第百九話 家族なんだから
勝てるわけが無い。月もそれくらい分かっていた。完全に恨みを抱かれた状態。それに、戦力差も大きすぎた。
朝霧悠の力は、1つの人格に集められ、完全体となった。世界切断をした、昔の朝霧悠に戻ってしまったのだ。
〖もう十分だろう。〗
月は戦いを放棄するようにそう言った。今の悠は、『太陽』の力を失った代わりに、以前の50000個を超える魔法が戻った状態だ。勝てるような相手ではない。
「ふざけんな。」
悠はそう言うと、狂ったように魔法で月を痛めつけ続けた。だが、月の表情はピクリとも動かず、むしろ悠の方が涙を浮かべて辛そうな表情をしていた。
悠が叢雲を抜いて、腕を切断しようとしたが、叢雲は寸前で止まって動かなくなった。
【悠、やめろ。こんなの望んでねぇだろ。】
「なんだ、お前まで逆らうのかよ……ココはこいつに殺されたんだ!!」
【ココがこいつが死ぬのを望んでいるわけねぇだろうが!!】
「俺のケジメだよ!!」
悠がそう言うと、説得は不可能と思って諦めたのか、叢雲は言うの手を離れ、吹き飛ぶようにして地面に突き刺さった。
〖内輪揉めをしている暇があるなら死者蘇生でココロ・シンリーを蘇らせたらどうだ。〗
「倫理に反する。」
〖浅ましいんだよ。貴様の言う倫理は“論”ではなくプライドだろう。引くに引けないだけで一人の命を無駄にするのか。〗
正直なところ、悠は自覚していた。死者蘇生が完全悪ではないことを。だが、それには犠牲が必要なのは事実だ。それを無視して一人の命を蘇らせるのは悠には不可能であった。
「くそ……くそ……」
悠は涙を浮かべた。最早何が正しくて、何をすればいいのか分からない。一番、ココを生き返らせたいと思っているのは悠自身だ。
これが意地なのか、プライドなのか、『死者蘇生は間違っている』という漠然とした思想だけが頭の中にあった。それが後ろ髪を引くようだった。
〖朝霧悠……葛藤か。ナルシストの名が聞いて呆れるな。〗
悠はそう言われると、涙を拭って月を睨みつけた。
「教えてやる、月。」
そう言うと、悠は乱暴に叢雲を抜いた。刃を月に向けると、睨みつけた。
「犠牲を払う死者蘇生は行わない。ケジメはきっちり付けさせてもらう。立てよ、勝者の言うことが正義だ。」
〖良いだろう。〗
そう言うと、月は立ち上がった。瞬間、呼応するように月光の光が強くなり、月の傷はみるみる癒えていった。
〖自信過剰な貴様のそのプライドをへし折って十字架にしてやる。〗
「神を祈って力借りとけよ。俺は俺自身の力で戦ってんだよ!!」
月は手のひらを向けると、『月』を放った。瞬間、手のひらは光り輝き、悠は上空に吹き飛ばされた。
〖反重力〗
月の重力は地球の6分の1、それを利用した反重力は相手にかかる重力を限りなく低くするとことで、吹き飛ばす事が可能になる能力。
止まることなく上空に飛んでいき、待っているのは酸素のない宇宙。悠と言えども、宇宙に行けば一溜りもない。
「起きろ叢雲、俺だ。」
【……】
「朝霧悠様が呼びかけてんだ!!起きろ!!」
【へっ、ようやく自信取り戻したか。】
悠がそう言うと、叢雲はようやく起きたようだ。【ケッケッケ】という笑い声を悠は久しぶりに聞いた感覚がした。
「重くなれ、叢雲!!」
かかる重力が少ないのなら、重くなればいい話だ。叢雲はどんどん重くなっていき、十秒経たないうちに上昇は降下へと変わった。
「『部隊』。」
落下中に悠がそう詠唱すると、鋼鉄の鎧を身にまとった、空の騎士が数名出てきて、月に襲いかかった。
