60.撤退
前回に引き続いてのバトル
決着はいかに?
『パーティメンバーティアリスを拘束する魔術「蔓の呪縛」の解析が完了』
頭の中でアルテが報告してきた。
(解析?
今までずっと解析してくれたのか?)
『肯定。
接触が一時的だったため、解析が難攻』
思い返してみると、アルテに蔓に触れてみるように言われたけど、ティアリスと話すうちにそのことをすっかり忘れてしまっていた。
それも含めてアルテの声に棘がある気がする。
『否。
私に感情は存在せず』
そうだろうか……。
『問。
解析完了したヴェインバインドの解除』
(え?
解除できるの?)
『肯定。
解析完了から魔術解除の構築を試行。
成功。
接触の継続で時間短縮が可能』
(それは本当にすみませんでした)
あの接触で魔術を解析して、さらには解除できるようにアンチマジックを組み立ててくれてたらしい。
(これでいつでもヴェインバインドは解除できるのか?)
『否。
サンプル・研究不足。
全魔術解除可能魔術「破壊魔術」の会得不可。
現状、同詠唱者の同魔術のみ解除可能』
つまり、魔術破壊魔術はあるけど、それではなく、ティアリスにかけた魔術師のヴェインバインドのみ解除が可能と。
まぁ、魔術の解析なんて今回が初めてだし、サンプルが少ないのも仕方ないことだろう。
『……』
そんな考察は置いておいて、まずはティアリスの拘束を解除だ。
(ティアリスの拘束を解除してくれ!)
『了。
ティアリスの蔓の呪縛を解除』
シュウは顔をティアリスの方へ向けると、ティアリスがゆっくりと立ち上がるところだった。
痛めた足もポーションで立てる程には回復したようだ。
頭まで被っていた外套のフードを払い、置かれた杖を持つ。
そして、シュウと目が合い、お互いに頷く。
シュウも立ち上がって息を整え、オーガに視線を戻した。
「ほう、拘束が解けたか。
正々堂々一対一はまだ早かろう、ヒト族の連携でオレを打倒してみよ!」
オーガも斧を構えて剣気を放ってくる。
ここから第二ラウンドだ!
シュウはオーガに向け駆ける。
そして、再度小剣と斧がぶつかり火花が散る。
『……』
不意にシュウが攻撃のリズムを変え、横に飛ぶ。
そこに、
「ウィンドニードル!」
ティアリスが魔術を放つ。
「ほう!」
オーガはシュウへの追撃を止め、ティアリスへの魔術へ斧を一振りする。
見えない風を針状にして飛ばす魔術を斧でかき消され、驚きに目を開くティアリス。
だが、その魔術を迎撃した隙をシュウは見逃さない。
片手剣基本剣技 ダブルブレード!
剣気を込めた小剣を振り下ろし、さらにV字を描くように切り上げる。
隙を狙った完璧なタイミングでダブルブレードがオーガの背に入る。
即席だが息のあったコンビネーション、完璧なタイミングで入った剣技。
ただ惜しむらくは……
剣を振り上げた姿勢のシュウは危機感に襲われる。
……圧倒的シュウの攻撃力不足。
剣技を放ったオーガの背には、薄く皮膚に切れ込みができただけで血すら出ていない。
オーガはその場で勢いよく回転し、シュウのがら空きになった胴に回し蹴りを放つ。
シュウは避けることも、衝撃を軽減することもできずに今度は吹き飛ばされる。
「剣技を放つことも重要だが、その後のことも考えておくことだな」
回し蹴りを放った足を上げたままオーガはシュウに忠告する。
先程の比ではない勢いで地面を転がり、なんとか止まるシュウ。
「ぐっ」
口の中から血が溢れる。
震える手でポーチからポーションを取り出し、薬を飲みこむ。
(くそっ)
打ち合わせもなにもない状態でティアリスとのコンビネーションは上手くいった。
だが、シュウの攻撃力が自分に致命傷を与えるには足りていないと判断したオーガはティアリスの魔術の迎撃を優先した。
シュウの剣技を敢えて打たせ、その後の隙を読んでいた。
(隙を突いたと思ったら、囮で誘い込まれたのは僕だった……)
ポーションが傷を癒していくのを感じながら、自分の攻撃力の無さに歯噛みする。
「もう終わりか?」
オーガがシュウに向けて言葉を放つ。
攻撃力が足りない。
このままではどうしようもない。
一人では。
「まだだ!
