61.止まない雨
なんとか投稿ペースキープ
いつまで続くか
ソレガワカラナイ
ポツンとその場に残されたシュウとティアリスは呆気に取られていた。
しかし、常にさらされていた殺気が消え去りるドッと疲れが体に押し寄せた。
剣を地面に差し、疲労に苛まれる体を支える。
「なんだったんだろうね?」
シュウは体を剣に預けながらティアリスに顔を向ける。
ティアリスも、
「わからない」
そう言って、困惑した様子を見せる。
「帰投するって言って消えたから、魔術で帰ったのかな?」
シュウの問いにティアリスはわからないと首を横に振る。
『肯定。
転移の魔術的挙動を確認。
解析、ラーニング失敗』
アルテ……さり気なく解析しようとしてたのか。
「とりあえず、そういうことにして……。
ハーッ、助かったー」
大きく息を吐きながら全身の力を抜く。
「助かった……?
私、助かったの……?」
ティアリスの呟きが聞こえ、顔を向ける。
「あの状況でどうなるかと思ったけど、間に合ってよかった」
駆けつけた時の状況と拘束されたティアリスの足を思い出しながら、少し笑ってシュウは返す。
「あ、あの……」
ティアリスは気まずそうにシュウから目を逸らして、
「……その、あ、ありが……」
そこまで消え入りそうな声で呟いたかと思うと、糸の切れた人形のように足から力が抜けバランスを崩した。
「!
ティアリスさん!?」
慌てて近寄り、腰に手を回し支える。
何とか雨でぬかるんできたきた地面に倒れ込むのを防ぐことができた。
咄嗟でも剣気を纏う訓練を毎日欠かさずやってきた成果が活きた。
ティアリスの顔を除くと目を閉じている。
全身から力が抜けてしまっており、完全に気を失っている。
安心から来る疲労が意識を奪うほど襲ったのだろう。
(一歩遅ければ死んでたかもしれ緊張の連続だっただろうし、女の子にこれはきつかっただろうな……。
どこかで休ませてあげないと)
シュウはもう一度ティアリスの顔を見てから、外套のフードを被せてやり、全身に剣気を込め直してティアリスを負ぶった。
シュウの剣を鞘に納め、ティアリスの杖を手に取った。
ティアリスが拘束されていた場所まで戻り、二人分の荷物を回収した。
(アルテ。
地図で近くに雨を凌げる所ないか探せる?)
『承諾。
敵対勢力の行動範囲が不明なため、ここより西側地域は候補から除外。
南東の林を候補に提案』
ティアリスのの放った魔術が残す痕跡はここから西に続いている。
そのことから考えるにあのオーガの隊は西から来たと思われる。
(じゃ、そっちの方に行ってみよう)
「ティアリスさん移動するよ。
もうちょっと辛抱して」
背負うティアリスに言葉をかけ、疲れたと主張する体に剣気で叱咤し、南東に向けて歩き出す。
思い起こすは気を失いシュウに支えられたティアリスの顔。
(最後に見た時は、目の下にこんな隈はなかった……。
十分に寝ていないのか……?)
