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33.困った噂

先週は親戚にHP作成を依頼され、今週は飼い猫が手術する事になりバタバタしていて更新が遅れました

(基本更新が二週間くらい遅れる時は、私自身が体調を崩している事が多いです)


少し長めですが宜しくお願いします

 予想通り、途中でご飯が足りなくなったものの、うどんを茹でまくる事で乗り切り、三度目の食事も無事終了。

 結界内から運ばれてくる使用済みの食器類をレオナルド様と共にカフェ【猫のしっぽ】へ下す為、天幕の外からトランクの中へ行ったり来たりを繰り返していると、結界の方から大剣を背に担いだ大男が一人歩いて来た。

 ダンジョンの事でレオナルド様に用事かと思いきや<望み挑む者>のリーダーであるギルフォードさんは私の前で立ち止まり、人の好さそうな笑みを浮かべた。


「忙しくしているところ申し訳ないが、ちょっといいですかい?」

「私ですか?」

「はい」


 冒険者が私に用事。

 即ち商売に関係する事だと察した私は、手に持っていた米釜を地面に下し、作業から一時外れる事をレオナルド様に告げると荷物の運び込みの邪魔にならないように天幕から少し離れた場所へ移動した。


「いやぁ~。先程は美味い食事を有難う御座いました。ユーリシヤ大陸中を旅してきましたが、あんなに美味い料理を食べたのは初めてです」


 頬から顎にかけて古い傷跡が残る精悍な顔をクシャリと歪ませて微笑むギルフォードさんに、こちらも自然と笑みが零れてしまう。


「喜んで頂けて嬉しいです」

「それでですね。聖女様にお願いがありましてね」


 お願い事の内容も気になるが、それよりも何よりも。


「私はただの商人で聖女でも何でもありません」


 笑顔のまま、はっきりキッパリ真実を告げると、ギルフォードさんは困惑気に私を見つめた。


「黒髪の乙女って言うのは、お嬢さんの事じゃないのか? いや、ですかね?」

「あの、私は聖女でもなければ貴族でもないので、何時も通りの話し方でいいですよ」


 私の申し出にギルフォードさんはニカッと笑い、それならと口調とそれまで普通の音量だった声を元の大音量に戻した。


「いやぁ。相手が黒髪の乙女なんだから、口調と音量に気をつけろと仲間に言われたんで、気を使ってしゃべっていたら舌を噛みそうになったぜ。がははっ」


 口調はいいけれど、音量は少し落として欲しいかな。

 それはそうと。


「黒髪の乙女って、何なんですか?」

「何って、そりゃあ、救援要請の後に届いた伝書魔法にそう書かれていたと聞いたぜ」


 そう言えば、フェリックス様の無事を知らせる為の伝書魔法を飛ばしたと、騎士団の人がレオナルド様に報告しに来ていたような……。


「因みに、何て書かれていたかお聞きしても宜しいですか?」

「確か……」


 ギルフォードさんは顎を摩りながら。


「『心肺停止、意識不明に陥った殿下の元に黒髪の乙女が現れ、奇跡の御業で救った。聖女降臨だ』だったと思うぞ」


 誰だ。誤情報流したの!?


「えっと、恐らくですが、伝書魔法を飛ばした方は気が動転して色々間違えたんだと思います」

「間違い?」

「はい。私はただポーションを売っただけで、何もしていませんし」

「だが、意識不明の状態から完治させるほどのポーションを作ったんだろう?」

「作ったのは知り合いの魔法使いで、私じゃありません」


 ギルフォードさんは「うーん」と唸り。


「因みにその魔法使いの髪の色は?」

「黒いです。でも男性ですよ」


 マルマール様の性別を聞き、ギルフォードさんは渋い顔をした。


「じゃあ、あのフェンリルは何なんだ?」


 ギルフォードさんが指さす先で呑気に日向ぼっこしている伝説(?)の魔獣。

 悠々とうつ伏せで寝ているものの、耳が僅かにこちらに向いたのは私に何かないかを警戒しているのか。ただ単にフェンリルという言葉に反応してか……。

 多分、後者な気がする。


「あの魔獣は知り合いから又借りしているだけで、正確には私の従魔じゃないんです」

「冒険者として三十年生きてきたが、フェンリルを従魔にした魔物使テイマーいが居るなんて聞いた事がないぞ。しかも又借りって何なんだ一体」


 私に聞かれても困ります。

「因みにそのテイマーはの髪の色は……」


 本職のテイマーでも難しい従魔契約を魔法使いがやってのけたと話したら、更なる混乱を招きかねない。敢えて訂正しないでおこう。



「男性なので、聖女ではないですね」


 あははっと誤魔化すように笑うと、ギルフォードさんは疑わしいと言わんばかりに目を細めて私を見つめた。


「ええっと、とにかく、聖女云々は間違いなので<望み挑む者>の方達にもそのように説明をお願いします」

「まあ。仲間に説明はするが……」


 が、何?