まだ!」
シュウは叫ぶ。
前文はオーガに、そして、後文は、
ティアリスに向けて。
シュウは諦めていない。
ティアリスは二度吹き飛ばされ、今度は口から血を吐くシュウを見て血の気が失せる。
駆け寄って治癒術を掛けたいが、吹き飛ばされた向きが悪く少し遠い。
こんなことなら治癒術の技術を上げておくべきだった。
今のティアリスでは対象が近くにいないと治癒できない。
練度が上がれば、離れた対象に治癒術をかけることができるのに。
ティアリスは治癒術の練度よりも、敵を打倒す攻撃魔術の習得に意識を割いてしまっていた。
強さを求めていたがゆえに。
それが、今仇となっていた。
しかし、今は後悔している場合じゃない。
ポーションを飲んで立ち上がったシュウの目はまだ諦めていない。
なら私も諦めるわけにはいかない。
シュウ
僕の攻撃は剣気で強化されたオーガの皮膚すら切ることができない。
そのオーガはティアリスの魔術を斧で迎撃していた。
もしかしたらティアリスの攻撃魔術なら通じるかもしれない。
ティアリス
私が魔術を乱発していた時はあのオーガに通じなかった。
だけど、さっきは武器で打ち消そうとしてきた。
きっと、最初の時は魔術に合わせて剣気でガードされていた……。
シュウ&ティアリス
剣と魔術を(偶然だが)別方向から放ったことでどちらかしか剣気で受け止められないのだとしたら?
シュウは再度オーガに向かって駆ける。
大きなダメージを与えることが自分ではできない。
なら、それは仲間にしてもらえばいい。
今は一人じゃない!
ティアリスは息を整え、少ない魔力を搔き集め魔術を唱える。
あと、ニ・三発魔術を放てばまた暫く魔術が使えなくなるだろう。
残り少ない魔力で有効打を放つ。
そのタイミングを見極める。
剣で剣気のガードを誘発し、魔術で有効打を打ち込む。
これしかない。
と目の前のヒト族は思っているだろう。
オーガはシュウと武器を交えながら、内心で笑う。
面白い。
通ずるか試すがいい!
『……』
シュウは先程と同じように射線を開けるように横に飛ぶ。
「同じ手は……」
呆れたようなオーガが呟こうとするが、
片手剣基本剣技 ダブルブレード!
今度はシュウの剣技が背後から先に放たれる。
同じ手で来ると予測してしまったオーガは斧で受け止める猶予がない。
だが、この程度の剣気ならば先程と同じで剣気のガードで事足りると判断。
そこに、
「ライトニングスピア!」
ティアリスの攻撃魔術が放たれる。
(こいつは……!)
雷撃系統の魔術は鉄製の武器で打ち消せない。
鉄は電気を通す。
現代地球では当たり前と思われていることだが、そこまで科学が発達していない異世界だと理屈はわからないがそうなってしまうとしかわからない。
オーガは直感で斧にも剣気を集中させる。
今までシュウの剣が当たる場所だけ剣気を集中させ、その他の剣気は全身の強化に回していた。
それを斧に集める。
バチバチチチチッ!
雷でできた槍が斧とぶつかる。
剣気で幾分か相殺できたが、斧を通して電気が流れて少し痺れを感じる。
だが、雷魔術もその程度で耐えきれた。
(ここまでか。
少しは楽しめたが……)
オーガは久々の燃える戦いの終わりが近いと判断した。
が、
(!
あの戦士はどこに行った!?)
背後から切りつけてきたはずのシュウの気配がない。
ミスディレクション
シュウは先に剣技を放ったことでオーガの意識をシュウに集めた。
そこにティアリスが魔術を放つことで、その対処に再度意識が向けられる。
その隙にシュウは気配を消した。
今、オーガには視界にシュウが入っているがシュウがいると視えていない。
片手剣基本剣技 バーニングブレード
シュウはオーガの正面に飛び上がっていた。
そして、全身の剣気を込めた赤く輝く刀身でオーガに斬りつける。
オーガの肩から脇にかけて大きく切り裂かれ血が舞う。
(通った!)
オーガも驚いた顔をして傷口からシュウに視線を向ける。
(せめてバーニングブレードの熱で火傷でもと思ったのに……
斬れた……)
『告。
オーガは火属性に耐性を持ち、レジストした可能性』
アルテの忠告を聞きながら、隙が無いように一歩下がりつつ構える。
「フーッハッハッハッハッハッハ!」
真剣に構えるシュウを置いて、オーガは声を上げて笑う。
「ハッ!」
笑いを止めると同時に剣気が籠った斧を地面に叩きつける。
それだけで弱い衝撃波が起こり、シュウはバックステップでさらに距離をとった。
そこにティアリスが小走りで近づいてきて、杖を構える。
「拘束解けてよかった」
横に並ぶティアリスに声を掛ける。
「ええ。
でも、魔力は回復しきってないの。
あと魔術が一回か二回」
ティアリスが冷静に自身の魔力量を告げてくれる。
「あと、一回か二回……」
ティアリスの魔術の回数を繰り返しながら、先程の連携で倒せるか考える。
あの戦いのプロのようなオーガに同じ手が通じる気がしない。
対処されて手痛い反撃をされる予感がする。
「今のは良かった!
