深夜のコンビニバイト六十三日目 マリーアントワネット来店
ホラーを突然書きたくなって、昨日「鯉の餌やり」という純愛サイコホラーを書いたのでよかったら読んでください。
同じ作者の作品みたいなところから見えるんじゃないかと思います。
深夜のコンビニバイト六十三日目。
ピロリロピロリロ。
「坊主.....」
よろよろと木の枝を杖代わりに来店して来たのはいつぞやの魔王。
めちゃくちゃ久しぶりだ!!
「ま、魔王!?どうしてたんですか!?今まで全く会わなかったですけど!?」
「実は、シェリィとクロノアに監視されていてな」
「あの二人で魔王とどちらが住むのかというバトルがあったと手紙がありましたけど」
そうだ、魔王を愛するクロノアさんとシェリィさんでバトルをして勝った方が魔王と共に過ごす権利を得るというバトルをしていたはずなんだ。
「それが、クロノアがシェリィを倒したのだが、クロノアがトドメをさそうとした時、我がシェリィを庇ったのだ。シェリィは我の為に頑張ってくれていたのはよく分かっているからな」
魔王...来店時の横暴な魔王からホームレス生活を経てちゃんとあたたかい心が芽生えてたんだな。
「二人は引き分けという事にして、我は一日ごとにクロノアとシェリィの家で過ごすことになったが、我はどちらも退屈でな。シェリィが働きに出ている時、ある日ふとあのホームレス生活をしていた公園に行ってみたのだ」
どうしてもホームレス生活に戻りたいんだな.....。
「そしたら、我をあの場所で家族のように優しくしてくれた皆が...皆が」
魔王は、両手で顔を覆った。
「どうしたんですか?」
「公園に一つの王国ができていた。その王国の王に脳を支配され、山田も、伊藤も、松本も、奴に完全に支配されていた」
ドユコト?
「我は奴に話をつけにいった...だが、奴は聞き入れようとはしなかった...恐ろしい奴だった。人の心を掌握する事に長けている我でさえ、奴のカツサンドがなければケーキを食べればいいじゃない?という言葉に少々心を動かされてしまった」
何言ってんだ魔王。お前のカツサンドに対する愛はそんなものだったのか。
「その、王っていうのは公園をどういう風に支配してたんですか」
「我の家族同然の同志達を、家来のように使い自身の欲求を満たしていたのだ。我は許せなかった。我の国で何をしているかと問うたら、ここは私の王国だと抜かしおった」
いや、みんなの公園だから。
魔王の国でもその人の王国でもないから。
「なんとかしてくれ坊主.....」
「えぇ!?待ってその流れでなんで俺!?」
いやいやいやいや!?流れ的におかしいでしょ!?なんで俺なんだよ。
俺に頼る要素今までの話でひとっつもなかったよね!?
俺ただのコンビニバイトなんだけど!?
「奴がこれからこの場に来る。皆を説得したい。手伝ってくれ」
「いや、それこそクロノアさんとかに頼めばいいじゃん?」
「クロノアに公園に行ったことがバレたら困る。シェリィにもだ!この世界だと魔力も自然と落ちていく...今は我が温存していた約一ヶ月分の魔力でやっと分身を作り寝かせているが、いつバレるかわからないからな」
「はぁ.....魔王ってもっと馬鹿だと思ってたけど意外とちゃんと考えてるんだな.....ところでその王をどうやってここに呼び出したんですか?」
「クハハッ!この世界の人類は敵を呼び出すとハタシジョウなるものを書くのだろう?我も書いたのだそのハタシジョウとやらを」
「ちゃんと文字書けたんですか?」
「失敬だぞ坊主!文字くらい書けるわ。クロノアに教わったからな」
「魔王が魔玉になってましたけどね、大丈夫なんですか本当に。あと果たし状を書いてどうするんですか?ここでドンパチバトルとかやめてくださいよ」
「バトルはしない。ハタシジョウは、ハタシジョウだ」
うんうんと頷く魔王に、俺は頭を抱えた。
「よくわかってないですよね絶対果たし状の事。呼び出す為に書いたんですよねここに。説得する為に書いたんですねそうなんですね」
やっぱり魔王は馬鹿だった。
ピロリロピロリロ。
「きおったか」
ふふふと悪役っぽい笑いをもらし、うでをくみながら、扉に背を向けたままでほくそ笑む魔王の後ろに立っていたのは、
「あら、貴方だったの?私をここに呼び出したのは」
相手は女性だった。
騎馬戦のように三人の俺のお父さんくらいの男性が彼女を担ぎ上げていた。
一番上でにっこりと微笑むのは、真珠のように白い肌と、輝くようなブロンドの髪、誰もがかしずいてしまうような美貌のピンクのドレスを着た女性だった。
髪の毛が盛りすぎて天井につきそうだった。
「ふふ、私の名前はマリーアントワネット。私を呼び出した貴方はなんてお名前なの?」
「貴様...我の同志達を、足のように使いおって」
「あら?彼らは望んでこうしているのよ?ね?そうでしょう?」
「伊藤!松本!山田!」
魔王の悲痛の叫びも三人には届かない。
「俺は、マリーアントワネット様の家来となり、一生を過ごすことを誓ったんだ」
「伊藤!」
いやこれいつの時代!?
