① ここはどこ?じぶんはだあれ?
どうやら自分は…いや、おれ…かな?
うん、“おれ”にしよう。
どうやら、おれは…死んじゃってたみたい。
約、二時間ほど前…
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自分で言うのもヘンな話なんだけど、
自分が“誰”なのか分からない。まったく知らない。
一番古い記憶は、なぜか溺れていたこと。しかも静かに流れる川で。うすらうすらの記憶だけど、自分の背じゃ足もつかないくらい深い深い川だった。そのまま、身を任せるように流されていって気づいたらこのヘンなジャングルにいてさぁ〜…。
ジャングルだよ?ジャングル。
最初は見たこともない花や虫や鳥やなんやかんやで大パニックでさ。とてもじゃないけど、鼻歌を歌って怖さをごまかしてないと歩いてられない。ホントは未知の動物たちに「自分はここだよ」って言ってるようなもんなんだけどさ。
けれど、数十分もすれば人間って不思議なものでさ、慣れてきてしまったんだ。それよりも興味というか、好奇心のほうが勝っちゃって今は元の場所が解んなくなっちゃうくらい歩いちゃった。何歩、歩いたんだろうか。
それにしてもこのジャングル…暑すぎ…すんごいジメジメしてて服も汗でびちょびちょ。それでそれで、自分が着てるこの服、制服…なのかな…?学校…のだよね、多分。どこの学校に通っていたのかも、どんな友達が居たのかも、そもそも友達が居たのかも分かんない。
記憶がごっそり抜けている感覚なんだよね。けれど、なんというか思い出はよみがえってはこないけど“知識”はまだあるみたい。“ジャングル”だとか“学校”だとか、そういう言葉は知ってるし、理解してる。けれど、自分に関しての知識がまるでない。
でもね! ゆーいつ、知ってることがある!
それは、自分の名前が「茅蒔」であるということ!
なぜ分かったか、答えは簡単! 名札にそう書いてあるから!おまけに「5ねん2くみ」とも書いてある。ということは自分は…えーと、十歳…なのかな?よし、十歳でいこう!
というか茅蒔か…なんだか美味しそうな名前だなあ…まあ自分は断然、きな粉もち派なんだけど!
自分は…ち・ま・き… 自分は…茅蒔…よし、覚えたぞ!
そんなことを考えながら歩いているとちゃぷちゃぷと水の音が聞こえてきた…近くに川がある。水分補給できる…!そう思って少し早足で音のする方へ行ったんだ。するとそこには、記憶上のなによりも“キレイ!”って思えるような川があったんだ。ジャングルの中に!
自分は暑さに勝てなくてその川に思いっきり飛び込んだ。まるで夏休みみたいでしょ。あっ…“夏休み”…この言葉もいま無意識に出てきたなあ…これも知っている…と。
カラカラの喉に両手いっぱいに水を飲んだ。生き返るーー!!って感じだ。その時、気づいた。映ってる…自分の顔が…!このキレイな川に反射している!
どれどれ…と目を凝らすと…あらら…?
なんだか、自分で言うのも変な話だけど、女の子みたいな顔だなあ…肩まで伸びた黒い髪の毛に、ドングリみたいなクリクリお目目だ。それに、少しグレーっぽい瞳だ。
ん…まてよ、自分ってどっちなんだ?名前だって茅蒔でよくわかんないし……ええーい!!
《ばっ》
…よし!男子ですね! はぁー…モヤモヤがスッキリしたー!
しかしまあ…うーん、キライな顔じゃないな…うん!イケてる!これが自分…茅蒔の顔かあ〜…うんうん!思ったよりも良かった…正直、自分の顔がどんななのかが物凄く気になって不安だった。まあ合格でしょう!笑顔も作ってみたりして…あ、カワイイ…茅蒔、カワイイ…気に入ってきたぞ…自分の顔…!
水浸しになったからか、少し涼しくなれた。顔もばしゃばしゃと洗ってリフレッシュしとこう。 …それにしても、ここってさ…誰もいないのかなあ?自分だけ…?なんか急に不安になってきたなあ…さっきさ、きな粉もちのことを少し考えたもんだからお腹も減ってきちゃった…。なにか、食べ物ないかなあ…さすがに死んじゃうなあ…
《ガサガサガサ…》
「えっ…だ、だれっ!?」
不意な物音…どうしようどうしよう…。じ…自分が…食べ物に…なっちゃうかもしれない…!?
それに今初めて聞いた“自分の声”。少し、かん高くてまるで覇気ってやつが無い…ま、まあ…顔とは合ってるのかな〜…?
──って!そんなことどーだっちゃいい!!
