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世界は今日も、だいたい平和です?①

── @news.narou_jp


『世界で50以上の戦争――大半の人は現実を知らない』


2026年1月、国際平和調査機関は、世界の紛争状況への市民認知度を測ることを目的に、複数の都市で若者を中心に街頭アンケートを実施した。

「いま、世界で戦争はいくつ起きていると思いますか?」という質問に対し、最も多かった答えは「知らない」。次に多かったのは「自分には関係ない」だった。

一方で、国際統計によれば、現在、50件以上の武力紛争が同時進行している。



『59件』


教室の前で、春野ミコトは両手を広げた。

黒板には、でかでかとした文字で、


【世界平和クラブ 新入部員募集中!】

と書かれていた。


俺は最後列でスマホをいじっていた。


「具体的に何するの?」


誰かが彼女に聞く。


「平和を広める活動!」


「どうやって?」


「えっと……ポスターとか、SNSで!」


教室に微妙な空気が流れる。

でもミコトは気づかない。

いや、気づいていて無視しているのかもしれない。


彼女はそこそこ名の知れた女子高生インフルエンサーだ。

動画チャンネル登録者数十万超え。

その外見をうまく活かして、平和を訴えるといった偽善、いや慈善っぽいことを行ってるらしい。

口癖は「優しい世界にしよ?」


俺のスマホには、ある数字が映っていた。

現在進行中の武力紛争――59。

昨日より二つ増えていた。


「なあ」


俺は手を挙げて質問した。


「今、世界で何件くらい戦争あるか知ってる?」


「えー?」


ミコトは首をかしげる。

完璧に計算された角度で……


「うーん、テレビでやってるのは2個か3個?」


「59」


「そんなにあるわけないよー」


笑い声で返事した。

クラスメイトもつられて笑う。


俺はスマホの画面を彼女に見せた。

ミコトは一瞬だけ黙った。


「……へえ」


それだけだった。


「でもさ」


彼女はすぐに笑顔を戻して話を続けた。


「だからこそ、わたしたちが平和を発信しないと!」


「どこで起きてるか知ってるのか?」


「細かい場所は重要じゃないよ」


「重要だろ」


「だって……」


ミコトは教壇に腰かけ、足をぶらつかせた。


「フォロワーが求めてるのは雰囲気だもん」


教室が一瞬、静まった。


「悲惨な映像とか、難しい解説とかアクセス伸びないんだよ?」


「じゃあ、平和ってなんだ?」


「癒やし」


即答だった。


「#世界#平和、ってタグつけるとね、それだけで数が上がるの」


俺は一瞬、言葉を失った。


「戦争が59件もあるのにか?」


「違うって、59件あるからだと思う」


彼女は笑いながら付け加えた。


「不安が多いほど、優しい言葉は売れるわけ」



『61件』


世界平和クラブは学校内はもちろん、SNS上でも人気を増していった。


やっていることは簡単だった。


パステルカラーのポスターを作る。

“NO WAR”と可愛いフォントで書く。

学校内の壁や、近所の塀に貼っていく。

彼女と一緒の枠内で、その写真を撮る。


それを、SNSにアップする。

すると、コメント欄はこうなる。


《センス良すぎ》

《さらなる平和を願う》

《こういう若者が希望だよな》


59だった数が、61にまで増えていた。


そんなこと知らずに、ミコトはライブ配信で饒舌に話す。


「争いはよくないよね。みんなで優しい気持ちになろ?」


いくつもの、投げ銭が飛びかっていた。

画面の隅に、速報テロップが流れた。


【とある国境で突然の爆撃、死傷者多数】


ライブを見ているほとんどがそんなテロップ、気にしていない。

彼女の同時接続数は過去最高を更新した。



『73件』


「なあ」


放課後、俺は聞いた。


「現実を知ったうえで、まだやってるのか?」


「うん」


「今後、やめる気は?」


「ないよ?」


ミコトは不思議そうに首を傾げる。


「だって、わたしがやめたら戦争が減るの?」


「減らない」


「でしょ?」


彼女はスマホを掲げる。


「でもね、わたしが投稿すると、みんなちょっと安心するんだよ」


「優しい言い方して、現実を鈍らせてるだけだ」


「そうだよ、それのどこがいけないの?」


あまりにあっさりしていて、俺の怒りは行き場を失った。


「痛みっぱなしだと、人って壊れるでしょ」


「……だからって」


「痛みを忘れさせるほうが、需要あるの」


その年末には、紛争数は73になった。


世界平和クラブは全国展開した。

企業スポンサーもついた。

“PEACE COLA”という炭酸飲料が発売された。

売り上げの一部は「どこか」に寄付されるらしい。


あるイベント会場で、ミコトが観客の前に登場する動画を見た。


「世界は、きっとよくなる! 今よりもっと平和になる!」


彼女は変わらず満足げにそう叫んでいた。

その前では、観客が光る棒を振っていた。

単なるアイドルのライブにしか見えなかった。


遠くの空で、またミサイルが落ちたが、

その映像は、トレンド入りしなかった。


代わりに、ミコトの笑顔が一位だった。



『90件』


久しぶりに、あの数字を確認して目を疑った。


90件。


それに対する、コメント欄は相変わらず同じものばかり。


《戦争反対!》

《平和が一番なのに》

《争いは何も生まない》


でも、と俺は疑ってしまった。

争いで生まれているものがあった。


ミコトの再生数、それに伴う広告収入。

彼女の知名度と金が、確実に生み出されていた。


しばらくして、彼女からメッセージが届いた。


──次のこの企画どう思う? 戦争ゼロカウントダウン、ってタイトルで、ミサイルの模型を戦争の数だけ作って、みんなで壊していくってやつ


俺はすぐに返信した。


──今、いくつ紛争が起こってるか知ってるか?


だけど、既読はつかなかった。

その代わりにSNSの通知が届いた。


【世界平和クラブ公式】


本日もたくさんの愛をありがとう! 

ついに登録者数百万人突破したよ!


コメント欄はすべて祝福で埋まっていた。


彼女と関わっているやつらは幸せを感じているらしい。

ミコトの言っていることは正しかったわけだ。


少なくとも、

彼女のまわりでは、今日もだいたい平和らしい。

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