「マリーアントワネット様にお仕えする事が、俺の生きる意味であり喜びなんだ。一生マリーアントワネット様のおみ足の下で生きていく!」
「松田!」
だいの大人が、それでいいんですか松田さん。
「山田...山田は違うよな?」
魔王はふらふらと山田さんの元へ歩み寄る。
マリーアントワネットの右足を支える山田さんは、フッと微笑んだ。
魔王の顔がぱあっと輝く。
「俺は、既にマリーアントワネット様の右足だ。おみ足の下で生きていく松田とは違う」
「なんだと山田!!」
なんだこの人。この人だけオーラが違うぞ。
魔王はふらふらと後ずさる。
「彼らは私の下に仕えて幸せなのよ」
パタパタと扇子を仰ぎながら微笑むマリーアントワネットに、
「此奴らは前はこんな風じゃなかった!!貴様に洗脳され、こんな風になってしまったのだ」
魔王は、急いでパンコーナーのカツサンドを手に取り、俺に千円札を差し出した。
「ほら、皆!カツサンドだぞ」
「ぐっ.....かつ...さんど?」
少し、山田さんや、他の二人も少しだけ目に光が戻った。
なんでカツサンドで正気を取り戻してるんだよこの人達は!
「それなら、民の家にありましたよ?大事そうに布に包まれて」
マリーアントワネットの言葉に魔王がピクリと反応する。
「皆、カツサンド買いにきてたのか?」
「.....違うよ」
松田さんが絞り出すように言った。
「魔王さん、あんたからもらったカツサンドをあんたを忘れねえようにとっておいたんだ」
「な、何だと.....」
いやなにこの展開。
「あんたは、変わってたけどいい人だったね。空き缶拾いが楽しいっていったり、俺達に稼いだ金でカツサンドを買ってきてくれたり.....来たばかりなのに俺達はあんたになにもしてやれなかったのに、俺達に恩返しだなんだって」
「そうだよ。幸せに暮らしてると思ったらこっちの世界に戻って来てよぉ。全くどんだけお人好しなんだってんだよ。あんたは陽の光を浴びたところで幸せに暮らせっていっただろ?」
「俺達はあんたにもらってばかりで何もしてやれなかったからよぉ。せめて俺達がわざとあんたを拒絶して幸せに生きてもらおうと思ったんだよ...でも、でもやっぱりあんたにもらったカツサンドを皆で囲んでさ、あんたの話をよくしてたよ皆で。こうしてあえて嬉しいって思っちまったよ」
「駄目だろ松本さん。あんたが一番...魔王さんに早くここを出ていくようにっていってたくせによぉ...」
「だってよぉ、こんないい人をよぉ。こんな生活させたくなかったんだよ。俺達に縛られて欲しくなかったんだよ」
「ど、どうしたの、あなた達。震えていてよ」
マリーアントワネットが、動揺した様子で三人を見回す。
「松本....山田...伊藤」
魔王は、カツサンドをドヤ顔で差し出した。
何なの。このカツサンドとこの人達に生まれる絆は。
「な、何?どうしたの?」
三人はそっとマリーアントワネットを下ろすと、魔王からカツサンドを受け取った。
「ごめんなさい、マリーアントワネット様。俺達、あなたの家来より魔王さんの
友達やってた方が性に合ってるわ」
ニカッとマリーアントワネットを振り返ると、仲間の盃を交わす時のように、熱い男の友情を感じさせるように、カツサンドを受け取る男達。なにこの状況。
「こんな時間だが、皆で戻って宴をしよう。魔王さんも今まで何してたか話してくれよ」
「ふん、構わんぞ。公園の水、久しぶりだ。心が躍るな」
公園の水とカツサンドで宴をするらしい。
呆然と立ち尽くすマリーアントワネットを残し、四人は肩を組みながら夜に消えた。
「まぁ、どうしましょう。とりあえず貴方、お茶を淹れて下さる?それからゆっくり考えるわ」
落ち着いてんなぁ...このお方。
本日も読んでくださりありがとうございます。
私は高校の時、お友達に
「貧乳!」と言われるたびに、
「全く、やれやれ君は分かってないようだね。今はほら、こうして胸が小さいように見えるだろう?だが私は本当はHカップあるんだよ。君と違って胸が大きいと学校に来るのも重くて大変でね。胸を支えながら登校するのも両手が塞がって非常に大変だから、家に6カップくらいもいで置いてきてるんだよ。今はだから身軽なんだよ。もう二度とそういう事を言うんじゃあないよ」
そうやって諭してたのですが、友達がその度に大爆笑して腹よじれる〜と言いながら他の子に、
「ガイアに貧乳!って言ってみて!めちゃくちゃ面白いよ!」とか言うんでクラスメイトの何人かを諭してました。
高校を卒業した私にできた数少ない男友達と閃乱カグラの話になり、胸が小さい事は別にきにすることじゃないよと言われたのですが、私はその時普通に胸を隠しながら
「お前の方が胸ちっさいくせに!!」と指差して叫んでしまったのは人生の汚点ですね。




