第三十九話「スゥーミラとダリの街 後編」
評価・ブックマーク有難う御座います。
「自己紹介がまだでしたね。 僕はアイエル様の専属執事を努めております、ロゼと申します」
ロゼと名乗った眼帯の少年は、そう言って礼儀正しく頭を下げる。
「それから、こちらがお仕えするアイエルお嬢様です。
訳あって家名は伏せさせて頂きます事を、お許し下さい」
「アイエル… です…」
アイエルと名乗った少女は、人見知りなのか少年の陰からじっと私の様子を窺いながら、そう自己紹介する。
「えっと… 私はスゥーミラと言います。 お二人の保護者の方はどちらに居ますか?」
「申し訳ありません。 僕がアイエル様の保護者になります。
これでも旦那様より直々に勅命を請けている、一人前の執事に御座います」
そう言って執事の少年は胸に手を当てて綺麗にお辞儀をする。
って、そこのお嬢様と同い年にしか見えないけど、一人前の執事って… この少年の主は一体何を考えてるの?!
私のその思考を読んだのか、執事の少年は付け加える。
「混乱なさるのはごもっともだとは思いますが、事実に御座います。 ご主人様にはちゃんと僕の実力を認めて頂いております。 嘘だとお思いなら試して頂いても大丈夫ですよ」
そう言って執事の少年は微笑む。 すごい自信… 俄かには信じがたいけど、試す方法が思いつかない…
「そう言われても、本当に家出とかだったりしない?
家名も隠して、なんか訳ありっぽいし…」
「一応お忍びですので…」
「ロゼは嘘なんてついてない。 私の我がままに付き合って貰ってるだけ」
私と執事の少年のやり取りに思うところがあったのか、今まで黙っていたお嬢様が口を挟む。
うーん、お嬢様に言われても説得力ないよね… どうしようかな…
私は少し考えて、取り敢えずその問題は置いておくことにして別の質問を重ねた。
「分かったわ、それはそうと二人は何処から来たの?」
「えっと西から、ある秘薬を求めて旅して着ました」
私は執事の少年の言葉に「秘薬?」と聞き返す。
「はい。 秘薬と言うか本当にあるかどうかも定かでない神薬なんですが、古代龍の血と言う万病に効くと噂されている薬がある見たいなんです。 スゥーミラさんは何かご存知ではないですか?」
執事の少年の言葉に私は驚いた。 ヴィリー様の受けた依頼と、同じ神薬を探しているらしい…
この街には古代龍の血を求めて来る人が、まだ他にも居るかもしてない。 もしかしたら古代龍の血の事を知ってる人が現れるかも知れない。
「えっと、私も知らないです…
私もパートナーと一緒に、古代龍の血の情報収集の依頼でこの街に来たくらいだから、逆に何か知ってる事があれば教えて欲しいくらいだもん…」
私がそう答えると、少年は「そうですか… 何か知ってる事があればと思ったのですが…」と残念そうに呟く。
「あの、良かったら私と一緒に来ますか?
