第四十八話〜潤う友人関係〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気をしている。
レヴィナの激マズ料理事件があった朝食の後。
「えーと……私の料理は美味しかったでしょう……?」
「そうだった。激マズなのはそこのコックっぽい人の方だ」
私達が見てる目の前でコックっぽい人が自分で作った激マズ料理を食べている。一応、この人は呼び起こされたゾンビ。
「この状況だけ見るとこの人も家族みたいに見えてくるな」
ゾンビが家族なんてゾッとする。料理を食べ終わったらこの人(?)には帰ってもらおう。
「さて。今日はせっかく早起きしたんだし出掛けようか?」
「そうですね……村を見てみたいです」
「そっか、演劇やるために来てたからまだ観光はしてないよね。じゃあ今日は村に行こうか」
そういう事なら友達のために一肌脱ごうかな。これから過ごしていく村に早く慣れてもらおう。
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村までの道中。
フユナとレヴィナが仲良さそうに話していた。
「レヴィナさん、本は好き?」
「本ですか……? 演劇の合間によく読んでましたよ。落ち着きますし、それでアイディアが浮かんだりもしますね」
「ふーん……だったら今度はフユナの本貸してあげるね。『双剣使い・サトりんのワクワク冒険記』っていうやつ」
「ふふ。ありがとうございます……」
その光景を見ていると、友達がいないなんて言ってたのが嘘みたいだなと思えてくる。この様子なら一緒に暮らすにあたっての心配は何も無さそうだ。
「着いた着いた」
お馴染みの『ヒュンガルへようこそ』の看板が私達を出迎えてくれる。
「さっそくだけど、お茶しない? オススメのカフェがあるんだけど」
「はい……ぜひ」
「わーい! レヴィナさん一緒に座ろう!」
ほんとに仲良くなったなぁ。ちょっぴり寂しい……ぐす。
「ルノ。行かないのー?」
「あ、今行くよー!」
危ない危ない。あほな考えで闇に飲まれてしまうところだった。
そうしてやって来たカフェ。今は空いている時間帯なので、カフェらしい静かな空気が心地良い。
「いらっしゃい、二人とも! おや?」
看板娘のサトリさんが出迎えてくれた。どうやらレヴィナの存在に気づいたみたいだ。
「紹介しますね。我が家で一緒に暮らす事になったレヴィナです」
「え、ルノちゃんってやっぱり……そっちの……」
なんか変な事を言い出した。そんな変な性癖あるみたいな事言った覚えないんですけど。いや、初めてフユナを人の姿にした時に言ったかも。
「と、とにかく。あっちだかそっちだかは知りませんけど、よろしくお願いしますね」
「オッケーオッケー! よろしくね、レヴィナさん。サトリって言います」
「よ、よろしくお願いします……!」
レヴィナさんが若干びっくりしているがすぐに慣れるだろう。ここ数日で友達がどんどん増えてるから本人も驚いてるだろうな。
自己紹介を済ませて、私達はいつものテラス席に座った。オススメするのはこの席も含めてだからね。
「えっと。とりあえず私はコーヒーとチーズケーキにしようかな」
「フユナはね……コーヒーに生クリーム乗ってるやつと……」
そこまで言ってフユナが止まった。その隣ではレヴィナが何やら悩んでいるようだった。
「うーん……『いちごロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』かぁ……美味しそうだけど食べ切れるかな……」
「……」
フユナも気付いてるみたい。すると……
「ねぇねぇ、レヴィナさん。これ一緒に半分こしようよ」
「え……?」
フユナが指差しているのは、レヴィナが悩んでいた『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』だった。
「え、えっと……」
「フユナもこれ食べようと思ってたんだ。いらないなら全部食べちゃうからいいよーだ!」
「あ、ずるい……! 半分こですよ!」
そんなに食べたいなら一個ずつ頼めばいいのに。と思ったけど言わないでおこう。友達と半分こして食べるのに意味があるんだろうしね。
「うん……私、いいこと言った」
「おーい、ルノちゃんは何もいらないのかな?」
いつの間にかサトリさんが来ていた。二人の注文も終わっている。自分の世界に引き篭もってしまってたか……
