第六十話〜氷のスライムの風邪事情〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
ある日の朝。
私は妙な肌寒さで目が覚めた。
「え……寒っ!?」
そういえばフユナがまだスライムだった頃もこんな事があったっけ。
「そ、そんなことより何この寒さは……!?」
真冬だと言われても否定したくなる……それほど寒い。
そして今気付いたが誰かに抱きつかれている。
「ブルブル……!」
レヴィナだった。
「あの、レヴィナ? この寒さだし気持ちわ分からなくもないけど……もしかしてそっちに目覚めちゃったの?」
「ななな、何を言っているんですか……さ、寒くて……ブルブル……!」
まぁ、これは仕方ない。私もレヴィナで暖を取ることにしよう。それにしても寒い。
「どどど……どうしよう!?」
「ひぃー……!」
もはや寒すぎて頭が働かない。これヤバくない?
「ととととりあえず……フユナ……って!?」
「ど、どうしたんですか……?」
フユナの方に寝返りを打って手を握ってみるとまるで氷のようだった。しかも寝息が吹雪のようになっている。
「ちょ……ちょっと、フユナ?」
「うう〜ん……ルノ……ゴホッゴホッ!」
「ひぇぇぇ!?」
フユナが咳をした瞬間、私は猛吹雪に襲われた。
「ゴホッ……! 具合悪い……ゴホッ!」
「ひぇぇぇ!? ど、どういうこと!? ぎゃあああ!?」
「うぅ〜ん……風邪……かも……ゴホッ!」
「え、風邪!? ……サッ!」
「ひゃあああ!?」
最後の咳はレヴィナを盾にして躱した。うーむ、氷のスライムの風邪……恐るべし。
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とりあえずの応急処置としてフユナを毛布で包んでマスクをさせた。
「とりあえずさっきよりはマシになったかな?」
「そ、そうですね……ブルブル!」
とはいえ、やはりまだ寒い。これでやっと真冬並といったところだ。そんなことより……
「フユナ、大丈夫?」
「うぅ〜ん……大丈夫……じゃない……ゴホッ!」
お構い無しと言わんばかりにマスクから吹雪が漏れ出している。
「ちょっと待っててね、温かいスープでも作ってくるから。レヴィナ、フユナの事お願いね」
「は、はい。お任せ下さい……」
私は急いでキッチンへ向かう。だが驚くべき事に、部屋から一歩出るとそこには楽園が広がっていた。
「あ、あったかい……! まるで天国だ……」
私は少し泣いた。雪山から救出されたような気分だった。
「はっ!? だめだ、ゆっくりしていられない。まだあの雪山にはフユナとレヴィナが!」
この暖かさに浸っていたい気持ちを振り払って私は使命を全うする。
「よし、スープはこれでよし。待っててね、フユナ!」
フユナの元を離れてから三十分もかからずにスープを完成させて戻る事ができた。するとそこには……
「ゴホッゴホッ……!」
「ガチガチブルブル……!?」
レヴィナがほぼ氷になっていた。フユナのマスクは氷漬けになって砕け散っていた。
「た、大変だ……ほら、フユナ。温かいスープ作ってきたよ。レヴィナ、ありがとね。……ポイ」
「んぎゃ!?」
焦りからか、はやくフユナに温かいスープを食べさせたくて、凍って動けないレヴィナを捨ててしまった。
「ごめんね、フユナ。ちょっと起こすよ」
「う〜ん……」
寝たままでは食べさせてあげられないので、フユナを抱き抱えるようにして起こし、スプーンですくったスープをフユナの口元に持っていってあげた。
「はい、食べられる?」
「あ、ありがとう……ルノ。ゴホッ……!」
「あっ!?」
カチーン……!
一瞬にしてらスプーンごとスープが氷漬けになった。
「あら……ちょ、ちょっと待ってね」
仕方ないので新しいスプーンを用意する。これ、下手したら健康な時より手強いぞ。
「はい、今度は気をつけて食べてね?」
「う、うん。あーん……」
「はい」
フユナの可愛らしい口にスープが吸い込まれていく。よし、今度は成功だ。
「美味しい……」
「ふふ、それは良かったよ。ちゃんと食べてゆっくり休もうね」
「うん……」
そうしてフユナは無事に完食し、再び横になった。
「眠れそう? もしあれなら本でも読もうか?」
「うん、寝れると思う……あの……」
「うん、なんでも言ってごらん?」
「えっと……眠るまでそばにいて欲しいな……」
「うん、いいよ」
ちょっと恥ずかしそうに言ってくるフユナがとても可愛らしかった。私はフユナの横で手を握って頭を撫でてあげた。冷たい。
「ふふっ」
「ん、どうしたの?」
「ううん。なんか……嬉しくて」
「そっか」
そう言ってフユナはとても気持ち良さそうに目を閉じた。安心しきったその表情はずっと見ていても飽きないくらい。そのままフユナが眠りについてからも、頭を撫で続けていた私でした。
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翌朝。
「おはよう、ルノ!」
「おはよう、フユナ」
私が朝食前にコーヒーを飲んで寛いでいると元気な声が聞こえてきた。
「もう体調は大丈夫?」
「うん! お陰様で元気になりましたー!」
そう言ってその場でくるんと一回転するフユナ。こっちまで元気が湧いてくるようだ。
「あ、ところでレヴィナは? そろそろ朝ごはんにしようと思うんだけど」
「じゃあ起こしてくるねー!」
フユナが元気に部屋を出ていった。うんうん、やっぱりフユナは元気な姿が似合う。
そんな事を思っていると……
「ルノ、大変!」
「なに、どうしたの?」
「レヴィナさんが……」
「???」
場所は変わって、寝室。
「ゲホッ……ゴホッ……!」
レヴィナが風邪をひいていた。
「レヴィナ、大丈夫?」
「だ、だめです……きっと昨日……凍ったままルノさんに捨てられたから……ゲホッ!」
「あ……」
たしかにそんな場面もあったような……? フユナの看病に夢中ですっかり忘れていた。
「うぅ……」
レヴィナが恨めしそうにこっちを見つめている。ちょっと罪悪感が湧いてきた。
「大丈夫だよ、レヴィナ。今日は私が一日看病してあげるからさ!」
「フユナも看病してあげる!」
私は誤魔化すように最高の笑顔を浮かべながら言った。
看病はまだまだ続くようです。