「今頃、ヴァシェーヌでは結構な噂になっているはずだ」

「へ?」

「伝書魔法を誰に宛てたか知らんが、開示された時に宛先人一人であったとは限らんし、例え一人であっても、内容は一言一句違えずに方々に伝えるんで、その過程で洩れちまうもんでな」

「王子の生死に関する情報って、普通は機密扱いですよね?」

「機密扱いだが、城の中は狸と狐ばかり。派閥ごとの密偵があちらこちらに潜んでいる状態だ。それでなくても厳しい教育を受けていない人間は親しくしている相手にはついぽろっと話してしまからな。困ったもんだよ」


 しみじみと語っているが。


「大丈夫なんですか、それ?」

「言葉は風と同じで捕まえる事も閉じ込める事も出来ないものだ。だから流れて来た情報の真偽を見極め、どう操るかが重要なんだ」


 操る。

 それじゃあ……。


「今回の事もいい感じに改変されたりしますか?」

「『フェリックス殿下が重傷を負った』『聖女が現れた』この二つは既に洩れている。さっきも言ったが、言葉は風と同じで捕まえる事も閉じ込める事も出来ない。が、変える事はできる」

「できるんですか?」

「ああ。故意に噂を流せばいい。『殿下が事故に遭い軽傷を負った』と。人間は相反する情報を与えられると、どちらか一方を嘘だと思うものだ。重傷と軽傷。どちらが正しい情報かと混乱しているところへ更に噂を流す。『殿下の従者が重傷を負った』『殿下の側近が重傷を負った』等のな。そうすると何が正しいのか分からなくなり、最終的に民衆は信じたいものを信じる。フェリックス殿下は民衆から慕われているからな。重傷より軽傷。殿下自身ではなく従者が傷を負ったのではないか。そう考えるようになる」


 確かに好きな人が怪我をしたと聞いたら、軽傷であって欲しいと願うのが人ってものだよね。


「で、どの噂にも『聖女が治した』と付けておけば、聖女が現れたのは事実なんだと思い込む。そうすると『誰が怪我を負ったかは分からないが、聖女様が治してくれた』そんな噂に浸食されて行く」


 つまりそれって……。


「聖女の噂はそのままって事ですよね?」

「いやぁ。殿下が瀕死の重傷を負ったなんて噂は早急に消したいだろうからな、かなり誇張して流しているんじゃないか。『絶世の美女』とか『天より舞い降りた』や『神々しい光を纏った』とかな」

「居もしない聖女の噂を針小棒大にして広めて大丈夫なんですか?」

「聖女の噂や偽物は定期的に生まれるもんだ。問題ないだろう。がははっ」


 何て無責任な。

 それにしても困ったぞ。

 このままフェリックス様一行とヴァシェーヌに向かえば、道中の食事代を稼げ、しかも入国の際には多少の融通を利かせてくれるかもしれないと思っていたのに……。

 一緒に行ったら面倒な事になる。絶対になる!

 はぁ……と大きな溜息を吐き、肩を落とす私にギルフォードさんは「がははっ」と笑った。


「そう心配しなくても大丈夫だって。殿下やレオナルド殿が守ってくれるんだからな」

「ははっ……」


 乾いた笑いを零す私を元気付ける為にか、ぽんぽんと肩を優しく叩いている……つもりなんでしょうが、Sランクの冒険者のぽんぽんはぽんぽんではない。

 バンバンもしくはバシバシである!