背負う体も装備の重量を考慮してもティアリスの身長の割に軽くないだろうか。
いや、女性の体重なんてよくわからないが……
それにしても、こんなに戦った後に人一人背負って荷物を二人分持って歩くなんて、地球にいた自分では考えられなかった。
そういえば、少し前にクランを背負った時はもっときつかった気がする。
クランの装備のせいか、その時よりもシュウが鍛えられたせいか……。
(異世界かぁ……)
そんなことを思いながら、しっかりとした足取りで南東に向かう。
雨はまだまだ止みそうになかった。
三〇分程歩くと青々と枝を広げた木が連なる林が見えた。
「ティアリスさん。
もう少しだよ。
あそこで休もう」
林の周辺は起伏のある丘になっていたので、少し登って林の中の一本の木の下に到着した。
何重にも重なった葉のおかげで雨宿りができそうだ。
木の根元の地面が濡れていないのを確認して、まずティアリスを木にもたれかけさせるように下ろす。
自分の魔法鞄から寝袋を取り出し、乾いた草の上に広げる。
そして、濡れた外套を脱がせたティアリスを抱きかかえて寝袋の上に横にさせた。
その横にティアリスの杖と荷物置く。
自分の魔法鞄から乾いたタオルを取り出し、頭と顔を拭く。
濡れた装備とインナーもそのままだと気持ち悪く、体が冷えそうだったので装備は外し、予備のインナーとズボンを取り出し木の後ろに回って着替えた。
濡れた衣服を鞄の中で分けれるように麻袋に入れて、火でも起こそうかと乾いた枝を拾って歩いた。
薪にする枝を集めてティアリスの元に戻っても、ティアリスはまだそのままだった。
少し草を取り除き、枝を組んで火をつける。
燃え広がらないように枝は少し目だ。
冷えていた体を火が温めてくれる。
自分はスッキリしたがティアリスは雨に濡れたままだと思い出し、さらに乾いたタオルを取り出す。
濡れた髪や土などで汚れた顔を拭いてあげるが、
(さすがに、女性の服を着替えさせるのには抵抗がある……)
しかし、このまま濡れたままにしておくこともできない。
ベストはティアリスが目を覚まして自分で着替えてくれることだが、いつ目を覚ますかがわからない。
『……』
ティアリスの前で腕を組みうんうんと唸っているのを、アルテがジト目で見ているような雰囲気を醸し出してくる。
(仕方ないだろう!?
地球では兄と二人暮らしで女っけなかったし、彼女だっていなかったんだからな!)
『……。
告。
ティアリスの体温低下を確認。
現状の維持で疾病に繋がると予測』
アルテが追い打ちをかけてきた。
(ああ、もうわかったよ!)
周囲に誰もいないのはわかっていたが、キョロキョロと周りを見渡してしまう。
『……。
告。
はよやれ』
アルテなんか口調変わった!?
ティアリスの側面に膝を付き、濡れたローブに手をかける。
絞れる程ではないが、水気を感じる程にすいぶんを含んでいた。
なるべく体を見ないようにローブを脱がせ、乾いたタオルで体を拭く。
左肩を拭いていた時だった、
「う、ううっ」
ティアリスから苦悶の声が上がる。
シュウはその声にびくっと体をのけぞらせる。
ティアリスの顔を伺うと、まだ目を覚ましたようではなかった。
ホッと胸をなでおろすと、左肩に残したタオルに手をかけ、持ち上げる。
ポタッ、ポタタッ
持ち上げたタオルから水滴が落ちる。
落ちた水滴がティアリスの少し濡れている白いインナーに染みを作る。
その染みは白いインナーに目立つ赤。
赤い染みから手元の赤いタオル、そしてティアリスの左肩に視線を移す。
左肩に赤黒く穴が開いておりそこから血が溢れていた。
「なんで……?」
シュウは傷口を新しく出した綺麗なタオルで押さえる。
タオルは血を吸い、赤く染まっていく。
シュウは先程の戦いを思い出す。
シュウが到着した時、ティアリスの左肩に矢が刺さっていた。
それを、ティアリスは自分で抜いていた。
傷めた足と肩を治せるようにシュウはポーションをティアリスに渡した。
場面が飛んで、アルテの解析でヴェインバインドを解除して、ティアリスは立ち上がった。
それから、歩いている所を見たので足は治っているはずだ。
クレヴァとの戦いに参戦して、魔術を使ってくれていたけど……
シュウは目の前にいたクレヴァとの攻防で必死だったので、ティアリスが魔術で援護してくれた時はその姿を見ていない。
見たのは最後の合成魔術の時で、右手に持った杖を掲げていて、左手は……。
必死に思い出そうと、あの時のティアリスを何度も再生する。
思い浮かんだ像は、後ろに少し引いて垂れ下がった左腕。
(肩は治っていなかった?
