24話
信秀「お土、あの娘の様子はどうであった?」
妻の土田御前が部屋に戻って来ると信秀がそう尋ねた。
土田御前「なかなか面白い娘みたいですね」
信秀「面白いか?」
土田御前「ええ、子供がもう一人増えたみたいな感じで、なんだか楽しく過ごせました」
先ほどの勘十郎の部屋での事を振り返り土田御前がそう話した、
信秀「そうか。このままあの鬼の子を我が家に置いていても大丈夫だと思うか?」
土田御前「そうですね。色々と教えてあげないといけない事は多くあるみたいですが、気性が荒くてすぐに怒ったり暴れたりするような所は見受けられませんでしたから、大丈夫と言えば大丈夫なのかもしれません」
信秀「そうか」
土田御前の話を聞き信秀は少し安堵するような気持ちを覚えそう呟いた。
土田御前「とは言えチヨは少し大変かもしれません」
信秀「んっ? チヨがどうかしたのか?」
土田御前「先ほど勘十郎ちゃんの部屋で勘十郎ちゃんの出してくれたお茶とお団子をみんなでいただいていたのですが、サクラさんに何度もお団子を食べられてしまって困っていましたよ」
信秀「団子って、なんだそんな事か」
土田御前「そんな事ではありますが、人の物を取ってはいけないとか人の物を食べてはいけないとか、そう言う所から教えていかなければならないみたいですから大変だと思いますよ」
信秀「むっ、確かにそれは少し面倒と言うか手間がかかるのかもしれんな」
土田御前「はい。コチラの話す事は理解できているみたいですし頭が悪いと言う事もなさそうですが、元々住んでいた場所とは色々勝手が違うでしょうし直ぐに人と同じようにと言うのは難しいかもしれません」
信秀「なるほどのぉ」
土田御前「と言う訳で、チヨにはなにかご褒美を考えてあげた方が良いかもしれませんよ」
信秀「チヨに褒美だと?」
土田御前「ええ、勘十郎ちゃんとあの鬼の子の二人の面倒をみなくてはならないのですから大変だと思いますよ」
信秀「そうか」
土田御前「勘十郎ちゃんはあまり手のかからない子ですがまだ子供で目が離せない所もありますし、その上サクラさんもとなると少々チヨの負担が多くなってしまいます」
信秀「そうか。それなら何人か人を増やして……と言う訳にはいかんか。色々と知られたら面倒な事になりそうだしな」
土田御前「そうですね。事情を知っているチヨにこのまま頑張って貰って二人の面倒をみて貰うほかなさそうですね」
信秀「そうか、しかしそれで大丈夫であろうか?」
土田御前「子供の事は子供同士で通じる事もあるでしょうし、このままチヨと勘十郎ちゃんに任せておけば案外それでなんとかなるのかもしれませんね」
信秀「それでなんとかなるのか?」
土田御前「親の私たちがでしゃばってアレコレ口うるさく話すよりも良いかもしれませんよ」
信秀「そう言うものかのぉ」
土田御前「はい、それに勘十郎ちゃんもサクラさんの足りない所に気づいたみたいで、途中から色々教えたり話をしていましたから意外とそれで済むかもしれません」
信秀「そうか」
土田御前「とは言え、子供たちに分かる事や出来る事には限りがありますからその足りない部分は誰か教育係りでも付けて教えてあげるのが良いかもしれませんね」
信秀「教育係りか?」
土田御前「はい、サクラさん一人だけだと目立ってしまうので勘十郎ちゃんとチヨの三人まとめて教えて貰えば悪目立ちする事もなくて良いのではないでしょうか」
信秀「確かに……」
土田御前「とは言え、鬼の相手となると並の者では務まりませんしそれなりの者を手配した方がよろしいかと思います」
信秀「ふーむ、誰にいたそうか……」
土田御前にそう言われ信秀は頭を悩ませながらそう呟いた。
信秀「しかし天狗のヤツも面倒な贈り物を送ってきたものだな」
土田御前「そうですね。でもここさえ乗り切れば勘十郎ちゃんの大きな力になってくれるかもしれませんし、そうなればこの家にも福をもたらしてくれるかもしれませんよ」
信秀「むむむっ、鬼が福をもたらすと言うのもオカシナ話しではあるが、まあそのような事があれば良いな」
土田御前「はい、お前さま」
そうして信秀と土田御前の今後の方向はおおむねそのような事に決まるのだった。
◇◇
勘十郎「ふぅ〜〜、父上が庇ってくれたおかげで助かったよー」
母上が僕の部屋から帰って行くと僕は思わずそんな言葉が出ました。
ちよ「若様よかったですね」
そんな僕を見てチヨもホッとしたのか笑顔を浮かべながらそう話しました。
勘十郎「とは言え、桜の事はどうしよう」
ちよ「サクラさんですか?」
勘十郎「うん、なんだか色々教えてあげないとダメみたいだよね」
ちよ「そうですね」
桜「……………?」
母上が部屋から出て行く姿を目で追ったあとそのままボンヤリと外の景色を見ている桜を見ながら僕とチヨはそう話しました。
勘十郎「こう言う時ってなにを教えてあげればいいのかな?」
ちよ「そうですね。そもそもサクラさんがなにが分かってなにが分からないのか分かりませんし、そのあたりを本人にたずねてみたらいかがでしょう?」
勘十郎「うーん、本人に分からない事を聞いても分からないのだから答えられないんじゃないかな」
ちよ「それもそうですね」
さて、どうしましょう。
ちよ「それなら暫く様子を見ておかしな事をしたらその都度注意をしてあげるとかそんな感じでしょうか」
勘十郎「うーん、それが一番なのかもしれないね」
それしかないって気もするし変な事をしたら注意して覚えてもらうしかないのかな。
ちよ「鬼とか天狗の里とは色々勝手も違うでしょうし、ここでの暮らしに慣れてもらう事も必要でしょうし、その上で人の在り方とか道徳なども教える感じでしょうか」
勘十郎「なんだかそう言われるといっぱい教えてあげなきゃイケナイ事がありそうだね」
ちよ「そうですね。大変だけど、サクラさんも人の里に一人で来て大変なのかもしれませんし、そのくらいは仕方ないのかな」
勘十郎「そだね」
んっ? チヨって桜に少し同情しているのかな?
いやまあ僕の話をそのまま信じたら一人で鬼の里から出て来て家族とか仲間と離れて暮らす事になっちゃった。って事だから同情してもオカシクはないのか……。
ふぅ〜〜、僕の茶室にいたのだから僕が面倒をみてあげないとダメだよね。
桜「…………?」
桜を見ながら僕はそう思うのでした。




