第2話 俺と巫女さんと家出少女
2019/5/21 編集&追記
落ちてきた女の子に声をかける。
「ぐう…すやあ…むにゃむにゃ…」
すると返ってきたのは模範的な寝言だった。この状況で寝るか普通?!嘘だろ?!
「お、おいまさか寝てるのか…?」
「スピイ…」
どうやらほんとに寝ているようだ。しかも動物みたいな寝言を言いながら。
なんだ、びっくりしたじゃん…まぁでも無事ならよかった…
いやでもこの人どうしよう…このままここに置いていくわけにいかないし。かといって俺がどうにかできることでもない。とりあえず誰か神社の人いないかな…
と、そこへタイミングよく巫女さんが建物からでてきた。
まじか!登場のタイミング神かあなたは!これはもう助かった…
神にもすがる思いで巫女さんを大声で呼ぶ。
「そこの巫女さんちょっといいですか!俺は決して怪しいものではありません。急に俺の前にこの女の子が落ちてきたんです…ただ寝てるようなので大事はないと思うんですが、ここに置いておく訳にもいかないので…正直俺一人の判断ではどうすることもできなくて困っていたんです」
一応状況が状況だけにあらかじめ潔白を証明しておいた。
それにしてもなんか会話がたどたどしくなってしまった。これじゃまるでオタクの早口じゃないか…
格好悪すぎる、いやカッコつけたわけじゃないんだけどさ…
ここで少し弁明させてほしい。俺のコミュ力は0だし、さらに相手は巫女さんだ。
しかもよく見たらめちゃくちゃ美人さんである。
こんな条件が重なっていて世の男性陣は巫女さんとまともに話せるのであろうか…?
否、たどたどしたくなるだろう!!
…ということにしておこう。
はあ、なんかひとりで弁明してて悲しくなってきた…
「女の子が落ちてきた!?すぐそちらに行きますね…!」
と巫女さんがトコトコとこちらへ来る。巫女さんの服装で走るのは難しいだろう。
こんな風に巫女さんをじっくり見たのは初めてだ。
こちらに巫女さんが来ると彼女は俺が思っていた反応とは違う反応を示した。
「あー…この方だったのですね…」
あたかもこの落ちてきた女の子を知っているかのような口ぶりだ。
「ん?知り合いですか…?」
「知り合いという程ではないんですけどね…最近ここら辺をよくウロウロしてるんです。どうも家がないのか、この神社で身柄を確保しているところです。ここの神主さんがここで暫く面倒を見ようと言い出して聞かなくて…」
え、家がなくてここら辺うろうろしてるってこの人実はやばいやつなのではないか?不良?
いや、もっと適切な言葉があった。
「いや、それ家出少女じゃん。」
し、しまった…初対面の巫女さん相手についツッコミをしてしまった。これはいけないミスった…
すると巫女さんは笑って答えてくれる。巫女さんとんでもなく優しかった…
「はは、そうですね。家出少女です。今日もこの大木の上で昼寝でもしてたのでしょう」
「フリーダムなやつだな!?いやでもあんな上から落ちたら普通大怪我するんじゃないですか…?」
「そ、そうですね。一応ここの建物の中で横になって様子を見ましょう。右肩を持って貰えますか?私だけでは運べなくて…お手数ですがよろしくお願いします。」
「お、おう、俺も発見者だし運びましょう!責任をもって!」
いくらフリーダムで家出少女とは言っても同い年くらいの女の子だ。しばらく不登校だった俺が(それは関係ないか…)、ましてや生まれてこの方女の子と親密な関係になった事なんてない俺が女の子を介抱した経験なんてあるわけがない。
ああ、自分で言ってて悲しくなってきた。
(何も考えるな…何も考えるな俺…俺は人助けをしてるんだ…巫女さんに頼まれたんだしちゃんとやらないと…)
必死に責任逃れをする。一体誰に許しを乞うのか…
