第三十五話〜お見舞いに行った〜
コンコン。
「サトリさん、ルノです。入っても大丈夫ですか?」
「え、ルノちゃん? どうぞ」
私はカフェの二階にあるサトリさんの部屋にやってきた。色んな誤解を解いた後、せっかくなのでお見舞いに来たという訳だ。
「サトリさんにサトリさんが風邪を引いたと聞いたのでお見舞いに来ました。思ったより元気そうですね」
「急に何言ってるの?」
「下にもサトリさんがいましたよ」
「あぁ、そういうことね」
私が言っていることを理解してくれたみたいだ。
「それにしてもお姉さんがいるなんて全然知らなかったですよ。私をはめる気だったんですか? 私、頭を握り潰されそうになったんですよ」
「えぇ、何やらかしたのさ?」
「脇腹をつついたり、心の中で極悪人呼ばわりしていたのを自ら暴露したりしました」
「それ、自業自得!」
正論を言われてしまった。まぁ、確かにそうかもしれないけど。
「でも、最初はびっくりしましたよ。あまりにも対応が塩辛で、私が何か悪い事しちゃったかなーと思いましたけど思い当たらないですし。だったら何でサトリさんはこんなに極悪な雰囲気を醸し出してるんだろうなぁーって」
ガチャ。
「あ」
「だから試しに脇腹をつついてみたら急に悪魔になって、片腕だけで頭を砕かれそうになったって訳です」
スタスタ……
「……」
「あと、本物のサトリさんかどうか確かめるために名前を呼んでみたんですよ。そしたら睨まれちゃって……ギロギロ言いながらこっちに来るんですよ? あ、思い出してきちゃった……ぷぷっ!」
すると突然私の肩が誰かにトントンされた。それに振り向く私。
「ん? あれ、サトリさん? いつの間に?」
「ルノちゃん……終わったね……」
またしても振り向く私。
「??? ……あ!?」
やばい。本当だ……終わった。今後ろにいるサトリさんは極悪な方だ。汗が止まらない……
「ふふ。楽しそうで何よりです。コーヒー持ってきましたよ? (ギロッ)」
「あ、ありがとうございます。て、てへぺろ……?」
もちろんその後はおでこを鷲掴みされ、握り潰されました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぅ、頭が……頭が……!」
「わたしがいない間に何があったかだいたい分かったよ……」
サトリさんが可哀想なものを見る目で私を見ている。
「でも、二回目に脇腹をつついた時はちょっと嬉しそうだったんですよ?」
「え、二回もやったの? ルノちゃん勇者だね」
「そしたら『は、はふん!』って。これはもうドM確定……」
トントン
「え?」
「まだ懲りていないようですね? 話を捏造までして……(ギロッ)」
「ひぇ……」
お姉さんがまたしても後ろに立っていた。今度はケーキを持ってきてくれたらしい。
「ちち、違うんですよ……? あの時のお姉さんにはなんだかお茶目な雰囲気があったなーっていうお話でして。あとつついた時、意外とお肉がプニプニして……」
「……」
メキッ!
「ぎゃあああ! 頭が! ごめんなさいごめんなさい!」
「まったく……」
私はすぐに解放された。はぁ、良かった。
「ルノちゃんは怖いもの知らずだねぇ」
「いや、私だって握り潰されたいわけじゃないですよ?」
「それにしては私の事を極悪人扱いしてばかりですね?」
「そ、そんなことする訳ないじゃないですかー! てへ」
あれ……今度はお姉さんは部屋から出ていかない。すっかり落ち着いちゃったぞ?
「あの、お姉さん。お仕事の方は……?」
「今は暇なので大丈夫ですよ」
ふむ、なるほど。サトリさんのサボり癖はどうやらお姉さんの影響のようだ
すると不意に。
「ルノさん」
「ひっ」
「……その反応は傷つくのですが」
「ご、ごめんなさい。何でしょうか?」
「突然ですが、またうちで働いてみませんか?」
「ひっ!?」
「なんでそこで怯えるんですか? ……ご覧の通り、現在サトリが体調を崩していまして人手が欲しかったところなんです。ルノさんは以前もうちで活躍してくれましたしね」
「あのーわたしならもう大丈夫だよ?」
「それでも人手は欲しいでしょう?」
「まぁ……確かに。どうかな、ルノちゃん?」
「はぁ……そうですね。私でお力になれるのならやらせて頂きますけど……」
うーん、でもどうしようか。
「前回と違って討伐に行こうと思えばいくらでもいけるし……それにお姉さんはああ言ってるけど、きっと極悪人扱いされた事を根に持って私を使い潰す気なんじゃ……いや、それともプニプニ」
「ルノちゃん! 心の声ダダ漏れだよ!」
「はっ!?」
「……」
あっ、やばい……これは怒ってる。
まぁ、前回バイトした時は楽しかったし助けてあげる意味でもお手伝いしようかな。まったく仕方ないなー! ……もう心の声漏れてないよね?
「では、私なんかで良ければぜひ働かせてください」
「おー! ありがとうルノちゃん! 実はここ最近、この仕事に飽きてきてたんだよね。これでしばらくは楽しくなるよ!」
「サトリさん、ご愁傷様です」
「え?」
メキッ!
「ぎゃあああ!? わたし病人だよ!?」
「もう大丈夫なんでしょう? なら遠慮なく握り潰せるわ」
「ぎゃあああ……ああ……あ……!?」
メキャッ……!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「では、ルノさん。ぜひ明日からお願いしますね」
「本人さえ良ければフユナちゃんも連れてきてね。貴重な看板娘だからね」
「はい、分かりました。明日からよろしくお願いします」
そうして帰宅した私はさっそくフユナに声を掛けてみた。
「え、サトリちゃんの所でバイト?」
「うん。私はもう手伝うってことになったんだけど、フユナもやりたかったらぜひお願いしたいって」
「その……サトリちゃんのお姉さんもいるんだよね?」
どうやらフユナにとってもお姉さんはトラウマになってるらしい。
「でも、大丈夫じゃないかな。前回もお姉さんいたらしいけどずっと厨房にいたから会わなかったでしょ?」
「そ、そうだね。うん、フユナもお手伝いするよ!」
という訳で翌日。
「今日はよろしくお願いします」
「お、お願いします」
「よろしくね、二人とも!」
そして。
「ルノさん。フユナさん。今日は来てくれてありがとうございます。分からないことがあれば聞いてくださいね」
極悪の化身。お姉さんがそこにいた。