今、私のパートナーがギルドで情報を集めてるはずなので、何か分かるかも知れないですよ?」
私の提案に、執事の少年は食いついた。
「良いんですか?」
「情報を集めるなら人手が多い方が良いですしねぇ… 多分大丈夫」
「有り難う御座います」
「じゃあ、私に着いてきて下さい。 今からパートナーの所へ向かうので」
言いながら私は、ヴィリー様をパートナーと言った事に顔がニヤケる。 パートナーで間違い無いよね? 一人心の中でそんな事を思いながら、ヴィリー様の待つ冒険者ギルドへと二人を連れて向かった。
◆
カランコロンと音をたて、私は二人を連れてギルドの扉を開くと中へと入る。 ギルドに入ると一斉に冒険者達の視線が私達に突き刺さり、そして興味を無くして各々何事も無かった様に視線がちりじりになる。
私はそんな彼らを気にする事なくヴィリー様を探した。
「ヴィリー様… ヴィリー様はっと… 居た!」
私はカウンターでギルド職員と話すヴィリー様を見つけ、駆け寄った。
「ヴィリー様ぁ お待たせしましたぁ」
私のその声に気付き、ヴィリー様は振り返る。
「ちゃんと宿の手配してきましたよ」
「そうか、すまんな」
ヴィリー様はそう言って、私の後ろから着いてきた二人に目をやる。 警戒してるのかも知れない。 そう思い私は慌ててヴィリー様に二人を紹介する。
「えっと、紹介します。 私とヴィリー様の隠し子です!」
私がそう言うなりヴィリー様のゲンコツが私の頭に炸裂する。
「げふっ!… 痛いじゃないですかぁ」
「お前の妄言に子供達を巻き込むな!」
怒られた…
「で、本当のところどうなんだ?」
「えっと、二人はさっき冒険者の男に絡まれて居たので助けたんですよ。 で、古代龍の血を探してるって言うんで連れて来ちゃいました。 えっと名前は…」
あれ? なんだっけ? ど忘れしちゃった…
まぁ良いか、適当に紹介する。
「執事くんとお嬢様です!」
私がそう適当に紹介すると、ヴィリー様のゲンコツがまた私の頭に炸裂する。
「あ痛ぁ!」
「見れば分かる紹介は要らない」
そんな私たちのやり取りに、執事の少年は「クスッ」と笑い、自己紹介をする。
「あの、初めまして、お嬢様の執事を務めておりますロゼと申します。
そしてこちらが僕のお仕えするアイエルお嬢様です。 お二人は仲が宜しいのですね」
「少年、勘違いするな。 コイツはただのストーカーだ」
私はその言葉に「酷い!」と抗議の声をあげる。 しかしヴィリー様は私のその言葉を無視して話しを続ける。
「まぁコイツは無視する事にして、古代龍の血を探してるってのは本当か?」
「はい… 僕達はダルダイル大峡谷なら、古代龍が居るかも知れないと言う話しを元に、ダリの街までやって来たんです」
「居るかも知れないって… ダルダイル大峡谷がどう言う場所だか分かって言ってるのか?」
「竜の住処… ですよね」
「ああ、ここの冒険者でも迂闊に近づかない危険地帯だ。 今ギルドの人に色々話しを聞いて分かったわ事だが、噂の元になったのは一人の盲目の病を患った冒険者らしい」
「盲目の冒険者ですか?」
少年の問い掛けにヴィリー様は「ああ…」と答え、詳細の説明をはじめる。
「目が見えないのに冒険者を続けてたんだ、それなりに実力があったんだろうな… その冒険者は修行の為と言って竜が住まうダルダイル大峡谷に挑んだらしい。
しかし彼の実力では話しにならず、大怪我を負い、もうダメだと諦めかけた時、偶然にも言葉を話す古代龍に助けられた。
そして、その古代龍は人族がダルダイル大峡谷に踏み入る事を禁じる為のメッセンジャーとして、その男を利用したんだ… そしてその古代龍は、竜と人の不可侵の為の尖兵となる事を条件に、その男の病を古代龍は自らの血と引き換えに治した。 それが古代龍の血の、噂の元になったと言う話だそうだ」
説明を聞き終え、「なるほど…」と少年は呟く。
「と言う訳だから、古代龍の血は諦めるのが賢明だ。 分かったか少年」
「ご忠告有り難う御座います。 古代龍の血を手に入れる為にはどうにかして古代龍と会う必要がありそうですね」
「バカを言うな少年! お前達の様な子供が行く所じゃない」
「そうですね、失礼しました。
どうにか古代龍の血を手に入れれないか、暫くこの街で探ってみる事にします」
「あ、ああ…」
そう言って素直に引き下がる少年に、ヴィリー様と私は違和感を覚えながらも何も言う事ができなかった。
「そっちの事情は分からないが、くれぐれもダルダイル大峡谷に行こうなんて考えるなよ」
「はい… それでは僕達はこれで失礼しますね。 今日の宿も探さないといけないので…
色々とありがとう御座いました」
そう言って執事の少年は深々と頭を下げてギルドを出ていく。
「ねぇ… ヴィリー様…」
「ああ、そうだな。 ああは言っていたが、それでもあの二人はダルダイル大峡谷に行きそうな感じがしたな… 少し様子を見ていた方が良いだろう」
私とヴィリー様はお互いに頷き合い、二人の後を尾行する事にした。




