1-3 黒の塔に到着
アイキはアーレンの観察を始める。その観察は神をも超えるだろう。神はその視点を動かさないだろう、そして上からの目線で全ての事柄を捉え記憶するだろう。アイキはその下からの視点を存分に動かすだろう、そして尊い眼線で以て全ての事柄を愛で記録するだろう。その愛の深さは藍よりも青く、海よりも深い。どこまでも続く無限の荒野を駆け上る野生のナウシカの如く、彼の情念が途切れることはない。幼女が西に下着を脱ぎ忘れたとあれば西に持っていき、幼女が東で新しい靴下を落としたと聞けばその靴下を持っていき、南に幼女がブラジャーのサイズが合わなくなったと聞けば、ぴったりのサイズを持っていく。彼は幼女を愛でるのが得意だった。それがミミックになったとしてもその精神は微塵までも揺らがない、鋼の精神で以てその全てを貫くのみ。
アーレンが食堂での給仕を終える。スーザン叔母さんはもう寝るようにと告げる。夜は酒場になり、ガラの悪い冒険者がやってきては、騒ぎ立てる。その冒険者を諌めるのは嘗てA級冒険者であり神速を謳われたアレンナであった。その剣技は数多くの冒険者を魅了し婚約の申し込みが後を立たなかったという。そんなアレンナも今では夫を持ち、こうしてここで酒場の娘として働いている。
「おっと、アーレンちゃんじゃないか?まだ若いのに、えらく出来た子供だ。俺も一人か二人欲しいぜ」
「おやっさん、子供なんて作りたいんすか?俺たちフリーの底辺傭兵には夢の夢のその又夢ですよ、家庭を持つなんだぁ無理に決まってますぁ」
「俺たちは、傭兵。敵を斬って斬って斬りまくるのが仕事。おい娘、ここは怖い人達が来るから、早くどっか行きな」
ふっ、もしガライという傭兵がアーレンを攫おうとでもするのなら、この命を果ててでも身代わりになるつもりだったね。ま、その時は永遠に来ないがね。ガライは傭兵であり、フリーつまり専属契約を持ってない。傭兵ギルドへ日々向かい契約を交わしその日を生きるのだ。その手下の名前はゲノブ。彼は顔面に怪我を負っており片目が見えていないようだ。彼がガライの意見に肯定を示していたのなら、今頃このあたりはアイキの血の海で染まっていただろう。最後の人物はジャッカル。フリーの傭兵の前は街のチンピラをやっていたようだ。ガライたちに喧嘩でどうしても勝てないので、不承不承に傭兵稼業を手伝わされることになった。力がすべての傭兵の世界で、ジャッカルのような思想は珍しくないらしい。
アーレンはジャッカルの申し出通り自室に向かう。天井裏にある小さな小部屋はアーレンが一人で住むには少し大きい。一つのベッドが有り一つの机があり一つの化粧台がある。全て宿屋では使われなくなったものだ。ただ、化粧台の鏡は割れているように曇っているので、姿はぼやけて輪郭が映るのみ。
アーレンは自室で休眠を取るようだ。給仕の為の衣装を早々と脱ぎ捨て下着姿になってから夜に寝るための簡易な服を着る。この服はアレンナの使用済み衣装であり、アーレンにとってはサイズが合っていないところがポイントだ。アーレンは部屋の隅にある玩具箱からキラーラビット人形を取り出そうとしているようだ。そしてその玩具箱である俺は口の中からキラーラビットを取り出されるのだ。彼女は人形を抱き就寝することになった。その一連を見終えたとき新しいスキルを覚えたようだ
HP20 AT10 DEF30 INT10 AGI3【収納上手】【脳内メモ】【取り出す】…所持している箱の中のものを一つ取り出すことができる
アイキはクロムウェルの空箱を使い二重底にして隠しているメガネを口の中から【取り出す】ことを意識した。そうすると眼鏡は頭の方から排出され目の前にある。もう一度口の中にメガネを入れておく。今日はもう遅い。アイキは、幼女が眠る時間となったので眠ることにした。
次の日、アーレンはクロムウェルを出迎えに外に出る。再び商人の荷物に偽装した俺はクロムウェルと商品の仕入れに向かうのだった。クロムウェルが仕入先として選んだものは近くの牧場を経営しているエインセン搾乳店。彼女はかつてC級冒険者だったが同じく冒険者のホーメンと関係を持ち、妊娠する。そのため通常の冒険はできなくなり、魔獣カウカウの乳搾りを主に経営してその日々の生活を営んでいる。その乳を仕入れることの出来るクロムウェルはエインセルに一目ぼれしていた時期が有り、その縁があって今でもこうして取引が続いている。何かを間違えれば間男となっていたクロムウェルだが、彼にそれを覆す力もなければ度胸もない、常に中庸平凡をいくそれが商人クロムウェルだ。
