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はじまり

はじめまして

万人受けはしませんね

(いたい!あつい!うごけない!やだ!いたい!いたい!)

全身を焼く熱さと痛み、喉も鼻も乾き切る苦しみにのたうち回っていた少年は、脳内に響く声に怯えて動きを止めました。


隣を見ると、モヤが漂っていて、その声はそこから聞こえてきたようです。


「この魂は死してもなお燃え続けているな……どこまでも苦しかったことしかないのか……」


その言葉に、少年は意味をよく理解できないまま、体を見渡しました。すると、いつの間にか火は消え、全身の火傷跡だけが残されていました。


ふと、周りを見渡すと、夜空と真っ黒な大地だけが広がっていて、人の姿はモヤと自分だけだと気がつきます。

ぼんやりとしたそのモヤは、しばらく黙ってから、やがて呟きました。

「この姿は、安心できる存在になるんだがな……おまえは、なにもなかったんだな……」

その声には、どこか哀しみが含まれていました。

しかし、すぐに気を取り直したのか、モヤは続けて言いました。

「ついてこい。このままだと転生しても魂が傷だらけで、来世に持ち越してしまう」


右も左も分からぬ少年は、それでもついて行くしかありませんでした。


しばらく闇と夜空の景色を歩いていると、だんだんと教会が見えてきました。

モヤは「ここは夜だけの教会。昼間や朝に怯える子たちの安寧の場所。これからお前の仮の住処となる場所だ」と言い、するりとそれを指さすかのようにモヤを伸ばしました。

少年は教会や「仮の住処」という言葉がよく分からないまま、ただ頷いて歩き続けました。

暖かな木でできていて、どこか古さを感じさせるその教会は、穏やかに扉を開けて少年を歓迎していました。


教会の扉をくぐるモヤの後に続いて歩いていくと、長い廊下の先に大きな扉が現れました。

モヤは立ち止まり、

「ここは食堂だ。今、ここには全員が揃っている。名前を聞かれたら、『おい』、もしくは『お前』、なら【名前は無い】と言うといい」

と、静かに扉を開けて主人公を中へ誘いました。


広々とした食堂にはたくさんの机と椅子が並んでいましたが、席はそれぞれ少しずつ離れていて、4人の子供たちがそれぞれの場所に座っていました。


新しくはいる人を待っていたように歓談もなくただ各々過ごしていた3人は、扉が開く音に視線を向けました。

しかし、少年の火傷だらけの体を一目見て息を飲みました。

ここにいる誰もが傷がないからこそ、その異常性に気がついてしまったのです。

1人は無関心に天井を眺めています。


少年の様子に、同い年であろう少年がハッと意識を戻して言葉を紡ぎます。


「あ、あぁ、よく来たな、ここは夜の教会……そうだな……話は聞けたか?名前は言えるか?」


ゆっくりと聞き取りやすいように言われた優しい言葉は、しかし少年にとってはよく分かりませんでした。

それでも聞く中にモヤから言われた言葉があったので、素直に言われたまま答えました。

「なまえは、ない、です」

それを聞いていないのか、1番年上であろう外見の少女はようやく思考が回り出したのか酷く動揺して、

「どうして、ここでは、傷がないのに、なんで火傷跡が……!?」

と呟きました。

その隣の少女は

(気持ちはわかるけど今ではないでしょ)

と横目に見つつ、

「私ユウナ、よろしくね」

と淡々と言葉を紡ぎました。

最初に声をかけた少年は

「おい、しっかりしろ。……っと、俺はリクト。そこのやつはルシアって言うらしい。まあ話したことはないがな」 と動揺を上手く飲み込んで自分と無関心な子を紹介しました。

取り乱していた少女は周りの様子にハッとして、

「わ、私はアオリ、取り乱してごめんね……ここには、あなたを傷つける人はいないからね」

といい、少年を撫でようと手を伸ばしました。


しかし、その手に少年は怯えて固まり、少年の様子にびっくりしてアオリもまた、手を引っ込めました。


「ご、ごめんね」

慌ててアオリが謝るうしろで

「なぁ、案内は俺がしていいか?」

「いいんじゃなーい?私、部屋に戻るわ」

とリクトとユウナはさらりと打ち合わせて役割を決めていました。

アオリは「わ、わたしも……」と続こうとしましたが、「あんた怖がらせたばかりだろ、お互いの為にもまずは時間空けとけ」とリクトに諭されて少し気落ちした様子で部屋へと戻っていきました。