連携と剣技、オレを倒そうとする意志!
これだから戦いは面白い!」
そう言いながら、剣気を体の正面に集める。
「まじかよ……」
血が溢れていた傷口を剣気で塞ぎ、血を止めた。
オーガは何事もなかったように斧を持ち上げ、肩に担ぎ、クイックイッと手で続きを促す。
『提案』
動けなかったシュウにアルテが声をかける。
(何?)
『拘束魔術「蔓の呪縛」による移動の阻害』
(チェインバインド?
ティアリスさんが使えるのか?)
『否。
解析の完了と同時にラーニング済み。
つまり使用が可能』
な、なんだってーーー。
『移動を阻害した対象にマスターとティアリスによる同時魔術による攻撃』
(僕も魔術で攻撃するのか?)
『肯定。
彼のオーガは物理攻撃よりも魔術による攻撃が有効と判断』
(そうか。
僕だけじゃ何も思いつかなかった。
試してみよう。
ありがとう。
アルテ)
『……』
アルテから返事はなかったが、嬉しそうにしているとなんとなく感じた。
「ティアリスさん」
アルテの提案をティアリスに伝えるために小声で話しかける。
「はい」
ティアリスも小声で返事をしてきた。
「僕が足止めをするので、強めの魔術をお願いしていいですか?」
「強め?
あなたを巻き込みかねませんが」
ティアリスはシュウを巻き込まないように威力と範囲を考えて魔術を使っていた。
威力の高い魔術は比例して効果範囲も広い傾向にあり、仲間を巻き込む恐れがあるので、実は使いどころが難しい。
「僕は大丈夫です。
合図をしたら放つように、準備をお願いします」
シュウは作戦が伝わったか目線だけティアリスに向ける。
ティアリスは少し躊躇っているようだが、決心したのか頷いてくれた。
「ふ~っ」
一歩前に出て、息を一つ吐く。
オーガも肩に担ぐ斧を、両手に構える。
全く未だに油断も隙も無い。
(少しは弱い相手に油断や隙を見せてくれてもいいだろ!)
シュウは全身に剣気を纏わせ駆ける。
剣と斧がぶつかり火花が散る。
斧を受け流し、その開いたわずかな隙に足元を狙った蹴撃を放つ。
それをオーガも軽々足を持ち上げガードする。
そこからは互いの武器と拳や蹴りといった体術の応酬も合わさった。
『……』
(来たか!)
シュウは体を引き絞るように小剣を持つ右手を後ろに回す。
そして、一気に開放する。
片手剣基本剣技 バーニングブレード
先程は袈裟切りに放ったバーニングブレードを横なぎに放つ。
オーガは斧でガードするように持ち上げる。
バーニングブレードが斧とぶつかった一瞬後、シュウは地面を蹴る。
オーガは斧の刃が一瞬邪魔でシュウが見えていない。
飛び上がったシュウはオーガの斧を蹴り後ろに飛ぶ。
空中で驚いた様子のオーガがよく見える。
そのオーガに左手を向け、
「蔓の呪縛!」
拘束魔術を放つ。
ただ、遠くからヴェインバインドをかけると、このオーガなら避ける可能性があると予測した。
なので、今まで同じように剣技を隠れ蓑にしてヴェインバインドを放った。
シュウならラーニングした魔術を無詠唱で使えるから。
狙い通りにオーガの足はヴェインバインドに拘束される。
シュウは着地と同時にバックステップで距離をとる。
そこにわかっていたかのようにティアリスが並ぶ。
「今!」
シュウが合図を出す。
あの戦闘狂のオーガのことなので、無理やりヴェインバインドから抜け出す可能性がある。
効果があるうちに攻撃だ。
「エアロバースト!」
ティアリスが魔術を放つ。
エアロバーストは一度このオーガにも使っている。
その時は、オーガは無傷だった。
今度はしっかり魔力を練り込んだ。
オーガも手傷を負って、万全ではない。
なにより……。
一人じゃない。
「ストーンブレット!」
ティアリスの横でシュウも魔術を唱える。
シュウが使える攻撃魔術はこれだけだ。
選択肢が無い分、迷うことはない。
魔力が魔術書に流れ込むが、今までのストーンブレットが放たれる時よりも多い。
『ティアリスの魔術「エアロバースト」を確認。
解析。
成功。
「ストーンブレット」を同威力まで昇華。
成功。
魔術の合成を開始。
成功。
合成魔術「エアログレイブ」発動』
(え?