そんな彼にもひとつだけ取り柄がある。商取引の誠実さだ。高いものがあれば高いという彼は今日もエインセルに素直にアーレンのことを話すのだった。これから子供ができるエインセルは一度アーレンに会って見たいと常日頃から夢想している。ただ身が重い状況のためその思考は実現せずにいる。
「クロムウェル叔父さん、いつも配達ありがとう!お母さんもお礼を言っていたよ。これからも、頑張ってねって言うように言われたの…。私がこう言うと、クロムウェル叔父さんが又来てくれるってー。ねぇどうして?」
「叔父さんには君よりもう少し年上のアーレンという娘の面倒を見ているんだ…叔父ちゃんはそう言う言葉には逆らえないんだよ…」
「ふうん、変なの。私大きくなったら母様みたいな立派な冒険者になるんだ。それまでは現役でいてね」
彼女の名前はカチュア。エインセルとホーメンとの間にできた子供であり、実はお化けが怖い。夜の墓場に出るスケルトン達を切っては捨てる夫の話を聞かされたとき、母親でも勝てないそのスケルトンとかいう魔獣が怖くて仕方がなくなった。それ以後、恐怖のために夜は外に出ず恐怖に慄いている。実はホーンブチラビットが好き。冒険者になるために、ダンジョンに潜る冒険者に一緒に連れて行ってとお願いしては断られている。街にいる幼馴染のソッビイはカチュアのことを懸想しており次のように供述している。
「いつか俺が絶対お前をダンジョンに連れて行ってやるからな…それまでほかの男についていくんじゃないぞ」
その牛乳を、馬車で運び次の街へ持っていく。ルーベンスの街は黒の塔との中継地点として発展した宿場町で商人もそれなりに通過する。風が吹きサイロが舞う長閑なそれも商人にとっては戦場の地。乳を売歩き休まる時はない。アイキはそんなクロムウェルを尻目に幌の中で寛ぐ。アイキが街の人々を視姦していると青い果実がたくさん積み込まれてきた。今度はこの果実を黒の塔まで持っていくようだった。
青い果実、青嵐之実と言われるその果実は魔術を使って圧縮することにより保存効果のあるジュースとなる。黒の塔では風魔法を使った攻撃魔法を修行する人達が集まっている。黒の塔の学生達にとってはただ魔法を使うだけで手数料をもらえる簡単なお仕事、クロムウェルにとっては果実をより保存の効くものに変えてくれる貴重な魔術師の卵なのである。そうこうしている内に、次は俺の番が回ってきたようだ。幼女達の執拗な攻撃が俺を押し潰そうとしてくる。幼女の魔法攻撃に耐えきれる自信が全くない。駄目だ何か汁が出そう。…見事に搾り取られました。そうして、幼女達はまた次の果物に向かって圧縮攻撃を加えるのだった。
黒の塔周囲にも街は有り、それなりに発展している。塔があれば魔術師がいて、魔術師がいれば魔獣から身を守ってくれるという安心感が得られる。目に見えない驚異、魔獣の襲撃に対して目の見える形でその対策があるという安心感は計り知れず民達はそこに街を作り暮らしている。だから決して塔が民を守らなければいけないという義務はない。塔が守るのはこの国の守護であり厳密には下町ではない…国の為になら、例えば伝染病が発生して街の全てを消し去る必要があるのならば、彼らは躊躇うことなくその牙を振るうだろう。だが、アイキは幼女の味方。この街の危機が訪れれば魔術師とも戦うだろう…。そんな日が来ないことを願っている。
「やっほー、学生たちの絞り取りは終わったみたいだね」
「ウォーカーさんいつも融通して下さってありがとうございます。おかげで助かってます」
「にゃはは、こちらも学生たちの良いお小遣いになるからお互い様だね!いま各地で精霊狩りが流行ってるみたいだから気をつけてね!」
セラスウォーカー、学園長でありその実績には、身長を2、3センチ風魔法で誤魔化す方法やその体重を2、3キロ誤魔化す方法が代表的。確固りとした測定時には、魔法を感知されるシステムがあるのだがそれを掻い潜る方法が確かに存在した。その時にできたコネで彼女は悠々と学園長の地位にまで上り詰めたのだ。
幼女vs幼女となった場合、アイキは自滅する




