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第二部 サキュバスになった私の幸せ 四話 初めて交わすガールズトーク

どこか呑気に見える一宮さんだけど、やっぱりプロの俳優さんで。


「どう? 一応、私服だけれど、それなりに見えるといいな」


支度をして現れた姿はとっても華やかで素敵なイケメンだった。空気まで輝いて見えそうなくらいで。カイルさんはいつでも雑誌の撮影に使えそうな感じだけど、この人はオンとオフがはっきり分かれているタイプなのかな。


「カイルさんと違うタイプだけど、素敵ですよ」


「そりゃよかった。見栄えしないといけないってのも面倒だよ。普段は本当に雑な格好してるんだけどね。今日はバックステージを撮る日だから」


「そうなの。撮影やら取材やらの度に私が選ばないといけないの。琉偉が選ぶと古着ばかりになっちゃうから」


隣で小菅さんが苦笑交じりに説明してくれる。じゃあ、あれは本当に素顔も素顔だったんだね。着替えて寝ぐせまで直した姿は華やかなのに、さっきまで捨てた方が良いくらいのゆる~いスウェット姿だったし。


カイルさんはどうだったっけ。こんなにギャップも激しくオンとオフを使い分けてたっけ? 寝る時はさすがにTシャツとハーフパンツになるけど、それでも素敵に見えるから不思議で…


「さあ、行きますか。五月」


「えぇ、それじゃあ本格的に仕事だけれど… 今日は大したことしないから気負わなくても大丈夫。ね?」


「あ…! そうでした。よろしくお願いします」


慌てて頭を下げてみたけど、仕事だってことを忘れていた自分を反省する。


二人とも本当に大人で優しいから。それに一宮さんが想像していたよりも緩くてのんびりした人だってことも大きい。その分、小菅さんがとってもしっかりしていて。…純粋に尊敬できるし、素敵なカップルなんだなあって見惚れていた。仕事だってことを忘れるくらい、カイルさんとのことばかり考えていて。



そうやってようやく始まった私の仕事だけれど、今日は一日中、舞台の稽古なので私はあまりやることがなくて。ぼんやりと一宮さんの稽古を観察しながら、カイルさんのことを考えていた。


「五月、セリフを確認するから入らないでほしいんだけど」


「了解。1時間くらい猶予あるからランチにしてくるわ」


「OK。御木本さんとのんびりしてきていいから」


そんな短い会話だけで仕事の話を済ませると、一宮さんは共演する俳優さんと一緒に個室へこもってしまって。


「小菅さん、いつもこうなんですか?」


「まあ、大体はそうね。集中する時は私をあえて遠ざけたがるの。ああなると1時間じゃすまないし、今のうちにランチにしましょうか」


私を見下ろして言った顔は少し寂しそうだけれど、深い信頼を寄せていることも分かって、余計に羨ましくなった。それだけ一宮さんは俳優としてのびのびとできてるってことなんだよね。


「日向さんはどうなの?」


「家で仕事してるところを見たことないです。帰ってくる時も明日がお休みの時はホテルや旅館に泊まってのんびりしようって連れ出してくれるし」


「あら、そうなのね。付き合ったばかりの頃を思い出すかも。琉偉もそうだったわ。私の前では筋トレやセリフの暗記なんかをしたがらなかったの」


二人で稽古場の近くにあるカフェに入りながら教えてくれた。朝ごはんがベーグルサンドだったからだろう。小菅さんは適当にキノコのリゾットを選んで注文すると、お弁当を持ち込んでいる私の為にテラス席を選んでくれた。


とはいっても真夏でもなければ風も強くないし、静かで居心地がいいくらいだ。お店の中だと小菅さんがモデルみたいに華やかで注目を浴びちゃうから。


「一宮さんもそうだったんですか?」


「えぇ、そんな感じ。さすがにこんな可愛いお弁当を作ったり、メイクまでしてくれるような完璧さは欠片もなくて、逆にこっちがお世話するようだったけどね。おかげで料理の腕が上がっちゃったわ」


「私も料理くらい覚えたいんですけど、なにをしてもカイルさんの方が上手なんです。俺だけのお姫様でいてほしいってあんまり教えてくれないし。だから、今でもトーストくらいしかできなくて」


流石に驚きを隠し切れないんだろう。小菅さんがリゾットを食べる手を止めて言葉を無くしてる。なにかおかしいこと言ったのかな? でも、いいよね。大人の女性なんだものね。小菅さんとはあんまり年の差なかった気がするけど。


「本当はもっと色々と俳優さんとして努力しないといけない時期だと思うんだけれど、無理してないかなって心配で」


「心配なのは私も同じよ。琉偉はどこまでも努力しちゃう人だから。最近になってようやく休むことを覚えてくれたけれど… それまでは寝る時間を削ってまでカロリー摂りすぎたからって筋トレしたりしてたのよ」


