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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第093話〜王女様がやって来た② 先生大好き王女様〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。

 


「あの先生。これは何ですか?」


 先生。私のことをそう呼ぶのはフィオちゃんこと、フィオ・リトゥーラ。この王女様は魔女に憧れているらしく、付き人の二人と共に王都からはるばる私の元へやって来たんだとか。

 最初こそ上から目線の王女様キャラだったが、少し魔法を見せた途端に私に対する目が一気に変わり、こうして質問攻めされるくらいには好意を抱いてもらえるようになった訳だ。


「その子はコロリン。私の使い魔……かな?」


「へぇ〜〜!」


 そんなフィオちゃんは、先程からその魅力に取り憑かれたようにスライス形態のコロリンをツンツンしている。私もそうだったが、妙に触りたくなる様な、眺めていたくなる様な、そんな魅力がコロリンにはあるのだ。

 珍しくされるがままのコロリンは、さすがに王女様の前という事で弁えているのだろう。


「先生ほどの魔女ともなると使い魔がいるんですね。すごいです!」


「あはは。まぁ色々あって今となっては立派な家族なんだけどね。フィオちゃんも可愛がってあげてね」


「はい! ふふ、コロコロしてて可愛いなぁ……」


 私に対する笑みとはまた別の癒されるような微笑みを浮かべるフィオちゃん。

 しかしされるがままで終わらないのがコロリン。

 みんなの視線を集める中、ペットと遊んでいるかのような時間が過ぎていき、やがてフィオちゃんがその丸い体を撫でようとした次の瞬間。


「「あっ」」


 不意に漏れたその声は果たして私か、それともフィオちゃんか、もしかしたら両方かもしれない。

 見つめる先では杖の先端から落下したコロリンがとある目標に向かって行くが時すでに遅し。あろう事か撫でようとした手とは別の、テーブルに置いてあった方の手にコロリンが一直線に落下して王女様の手にグシャっと押し潰したのだ。


「いったぁ〜〜い!?」


「コロコロ〜〜♪」


「やっぱりやった……」


 やはりコロリンはコロリンだった。

 任務完了とばかりにコロコロと逃げていく姿を見送りながら軽くため息を吐くと、オリーヴァさんと目が合って思わず苦笑い。改めてため息を吐く一方でバカさんの楽しそうな笑い声が響いていた。


