第四十六話〜ネクロマンサー・レヴィナ〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。氷の魔法が大好きな見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
「私は舞台役者の死霊術師・レヴィナ。ネクロマンサーですからね」
そう言って微笑むレヴィナさん。こうして笑ってみるとなかなか可愛らしい顔をしている。
「じゃあさっき、舞台に出てきたゾンビも本物……?」
「はい。ちなみに魔女役の人もそうですよ」
「ひぇ……」
てことは、あれなの? レヴィナさんは舞台で本物のゾンビに囲まれてたってこと?
「そ、それじゃ他の役者さんは?」
「えーと……私だけです」
「え……」
どうやら、この劇団はレヴィナさん一人らしい。他の役者は先程見た通り、全てゾンビ。
「実は私、こんなだから全然友達がいなくて。いえ……ゾンビが友達ですかね……」
うわ、なんか暗い話を始めたぞ。さっきの可愛らしい笑顔はどこにいったのか。
「だからあの時、ルノさんが話しかけてくれて嬉しかったんです。それにネクロマンサーといっても結局は魔法使いみたいなものじゃないですか? だから親近感がわいちゃって……」
「そ、そうなんですね……」
「この魔法を覚えたのだって、友達があまりにも出来ないからもうゾンビでもいいかなって……正直、演劇なんてどうでも……」
「わ、わかりましたから! その辺にしておきましょう!?」
どんどん暗い話になって、闇に飲み込まれてしまいそうだ。お互いに。
「ルノ……この人可愛そうだね」
「幸薄そうな顔ではなく幸薄い顔でしたな」
私の後ろにいた二人がそんな感想を漏らす。グロッタは後でお仕置きするとして。私もだいたい似たような感想だった。悪い子じゃないと思うんだけどなぁ。うーん……
「そうだ。せっかくだしご飯でも一緒にどうですか?」
「え……友達になってくれるんですか……!?」
お話したいなぁ。くらいに思ってたけどもう友達みたいなものか。演劇が終わってからもこうして話してるんだしね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私達はレヴィナさんを連れて自宅に戻った。日も沈んで、辺りはすっかり暗くなっている。
「お邪魔します……」
レヴィナさんは緊張していた。こうして友達の家に招待してもらう事に慣れていないのかもしれないな。
「今、夕飯作りますからその辺でゆっくりしててください」
「じゃあレヴィナさん。ご飯できるまでフユナと遊ぼうよ」
「え? わ、分かりました……」
そうして私は夕飯作りに取り掛かった。
「ふっふっふっ……せっかくだからルノサンドを作ってあげよう。名前は恥ずかしいから伏せておくけど」
別にこれしか作れないわけじゃないからね? その証拠に、ちゃんとロッキのスープにロッキのサラダも……
「よし、完成。困った時はとりあえずロッキだね」
私は夕飯ができたことを伝えにリビングに向かった。するとフユナとレヴィナさんが向かい合って何かをしている。どうやらカードめくりをして遊んでいるみたいだ。
「えーと……ここかな? あ、違った……」
「じゃあフユナの番だね!」
「フユナさん。間違えてくれてもいいんですよ? そうすればあそことあそこで……」
「ここだー!」
「あぁ!? 私が狙ってたのに……」
「ふふ。レヴィナさん顔に出ちゃってるよ」
なんだか見てて微笑ましいやり取りだった。友達がいないなんて言っていたレヴィナさんが嘘みたいだ。
「二人とも、ご飯できたよ」
「はーい。行こう、レヴィナさん」
「は、はい」
もうすっかり友達……良いことだ。
そして私達は食卓につく。フユナとレヴィナさんが隣同士。その前の席に私が座る形だ。
「腕によりをかけて作りました。ちなみにこのメインのやつはオリジナルホットサ」
「ルノサンドだね!」
「フユナさん……? 何ですかそれは……」
「ルノサンドは既存の品にルノがちょっと手を加えただけの……」
「ほ、ほら! 二人とも、冷めちゃうからはやく食べるよ!」
ふぅ。危うくパクリだということがバレるところだった。てかフユナにはバレていたのか……ぐす。
「あ……ルノさん。このルノサンド美味しいです。ふふ」
「それは良かったです……」
なんか褒められたのに、最後ちょっと笑われたぞ!
「レヴィナさん。今夜の宿はどうするんですか? 良かったらうちに泊まってったらどうです?」
「え? でも……流石にそこまでして頂いたらご迷惑になってしまいます……」
「そんな事をないよ、レヴィナさん!」
「そうですよ。友達の好意には甘えてもいいんですよ?」
「そういうことならぜひ……! ありがとうございます」
よっぽど嬉しかったのか、レヴィナさんの表情が一気に明るくなった。やっぱり笑ってた方がいいね。
「ところでレヴィナさんはしばらく村にいるんですか?」
それとも旅の劇団みたいな感じだからすぐに違う街に行ってしまうのだろうか? 友達になって嬉しい反面、離れるとなるとちょっと寂しいな。
「そうですね……正直、演劇をやりたいというよりかは友達作りの意味の方が大きかったので……もう思い残すことはありませんね」
「えぇ……」
またなんか暗い事言い出したな。せっかく友達に慣れたのに、それがレヴィナさんの人生に終止符を打つなんて後味が悪すぎる!
するとフユナが……
「じゃあ、レヴィナさん。ずっとここにいたら?」
「「えっ……?」」
私とレヴィナさんの声が重なった。
「レヴィナさんの大切な目標が達成できたんでしょ?」
「えーと……まぁ、そうですけど」
「じろー」
なんかフユナがめっちゃ見つめてくる。可愛すぎか。
そしてレヴィナは戸惑っているけど、同時にめちゃめちゃ嬉しそうな顔をしている。
「うん、まぁいっか。レヴィナさんさえ良ければどうぞ。せっかくお友達になれたのにお別れってのも寂しいですしね」
「でもご迷惑じゃ……?」
「言ったでしょ? 友達の好意には甘えてもいいんだって。迷惑な事なんてありませんよ」
それを聞いたレヴィナさんは。
「あ、あ、ありがとうございます……! 不束者ですが今後ともよろしくお願いします!」
今までで一番の笑顔でちょっとおかしな挨拶をされてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、急遽グロッタとスフレベルグにも集まってもらった。レヴィナさんを紹介するためだ。
「という訳で……ネクロマンサーのレヴィナと言います。よろしくお願いします」
「フェンリルのグロッタだ。幸薄い娘よ、生きてればいつか良いことがあるぞ!」
「グロッタ。アホ丸出しで失礼な事言わない」
そんなグロッタには氷塊をプレゼント。
「ぎゃあああ!?」
まったく。これから一緒に暮らすんだから変な事言わないでよね。
「ワタシはスフレベルグ。どうぞよろしく」
簡単な自己紹介を終えるとスフレベルグがレヴィナさんに話しかけた。
「ネクロマンサーというと死者の魂を操ったり出来るのでしょう? 珍しい魔法ですね」
「はい。こんなふうにして演劇にも参加してもらってました」
「え、ちょっと……?」
私は嫌な予感しかしなかった。というかこの人がネクロマンサーだということをすっかり忘れていた!?
モゾモゾ……
「ぎゃあああ!? ちょっと待って! いま夜! 夜はやめてよ!?」
こうして私はネクロマンサーと同居するという、一生消えない恐怖を抱えて生きていく事になった。
「怖い……怖い……」
それから眠るまでの数時間。私は布団に潜り込んで恐怖にひたすら耐えていたのでした。