19.助けて
「オレからでもいいか?」
「はい、大丈夫です」
わたしは皇太子様からの話を先に聞くことにした。
皇太子様がどんな話をするかは分からない。
多分わたしにとっていい話だとは思うけど、ネガティブな方向で考えてしまうわたしもいる。
例えばわたしのことはもう好きじゃないっていう話かもしれない。
それはあり得ないと分かりつつも、もしかしたら、という最悪な展開を想像してしまう。
でも嬉しいことであってほしいと願いながら、わたしは話を聞くことにした。
「リエリアはオレのことをどう思っているのか、改めて教えてほしい」
皇太子様は話というより、質問といったほうがいいことを話した。
皇太子様が言ったことには、自分はもちろんわたしのことが好きだ、という意味が込められている。それが伝わってきた。
わたしが皇太子様をどう思っているか。
そんなの決まっているし、わたしは伝えると決めたんだ。
「わたしは……皇太子様のことが好きです。離れるのが嫌で、会えないと理解した時とても苦しくて、会いたいと心の底から思いました。それで確信したんです。わたしは皇太子様のことを好き、いいえ、愛しているということを」
わたしの想いを素直に伝える。
この想いを伝えることで皇太子様と通じ合えた。
「ありがとうな。リエリアがオレのことを愛してくれて、オレはとても嬉しい。もちろんオレもリエリアのことを愛している」
良かった、本当に良かった。
これで皇太子様と一緒にいることができる。
わたしは皇太子様のことを好きでいられるんだ。愛していられるんだ。
「わたしも、とても嬉しいですっ!」
わたしは嬉しさのあまり、涙が溢れてきた。
そんなわたしの姿を見た皇太子様は慌てたけど、わたしが笑うと安心してくれる。
わたしはその姿を見て、ますます嬉しくなった。
「じゃあ、リエリア。オレはリエリアの傍にいてもいいんだよな?」
「当たり前です。わたしも愛する人とずっと一緒にいたいですから」
皇太子様が分かりきった質問をしてきたので、わたしは素直な気持ちを言葉にする。
それも皇太子様のことを好きではなく、愛すると表現した。そのくらい想っている。
「リエリア、オレは欲張りな人間だから言わせてほしい」
皇太子様が妙な前置きをする。
わたしはなんだろうなと思いつつ聞くことにした。
「オレの傍にずっといてくれ。オレから離れないでくれ。オレをずっと愛してくれ」
皇太子様は自分の欲をわたしに伝えてくれる。その欲をわたしは欲張りとは思えない。だってわたしも欲しいと思っているものだから。
同じ想いを持ってくれている皇太子様がますます好きになる。
「わたしも同じ気持ちです。わたしの傍にずっといて、わたしから離れないで、わたしを永遠に愛して。そして皇太子様の隣にいさせてください」
皇太子様は欲張りなんかじゃない。わたしの方がもっと欲張り。
皇太子様のことをもっと知りたいと思うし、皇太子様のことを独り占めしたいっても思う。それに皇太子様を誰にも渡したくない。
わたしは独占欲が強いのかもしれない。
「オレとリエリアは同じ想いを持っていたんだな」
「そうみたいですね」
欲の深さは置いておくとして、抱いている想いは一緒。
同じ想いを持っていたのに、あんなに拗れたのか。それを追求したら原因はわたしに行き着く。だから今はまだこのことは心の片隅にしまっておこう。
「皇太子殿下! 王国の騎士団と思わしき集団が追いかけてきています」
窓から騎士達の一人が皇太子様に報告してきた。その報告を聞いた皇太子様は窓から身を乗り出し後ろを見る。
そして皇太子様は騎士達に指示を出す。すると先ほどよりも馬車が早く走るようになった。
「追っ手がいるのですか?」
「ああ、だがもうすぐ帝国に入る。そこまで行けば追ってくることはない」
「そうなんですね。良かったです」
「安心しろ。何かあってもオレが守るからな」
「いいねぇ、そのセリフ。おれちゃんも使っちゃおうかなぁ」
皇太子様がわたしを安心させてくれた。その時、馬車のドアが突然開き一人の男が入ってきた。
突然のことでわたしはパニックになり、皇太子様は剣を抜いた。
男は全身真っ黒の服を着ている。そして短剣を左手に持っていた。
「おぉ、怖いなぁ」
「誰だ!」
「おれちゃんが誰かって? 名前は名乗れないけど、これを見せてあげるよぉ」
その男は名は名乗らない代わりに、口を大きく開き舌を出した。
男の舌には何かのマークらしき模様が描かれていた。
「まさか! 〈漆黒の夜〉だと!? なぜお前みたいなのがここにいるんだ!」
「なぜって? それは国王っちに依頼されたからだよぉ。今回の報酬はいつもの倍以上だからねぇ」
〈漆黒の夜〉というのは知らないけど、皇太子様の反応からして危ない人なんだろう。
それに国王陛下が依頼をしてわたし達のところへ来たと自ら言っている。
「まぁ、おれちゃんが用があるのは、王女ちゃんだから」
「いたっ!」
「じゃあねぇ、皇太子ちゃん」
わたしが慌てて皇太子様の後ろに行こうとすると、男がわたしの腕を掴み自分の方へ引っ張った。
そしてわたしは男に担がれ、馬車から出ることとなった。
「リエリア!!」
「皇太子様!!」
皇太子様も馬車から飛び降りわたしを追いかけてくれるけど、男は森の中に入っていく。そのすぐあとに皇太子様は見えなくなってしまった。
「離してください!」
「えぇ、おれちゃん悲しいよぉ」
「離して!」
わたしは離れようと必死に抵抗するが、男の力が強く離れることができなかった。
離れるため暴れていたわたしに男は甘い液体をわたしの口に流し込んだ。
「何、飲ませ、て……」
「ちょーっと眠ってもらうお薬だよぉ、ってもう寝ちゃったねぇ」
わたしはその液体を飲んだ直後急な睡魔に襲われ、気絶するように眠った。
皇太子様、助けて……。
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「ラディウス様、どうなされたんですか」
「リエリアが、誘拐された」
慌てて走ってきたギアル。オレは言いたくないことを口にした。
それを聞いたギアルは驚きながらも、他の騎士達にリエリアを探すよう指示を出す。
「ラディウス様、一度帝国に行きましょう」
「何を言っている! リエリアを置いていくというのか!」
「違います。救援を呼ぶためです」
「ならば誰か一人を行かせればいいだろ! なぜオレが行かなければならない!」
「落ち着いてください。ラディウス様がいれば確実に救援が来ます。それにラディウス様が狙われないとも限りません」
オレはリエリアを誘拐されたことによった焦りでギアルに怒鳴ってしまう。
だけれどギアルはオレを落ち着かせようとしながら話を進めた。そのおかげでオレも冷静さを取り戻すことができた。
「それでもオレはリエリアを探す」
「ラディウス様のお気持ちはわかります。けれど無闇に探しても見つかりません。リエリア王女を見つけたいのなら、理解できますよね?」
「……分かった。だが明日の正午までに見つけられなければ……オレは」
オレは時間制限を設けることにした。
その時間内でリエリアを見つけられなければ、オレはこの王国の全てを滅ぼす。
そう心に誓い、行動を始めた。