「では、話を戻しましょうか……」


「はい……」


 大泣きのフィオちゃん、爆笑中のバカさんは置いて、私は唯一話が通じそうなオリーヴァさんへと向き直った。今更ではあるが現在は大切なお話の真っ最中なのだ。


「それでは改めて。まず、私が先生になるかどうかですがそれ自体は構わないと思ってます。というかもうご本人がアレなので……」


「感謝致します。ルノ様」


「やったぁ! ありがとうございます先生! それじゃ、私は今日から住み込みの弟子ということで!」


 一気に泣き止むフィオちゃんはやはりと言うべきか大喜びで抱きついてきた。わざわざ王都からやって来たくらいだからこうなる事は予想できていた。


 しかし。


「はい、ストップ。先生は別にいいけど、ここに住んでいいかは話が別だよ」


「そんなぁ!? 私と先生の仲じゃないですか!」


「いや、今日会ったばっかりでしょ。とにかく住み込みはだめ。うちには既に可愛い我が子らが沢山いるんだから」


 視界の端で「私もルノさんの子供だったんですか……?」なんて言いながら顔を赤らめるレヴィナが見えたが、そこは言葉の綾なので突っ込まないで欲しい。


「そうですよ、お嬢。ルノ嬢にも生活というものがあるのです。聞き分けてください」


「むぅ……。でも確かにそうね。それと誰がお嬢よ。貴方は異動したいのかしら?」


「すいません! すいません!」


 王女様の付き人なだけあって思わぬ助け舟を出してくれたバカさん。いつの間にかルノ嬢などと呼んでフィオちゃん並に距離を詰めてくるのは思いのほか好感が持てる。


「わたくし達はすぐ近くの村『ヒュンガル』の宿に泊まる事にしましょう。フィオ・リトゥーラ様もそれでよろしいですか?」


「仕方ないけどそうするしかないようね。さっそくだけど手配してちょうだい」


「かしこまりました。ではルノ様、少し失礼します」


「あっ……!?」


 テキパキと動けるオリーヴァさんの有能さが今だけは憎い。このタイミングで一番話ができる人に出ていかれるとちょっと困るのだけど。


「まぁ、概ねの問題は解決したし大丈夫か」


 とりあえずフィオちゃんに先生として魔法を教えるのは片手間……いや、時間がある時に来てもらってその辺の草原でやればいいだろう。


「何はともあれこれからよろしくね。魔法の特訓は厳しいからそのつもりで!」


「なんか怖い……先生も叱ったりするんですか?」


「時と場合によるけどそりゃね。悪い事したらお尻ペンペンとかするよ」


「きゃ〜〜!?」


「いや、喜ばないでよ……」


 全肯定は嬉しいが冗談半分で言っただけにその反応は少々困ってしまう。その辺は今後、程よく先生離れしてくれる事に期待しよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、宿の手配をして戻ってきたオリーヴァさんは何故か野菜やらが入った買い物袋がぶら下げて戻ってきた。言うまでもなく買い物をしてきたのだろうが、王女様を待たせてそれをするとはこの人もなかなかの自由人である。


「あの村にはなかなかいい食材が置いてありますね。もしよろしければわたくしが昼食を作らせて頂きますが?」


「えと……じゃあそういうことならぜひぜひ」


 どうやらオリーヴァさんは突然訪ねてきた挙句、先生になってくれなどというお願いをした事に対してそれなりに罪悪感を抱いているみたいだ。驚いた事は事実なのでここはお言葉に甘えさせて頂くとしよう。


 その間、私は再び質問タイム。主にフィオちゃんからの。


「先生のお好きな食べ物は何ですか?」


「チーズケーキ」


「じゃあ趣味は?」


「カフェで過ごすこと。スローライフ全般かな」


「じゃあじゃあ……特技は?」


「魔法って言っておくよ。立場上」


 そんな感じで、お昼ができるまでの間、質問は続いた。

 最初はいかにも『上から目線の王女様』と言った感じのツンツンしたキャラかと思ったが、こうして話してみると案外普通の女の子みたいでそんな事は頭から抜け落ちてしまいそうだ。


「今度、先生には王都の有名なチーズケーキをお土産に持ってきますね!」


「あ、うん。でもあんまりお気遣いなく……ね?」


 しかし知り合ったばかりのも事実。先生になったとは言え、ぶっちゃけまだ王女様としてのイメージが抜けないため、お土産を約束させるのは正直気が引ける。むしろ訪ねて来てくれて記念に何かプレゼントした方がいいくらいなのでは?


「皆さん、お待たせしました」


 なんやかんやと話している内にオリーヴァさんの料理が運ばれて来た。この短時間で完成させる器量といい、こちらも流石は王女様の付き人である。


「あ、いい匂い!」


 テーブルに置かれたのは大きく深めの平皿。それは初めて見る料理だった。メインで使われているのはタマゴ。その上には赤青黄色などの色とりどりの野菜が乗っていて、言ってしまえば果物をふんだんに使ったタルトの様な美しさがあった。


