第三十六話〜地獄のアルバイト日和〜
サトリさんのお姉さんの提案により、私とフユナは再びカフェでアルバイトをする事になった。
アルバイト当日。カフェの入口にて。
「ルノさん。フユナさん。今日は来てくれてありがとうございます。分からないことがあれば聞いてくださいね」
そこには極悪非道のお姉さんがいた。
「ルノ……? お姉さんがいるよ……?」
「そ、そうだね。きっとすぐに厨房に行っちゃうから大丈夫だよ」
なんだか嫌な予感がするな……
「んじゃ二人とも、とりあえず着替えちゃおうか。更衣室は前と同じね!」
「「はい……」」
そして私達は着替えを済ませてホールに出た。
「サトリさん? 今回はリラックスできるような小ネタは披露してくれないんですか?」
「小ネタ? 見たいのですか?」
げっ、お姉さんの方だった。そっくりだから間違えちゃうよ!
「い、いやぁ、その……小ネタ……パンの生地をこねたー! なんて……はは」
「……」
「ガクガク……!」
まずい。フユナが完全に怯えている。
「では、私の得意な小ネタを披露してあげます」
「えっ?」
なーんだ、やってくれるみたいだ。意外とノリがいい人なのかも?
「では、いきますね。片手でリンゴ潰し」
え……なにその、ここ数日で何回も見たようなネタ。あ、視界が……
メキメキ!
「ぎゃあああ!? やっぱり! リンゴ潰しって言ったじゃないですか!」
「えぇ、ですからこのように目の前のリンゴを潰しているのですよ?」
「極悪!」
ノリはいいかもしれないけど悪魔! これ、ほんとに潰されかねないよ!
「お待たせー! ルノちゃん。フユナちゃん」
「ガクガク……」
「あれ? どうしたの、フユナちゃん?」
「あ、あれ……!」
「んー?」
「ぎゃあああ! ごめんなさい! ほんとに潰れます!?」
「ふふ、リラックス出来ましたか?」
「……フユナちゃん。まずは簡単な掃除からね」
「うん!」
ま、待って! 二人とも見捨てないでよ!?
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「では、今日は私とルノさんで厨房」
「……」
「わたしとフユナちゃんで接客だね」
「うんっ!」
え、なに……この天国と地獄。
「あの、お姉さん? 接客の人数がもっといた方がいいんじゃないですか? ほら、お姉さんはスーパーウーマンなんだから一人でも……」
「いえ、心配はいらないでしょう。フユナさんも今回は二回目なので、前回よりスムーズに動けるはずですから」
「そうだよ、ルノちゃん。こっちは任せなよ!」
「うん、頑張る!(ニコニコ)」
くっ、嬉しそうなフユナを見ると安心するけど今回ばかりは……羨ましい!
「それじゃ、各自持ち場の準備を始めようか。あと一時間もすればオープンだよ!」
「そうですね。では、ルノさん。厨房へ行きましょうか」
「ひぇぇぇ!」
「ルノ……頑張ってね」
そうして私は厨房に隔離されてしまった。
その後、私は厨房内の簡単な説明を受けた。あとの事は実際に仕事しながら身に付けていくという事らしい。
「オープンまでまだ時間がありますね。ルノさん、何か一品作ってもらえますか?」
「え、もうお腹減っちゃったんですか?」
「……」
「あ、あれ……? 違いました……?」
「ルノさんの料理の腕を見たくてお願いしたんです」
「あ、あーなるほど! ちょっと待っててください!」
危ない危ない。しょうもないギャグで握り潰されるところだった。
数分後。
「できました!」
私が作ったのは野菜をメインに使ったホットサンド。ここだけの話、ロッキサンドをちょっと変えただけ。
「ふむ、では頂きます」
お姉さんが食べ始めた。あれ……意外と好評?
「ご馳走様でした。なかなかの腕前ですね」
「あ、ありがとうございます」
全部食べちゃった。褒められたのは素直に嬉しいけど……やっぱりお腹減ってたんじゃないのか?
「これなら安心して任せられますね」
ほっ。とりあえず合格ラインには届いていたらしい。失敗してたらどうなってたことか……
「そのときはまたリンゴ扱いされてただろうな」
「そろそろオープンですね。今日一日、よろしくお願いしますね」
「こ……こちらこそ、よろしくお願いします!」
今日はなんだか忙しくなりそうだ。
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ついにオープンの時間がやってきた。お客さんの数は相変わらず。この時間帯はカフェらしい静かな雰囲気の中で過ごせるので私もよく来る。
「さて、お昼のピークまでにある程度慣れておきましょうか」
ふむ、この辺りの流れは前回と似たような感じかな。今の時間帯は準備運動みたいなものみたいだ。
「さっそく注文が来たみたいですね。私はドリンクの方をやるので、料理の方はお願いしますね。ピーク時は臨機応変に動きますのでご安心ください」
「分かりました」
注文を受けたサトリさんがやって来た。本日の注文、第一号は……
「ルノサンド一つ入りまーす!」
……
「あの、サトリさん? 小ネタは後にしてくださいよ」
「小ネタじゃないよ!? これ見てごらん!」
「ふむふむ?」
そう言ってメニューを見せてくるサトリさん。本日のおすすめメニューの欄に『ルノサンド』と書いてある
「ルノさん、なにをぼーっとしているのですか。お客様を待たせてしまいますよ?」
「あの、お姉さん。これって?」
「あぁ、美味しかったので本日のおすすめに加えました」
えー! ロッキサンドをパクっただけなのに! いや、だからこそ美味しかったのか?