「えっと、コーヒーとチーズケーキで」
「はいはーい。ご注文ありがとうございます!」
そう言って、サトリさんは去っていった。
数分後。
「お待たせしましたー!」
サトリさんが注文したものを持ってきてくれた。そしていつもの如く……今日は私の隣に座った。
「……?」
レヴィナがちょっと戸惑っていた。普通そうなるよね。
「あの……フユナさん……? サトリさんが座っちゃいましたよ……?」
「ここのカフェはね。空いている時間帯だとサトリちゃんもセットで付いてくるんだよ」
「そ、そうなんですね……」
無理矢理納得していた。レヴィナ……その辺はあまり深く考えちゃだめだよ。
「それにしてもいいなー! わたしもルノちゃんと生活したいよ」
「ゾンビとお友達になれますよ」
「え、ゾンビ……?」
サトリさんがレヴィナを見ながら固まった。いやいや、レヴィナがゾンビな訳じゃないから! 幸薄そうな表情してるけど。
「えーと……私、ネクロマンサーをやっていまして……」
「あ、そういう事か。びっくりしちゃったよ。一瞬、レヴィナさんがゾンビなのかと……」
「えぇ……!?」
「サトリさん。確かにレヴィナは幸薄そうな表情してますがいい子なんですよ」
「あはは……ごめんね」
そんなこんなで妙な誤解はあったものの、その後はのんびりとした時間が流れた。
「へぇ、演劇か。もしかして昨日村に来てた劇団ってレヴィナさんのこと?」
「そうです……あ、でも劇団はもう解散しました」
「え……?」
もしかして昨日言ってたのってマジだったの!?
「こうしてルノさんやフユナさん。そしてサトリさんにも出会えたのであとはゆっくりと余生を……」
「ちょ、ちょっとレヴィナ! まだまだ楽しい事は沢山あるからから! あなたまだまだ若いでしょ!」
レヴィナがまたしても闇に飲まれそうだったので引き留めておく。
「ふーん……それじゃ、ルノちゃんと同じニートか」
「あの……私はニートじゃないですよ?」
「じゃあさ、うちで働かない!?」
「え……?」
うわ! スルーされた上になんかスカウトし始めたぞ!
「ルノちゃん達は知ってると思うけど人が欲しくてさ。レヴィナさん、若くてピチピチだし……」
「ちょっとおじさん。私の友達……いえ、家族をそんないやらしい理由で……」
「いやいや! それだけじゃないよ!? ちょうど明日フェアでさ。よかったらまたルノちゃんとフユナちゃんもどうかな。姉さんも会いたがってるよ?」
「ぞくっ……! 分かりました。そういう事なら遠慮」
「やります……!」
「え?」
「劇団を解散して収入も無いですし、ルノさんと同じニートになってしまいますから……」
「おぉ、ほんとに!? 助かるよ!」
「あの、レヴィナ? 言っておくけど私はニートじゃない上に、ここにはゾンビより恐ろしいお姉さんが……」
「ギンッ……!」
「……て、てへぺろ……?」
また厨房からお姉さんが睨んできた! 聞こえてるはずないのに!?
「じゃあフユナもやるー!」
「フユナ!?」
「ありがとうフユナちゃん! ルノちゃんは……まぁいいや」
「ひどい! 私もやりますよー!」
「おぉ、ありがとうルノちゃん!」
くぅ……!この人絶対に分かってて言ったでしょ……
「まぁ、フェアは明日だけだからよろしくね! ちょっとお手伝いするくらいの気持ちで大丈夫だからさ」
「はい……よろしくお願いします」
そういう訳で再びカフェでアルバイトする事になった。
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結局あの後、カフェでお昼を食べたり、のんびりしたりでいつの間にか夕方になっていた。
現在は村からの帰り道の途中。
「いやぁ、まさかの展開だったね。なんだかドタバタしちゃったけど大丈夫?」
「はい……とても楽しかったですよ。明日も楽しみです」
「フユナ達も何度かお世話になってるんだよ。サトリちゃんのお姉さんもいるんだけどいい人だよ! ……ちょっと怖いけど」
ちょろっとフユナの本音が漏れた。
「ふふ。それなら明日は頑張らないといけませんね……」
レヴィナはとても楽しそうだった。今日もサトリさんという新しい友達ができて、さらに明日は一緒に働く。そしてお姉さんとの顔合わせ。イベントがこうも続いたらやっぱり楽しいよね。
こうして幸せそうにしてくれてるなら一緒に暮らす事になったかいもあるってものだ。
「んじゃ、明日は張り切って行こうね!」
「おー!」
「お、おー……!」