何やってんの?)
シュウの心の中での呟きに応える者はいない……。
オーガの頭上にどこからともなく岩が生み出される。
それが勢いよく弾け、その破片が同時に現れた竜巻によってオーガ達の周囲を回る。
斧オーガだけではなく、部隊長のオーガとゴブリンも範囲に含まれている。
次第に渦を巻く竜巻の速さが増し、範囲を狭めていく。
「こいつはやべえ」
初めて斧を持つオーガに焦りの色が見える。
しかし残念なことにオーガ達とシュウ達の間の竜巻によって、その様子をシュウ達が知ることはなかった……。
オーガは全身の剣気を最大まで高め、顔を覆うように両手を交差させて魔術に備える。
「遊び過ぎたか……。
まさかこんなもん出してきやがるとは……」
交差する腕の下で、口元に広がる笑みを止められないオーガだった。
荒れ狂う風の刃と鋭利な岩の破片が文字通り飛び回り効果範囲にいる者全てに襲いかかる。
宙を舞っていた岩の破片を暴風が無差別に地面に突き立てていく。
竜巻の代わりに舞い上がった粉塵が立ち込める。
暫くして、完全に魔術の効果が失われていく。
魔術を放ったはずのシュウとティアリスもポカンと口を開けて呆気に取られている。
『……』
一人表情は見えないが、ドヤ顔をしているような雰囲気を醸し出している者はいるが。
シュウ達の目の前にはまだ粉塵が舞っており、どうなったか様子がわからない。
自然の風が少しずつ粉塵を流し去って行ってくれるのを待つしかなかった。
あの威力ならオーガもただでは済まないだろう。
シュウとティアリスは願いを込めて薄れゆく粉塵を見つめる。
粉塵が収まっていき、周囲の様子がわかってくると、シュウとティアリスの顔が呆気から驚愕に染まる。
オーガは倒れていなかった。
両腕を交差させたまま立っていた。
無傷で。
ただ魔術が放たれる前と異なる点がある。
それは拘束されていたはずの斧オーガを始め、その他の倒れていたオーガやゴブリン達の位置だ。
全員が集められたように部隊長オーガの周囲に集まっている。
そして、半透明のドーム型の何かに覆われていた。
シュウは小剣を構えティアリスが背後に来るように一歩前に出る。
両手を交差していたオーガが恐る恐る両腕を下ろし、不思議そうに周囲を見渡す。
そして、中心に立つ部隊長を見つめ、
「これはあんたが……?」
小さく呟く。
その呟きに答えることなく、部隊長の口から別の言葉が発せられた。
「時間ダ。
帰投スル」
そう言った瞬間に部隊を覆っていた半透明の膜が掻き消えていく。
それを聞いた斧オーガは、部隊長の雰囲気が変化していることに疑問を抱きつつも、
「ハァ!?
まだだ!まだ決着がついていない!
オレの行動は縛らないって話だっただろうが」
部隊長オーガに詰め寄ろうとした。
が、
「アノ魔術デ、オ前ハ負ケテイタ。
コレ以上ハ無駄ダ」
「な、に……」
部隊長オーガの言葉に先程の魔術と部隊長の仕業と思われる半透明の膜を思い出す。
「くっそ……!」
斧オーガは悔しそうに悪態を付きながら地面を蹴る。
「ヒト族の戦士と魔術師よ!
オレの名はクレヴァ!
今日の所は引き上げる!
決着は次の機会に預ける!」
斧オーガはシュウとティアリスに向け、名乗りを上げる。
それが、合図だったかのように倒れていたオーガとゴブリンが消えていき、斧オーガも消え、最後に部隊長オーガが残った。
部隊長オーガは最後にシュウとティアリスを見つめたかと思うと、姿が消えた。
合成魔術の発動から今まで事態に置いてけぼりだったシュウとティアリスだけがその場に残されることとなった。
2話も使ったバトルでしたがいかがでしたでしょうか?
3話目に分けるかも悩みましたが
区切るのがめんd……ゴホゴホ……
丁度いいラインが見つからなかったので
そのままの勢いで書いてしまいました
久しぶりに長くなってしまったのが申し訳ないですね
短いとサラッと読めますが物足りないかもと
どのくらいの長さがいいか模索中
(投稿ペースが週一ですし)
お暇な時間を埋めるお手伝いができれば幸いです
それではまたー