さらにフユナも注文を受けてきた。
「ルノサンド二つお願いします!」
「は、はいはい!」
なんだか妙に人気だぞ。なんかちょっと罪悪感。
「はい、ロッキサンドできましたよ!」
「想像以上に売れてますね」
「これ、ピークの時やばくないですか?」
「ふふ、私の見る目に狂いは無かったようですね(ドヤァ)」
うわ、ドヤ顔した! 作ったの私ですよ! パクリだけど。
「大丈夫ですよ。ルノさんのルノサンド、見て作り方覚えましたから。ピークのときは私も作ります」
「助かります。……さらっとボケましたね」
そんなやり取りをしているうちにあっという間にピークの時間がやってきた。予想通りルノサンドが大量に注文された。コーヒーの注文より多いんじゃないかな……
「ルノちゃん、ルノチャンド三つ追加ね!ぷっ!」
「ルノ、こっちはルノサンド二つだよ。くすくす」
「ひぇぇぇ!」
ルノサンド、人気出すぎ……接客の二人もルノルノルノルノ楽しそうにしちゃって! てかサトリさん、今確実にボケてたでしょ!
「ルノさん、手が止まってますよ」
「あっ、すいません」
厨房は大忙しだ。私とお姉さん、二人がかりでルノサンドを作っている。もはやこれしか出てない気さえしてきた。
そんな時、ふと思った。あまりの忙しさでちょっと空気が重いかな。よし……
「お姉さんお姉さん。私が作ったやつがルノサンドなら、お姉さんが作ったやつはお姉さんサンド……いえ、お姉サンドですね!」
「……」
「……な、なんちゃってー……あ、あれ……? 白けちゃいました? てへぺろ?」
「ギンッ!!」
「ひぇ!?」
怖すぎ! 少しは心を開いてくれたと思ったのに! これじゃ初日より怖い!?
「ルノさん」
「あぅ……」
「お気遣いありがとうございます。こんな空気じゃいけませんね」
あ、通じてた。握り潰されるのを覚悟してたけど良かった! なんだかそこまで素直にお礼言われると照れるけど……おかげでちょっと厨房が明るくなったな。よーし!
「い、いえ……大したことは。そ、それより今のギャグどうでした? 我慢しなくてもいいんですよ? ほらほらー」
私は完全に調子に乗ってお姉さんの脇腹をいつかのようにつついた。
「チョンチョンーっと!」
「あ、あふっ……!?」
あ、笑った! ふふ、これで厨房も完全に明るい雰囲気に……
「あれ? 暗く……?」
メキメキ……!
「ぎゃあああ!? なんで! いい流れだったのに!」
「調子に乗りすぎましたね……逝きなさい……」
メキャッ!
「ぎゃあああーーー!」
変な音した! なっちゃいけない音がした!
それ以降、私は真面目に忠実に働きました。
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「みんなお疲れー!」
そんなサトリさんの元気な声が響くのは閉店後の店内。ルノサンドの莫大な人気によってお客さんが途切れることはなかったものの、なんとか乗り越えることができた。
「はぁ、死ぬかと思いました。色んな意味で……」
「まったく……自業自得ですよ」
そう言うものの、お姉さんの表情は晴れ晴れとしていた。それは私も同じだった。
「ルノ? なんか幸せそうだね」
「え、そうかな? やりきったぞー! って爽快感はあるかも」
「はは、いい事だよ。ルノちゃん!」
そう考えるとなんだか充実してた気がするなぁ……うまく言えないけど。
「さて……それでは、ルノさん。フユナさん。今日はご苦労様でした」
そう言ってお姉さんが今日のお給料を手渡してきた。
「「ありがとうございます」」
私達はお礼を言って受け取る。
「今日は本当に助かりましたよ。あなた達を正式に雇いたいくらいです」
「お力になれたなら良かったです。ずっとは働けないですけど……」
「ふふ、分かっていますよ。あなた達にはあなた達の生活がありますもんね」
なんだか今生の別れみたいな空気になってきたな……ちょっと寂しい。よし、明るくしないとね!
「そんな寂しいこと言わないでください。今生の別れじゃないんですから! チョンチョン!」
「く、くふぅ……!」
「あーあ……」
あ、またやっちゃった……サトリさんが『やっちゃったね……』みたいな顔をしてる。……やっぱり怒られるかな?
「そ、その通りですね。また機会があればその時はまたうちで働いてくださいね」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
怒らなかった! それどころか今までで一番の笑顔。やばい感動で涙が出そう。心が通じあった瞬間って感じがする。
どうだ、サトリさん! 私達はもう友達なんですよ!
「ですが」
「???」
「やはり調子に乗りすぎましたね」
「ぎゃあああ!?」
メキャッ……!
結局、握り潰される未来は変わりませんでした。




