第094話〜王女様がやって来た③ 弟子の手料理〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
王女様と、その付き人の突然の訪問から一夜明けた本日。
改めて平穏なスローライフへ戻った私は朝からぐうたら生活を満喫中。とは言え、現在はまだ太陽が顔を出して間もない時間帯なので咎められる言われは無いはず。言われたって寝る。という訳で改めておやすみなさい。
「んーー……フユナぁ……」
「むぐっ……!?」
「ちゅちゅちゅーー……」
「うーー!?」
そんな中、寝言と共に私が抱きついたのはフユナではなくコロリン。先日『先生』と呼ばれていたことが嘘だと思えるくらいにはだらしないものだっただろうがそれも仕方のない事だ。何故ならコロリンのお顔は豆腐で気持ちいいのだから。
その時。
「先生ーー! おっはようございまーーす!」
「「!?」」
突然の大声に驚く私と、抱きつかれていた事実に驚くコロリン。王女様と出会ってから二日目の本日。私はコロリンと共に仲良く叩き起されましたとさ。
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「どちらさまぁーー……!?」
早朝から叩き起された私は、突然の訪問者に少々不機嫌な声で応えながら玄関に向かった。と言っても、あんな呼び方をする人は一人しかいない。あんにゃろめ。
「先生、おはようございます! 約束通り来ました!」
「……」
ガチャっと扉を開けると、案の定目の前にいたのはフィオちゃん。その太陽のように眩しい笑顔とは真逆で、今の私の表情は不機嫌がにじむどころか、不機嫌を通り越して闇そのもの。相手が王女様もへったくれもなくなっていた。
「先生? 人違いですよ……」
「え」
バタン。
「ちょっとーー!?」
私はそのままくるりと180度回り、再び眠りにつくために寝室へと――
「先生、私のこと忘れちゃったんですか!? 先生ぇーー!」
なんだこれは。呪いか? 早朝から叩き起される呪いなのか? これが先生を引き受けてしまった者の宿命なのか?
「先生ぇ……! ぐすっ……!」
どうしたものかと棒立ちになる私の後ろ。扉一枚で隔てられた向こう側ではフィオちゃんがついに泣き出してしまった。これ、王都の偉い人に見られたら首が飛びそうだな。仕方ない……
「はいはい。ようこそいらっしゃいました、王女様……」
「はい、おはようございます先生!」
改めて出迎えると、私に会えた事がよほど嬉しいのか、またしても太陽のように眩しい笑顔を浮かべるフィオちゃん。その表情は地位など忘れた年相応の笑顔だった。
「はい、おはよう。ずいぶんと朝早くから来たね?」
「早く来ればそれだけ先生と長く居られますから!」
「なっ!?」
なんだこの子は。笑顔でそんな事を言われたら注意する気にもなれないではないか。出会って二日目だというのにこの情の移り様ときたら……私もだいぶ甘々な先生のようだ。
しかしここで気になる事が一つ。
「付き人のお二人、オリーヴァさんとアッホさんは一緒じゃないの?」
「オリーヴァとバッカは今も宿でぐっすりと寝ていますので私一人ですよ」
「えぇ……」
確かにこんな早朝なのだから普通はまだ寝てるよね。だからといって王女様にこうも易々と抜け出されてしまうのもどうかと思うが。
「まぁ、立ち話もアレだし上がりなよ。ちょっと早いけど朝食の準備するから良かったら一緒に食べよ?」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
「ふふ、いいよ。できるまでちょっと待っててね」
「はーーい!」
玄関からリビングに辿り着くまでの数秒。朝食をご馳走すると宣言しただけでまさかここまで喜ばれるとは思いもしなかったな。本当に可愛いものだ。
「なんだか気合い入っちゃうなぁ♪ せっかくだから昨日話したルノサンドでも作ってあげるか」
一応言っておくが、これしか作れない訳じゃないぞ。初めてご馳走する手料理だから一番得意なものを食べさせてあげたいという良心からだ。
「先生!」
「うわぁ!?」
突然、私の背後に現れたのはもちろんフィオちゃん。てっきりリビングで待ってるのかと思ったのだが。
「どうしたの? 暇ならほら、コロリンがソファーに転がってると思うからオモチャにしていいよ? たぶん今は人間モードだけど」
「それも面白そうですけどそうではなくて。私もお手伝いしますよ」
「え、それは嬉しいけどフィオちゃん一応は王女様でしょ? 申し訳なくてとか思ってるなら全然気にしなくていいんだよ?」
「一応もなにも王女ですけど……いえ! そんなことはどうでもいいんです。私が一緒にやりたいんです。一緒にやりましょ、先生!」
「そう? うん、なら一緒に作ろっか」
「はい!」
という訳で、何故か朝っぱらから王女様とのクッキングタイムがスタート。私はいつからお料理の先生になったしまったのだろうか?