今さっき、確かに聞こえたぞ…あきらかに風の音なんかじゃない。生き物が茂みで動いたような音だ…!も、もしかして…クマとか…? やっ…やばいやばいやばいやばい…死んだフリ…死んだフリ…
《ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ…》
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン…
自分…茅蒔の心臓の音がうるさいくらい鳴っている…。
殺される…きっとそうだ…クマかなんかがいるんだ…思わずうつ伏せになっちゃったよ…!!!
どうしようどうしようどうしよう…前が見えなくなっちゃった…すぐに逃げ出す体勢も…ダメだ…!!怖すぎて…勝手に足が震えて…立てない…
その時だ…急に“夜”になったんだ。
「はぁ…はぁ…なんか…?…暗くなった…?」
《ポタ…ポタ…》
なんだ…雨…?ジャングルの天気は変わりやすいのかな…?それにしても…なんだ…この雨…なんだか…ドロドロしてて…それに……
「…くっさぁあいい!!」
あ。 ──これヨダレだ〜…
「ふしゅるるるるるるるる……ふじゅ…」
「……ア…クマ……さん……?……」
「ふじゅるるるるるるぁおおおおおおお!!!!」
───猛烈ダッシュ。
ただ、それだけだ。自分は今、足に脳みそを移動させたかってくらい走ることしか考えてない!!!!
怖くて後ろが見れない!!!!関係ない!!!
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ!!!!!!!
はぁ……はぁ…はぁ……なんだ…全っ然…走れてる気がしない…それどころか今気づいたけど…景色が…変わってない…!?!?なんだ…なんだ…!?!?
それより…アイツはどこに行った!?追いかけてきてるのか…!?!?
──え?
「お前ばかだ名?死んでる野に死んだ不利を擦るとは」
自分はこの怪物にたった指二本で制服の首根っこを掴まれていた…宙に浮いた状態で…そりゃ…進まないわけだ…
それにこいつの声…気持ちが悪い…吐き気がするほどに…頭が痛くなるくらいに…不快感が…耳から頭の中に直接流れ込んでくるみたいだ……まともに聞くのはやめたほうがよさそうだ…
しかも、まじまじと見ると…狼のような獣の顔に長く長く伸びた鼻…そこにまるで虫がいっぱいくっついてるみたいに目がポコポコついている……バ…バケモノ…だ…
ク…クマの方がマシだ…お…おわった…。
「久々の霊肉だァ…よ〜く、叩いと可名けれ馬ッッ!!」
《ドッゴオオオオオオオ…!!!》
「あ……ぇ……?……」
ダメだ。もう無理だ。
恐らく叩きつけられたんだけどさ、全然…痛くないんだ。
…痛すぎて…痛すぎて…飛び越えちゃったみたいだ…。指一本も動かない…腕が…変な方向に…でも…足はまだ…大丈夫みたいだ…。いやいや、もうそんなこと関係ないか…。
すんごい…飛ばされたみたいだ…岩にぶつかったみたいだ…意識が……意識が…なくな───
……ん…?
……岩……!? このジャングルに…!?
吹っ飛びそうな意識をなんとか保ちながら…壊しちゃったであろう、後ろのモノを見てみる…
まあ、自分が壊したんじゃないんだけど…
──なんだ…コレ…ほこら?
…いや、まさか…お墓……???
それに、もんのっすごい量のおふだが…パラパラと、さっきの衝撃で自分の周りを舞っている…
ふと気づく、この巨大なお墓みたいなモノの…石の扉……自分がぶつかったからか、今にも開けれそうだ…!ここに避難するしかない…逃げ場はなくなるけど…もう考えてられない…!!
さっき指一本、動かないとか言ったけどナシ!!
死ぬ気で…死ぬ気で開けてやる……!!!
生きのびて…やるんだ…!!
《ぺたぺたぺたぺたぺたぺた…》
あいつが近付いてくる…!!
くそっ…!!開けっ!!開けっ!!なんでこんなに腕が細いんだ…茅蒔!!ちゃんと食べてたのか…!?
《がら……》
開いたぞ…開いたぞ…!!
まずい…カラダ中が痛くなってきた…もっと大きい痛みがきっとくる…!!はやく…はやく…この中に逃げなきゃ…!!
──よし…入れた…
あとは扉をもう一度、閉めて…
《ぺたぺたぺたぺたぺたぺた》
「うーん…?度こに痛ーー?」
「はぁ……はぁ……んくっ……はぁ…はぁ…」
気付いていない…!!
アイツが…このまま…諦めるのを待つしか…
──ん?なんだ…?暗いし、視界がかすんでて気付かなかったけど…このお墓の中…ナニカ…ある…?
───なんだ…なにか光ってるぞ…
緑色の……光……。
その光の中にナニカがある……?!
「なんだ…これ…… …ボロボロの…剣…?」




