表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

第二部 サキュバスになった私の幸せ エピローグ カイルの分からない感情

ホテルに泊まった帰り道にアランさんと出会ったことを思い出した私に、カイルさんは丁寧に明かしてくれた。実は婚約者として美鈴を選んでいたことや、その為に20年も待っていたこと。


一方で18歳くらいから家を出て一人暮らしをしながら、アランさんと一緒に夜ごと街へ出ては適当に精気を分けてくれそうな女性を探していたことなんかも。それはもちろん、エッチなことも含んでいたわけで。


複雑な気持ちにならないと言えば嘘になるけれど、そういう悪い遊びを経験した果てに私との出会いがあったんだからと思いなおすことにしている。過去は過去、どうやっても変えられないし、カイルさんは償って生きていくって決めているんだものね。だけど……


「カイルさん、一つだけわからないことがあるんだけど… 訊いてもいい?」


私は四人分のカップをテーブルに並べながら問いかけてみる。カウンターキッチンではカイルさんがティースタンドにサンドイッチやケーキを切り分けて、並べている所だった。


今日のメニューは私のお気に入りなきゅうりのサンドイッチとスコーンにラズベリージャムとクロテッドクリーム、それからマスカットタルトにレアチーズケーキだ。


「答えられる範囲でならいいよ」


そんなことを言いながらテーブルにティースタンドを置く。それから私の代わりにガラスのティーポットにお湯を入れてくれた。


「カイルさんと一宮さんってどう出会ったの? 所属事務所が同じだからっていうだけじゃ、なかなか出会わないと思うの」


「あははっ、まあそうだねえ。そんな派手な出会い方じゃないんだけどな」


そう言いながら私に先に席へ座るよう促すと、丁寧な仕草でガラスのカップに紅茶を注いでくれる。それから自分も隣に座ると、


「俺とアランは出会いの場としてホストクラブに出入りしたことがあってね。その時、アルバイトでヘルプをしてた琉偉くんと出会ったんだよ。稼ぐ理由を話したらひどく説教されてね。で、どうせならもっと売れる方を選べってことで、アランは俳優、俺はモデルに応募させられたんだ」


どこか懐かしそうに語ってくれる。その横顔は屈託がなくて、悪い思い出じゃないことを語っていて、聞きながら安堵してしまう。


「じゃあ、アランさんもその時に説教されたの?」


「まとめて叱られたよ。彼、面倒見がいいからね。自分も悪い遊びしてたから余計だったのかもね。まだ10代のうちに見た目が売れることを知ってしまった俺達を見過ごせなかったんじゃないかな。俺も見過ごせなかったけどね。あんまりにも金がなくてさ。住む所もない有様だったから」


「住む所がないって! 一宮さん、すごいね。そんな所から今みたいなところにまで這い上がるなんて」


なんとなく五月さんとの仲良くしている所が浮かぶ。


あんなに呑気に見えるけれど、こんなに苦労してたなんて… 美鈴の話では昴流さんも苦労して今の俳優さんになったみたいだし。カイルさんも売れるまでは苦労したりしたのかな?


食べるのにも困る生活をするカイルさんが全く想像つかないし、実際、そうなったら全く食べなくなっちゃいそうだけど…


「俺のこともすごいと思ってくれる?」


「カイルさんはいつもすごいと思ってるよ。何でもできるじゃない」


「必要だから覚えただけだよ。なんて言うと君に怒られちゃうかな」


実際、私は唇を尖らせて拗ねるしかない。努力しても埋められないくらいレベルの差がありすぎて、悔しくなるのもバカバカしくなるくらいなんだもの。


「君だけが俺の心を潤してくれている。だから、尽くしたいと思うんだよ」


カイルさんは笑みを深めてついばむようなキスをくれたかと思うと、そんな本音を明かしてくれた。ふとアランさんのことを思い出して、


「アランさんも、私とカイルさんみたいな出会いがあると良いのにね」


と哀れみを込めて言う。すると、カイルさんはそっと私を抱き寄せた。


「カイルさん…?」


「残念ながら、俺にはない感情があるんだ。悪魔族の血を引く代わりみたいに、俺には一滴も人間の血が流れていない。…だから、アランを憐れむ気持ちが分からないんだよ。アランのこと、怖くないのかい? 詩織」


完全に怖いと思っていないかというと嘘かもしれない。けれど、カイルさんと長く一緒に過ごしてきた人だと思うと、憎むこともできない。私はどこか寂しそうに見えるカイルさんの背にそっと腕を回して、


「アランさんは寂しかったんだと思うの。ずっと悪い遊びを一緒にしてきた人が恋人を作ったんだもの… だけど、カイルさんが私に恋をしてくれたように、アランさんも誰かに恋する日が来ると思うの」


とカイルさんの味わっている罪悪感ごと包み込むように語った。恋をしたことで気づいてしまった罪があるのかもしれない。それでも、私に恋をしてくれたカイルさんを否定したくない。


それに、いつまでも見た目だけで魅了された女の人達ばかり相手にするような、そんな荒んだ生活をしてほしくないとも思う。なにが正しいかなんてわからないし、なにがカイルさんの幸せなのか分からないけれど。


「アランが誰かに恋を… そうしたらあいつも変わってくれるのかな。俺にはまだ想像もできないんだけれど」


「ふふっ、大丈夫。きっと素敵な出会いをするから。その時にアランさんも自分の罪に気付いて辛い思いをするのかもしれないけど、それでも一人ぼっちで悪い遊びをするよりはいいと思うの」


「そうだね。俺はようやくアランとの関係が何だったのか分かったよ。ああいうのを傷の舐めあいと言うんだってね。そんなのはいつまでも続けられるものじゃない。いつかは終わりにしないといけないんだ。詩織、気付かせてくれてありがとう」


笑みを浮かべているけれど、どこか切ない感じに瞳を揺らめかせて言うと、カイルさんは昼間から交わすには少しセクシーなキスをくれた。私はまだついていくので精いっぱいだけれど、でも幸せな気持ちにしてくれた。



そんなセクシーな場面を一緒にティータイムを過ごしに来てくれた一宮さんと小菅さんに見られて、ちょっと怒られたけれど……


これにて第二部は完了です( ^^) _旦~~ カイルくんの完璧超人ぶりは楽しかったです。その為に色々と努力したのでしょうけれど、詩織ちゃんの前ではそんなのかけらも見せなくて。第三部があったら、また是非ともお付き合いください。感想くだされば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