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5.店じまい

 私の村出て行く宣言に、目をむき出しにして驚くマルコーさん。

 慌てふためき、正座から膝立ち状態となった。


「そんな! アゼリアちゃんが村を出て行く必要なんてない!」

「でも、私。謝罪もしなければ剣も打ちませんよ? それじゃあゲストとしてアイツの事呼べませんよ?」

「そ、それはそうだが…何も出て行かなくても……」


 引き止めてくれるのは嬉しいが、自称英雄の参加があってもなくても、婚約破棄された女の存在は祭りに影をさすのではなかろうか?

 優しい村人の事だ。私に気を遣って花火の打ち上げを止めようとか、祭りの日にちを短くしようとか言い出しそうだし。

 折角祭りをするならば、盛大にやって欲しいし、心から楽しんで欲しい。

 本心からそう思う。


 ただ、狭量な私はアイツを称える祭りが行われるのは面白くない。

 マルマール様の魔法具を使い何重にも結界を張り、外界を完全遮断し、家に引き篭もろうが目と鼻の先でアイツがヘラヘラ笑っていると想像するだけで腸が煮えくり返る。

 村の為だと幾ら自分に言い聞かせても、じっとしていられずに走り出してしまうだろう。

 魔法具の拡声器を片手に、アイツの黒歴史を暴露しに!


 そんな事になったら祭りは台無し。村の活性化どころではなくなってしまう。

 想像に易い残念な未来を招かない為にも出て行く必要があるのだ。

 生まれ育った村を出て行かねばならない怒りや不満は脇に置いておいても。


「私が自主的に出て行っただと面白くないだろうから、英雄に失礼を働いた私を村から追い出したって事にしましょうよ。そうすれば、アイツの溜飲も下がると思うし」

「う、う~ん……」

「自分の為に私を追い出したって聞けば、謝罪も剣も無くも来ますよ。目立ちたがり屋のちやほやされたい人間ですからね。アイツ」


 私の提案に、マルコーさん達は顔を見合わせ、相談を始めた。

 小声にしているが、目の前故に殆どの内容が聞こえる。


 大切な村民であるアゼリアちゃんを追い出してまで祭りを行う必要があるのか。

 不義理を働いたやつの為に、大切な村民を追い出すような恥知らずに成り下がっていいのか。

 だが、祭りで得られる経済効果は大きい。

 何もない小さな村を活性化させる案が他にあるのか。


 ……などなど。

 どうしたらいいものかと頭を抱えるマルコーさん。

 答えを出せそうに無い三人に、私は咳払いをした。


「実は、トッドの件が無くても、前から旅に出たいと思っていたんです」


 唐突な告白に、三人は黙ったまま私を見詰める。


「母も生前、旅に出て世界を知るのも大切だと言っていましたし」


 トッドとの婚約の相談をした際に、母から世界は広く良い男は数多くいると力説され、一度旅に出てみないかと勧められたものだ。

 あの時、母の忠告を聞いていればよかったと今更ながらに悔やまれる。


「トッドの件はきっかけであって、理由じゃありません。だから追い出したなんて思わないで下さい。事実追い出されてはいませんし」


 ね? っと微笑めば、悲壮な顔をしていた三人に僅かに笑みが戻った。


「そうと決まれば、午前中に出て行きますから、午後にでもトッドに祭り参加の打診をしてみて下さい」

「午前中なんて、早過ぎないか?」

「でも、あんまり待たせると臍を曲げちゃうかもしれませんし、早いに越した事はないですよ」


 膳は急げと、床に座ったままの三人をそのままに、私はカウンターの奥に有る保管庫へ向かった。

 中から箱一杯のポーションを運び出すと、カウンターにそれを置いた。


「マルコーさん。今、いくらか手持ちはありますか? あれば小と中級のポーションを何本か買って行って下さい」

「買うのは別に構わんが……」

「折角の旅なんで、三ヶ月位見て回ってくるつもりですが、その間に村で怪我や病気があったら大変ですからね」

「ああ、確かに。アゼリアちゃんが旅に出たらポーションは勿論それ以外の魔法具も手に入らなくなってしまうなあ」


 マルコーさんは財布をひっくり返し、ありったけのお金をカウンターへ置いた。


「これで買えるだけのポーションと火を起こす魔法具と消化の魔法具。それから万が一魔物が出た時ように電撃の魔法具を頼む」


 お金を数え、精算を済ませると小と中級のポーション。それから頼まれた魔道具を木箱に詰め、配達用の台車に乗せた。


「それからこっちなんですけど」


 保管庫から持って来た箱から、上級と特級そしてスーパーメガポーションをカウンターの上にいくつか並べる。


「結構な値段しますし、使うかどうか分からないので、予備として置いていきますね」

「置いて行くって、そんな事して大丈夫なのかい?」

「ほら、マルマール様お手製の契約書があるじゃないですか」

「ああ。あれか」


 母が健在だった頃。近隣の村で災害が立て続けに起こった事があった。

 母とマルマール様は救援に行く際、留守中にサクリ村で怪我や病人が出たらいけないと、大量のポーションを置いていく事にした。

 ただ、使うかどうか分からない商品を全部買い取らせては村の財政を圧迫してしまうだろうと、マルマール様は魔法を使って契約書を作ったのだ。

 商品名と商品に割り振れられた番号を記入し、数と値段を確認の後に売り手買い手両者がサインをすると魔法が発動され、商品が使用されると支払金額の欄に自動的に合計金額が表示されるという便利な魔道具だ。

