第百十九話 悪魔
生まれながらの常識が狂っていたとすれば、貴方はその人を狂人だと言えるだろうか。
生まれながらの常識が狂っていたとすれば、貴方はその人を同情するだろうか。
高く昇るKREUZの煙が見せたのは、虚しい現実であった。快楽にも、優越感にも、慎一は浸ることが出来なかった。
「これ以上戦って何が生まれる。俺はクローバーを殺してぇんだ。お前と戦う必要はない。」
〖私なりのケジメだ。〗
慎一は苛立ち、戦闘中の冥王星の腹部を膝で蹴りつけた。
〖っ……!!〗
「だったらお望み通り殺してやるよ!!」
ガラにもなく慎一は怒鳴ると、殴り、蹴り、冥王星を一方的に痛めつけた。
しかし、冥王星は分かっていた。慎一に殺意はない。魔法を使うことは出来るはずなのに、使えば瞬殺出来るのに、先程から身体攻撃ばかり使っている。それが慎一の……
〖貴様の弱点だ。坂本慎一。〗
不敵な笑みを浮かべて、そう言い返してきた冥王星に、慎一は一瞬怯んだ。
冥王星は隙を見逃さず、慎一に近づくと、その体に触れて魔法を唱えた。
〖冥王星〗
油断した慎一は動きを止められ、その場で完全に停止してしまった。小指の一本すら動かすことができない。
〖先程圭太からの連絡が伝わった時点で、貴様らは分かっていたはずだ。〗
そう言うと、冥王星は魔法陣を描いて、詠唱を始めた。
【貴方の視界は闇く閉じる
全ての“オワリ”よ、正体を見せろ】
冥王星が手をつけていないはずの場所にも大量に魔法陣が現れ、辺りは魔力に包まれて、天候は大嵐へと変貌した。
雨の音と共に感じられたのは、生臭い血の香りだった。雨の音をかき消すように、慎一の耳に届いたのは、低く冷たい声であった。
【誰かな、死神を呼んだのは。】
首元に黒いファーをあしらった、全身黒ずくめの男が初めに姿を現した。金髪はいつの間にか黒い髪に変貌していて、被っている黒いフェドラハットが重圧感を与えている。
END。そしてその組織のメンバーは魔法陣から続々と現れた。
メイ、ジン。二人はENDの両端に立つと、慎一の姿をジッと睨んだ。
【また会うとはな。坂本慎一。】
「クソ野郎……!!」
いつの間にか冥王星の能力は解除されていたが、慎一は体が動かず、尻もちをついたまま怪物達の姿を見上げていた。
メイとジンの背後からは、続々と四天王の姿も現れた。ダイヤ、ハート、スペード、そして慎一の因縁のクローバーであった。
「クローバー!!」
【どうした、坂本慎一!!名前呼ぶだけかよ!?】
「やめろ。」
挑発するようにクローバーは言ったが、さらにその背後から制止する声が聞こえて来たことで動きを止めた。
【ウルグ・ハース。てめぇ後輩の癖に生意気だぞ。】
「年功序列でしか俺に勝てないんだからな。そうやって威張っておけばいい。」
クローバーは眉間に皺を寄せ、青筋を立てたが、メイにどつかれて怒りを抑えた。
ウルグは疲れているのか、ずっと目を閉じていて、顔にはシワが多い。
「冥王星……てめぇ何時から裏切ってやがったんだ……!!」
【とうに分かっていたはずだろう。終災侵攻で私を拾った時から、私はEND様の手先だ。そんなこと気がついていたはず。だが、私に情を移して目を瞑っていたのは貴様だろう。】
そう、慎一は冥王星がENDの部下であることなど分かっていた。今回の戦争で、確実にそのケジメをつけようと思っていた。しかし、それは阻止されてしまった。
「狂人が……」
【狂人か。何を常識として生まれるかなど環境で変わってしまう。私からすれば狂っているのは貴様らだ。】
そう言うと、冥王星はENDの方を向いた。
【冷酷な女だな。】
ENDはそう言うと、慎一のサングラスを外した。その時、慎一はENDと初めて目を合わせた。合わせてしまった。
「慎一!!!」
どこかから、アタスマの声が聞こえてきた。駄目だ、こっちに来ては行けない。ENDの口角が少しつり上がったのが見えた。
もう自分が死ぬのは分かっていた。アタスマが死ねば、慎一は後悔を残してしまう。
「逃げろ!!アタスマ!!」
【彼女の鎮魂歌代わりに叫べよ。悲鳴は極上の演奏だ。】
ENDはそう言うと、慎一の心臓部に触れた。瞬間、慎一の中で何かが吸われていく感覚がした。それは生気なのか、はたまた魂であるのか、その真意を知るよりも先に、あっさりと慎一は命を絶ってしまった。
慎一が倒れると、アタスマの声は更に近くなった。
【私が始末しましょうか。】
ジンがそう聞いたが、ENDは心変わりしたようだ。横に首を振った。
【愛人を失った女の顔もまた美しいものだ。】
ENDはそう言うと、下劣な笑みを浮かべた。部下にその場を離れさせると、ENDだけがその場に残った。
アタスマはENDの姿など目に入らないのか、慎一を見つけると、涙を流して一目散にその肩を揺らした。
「起きてください!!起きて!!慎一!!」
アタスマの叫ぶ様子を見て、ENDは暗い眼のまま、口角だけを上げて笑みを浮かべた。
【死ねば会えるぞ?】
その笑みは死人を嘲笑うような、ほんの少しの善性も無い極悪なものだった。男の正体はきっと死神ではない。悪魔である。
〖屋外の戦い 冥王星vs坂本慎一〗
勝者 冥王星
第百十九話 終
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