Record.003 戻れない違和感
龍は端末を閉じる。
閉じたはずなのに、まだ文字が残っている気がする。
「接続継続中」
目の裏に焼き付いているだけだと、自分に言い聞かせる。
部屋は静かだ。
静かすぎる。
いつもなら、それで終わる。
仕事を終えて、飯を食って、寝る。
それだけのはずだった。
でも今日は違う。
コップを取る。
手が少しだけ遅れる。
“落としたらどうなるか”を考えてしまう。
前なら考えなかったことだ。
落ちる。
割れる。
それだけのはずの現象が、今は途中で止まる気がする。
龍は小さく息を吐く。
「くだらねえ……」
そう言いながら、コップを机に戻す。
でも戻す動作が少しだけ遅い。
まるで“確定するのをためらっている”みたいに。
窓の外を見る。
都市は変わらない。
人も動いている。
何も壊れていない。
なのに、
“全部が一回壊れかけたあとに見える世界”になっている。
龍は椅子に座る。
座るだけの動作に、少し疲れる。
こんなことは今までなかった。
ただ情報を見ただけだ。
ただ仕事をしただけだ。
それなのに。
「なんで……こんなにうるせえんだよ」
誰もいない部屋でそう言う。
返事はない。
当然だ。
でも頭の中では声が止まらない。
観測。
構造。
神崎。
ドラゴン戦争。
全部が“説明”じゃなくて“圧力”になっている。
龍は机に額をつける。
「知らなきゃよかったのか……?」
その問いだけは、端末より重い。
答えは返ってこない。
ただ静かに、
現実だけがそこにある。
でもその現実はもう、
以前と同じ重さではなかった。