いや、これほど血が出ていれば垂れてわかったはず……
あの時は傷が塞がっていた?)
益々わからない。
足は歩ける程ほぼ完治していたのに、肩の傷は余り治っていない。
『推測。
傷の優先度』
(優先度……?
足と肩……?
まさか……)
足を治すことで立つことを優先した?
ポーションの使い方には二通りある。
基本的なのは飲む方法。
そして、もう一つがポーションをかける。
飲む方法は内臓等の傷を治すのに効果的で、全身の外傷を平等に治す。
全身に複数傷があれば、高位のポーションなら治ってしまうかもしれないが、効果の低い下級のポーションならば、傷を平均的に治すため、深い傷は完治しない可能性がある。
その点、ポーションをかける方法は傷が深い場所にかけることで優先して治癒することができる。
治癒術師でもあるティアリスのことだ。
このことを知っていただろう。
肩と足の傷の深さを診断し、下級ポーションを飲めば両方の完治に届かないと判断。
ポーションを肩の傷に少しずつかけ、血が止まるところまでで止める。
そして、残りは足にかける。
それでほぼ足の怪我は治ったのだろう。
魔術は右手だけでも使えるが、足の怪我は機動力に直結する。
しかも先程は仲間はシュウしかいない。
足を引っ張りたくないために、そうした可能性が高いと思い至る。
(そんなこといいのに。
と、思うけど言えないな。
僕も同じ立場なら同じようにやった気がする)
シュウは魔法鞄から予備の下級ポーションを取り出し、見つめる。
(これがもっと上位のポーションだったら……)
ぶんぶんと頭を振る。
(今は過ぎた事を考えてる場合じゃない!
早く治してあげなきゃ)
そう心の中で言い、ポーションの蓋を開ける。
押せていた真っ赤なタオルをどけて、ポーションを少しずつかける。
「う、ううっう」
ティアリスから呻き声が聞こえるが、今は我慢してもらうしかない。
肩の傷が少しずつ小さくなり、薄皮が張り血が止まる。
清潔なガーゼを代わりの布を取り出し、ポーションを染み込ませて患部に当てる。
ガーゼがずれないように包帯で固定した。
包帯を巻くのに少しドキドキしたが、これで大丈夫だろう。
治療の出来に満足していると、体を拭いていた途中だったことを思い出し、ここまでして風邪を引かせてはマズいと慌てて続きを拭いた。
右腕を拭いている時は目を逸らして拭いていたが、肩を治療した後となると左腕を拭く際に小さな傷跡が気になった。
よく見ると右腕にもいくつか残っている。
もう塞がってしまった古い傷にはポーションでは治らないらしい。
ふと思い立って、今日痛めていた足首を確認する。
目立つほど腫れてはいないが、きつく拘束されていたのか蔓と接触していた部分が赤くなっている。
見れば見る程、ヴェインバインドをかけた魔術師にムカッとするシュウだった。
魔法鞄から最後のポーションと清潔なガーゼを取り出し、ポーションを染み込ませたガーゼを両足首に乗せておく。
赤くなっているだけなのでこれで引いてくれるだろう。
足の見えている範囲だと、腕程傷跡は残っていないようだ。
もしかして、今日行ったと思われる治す優先度は日頃から行っているのかもしれない……。
日頃から、足の傷を優先で癒し、腕の傷は最低限で。
魔術師なら足が無事なら最低限の行動ができる。
包帯のまかれた左肩と小さな傷跡の残る腕を見ながら、どうにか傷跡消せないかなと思った。
読んで頂きありがとうございます。
ええ、ええわかってます。
終わりませんでした。
本当はもっとサラッと終わって次の話へ
と、思ってたのですが。
次で終わるかな……




