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第百三話 二度目

〖弱ぇなぁッ!!〗


 火星(マーズ)の拳が蒼の顔面を強打したが、蒼は全く引かず、むしろカウンター代わりに火星(マーズ)の腹に一撃入れた。

 鬼丸は遠くの地面に突き刺さっている。取りに行こうと思えば行ける。が、取りに行かないのは、俗に言う「男のプライド」である。


 男は稀に「意地」を見せる。目的すらないのに、ひとつのプライドに固執するのだ。今、蒼の中にあるのはそれ以外の何者でもなかった。

 武器も魔法も使わない。拳だけで殴り合う。だが、蒼は先程火星(マーズ)に全身を焼かれていたことで、大きく体力を消耗していた。自分で気がつくことができないほどに。


「っ……」


 大した重さのパンチではなかったはず。だが、蒼はその場に崩れ落ちるように倒れた。


〖おいおい……そんなもんかよ!!〗

「はぁ……はぁ……」


 立ち上がる気配のない蒼に苛立ったのか、火星(マーズ)は蒼を見下したまま言い放った。


〖よくものうのうと遊んでいられるな。貴様が起きていれば、出動してココロ・シンリーを守っていたかもしれないのに。〗


 火星(マーズ)は冷酷にそう言った。しかし、蒼とココの関わりは深くない。そこまで核心を突くような発言ではなかったようだ。全く引けを取らないで蒼は言った。


「これは……ココロさんの弔い合戦だ。お前たちを倒して、空まで届けてやる!」

〖それは俺たちも同じだよ。海王星(ネプチューン)が。天王星(ウラヌス)が。どんな気持ちで死んでいったと思う。〗


 それでも尚、蒼の心を折ることはできていない。そう気がついた火星(マーズ)は、タブーに触れることにしてしまった。


〖お前は罪ない民を殺したんだぞ。〗

「どういうことだ……!」

〖バーナはお前が殺した。〗


 蒼は困惑した。何か大きな力によって記憶が抑えられている感覚がする。思い出しそうで思い出せない。


 一般的に狂心症患者は、発症中の記憶を失う。悠は『特殊』であるためか、記憶は保持されるが、蒼は一般的な狂心症。当然、バーナを殺した記憶は消えていた。


〖愛野蒼の狂心症疑惑の調査の為に、十星の手先がバーナの遺体の解剖及び調査をした。本当に人だったのか疑うくらいに原型がなくて、腸はどこを探しても()()()()よ。〗

「そんなはずない!悠さんは、“裏切り者のバーナには逃げられてビーストは倒せた”って言ってた!」

〖じゃあ、自分が意識を失った時のことは覚えていないのか?〗


 そう言うと、蒼はビクッと体で反応していた。火星(マーズ)は核心に迫っていることに気がつき笑みを浮かべた。この調子で蒼の調子を崩してしまえば、完全にこちらのもの。

 その思考を後悔するのは少し後だった。


「……いきなり記憶が途切れてる。悠さんは気絶したって言ってた。」

〖バーナの遺体の件で嘘をついている朝霧悠を信用していいのか?〗


 相手のペースに乗せられていることに気がついた蒼は、ようやく平静を保つことができた。

 悠とは関わりは深くなくとも、絆が明確にある。それを初めて会った火星(マーズ)程度に切られる訳にはいかない。悠は嘘をついておらず、火星(マーズ)が嘘をついている。


〖俺が嘘をついてると思ったか?〗

「……当然だ。」

〖馬鹿が。嘘をつくならもっとお前の心を揺さぶるような物を思いつくに決まってるだろうが。〗


 人間は嘘をつくメリットがない人間の言葉を信じてしまう。それは蒼と悠の絆を超えるには簡単なものであった。


〖お前は狂心症だ。お前は、ロス、バーナ、そしてお前の祖父と母を()()()!!〗


 瞬間、蒼は過呼吸になって、頭を押さえた。全身に冷や汗をかいて、崩れ落ちると、言葉にならない呻き声を上げた。

 正直、その時の火星(マーズ)の気持ちは、優越感と不安の半分ずつだった。突然様子が急変した蒼に、恐怖にも似た不安の感情が湧いた。


 その時には遅かった───


《嗚呼。》


 火星(マーズ)は十星のうち、上から二番目の強さ。悠の決めたランクで言えば、限りなく『Ⅷ』に近い『Ⅶ』。つまり、蒼に負けるなどあってはならない。

 が、あのランクはIQ、強さ、判断能力を総合したものである。強さで火星(マーズ)は……『十星』は、蒼に大敗していた。


 高笑いする蒼に、火星(マーズ)の腕は引きちぎられた。


〖っあぁッ!!〗


 勢いは止まることなく、地面を転がるように蒼は動き、火星(マーズ)の背後へと回り込んだ。


〖ふざけんじゃ……ねぇッ!!〗


 先述した通り、火星(マーズ)は十星の中でNo.2。一方的にやられているだけでは済まなかった。

 全身から、爆発するように火を放出して、辺りの兵ごと巻き込んで燃やし尽くした。


〖死ね……死ね……全て焼け死ね!!!〗


 火星(マーズ)は狂ったようにそう叫んだ。いつものような斜に構えた態度すら無くなって、ただ暴れ回る獣のようだった。

 だが、獣は怪物には勝てない。


《嗚呼。》


 火星(マーズ)がこの言葉を聞くのは、人生で2度限りだった。つまり、これが()()である。

 蒼は何があったのか、上空から現れると、関節を捻り、筋肉を捻り、火星(マーズ)の体に絡まるように、スルスルと巻きついた。

 蛇に睨まれた蛙。否、蛇に巻かれた蛙であった。火を操る男は理解していた。これが命の灯火の尽きる時だと。


第百三話 終

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