「それじゃ、今日の朝ご飯は『ルノサンド』を作るんだけど……自分で言ってて恥ずかしいなこれ。なんて説明したらいいかな。フィオちゃんは『大樹の街ロッキ』には行ったことあるかな?」
「はい、過去に何度か。ここへ来る途中にも寄ってきましたよ!」
「お、なら話は早いね。ルノサンドはロッキの名物『ロッキサンド』をパク……アレンジしたものなんだ」
「なるほど。あれのパクリでしたらちょうど昨日……ふふふ」
「いや、パクリじゃないよ? アレンジだからね? そこ大事」
微妙に誤った捉え方をされてしまったが、いざ始めてみれば調理工程は想像以上にスムーズだった。私は主にパンを出したり野菜を出したりで、フィオちゃんは――
「先生。調味料はどこにありますか?」
「そっち。右の方にあるよ」
「ありがとうございます。ちなみに苦手な味付けなどはありますか?」
「え? そうだね。特にはございません……かな?」
「分かりました。それじゃこれをちゃちゃっとやって、これをパパッとかけてと」
「おぉーー」
とまぁ、こんな感じで私達は抜群のコンビネーションを披露する事となった。私? だからパン出したり野菜出したり。
「先生、そろそろ出来上がるので皆さんを起こしてきてもらってもいいですか?」
「はい、分かりました!」
うーーん、なんだか途中から立場がおかしいことになってたような気がするな。私が朝食をご馳走してあげる予定だったんだよね?
「まるで練習してきたかのような手際の良さ……これはまさかの発見だな。私の可愛い弟子は先生よりも料理が上手だったと。ぐすっ!」
こうして、私は少々落ち込みながら家族を起こしに行った。どんどん『ルノサンド』が廃れていく気がするな。
そしていただきますの声と共に始まった早めの朝食。もはやフィオちゃんお手製と言った方がいい料理を口にした家族達の言葉がこちら。
「美味しーー!」
大絶賛のフユナ。
「す、すごい……私が作ったものより全然美味しい……!?」
こちらも大絶賛のレヴィナ。
「素晴らしいですね。もはや、ルノサンドはモブキャラに成り下がった存在……『モブサンド』ですね。ぷっ!」
最後に、大絶賛&ルノサンドを絶賛貶し中のコロリン。
「そんなに喜んで頂けたなら作ったかいがありました!」
その言葉通り、本当に嬉しそうに笑うフィオちゃん。
「どうですか、先生。私の料理の腕もなかなかでしょ?」
「うん、素直に驚いたよ。王女様って料理なんてしないものだと思ってたもん。フィオちゃんはずいぶん上手だね?」
「ふふ、これでも教養としてある程度のことは身に付けていますから。人にご馳走するのは初めてですけどね」
心なしかドヤ顔のフィオちゃん。だがそれだけの成果は上げているので突っ込む輩は一人もいない。先生としてもう思い残す事は何一つ無い。
なので――
「ふむ、素晴らしいものだね。これなら私が教えられることはもう何も無いよ。フィオちゃん。あなたは今日をもって卒業とします」
私はちょっとグレた。
「何言ってるんですか先生!? 私は魔法を教わりに来たんです! 先生の料理も興味はありますけど、言ってしまえば魔法に比べたらこれっぽっちも興味ありません!」
「ひ、ひどいっ!?」
さっきまであんなに喜んでくれてたのに。
すると横から……
「ルノ。フユナはルノサンドも好きだよ? あ、フィオちゃん、おかわりーー!」
「うわーーん!」
