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第六十話 誘拐事件

「『(ムーン)』!!貴様、朝霧悠と小競り合いする為に来たわけではないだろう!!」

「黙れ『水星(マーキュリー)』。どの目線でものを言っている!」


 ゴドラはそう言うと、手のひらを悠に向かってかざした。


「『(ムーン)』!!」


 ゴドラがそう唱えた瞬間、手のひらからは爆発的な魔力が放出された。ただの魔力解放。それだけで攻撃のようで、サタンに掴まれている圭太は今にも意識を失いそうだった。

 すると、十星のうち、1人の男が口を開いた。


「俺がここ見とくから。お前ら戻ってていいよ。」


 男がそう言った瞬間、魔力とは違う、殺気でもない、“緊張感”が走った。十星全員が静まり返り、少しの音も立てなくなってしまった。それは、戦闘中の悠とゴドラでさえ同様だった。

 魔法を使った訳でもない。ただの圧。


「……撤収するぞ。」


 『木星(ジュピター)』がそう言うと、十星は静かに暗闇に去っていってしまった。気がつけば、悠とゴドラは既に戦闘を再開していた。

 十星が入っていった巨大な鋼鉄の扉の境目に座る男は、ちょいちょいっとV-ENOMを手招きした。V-ENOMは驚きつつも、慎重に近寄っていった。ある程度まで近づいたが、扉ははるか上空にある。


「V-ENOM、そこで飛び跳ねんの。」


 V-ENOMは言われるがままに飛び跳ねると、足からジェット噴射のように炎が放射され、扉まで登ることができた。


「それ俺の能力。」

「見せていいのか?」

「見せたところで負けないし。」


 男はいかにもダルそうな雰囲気で、ため息を着くと寝転がり始めた。今の能力から見るに、この男は『火星(マーズ)』であろう。


「十星内にも権力差があるのか。」

「まぁね。」

「そんなの、誰かが不平不満を抱かないのか?」

「別に?」


 マーズはのらりくらり質問の答えの核心を避けるように曖昧な回答を続けた。V-ENOMは痺れを切らして、いちばん聞きたい内容を口にしてしまった。


「十星以上の権力者が……異世界警察内にはいるんじゃないのか!?」


 そう言った瞬間、V-ENOMの目の前にはマーズが人差し指を顔の前に立てて立っていた。


「それ以上言ったら殺さないとだから。」


 思わずV-ENOMはその場に尻もちをついてしまった。十星は敵、倒すべき対象などという“浅はかな理想”を抱いていた。

 倒すべき敵などではない。最早、次元が違う。ランクは『VI』と『Ⅶ』で1つしか変わらない。なのに、全くレベルが違っていた。


「権力差はある。力の差もある。権力がいちばんあるのは俺、力がいちばんあんのはゴドラだ。」


 マーズはそう言うと、その場に座り込んだ。悠とゴドラは最早魔法を放つことすらなく拳で殴り合いをしている。

 悠の右手がゴドラの腹に直撃して、吹き飛ばされそうになるが、ゴドラはギリギリで堪えた。


「っ……悠、魔法よりも強いもの、貴様も分かっているな!!」


 そう言うと、ゴドラは目を大きく見開いた。瞬間、ゴドラの目玉の奥の奥の奥の奥から、奇妙な光が現れた。それはまるで全てを反射しているかのような明るい光であった。

 森の木がざわめき、悠も気迫で少し押されかけた。


「ゴドラ。」


 力を解放しかけたゴドラに向かって、マーズは小さく呟いた。聞こえる距離ではなくても、しっかりとゴドラの耳には届いた。

 ゴドラは従ったような気持ちになって苛立ったが、大人しく止まった。


「帰るぞ。ゴドラ。」

「悠、次に会った時には覚えておけ。」


 ゴドラはそう捨て台詞を吐くと、自身の術でフワリと浮かび上がって扉の中に入っていった。

 ゴドラはストレス発散なのか、V-ENOMを突き飛ばした。


「ひゃっ……落ちるぅっ!!」


 V-ENOMは突き飛ばされたせいで落下していったが、悠がスッと受け止めた。


「ありがとうございます悠様っ……」


 V-ENOMは最後まで言いきらずに言葉に詰まった。何故なら、悠が険しい顔で扉を見つめていたからだ。


「悠様?」

「面倒くさい体だな。」


 そう言うと、悠はV-ENOMを落とすように離して、スタスタ歩いていってしまった。


「ちょっ……どういうことですか?」


 悠が苛立っていたのは、まだ全く力を取り戻せていない事だった。今のは悠の全力だった。だが、ゴドラは全く持って力を発揮していなかった。

 弱い悠をYとする。

 悠が力の器だとすれば、Yはその受け皿である。非常に大きくはあるものの、あくまで受け皿なので力は小さい。

 以前、Yが死亡して、悠に体の権利が移った時、悠の器は“大きく揺れ動いた”。水が満タンのコップを揺らせばどうなるのか、当然溢れて零れるだろう。つまり、今、悠の力はYと半分になっていると言える。


「帰るぞ。異世界警察の均衡がまずい事になっている。」


 V-ENOMはようやくその時に冷静になった。そう、十星は異世界警察を裏切ったのだ。死者蘇生は当然黒魔術、奴らは全員ビーストとなったのだ。


「END達だけでは無い。私たち異世界警察は十星すらも相対しているのだ。」


 悠はそう言うと、火山から流れ出るマグマを吹き飛ばして止めた。


「……あぁっ!!!!」


 V-ENOMが突然マズイことを思い出してそう叫んだので、悠は耳を塞いだ。


「圭太……十星に攫われました。」


 悠は驚きはしなかったが、V-ENOMの雑さに呆れてため息をついた。


「殺したければその場で殺すはずだ。殺されることはない、問題解決してから救出しに行くとしよう。」


第六十話 終

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