「これは王都ではよく食べられているタマゴ料理なんですよ。家庭によって具材は異なりますが……今回はヒュンガルの旬の野菜達ですね」


「へぇ。すごく美味しそうです」


 ほとんど遠出をしない私にとって王都の料理とても新鮮だった。これを機会にもっと世界を広げてもいいかもしれないな。


「なんか良い匂いする〜〜!」


「ほんとですね……」


「これは確実にルノサンドではないですね」


 匂いに釣られて、フユナ、レヴィナ、コロリンが呼ばずともやって来た。ちなみにみんなの顔合わせは簡単に済ませてあるので平常運転だ。


「はい、みんな座って。今日のお昼はオリーヴァさんが作ってくれたよ」


「これなら今日と言わず明日も」


「はいはい、コロリンはわがまま言わないの。ほら、冷めないうちに頂くよ」


 こうして現在のリビングに集まったのは計七人。こんな大人数での食事はバーベキュー以来かもしれない。『いただきます』の挨拶一つとっても実に賑やかである。


「美味し〜〜い! 今まで食べた物の中で一番美味しいよ!」


「フユナ? いつも美味しい物食べてるでしょ? 例えば――」


「これはルノサンドよりも……!」


「レヴィナ!?」


「えぇ。確実に美味しいですね」


「コロリンのばかっ!」


 ルノサンドが完全に廃れた瞬間だった。悔しい……が、確かに美味しい。フワッと焼きあがったタマゴとほんのり塩が効いた野菜との組み合わせが堪らない。


「ぐす。美味しい……本当に美味しいです……!」


「ふふ、喜んで頂けたなら良かったです」


「ルノ嬢。何です? その『ルノサンド』って?」


「うぅ……聞かないでください。もう廃れたメニューなので……」


「おいこら、バッカ。貴方、先生を泣かせたわね。今すぐ王都から刺客を呼んでもいいのよ?」


「ごめんなさい!?」


 権力を行使してまで私を庇ってくれる王女様の優しさが身に染みる。もうルノサンドの味方はこの子しかいない。


「もういっそのこと我が子としてこの家に迎えようかな。毎回美味しいの笑顔が見られるなら……!」


「いいんですか!?」


「ごめん、ただのノリ。聞こえちゃってた?」


「ズコッ!?」


 さり気なく言質を取られそうになったので全力で否定しておくことも忘れない。てか、この子なかなかノリが良いから飽きないな。


「「「ごちそうさまでした!」」」


 何はともあれ、オリーヴァさんの手料理はサトリさんに負けず劣らずの見事なお味だった。それこそ、明日も作ってくれないかなぁ、なんて本気で思ってしまうほどの絶品だったが、そこはルノサンドの名誉のためにも何とか心に留めておいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それではフィオ・リトゥーラ様、そろそろ宿に向かいましょうか?」


 昼食後の安らぎのひと時。コーヒーを飲み終わったところでオリーヴァさんが口を開いた。

 しかしここまでの流れで分かる通り、肝心のフィオちゃんがすんなり納得するはずもなく。


「嫌よ! まだお昼ちょっと過ぎただけじゃない。私、まだ先生とイチャコラしたいの!」


 どこでそんな言葉覚えたんですか? と言いたくなるようなセリフを吐く王女様。ずいぶんと懐かれてしまったものだ。


「ほら、フィオちゃん。そう言ってくれるのは嬉しいけどママが困ってるでしょ。また明日来ていいからさ」


「私は付き人ですが」


「そうよ! ママはオリーヴァじゃなくて、先生ですよ!」


「いや、それも違うけどね?」


「と、とにかく! もう少しでいいから一緒にいてくださいよぉ……」


「うぐ……その目は卑怯だぞ。まったく、仕方ないなぁ〜〜?」


 捨てられた子犬のような目とはまさにこの事だろう。しかも相手はとびきり美少女の王女様。これで落ちない人間はいない。少なくとも私は落ちた。


「じろ〜〜……」


「あ」


 急な視線を感じてそちらを向くとフユナが恨めしそうに私を見つめているではないか。こりゃいかん、家族のケアは大前提に決まってる!


「な〜〜んちゃって! 心配いらないよ。フユナの方が可愛いに決まってるでしょ?」


「ほんとに?」


「もっちろん! フユナがナンバーワン! アレはただのお客さんだよ。ゴマすりゴマすり!」


「わ〜〜い!」


「ちょっと先生! それはいくらなんでも酷すぎませんか!?」


「あはは。でもほら、やっぱり家族が一番ていうかさ?」


「怒りました! バッカ! 先生を殺ってしまいなさい!」


「ちょっ!?」


 それは流石に冗談になってないぞ!? と思ったが付き人二人は大人だった。


「はっはっはっ! ルノ嬢は最高ですね! お嬢もその辺にしてください」


「お、覚えてなさいよ!? じゃあオリーヴァ!」


「かしこまりました。ではそろそろ帰りましょう」


「ちが〜〜う!?」


 一番話が分かる人、オリーヴァさんがひょいっと王女様を持ち上げて玄関に向かっていく。完全に親と子供じゃないか……


「では、ルノ様。本日はお邪魔しました」


「ルノ嬢。今度ぜひ、ルノサンドとやらを食べさせてくださいね」


「いやぁ! 先生! 私を捨てないでください〜〜!?」


「お昼ごちそうさまでした、オリーヴァさん。バカさんのそれはまた今度ですね。そしてフィオちゃんは落ち着いて。明日も来ていいからさ」


 私は慰めるように頭を撫でながらそんな言葉をかけてあげた。


「ぐすっ……本当ですか? 明日も来ていいんですか?」


「うん、もちろんだよ」


「その次の日も、そのまた次の日も、そのまた次の(以下省略)」


「う、うん……程々にね?」


 そんなやり取りをした後に、王都からやって来た三人は去っていった。ある意味嵐のような人達だったなぁ。












「先生〜〜! さようなら先生ぇ〜〜!!」


「あはは……。またねーー」


 私の姿が見えなくなるまで手を振り続けたその姿はとても印象的だった。厄介な弟子をとってしまったなと思ったが、それでも最後には可愛いさが勝ってしまう辺り、あの王女様はなかなか策士だ。


「ふぅ……何にせよ、これからまた忙しくなりそうだなぁ……」



 私は三人の姿が見えなくなった道を見つめながら、そんなことを思ったのでした。



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