「痛っ。痛いです」

「おおっと、悪い。何時も頑丈な連中とばかりいるから加減を間違えちまった。大丈夫か?」


 心配そうに私を覗き込むギルフォードさんの姿を見たのだろう。レオナルド様が慌てて駆け寄って来た。


「何かあったのか?」

「いえ、何でもないです」

「いや、俺が加減を間違えて強く叩き過ぎてしまってな」

「何?」


 面目ないと平謝りするギルフォードさんを鬼の形相で睨み付けるレオナルド様。

 何か誤解をしていたら不味いと、二人の間に割って入る。


「ええっと。ギルフォードさんは私を元気付けようと気合を注入してくれていただけなんです。ね? ギルフォードさん」

「えっ? ああ」

「それがちょっと強くなり過ぎただけですよね?」

「まあ、そうだな」

「と、言う事で、レオナルド様が気にするような事は何もないので、大丈夫です」


 説明したのに、鬼の形相のままだ。


「そう言えば、ギルフォードさん。何か頼み事があると言ってませんでしたか?」


 若干重めの空気を一掃する為、無理やり会話を変えるとギルフォードさんは乗ってくれた。


「そうそう。頼みがあってな」

「何でしょう? ポーションでしょうか? 毒消しや魔法具。ありとあらゆる商品を取り揃えているので遠慮なく仰って下さい!」

「弁当を作ってくれないか」


 ん?


「暫くダンジョンに潜るからと食料は有り余るほど、持っては来たんだがな、先程食べた料理があまりにも美味しく、自分へのご褒美飯ごほうびめしとして是非とも持って行きたいとメンバー全員が言ってるんだが、どうだろう?」

「作るのは問題ないですが、これから用意するとなると二時間くらいかかります。大丈夫ですか?」

「俺達は問題ないが、お嬢さんの方が時間がないだろう」

「私ですか?」

「ああ。フェリックス殿下は支度が整い次第出立すると言ってたぞ」


 そうか。フェリックス様達は直ぐに立つのか。

 なら、丁度いい。


「私はここに残りますので、問題ないです」

「ちょっと待て! 何を言っている!」


 私の言葉に異を唱えたのはレオナルド様だった。


「残るとはどういう意味だ」

「どうって、そのままの意味ですが……」


 レオナルド様は鬼の形相そのままに私の肩に腕を回すと、有無を言わさず歩き出した。

 強制連行再び……。

 ギルフォードさんから十メートル程離れ、適当な大木の陰に入ると、私の正面に回り込み、今度は両手で私の二の腕を掴んだ。


「残るとはどう言う意味だ」


 答えたはずの質問を再度され目を瞬かせていると、レオナルド様は眉間の皴を深くした。


「こんな森に一人で居たら危ないだろう」

「えっと、霽月が居るので魔物も賊も問題ないかと……」

「フェンリルを連れている方が危険な事もある。先程のように勘違いした冒険者に攻撃をされたらどうするんだ」

「そうなったら全力で逃げます」

「低ランクの冒険者ならまだしも、AやSランク相手に逃げ切る自信があるのか?」


 正直、サクリ村の見張り役三強のダンカ、ロラック、ザジさん相手にも鬼ごっこで勝てた事はないが……。

 それは魔法具や罠などを一切使わず、体力だけで逃げ切ると言うルールの下でだ。


「罠作りは得意ですし、それにありとあらゆる魔法具を持っているので、何とかなると思います」


 キメ顔で言うと、レオナルド様は渋い表情で私を見下ろした。


「ふざけているのか?」

「ふざけていません。マルマール様の戦闘用魔法具はどれも凄い物ばかりで……」

「魔法具がどれ程優れていようと、それを使う隙をSランクの冒険者が与えてくれると思っているのか?」

「その為の霽月です」

「フェンリルがいくら強いと言っても相手の数が多ければ、万が一があるかもしれんだろう」

「なら、他の従魔も召喚しますので、大丈夫です」

「何?」


 私の両腕を掴んでいるレオナルド様の手に力が込められる。


「他にもいるのか?」

「はい。グリフォンの群れやオルトロス。それからカトブレパスとか……」


 掴まれた腕に更に力が込められ、レオナルド様を見れば、渋い表情を更に渋くし、まるで痛みを耐えるような顔で私を見ていた。


「よ……」

「よ?」

召喚よぶな、そんな物騒なもの!」


 怒鳴られた。


「大丈夫ですよ。主には絶対服従。私の命令には逆らいませんから」


 又借りの従魔だけど、主の指輪を持っているから大丈夫!


