04 蜘蛛の糸
自殺者は、計16名にのぼった。これだけの自殺者が出たにも関わらず、警察の捜査は難航しているようだった。何より自殺ということでは警察も動きにくいのだろうが、新聞からは捜査の進展を全く伺うことが出来なかった。
自殺者は誰一人、遺書やその他真相を語る手がかりを残していなかったため、伊山もまた警察同様、途方に暮れていた。自殺者の中でいじめられていた子供はいたものの、それはごく少数であり、全員に当てはまる共通項ではない。伊山は事件に関する有力な情報を得られぬまま数日を過ごし、ついには東京に帰った。
1週間の滞在は失敗に終わったのだ。憂鬱な気持ちで東京に帰ると、案の定上司は怒っていた。
「突然会社を出て行って1週間も帰らなかった上に、何の情報も得られなかったそうだな」
もう50歳になる上司は、はげあがった頭に油をにじませてそう言い放った。小言を言われなくとも、伊山は自己反省を怠ったことは無い。勿論、上司に何と言われようと、仕事のスタイルを変える気も無いのだ。
「部長、怒られるのも当然理解しています。しかし、情報はスピードが命。あいにく部長はデスクにおられなかったですし、伝言は頼んでおいたはずです。それに情報を得られる可能性があると思い行ったのであって、確実に情報が得られる仕事なんて今までありませんでしたよ」
「それにしてもだな…」
部長はまだ小言を言い足りない様子だったが、伊山の携帯電話の着信音に言葉を遮られた。見知らぬ番号が表示された電話に一瞬戸惑ったが、すぐに電話に出た。
「はい、伊山です」
「………」
「伊山ですが、どちら様でしょうか」
「…初めまして…工藤公子と申します。あの、工藤ゆかの母です。…郵便受けに電話番号があったので、それを見て連絡させていただきました」
ひどくおどおどとした口調で女性はそう言った。
工藤…ゆか…?まさか。思わぬ幸運だ。途絶えたと思われた事件の手がかりが、目の前に突如現れたのだ。
「わざわざご連絡いただけるなんて。どうしましたか」
「……はい…実は事件について、お話したいことが、ありまして…」
「分かりました。今は東京にいるので、すぐに向かいます。そうですね、明日の13時頃お会いできますか」
「はい…大丈夫です」
「では、ご自宅の近くではご迷惑かもしれませんので、少し離れた喫茶店でお話をお伺いします。場所はすぐに住所を調べてご連絡します」
伊山はそう言って電話を切ると、逸る気持ちを抑え会社を出た。宙に浮いてしまった上司の小言を、誰か他の人にぶつけることになるだろうが仕方ない。
そして伊山は再び湯佐市へと向かう。勿論今回は新幹線で、だ。