慰めてくれたのかそうじゃないのか分からないフユナの言葉を最後に、私は泣くしかなかった。
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私達が朝食を済ませ、食後のコーヒーを飲んでいた頃。付き人の二人、オリーヴァさんとバカさんがやって来た。
「ルノ嬢! ルノ嬢ぉぉぉ!」
「バッカ。そんなに騒いだら迷惑になりますよ」
フィオちゃんがいなくなって大慌てのバカさんと、ここに来ているのを知っていたかのように冷静なオリーヴァさんは実に対照的だ。
「お二人ともいらっしゃい。フィオちゃんなら大丈夫ですよ」
「ほっ……」
ようやく落ち着きを取り戻したバカさんと共にオリーヴァさんには家に上がってもらう事に。
「あら、遅かったわね。朝食ならもう済ませたわよ」
付き人の登場に気付いたフィオちゃんが王女様らしく言い放つ。……が。
「こーーら。心配かけたのにそんなこと言ったらだめだよ。ほら、ごめんなさいは?」
「えぇ。でもぉ〜〜!」
「でもじゃない。お尻ペンペンするよ」
「きゃーー!!」
誤解が無いように言っておくが私はまだやってないぞ。生憎そんな趣味は無い。あるのはフィオちゃんの方だ。
「なんだかすごく失礼な事を思われているような気がするけど……分かりました先生。オリーヴァ、バッカ。心配かけたわね。次からは私がいなくなったら先生の所にいると思っておきなさい」
「「かしこまりました」」
見事な主従関係を見せつけられた私は、微妙に期待していた謝罪とは違う事に呆れながら気を取り直す。
「そうそう。今朝はフィオちゃんが朝食を作ってくれて大変お世話になったんですよ。お二人の分もありますので良かったらどうぞ」
「おや、これは……」
まるでここへ来ることが分かっていたかのように、二人分の朝食がお皿に盛り付けて用意してある。無論、これはフィオちゃんがやったことだ。
「ふふ。早くも特訓の成果が出ましたね」
「え?」
「ちょっとオリーヴァ!?」
特訓の成果とはどういう事だ? それにフィオちゃんのこの慌てようは一体……?
「実は昨日ですね。宿に着いてから、ルノ様に手料理を食べさせたいからとフィオ・リトゥーラ様が料理の事を聞いてこられまして」
「へぇ?」
「簡単なものですが、ここへ来る途中に寄った『ロッキ』という街の名物料理を教えて差し上げたんですよ。一応、わたくしなりにアレンジしたものをね」
「へぇーー? (ニヤニヤ)」
「く……うぅ……」
チラッと視線を向けて嫌な笑みを浮かべる私と、恥ずかしさに打ちひしがれるフィオちゃん。やはり私の王女様に対するイメージは間違ってはいなかったらしい。偶然ではあるが、なんとか先生としての立場は守れたようだ。料理に関してだけど。
「フィオちゃんフィオちゃん」
「な、なんですか先生?」
意外な秘話を聞かされた私は、イタズラっぽい笑みを隠さないまま、未だ顔を赤く染めるフィオちゃんに素直な気持ちを伝えてあげた。
「可愛いね!」
「うぅーー!? 先生のばかぁーー!」
バチン!
「うぎゃ!?」
少々おふざけが過ぎたのか、真正面から顔面をビンタされてしまった。ちょっと鼻血出たんですけど。
「うぅ……恥ずかしい……!」
「よしよし」
私は鼻を押さえながら、感謝の気持ちも込めてフィオちゃんの頭を優しく撫でてあげた。どうやら私の弟子は思った以上に先生思いの優しい子のようです。