〖アヴァンギャルドは前衛だろう。〗
「キーパーダッシュだよ。」
悠も叢雲を握ると、アヴァンで死角に隠れつつ、月に近づいていった。
「『雑音』。」
悠がそう唱えると、辺りには耳に入っただけで気絶してしまうほどの雑音が響き渡った。が、月は防御するように、両手を突き出していて、意に介していない様子だった。
〖月鏡〗
太陽光を反射する月と同じ。月は全ての攻撃を簡単に受け流して、通用することはなかった。
「目くらましだよ。」
悠は一気に距離を詰めると、叢雲を振り、月を真っ二つにするほどの勢いで切りかかった。
が、そう上手くはいかず、簡単に躱されて、寧ろ〖月〗の光で吹き飛ばされた。
「チッ……あぁっ!!めんどくさい、これで最後だ!!」
〖奇遇だな。俺もそうしようとしていたところだ。〗
2人はそういうと、向き合って、一歩一歩距離を縮めていった。ジリジリと詰め寄っていく2人の間には、無限とも思える空間があり、それを侵すことはなんびとたりとも許されなかった。
悠が一歩の大きさを数ミリ変えた。その刹那、2人の位置が入れ替わるように、同時に攻撃は放たれた。
〖静かの海!!〗
「『月欠』!!」
放たれた技はぶつかり合い、爆発となり、波動を生んだ。砂埃が舞い上がり、辺りの物は騒々しく、まるで暴れているようだった。
煙の中から現れたのは、腹部を切られ倒れる月と、夜の暗闇の中で光を放つ叢雲を持つ悠だけであった。
「月欠という名前を聞いた時に思ったんだけど……これはお前の弟子が作った秘伝だな。」
〖あぁ。月欠流。十星が設立するよりももっと前に私が弟子に教えたものだ。全く……今になって牙を剥くとは。〗
「圭太に聞いた時に、聞いたことがあったんだ。だから、“もう一人の悠”が圭太から術を教わってたんだ。おかげで体に能力が染み付いてた。」
叢雲の月光は光を失い、悠は叢雲を鞘に収めた。月はいい加減に諦めたようで、ため息をついた。
〖殺せ。生きながらえる意味もない。〗
「死にたきゃ死ね。俺はお前が死ぬことは望んでない。」
〖優しい言葉の一つも言えないか。〗
そのままどこかへ行こうとする悠に呆れて、月は笑みを零した。気がつけば悠はどんどん走っていって、一分も経過しないうちに十星の世界に転移してしまっていた。
同時に、建物の影が渦巻いて、中から2人の人間が現れた。
【元気にしてた、ゴドラ。】
〖メイ……!?〗
現れたのは、メイとENDであった。ENDは興味が無いのか、渦巻く影の中に一人立ち続けている。
【朝霧悠に負けたのね。】
〖何か悪いか。〗
【何も。】
目的が分からないメイに対して苛立ちを感じたのか、月は声を荒らげた。
〖私に負けたことが悔しいのなら今ここで殺せばいい。〗
【あら、カッコイイこと言うようになったじゃない。でもごめんなさい。私はもうこっちに来たの。貴方に構ってる暇はないわ。】
小脇に抱えているのは八咫鏡。そうか、やはりENDは回収に成功していたのか。
すると、メイはポケットを漁って回復薬を取り出した。
【これ、飲みなさい。】
月が言われるがままに飲み込んでいる間に、医療箱を取り出して、メイは治療を始めた。
〖負けると分かっていたのか。〗
【当たり前よ。】
メイは笑みを浮かべてそう言った。
月は圧倒されたが、フッと笑みを浮かべて言った。
〖全く姉様には敵わないな……〗
【全部分かってるのよ。】
第百九話 『家族なんだから』 終
エピソードタイトルの伏線回収、ちょっと好きなんですよね