その言葉に初めて小菅さんと共通点が見いだせて嬉しくなっちゃう。大人の女性で車を運転しながら営業までできちゃうキャリアウーマンに見えたのに。


「琉偉はいつもそうなの。俳優として体型維持したいからって、すごく厳しくカロリーコントロールしてる。ストレスで逆に大食に走ったりしないか心配になるくらいね」


「そうだったんですね。美鈴から聞いたことあります。昴流和希さんって人もそうだって。あの人は太りやすい体質だから余計に気にしてるみたいです」


「昴流さんともお知り合いなの!? 美鈴さんってお友達?」


小菅さんとなんとなく話をしながら色々とカイルさんには言えなかったことを話す。そんな私につられてなのか、小菅さんも雑誌の取材じゃ見えてこない一宮さんの素顔を教えてくれて。


「へ~ぇ、今はあなたのお友達と真剣交際してたなんて… それに意外だわ。和食が得意だったなんてね。日向さんはおねだりすれば何でも作ってくれそうだけれど…」


「全体的にカフェごはんみたいなのが多いです。和食はあまり好きじゃないのかな? 一人のお昼ご飯が野菜不足かもって言ったら、ポトフとかトマトスープを作り置きしてくれましたし。レンジで食べられるように冷凍してあって」


「単純に好きなのかもね。そういう見栄えのする物が。あなたに喜んでほしいっていうのもあるでしょうけど」


小菅さんの言葉で我に返る。今日までカイルさんの好みとか考えたこともなかった自分に。だけど、何も全部が全部私に合わせてくれているわけじゃないのかな? まさか、自分の好みでもあったとか…? そうだといいな。


「本当はあれくらい完璧になれたらって思ってます。カイルさんはそんなの求めてないみたいですけど」


「うちの琉偉に言ってほしいことだわ! 気を抜くと寝間着みたいな恰好で外を出歩くし… 今日はずいぶんと格好つけてた方なのよ。朝早く起きてひげ剃ったし、すんなり起きてきたし」


「二度寝したのにですか? すごいですね。お仕事の時はあんなに素敵なのに… ギャップについていけなくならないですか?」


今朝のことを思い出す。大きなベッドの上でうつぶせに寝ていて、小菅さんが思い切りよく大声を出して起こしていたっけ… いつもカイルさんの囁く声で起きる私がおかしいみたい。


「日向さんはそんなことないの? 二度寝して遅刻とか」


「今のところ、一度もないです。いつも私が起きる頃には朝ごはんまでできてるし、おひげ剃ってる所なんて見たこともないし」


むしろ、カイルさんの寝ている所を見るなんて珍しいくらいだ。珍しくて撮影しておきたいくらいなのに、いつも二度寝しちゃって… もったいないことをしたなあって思うほど綺麗で。


毎晩、私を愛してくれた後も無理をさせたからって美容師みたいに髪を丁寧に洗ってくれるし… このままじゃ甘えすぎてダメ人間になっちゃいそう。でも、それくらい大事にしてくれているんだよね。


対等になるって、どういう事だったんだろう。カイルさんみたいに完璧になれたら対等になるって思ってたけど、そんな単純なことでもないみたい。…どうすればいいの? 分からないけど、努力できるならしてみたい…!


努力して対等の関係になれたら、カイルさんを支えるってことができるかもしれないのに。


いつからだった? どこか張りつめて見えるようになったのは…? 思い出さないといけないのに思い出せない。どうにかして思い出したいのに…


深く考えた途端、記憶の底から真紅の目をした美青年が浮かぶ。


……俺は桐生アラン。夢魔族より上位種のヴァンパイア族さ。今はこの見た目と声を生かして俳優兼歌手をしているんだ。以後、お見知りおきを……


少年臭さの香るイケメンだったのに声がやけに低くて… 何か怖い思いをした気がするのに…


「桐生アラン…? 誰だったっけ?」


「御木本さん? その人がどうかしたの? 大丈夫?」


どんな風に見えているんだろう。小菅さんが心配そうに見下ろしている。何か言わないといけないのに何も言えない。


「ようやく思い出してくれたんだ? カイルのお姫様」


その声で全身が震えだす。どうして忘れていたんだろう。ホテルに泊まった帰り道、この人が待ち伏せしていたのに…!!

お待たせしました( ^^) _旦~~ アランくん(-ω-;)悩みました。この人、めっちゃ書きにくくてですね。私が悪役が苦手なせいなんですが… でも! あと少しでハッピーエンドです。お付き合いくだされば幸いです。感想くださればもっと幸いです。

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