目を開けた少年にとっては気がついたらリクトと主人公、ルシアしかいない状態で思わず目を白黒させてしまいました。

少年の様子が落ち着くのをまってからリクトは、

「どこまで知ってるかな……とりあえず、今日は遅いし部屋まで案内する。ついてこれるか?」

と言い、少年は話していることはよく分かりませんでしたが、質問には頷きました。

その様子を眺め、なぜかリクトは悲しそうに目を細めましたが、少年がその様子を見る前に普段通りの顔にさっさと戻しました。

食堂を出て、てくてくと廊下を歩きながら、リクトはゆっくりと言葉を選ぶようにして説明を続けていました。

「……今は夜で、明日になったら他のことも説明する。今日はまず、寝るだけでいい」

「あぁそうだ、案内は明日からだが、世話はしばらくさせてくれ、……俺がしたいんだ。……ん、あぁ、ここがお前の部屋だ。入っていいか?」

少年は、リクトの説明をあまり理解してはいませんでしたが、聞かれたので頷きました。

その様子を見てから、リクトは部屋のドアを開け、少年と共に中へ入りました。


少年は部屋を一目見て、驚きました。

そこは、少年以外からすればただの一般的な部屋でしたが、ベッドも、棚も、机も、椅子も――綺麗な洋風のもので、少年はこんなに綺麗な部屋を見たことがありませんでした。


「これ、なに?」

「これはベッドだ……入るか?」

「いいの?」

「お前の部屋だからな。登って、そう、んでこれをかける」


リクトが見守るなか、少年はベッドにそっと身を沈めました。

ふわふわで、ふかふかで、暖かくて――この感覚を、少年はいままで知りませんでした。

その柔らかさとぬくもりは、ざわりと心の奥を撫で付けるようで……けれど、彼はその感覚に気づくことができませんでした。


モゾモゾと動く少年を見て、リクトが声をかけました。「……まだ慣れないだろうから無理にここで寝なくていい。俺だって慣れるのに時間がかかったからな。こっちが机と椅子だが、使い方は必要になったら教えるな。……寝れそうか?」


少年は反射的に頷くと、リクトは「……そうか、じゃあ起きる時間になったら迎えに来る」と言って部屋をさっさと出ていきました。


少年はしばらくじっと遠ざかる足音を聞いていましたが、ベッドの柔らかさに落ち着かず、慣れた足取りでいつものように部屋の隅にうずくまって寝ることにしました。


リクトは自室へと長い廊下を歩きながら、生きていた頃を思い出していました。

(クソッタレなゴミと再婚して、俺に沢山のことを教えてくれた母さんは、……酔ったアイツに瓶で殴り殺されたあの優しい人は、こんな風に優しさをくれたのかな)

彼も、母親の死に取り乱したところが気に食わなかったのか瓶で殴られ、当たり所が悪かったのでそのままこちらへとたどり着ました。

死後に目覚めた彼の隣にいたモヤは、顔こそ見えぬものの同い年の姿をした神父になり、こうやって案内をしてくれたのだと思い出しました。


「そういや……あいつのもや?……人型じゃなかったから神父とシスター、どっちなんだ……?そもそも……しゃべれるのか?……まあ、どうでもいいか」


壁に向かって独りごちながら、ろうそくの火をふっと吹き消す。

月の光が差し込むなか、布団に潜り込み、自分を抱きかかえるようにして身体を落ち着けた。


母親に教わらなければ、風呂も食事もまともに知らなかった昔の自分を思い出す。

あの少年に何から教えるべきか、何が駄目で、何が大事なのか。

うつらうつらとした意識のなかで、リクトは思考を巡らせていく。


眠りに落ちる直前、ふと呟いた。


「……そういえば、味はわかるのかな、あいつ」

続きはゆっくりお待ちください

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