今日の俺の言動一つ一つが挙動不審で自分でも心配になってきた。
二人三脚、いや三人四脚みたいな感じで家出少女を神社の中の建物に連れていく。無心であることに努めていたのでこの間のことは何も知らないし何も聞いてないし何も触ってない。
ここで一応身の潔白を証明しておく(二度目)
建物中に入るとそこはいわゆる普通の日本家屋だった。じーさんの家も普通の日本家屋だったけれど今の時代なかなかこういう建物は珍しいイメージだったので、こういう家を見ると何故か実家のような安心感を得られる。
「よいしょっと…!」
家出少女を寝かせ俺と巫女さんは部屋で休む。
今まで気を張っていたせいで忘れていたが俺はここまでくる過程でめちゃくちゃ疲れていた。
疲れていたところにさらに疲れるイベントがやってきて俺の体力は限界を突破していた。
「ふう…」
僕はもう疲れて頭が回らないせいか言葉が出てこない。
そのせいでなんか微妙な雰囲気が流れてしまう。
いやいやこのままは良くない…何とかしないと。
と思っていたら巫女さんが僕に話しかけてくれた。
「一緒に手伝ってくださいましてありがとうございました、今お茶入れてきますね…!」
「あ、ありがとうございます!お構いなく…!」
何と情けないんだろうか…でも今回は仕方ない、とあきらめた。
家出少女の件で全く忘れていたが俺はここに来た目的を思い出した。
「俺はここにうどんを届けに来たんじゃないか」
外に置いてあった自転車からうどんを取ってきてまた部屋の席に座る。
と、ちょうどお茶をいれて巫女さんが戻ってくる。
「あ、あの!俺は草壁うどんの配達でここに来ました、これが注文されていたうどんです。お待たせいたしました」
すると巫女さんは驚いて、
「あらそうだったんですか!?ご苦労様です。ここまで来るの大変でしたよね…さらには介抱までしてもらっちゃって…」
「いやいやいいんです。」
正直今にも倒れそうなくらい疲れていたけど、巫女さんのこの一言で疲れが吹き飛んだ。
このあとしばらく巫女さんとお茶を飲みながら世間話をしていたがそろそろ戻らないといけないと気付いた。なにせ俺はまだバイト中だ。こりゃじーさんにこっぴどく叱られるな…
「すいません、仕事の続きがあるのでそろそろ戻りますね」
「あっ!すいません…私としたことが…配達ご苦労様でした。色々とありがとうございました。また遊びに来てくださいね」
申し訳なさそうにぺこりとお辞儀をする巫女さん
「はい、それではまた」
またここに配達にこようと固く決意した瞬間だった。
はやる気持ちを抑えながら俺は自転車に乗って絶景を見ながら行きに来た坂道を下っていく。
「いやぁーいい眺めだ…」
自転車に乗りながら坂道を下るのは気持ちいい。俺は風になる!!なんてな…
「それにしてもうどん届けに行っただけで色々あったな」
絶景は見れたし巫女さんとお話出来たし…
いや、一応言っておくけど下心なんてないからね!?
なによりも家出少女が僕の目の前に落ちてきたっていうのが今日のハイライトだ。
あんなの心臓が強くても潰れるぞ…
あの女の子はいったい何者なんだろうか?少なくとも俺が神社にいる間は目を覚まさなかった。
木から落ちた後もずっと寝てるってどれだけ神経図太いんだ…
「まぁ無事ならいいかな」
そう思いながら清々しい気持ちで草壁うどんへ帰っていった。
めでたしめでたし
とはいかなかった。
「おい!!!今何時だと思ってる!どんだけ配達に時間かかるんだ!!仕事が山のようにあるぞ!!!早く手伝え!!」
案の定じーさんにめちゃくちゃ叱られた。とほほ…
「まあでもたまには配達もいいもんだな」
俺がこんなことを思うなんて天地がひっくり返るんじゃないだろうか。
その夜疲れ切った俺は懐かしい、俺の人生の転機になった出来事の夢を見る。