰は細く。それに対比して尻が丸い。
肩幅も狭いし、歌の授業では喉仏が無いと先生に不思議がられた様な……
「ケツも丸いしね。女みたいな体型になったわねー聖也」
「んなアホな」
「冗談冗談、朝ごはん出来てるからちゃっちゃとお食べー」
俺は学ランに着替えて朝食を取り徒歩十五分ほどにある栄中に今日も出かけたのである。
最近工事が終わり元々あったデカい交差点は新しい道路を含めた五つの方向から車が行き交う複雑な形をしている。
その道路の横断歩道を渡り、新しい道により車の往来がほとんど無くなった道を真っ直ぐ進むと学校が見えてくる。
学校の目の前にある交差点で信号待ちをしていると後ろから声をかけられる。
「おはよう、双星」
「ああ、おはよう金山」
「今年の年末も無料10連引けるらしいぞ」
「課金の必要性が皆無なくらいガチャ引かせてくれるよな。本当太っ腹だぜ」
数秒金山とだべっていると信号が青に変わる。剣道部の竹刀を打ち付ける音と踏み込みによる低い音色、「面」という大声が聞こえてくる外周に面した武道場とその隣の体育館から聞こえてくるバレー部とバスケ部の音を聴きながら校門から下駄箱まで歩いていく。
下駄箱について学校指定の茶色いスリッパに履き替えると次は西棟から東棟へ繋がる渡り廊下を通って東棟へ。東棟の二階が俺たち二年生の教室だ。
2-3と書かれたプレートのある教室の戸を横にスライドさせて入ると朝の早い生徒7、8人が席に着いていた。後の奴は部活か朝のSTギリギリに登校してくるのだろう。
俺はこの季節重宝するストーブから少しだけ離れた程よく暖かい位置の席だ。最近席替えでは素晴らしく引がいい。行きたい席のクジをズバリ引き当てるのだ。
この時期はまだ外から差し込む光を黒い学ランが吸収してポカポカするので寒くない。
俺はライトノベルを鞄から取り出すとそれを黙々と読む。面白い作品を読むとニヤニヤしてしまうのでこの時期はインフルエンザの予防と称してマスクをすることにしている。
20ページ程読んだ頃周りが賑やかになってきたことに気がついた。朝練が終わり教室にやってきた部活に入っている生徒、肩で息をしながら「今日もギリギリだった」といつもの様に話す他生徒を見回していると金山が近づいてくるのがわかった。
「どうした? 面白い噂話でも仕入れたか?」
「いや、あいつらと喋っててもつまんないからさ」
「俺みたいにラノベ読んどけばいいんだよ」
「お前みたいにボッチじゃないから何読んでるか聞かれちまうんだよ俺は」
金山は俺と違って友好関係が広い。そんな奴が萌え絵の描かれた小説を読んでいたら白い目で見られることは明白。大して楽しくもない馬鹿たちと会話に無理やり花を咲かせるしかないのだ。
俺との会話が楽しいかどうかも微妙な線だが。
「最近オナニーがマンネリなんだよ。なんかいいおかずない?」
「はあ? 何だ急にお前……そうだなオナホでも買ったらどうだ?」
「それがマンネリしてんだよ」
どれだけしてんだこいつは……そうだなやっぱり。
「下の穴弄ればいいじゃないか中々気持ちいいぞアレは俺はむしろそっちの方が好きだな」
「え……お前アナニストだったのか。たまげたな」
「ん? いや、アナルじゃなくて……」
「確かにな試してみるか……」
こいつ考え事始めやがった。
俺はアナルを弄っている訳では無い。ケツの穴と相棒の間にある穴を弄っているのだ。それがもう気持ち良くて最近はそっちにハマっている。そう言えば真ん中の穴ってなんて器官なんだろうか。
──キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン
俺の思考を断ち切るようにチャイムが鳴る。金山の奴を自席に戻るように促すと俺は少し遅れて入ってきた担任とふと目が合うが特に意味は無い。学級委員が号令をかけると皆一様に朝の挨拶をし朝の連絡の後は何事もなく授業が流れていく。
この日から段々と気温が下がり寒かったのはよく覚えている。
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冬休みは親の実家へ行き親戚たちからお年玉を巻き上げ、アニメを見て漫画とラノベを読みふける日々でぐーたらしていた。
冬休みが開けても学校の授業はやはりつまらないので寝て過ごす。
テストも適当にやり過ごし休み時間は金山の奴と馬鹿話しながら過ごしていたが。
「それにしても双星声変わりしないな」
「それな、ずーっと高いままなんだよ」
俺の悩みの一つ声変わりが来ない。
確かに隣のクラスには俺達の胸くらいの身長しかない可愛らしい同級生もいるがそういう成長が遅れている人とは違い俺はそれなりに身長もある彼と違って声変わりだけ遅れているのだ。
「そのうち変わるだろ。変化が少ないだけでずっとこの高めの声ってことかもしれないしな」
「なるほどな、お前は美青年って感じだから声が高くても違和感はないかな」
「俺としてはもう少し低い声がいいんだが」
俺自身も姉と同じく母親譲りの美形に育ったようで最近は月一くらいで女子に告白を受ける事もある。
そんな女の子たちは俺の趣味を知ると俺から興味を無くしたように離れていった。
中には好きな人の好きなものを理解しようと努力する子もいたが逆にヲタク文化にハマってリアルより二次元を愛してしまった奴もいる。そいつからは今では師匠と呼ばれ親しい間柄だ。
「師匠! 師匠が好きそうなヒロイン見つけましたよ!」
「ん? 芽衣か今日もテンション高いな」
彼女は上田 芽衣。
俺に告白しヲタク趣味を理解しようとして底なし沼にどっぷり浸かった哀れな友人の一人である。
「そんなことよりコレコレ」
それは赤毛の獣耳女の子と金髪で角が生えた女の子が異世界で冒険をしながら絆を深めていく百合作品だった。
「残念。もうチェックしてる」
「流石師匠! この作品主人公とヒロイン達の一人称視点で書かれているんですがキュンキュンしちゃいます。しかもこれ書いてるのが男の作者ってのも驚きですよね」
「男なのにこれを書けるのは俺も凄いと思うぜ」
芽衣は様々なジャンルに手を伸ばした結果。ガールズラブにたどり着いたらしく。その手の話題を振ると俺より詳しかったりする。
面白そうなラノベは新刊を毎月チェックしているがWeb投稿サイトは完全に網羅しきれない。
それでもやはり掘り出し物は存在するのでチェックは欠かせない。
代わりにゲーム作品が疎かになるが仕方ないことだろう。
「へー、それ巨乳のヒロイン出てくる?」
「主人公が巨乳」
「kwsk」
こうして三人の次元が違う話が教室の一角で行われその日も授業は滞りなく終わった。