 引き出しの肥やしとなっていた契約書を取り出し、必要事項を記入するとマルコーさんに内容の確認をお願いし、サインを貰った。

 台車に追加の木箱を乗せると、契約書の控えと共にマルコーさんに渡した。


「ところでアゼリアちゃん。旅に出ている間、定期的に店の見回りをしようと思うんだが……」

「見回りですか?」

「サクリ村に【猫のひげ】に悪さする人間はいないが、祭りに来たよそ者が何かするかもしれんからな」

「ああ。それなら大丈夫ですよ。持って行きますから」

「持って行く……?」


 訝しげに首を傾げるマルコーさんに、鞄に収納して持って行くと説明するが理解してもらえない。


「貴重品だけ持って行っても、危ないよ」

「貴重品だけじゃなくて、店ごと持って行くんです」


 何言ってんの? この娘? て、顔をされた。

 まぁ、普通は店を持ち運ぶなんて発想はないよね。

 前から薄々気付いていたけど、リッカ母さんとマルマール様って、普通じゃないな。


「あっ、えっと、店はマルマール様の魔法が施されているから大丈夫です」


 詳しく説明するのが面倒なのでザックリと説明してみた。

 すると、マルマール様の魔法を防犯魔法。あるいは封印や結界だと勘違いしたのだろう。

 三人は「それなら安心だ」と納得してくれた。


「それにしても、暫くアゼリアちゃんの作るご飯が食べられないなんて、寂しいな」


 しんみりと言われ、不覚にも目頭が熱くなり笑顔が引き攣りそうになった。


「帰って来たら、マルコーさんの大好きなカレーライスを無料サービスしますから、楽しみに待っていて下さい」

「ああ、楽しみに待っているよ」

「マルコーさんにだけズルイよ~」

「俺達にも食べさせてくれ」


 お供二人から本気とも冗談とも取れる口調で言われ、二人にもサービスすると約束する。


「お祭り、頑張って下さいね」

「ありがとう。アゼリアちゃん」


 三人と握手し、笑顔で別れた。







 三人の姿が見えなくなるまで見送り、店に戻ると旅の支度の為に二階へ上がった。

 残暑が残る秋の陽射しはきついだろうと、洗顔後に念入りに日焼け防止の化粧水を塗り、背中まである長い黒髪を結い上げると、上は少しゆったりとした栗色のシャツに下は機動性重視の為スカートではなく白いズボンにした。

 マルマール様お手製の魔物の皮で作られたブーツを履き、押入れから魔道具を幾つか取り出し、身に付けると、姿見でおかしな所がないのを確認する。

 うん。

 顔の腫れ以外は問題なし。

 逆に言うと、顔が最大の問題だ。

 はぁ……。

 溜息を吐き、鍛冶屋へ下りて行くと台車を持って外に出てた。

 店の脇で育てていた香草のプランター計十二鉢のうち三つを台車に乗せ、鍛冶屋へ運ぶ。

 四往復し全てのプランターを回収してしまえば、店じまいの為の作業は終わりだ。

 薄っすら浮かんだ額の汗を腕で拭い、外に出ると、店の正面に立った。

 サクリ村の風景の一部として二十年間あり続けた店が今日消える。

 そう思うと、寂しいような申し訳ないような気持ちだが、置いていく訳にも行かない。

 周囲を見回し誰も居ないのを確認し、深呼吸する。

 子供の頃、練習で三回だけ発動させただけだから上手く行くか不安だけど、やるしかない。

 マルマール様から教えられた店を収納する為の呪文を唱え始める。

 若干長めなので、途中で噛むかもと心配していたが、何事もなく言い終えると店が建っていた場所はただの更地となり、代わりに旅行用のトランクがあった。


「ちゃんとトランクと繋がっているよね?」


 赤茶色のトランクを開けて覗くと、地下へ続くような下り階段が見えた。

 階段の先を確認しようとトランクに頭を突っ込めば、カフェ【猫のしっぽ】の店内が広がっていた。

 一度頭を戻し、トランクに設置されたダイアルをセットし、もう一度頭を突っ込む。

 すると二階のリビングが見えた。

 同じ事を繰り返し、全部の部屋へ通じる事を確認するとトランクを閉めた。

 よし! これで旅の準備は完了ね。

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