「そう言う問題じゃない。魔大陸にしか居ないような魔獣が何体も出現したら周辺の国々が半狂乱になる!」

「あ……、それならグリフォンだけとか……」

「駄目だ! 絶対に! 却下だ!」


 却下って……。

 私、レオナルド様の部下じゃないんだけどな。


「でしたら、霽月と一人と一匹だけで頑張りますので……」

「駄目だ」


 駄目って……。


「大体、金はどうする。ヴァシェーヌに一緒に行き、受け取るんじゃなかったのか?」

「代金でしたら、私が直接受け取りにいかなくても、レオナルド様にお渡しした契約書の上に記載された金額を置いて頂けたら、勝手に処理されますので大丈夫です」

「そうだとしても、お前をここに残して行く事は出来ない」

「そんなに心配して頂かなくても、小さな子供じゃありませんから大丈夫ですよ」

「小さな子供より性質たちが悪いだろうが」


 酷い言われようだ。


「一人旅は初めてですが、母と一緒に素材採取に色々な所へ出かけた経験はあります。トランクがあるから飢え死にの心配もありません。護衛役として霽月も居ます。一人でも問題ありません」

「確かに旅をする為の力を持っているのだろう。だが、一番大切なものをお前は持っていない」

「一番大切なもの?」

「そうだ」


 何だろう?

 答えを求めるようにレオナルド様を見つめれば、形の良い唇から衝撃の答えが落とされた。


「常識だ」


 常識とは一体!?


「ヴァシェーヌ国で砂糖一キロがいくらで取引されているか知っているか?」


 レオナルド様がカフェで砂糖を見た時の反応とこの質問。

 サクリ村よりかなり高値で取引されているって事だよね。

 三倍……四倍くらいかな?


「千六百クレくらいでしょうか?」

「四万クレだ」


 予想をはるかに超えて来た!


「お前が使っている調味料のどれもが高値で取引されている。俺の言いたい事が分かるか?」


 溜息交じりに問われ、固く頷き、答える。


「詐欺に気を付けろ。でしょうか?」


 無言が返された。

 どうやら不正解だったようだ。


「そんな答えを返すお前を一人にはできない。もし、ここに残ると言うなら俺も残る」

「なっ! 駄目ですよ。レオナルド様はフェリックス様の護衛なんですから、一緒にヴァシェーヌに帰って下さい!」

「お前を置いてはいけない」

「是非とも置いて行って下さい。お願いします!」

「駄目だ」


 駄目って……。


「大体何故そこまでヴァシェーヌに行く事を拒む。何かあるのか?」

「それは……」

「何だ?」

「今ヴァシェーヌ国は聖女の噂で持ち切りだと聞いたので……」

「確かに黒髪の聖女の噂が流れているようだが、それがどうした?」

「黒髪の見た事のない女がフェリックス様や騎士団と一緒にヴァシェーヌ国の門を潜ったら、絶対に勘違いされます」

「……」

「オムを始め獣人の皆さんは本気で私を聖女だと信じていますし、フェリックス様が冗談で聖女だと言ったのを真に受けている騎士さんも居るようなので……」

「獣人達はともかく、フェリックス様の冗談に関しては、すまないと思っている」


 真っすぐな瞳を伏せ頭を下げられ、恐縮してしまう。


「いえ。その。これ以上の誤解や混乱を避けたいだけなので……」

「なら、一緒でなければいいのだな?」


 ん?


「お前の奴隷である俺はトランクを運べるか?」

「はい……運べます」

「では、お前がトランクに入り俺がそれを運べば、誰にも見られる事なくヴァシェーヌに入れるのではないか?」

「はあ……まあ……」


 その方法なら誰にも見られずにヴァシェーヌ国に入れるだろうけど。


「私、お城にも近付きたくないんです」

「うん?」

「お城は魑魅魍魎が跋扈している所だから、絶対に近付くなと母からきつく言われているんです。なので、やっぱりヴァシェーヌには……」

「城に近付かなければいいのだな?」

「いや、その……」

「ヴァシェーヌ国の門を潜るまではフェリックス様達と行動を共にするが、その後はお前の望む街へ連れて行こう」

「いや、でも……」

「俺が案内役では不服か?」


 基本、不機嫌顔でいるレオナルド様に不安げな表情で問われ、反射的に。


「いえ。滅相もありません!」


 と、返していた。


「なら、決まりだな」


 僅かに微笑んだ程度だが、希少な微笑みの威力は言わずもがな。

 私から言葉の一切を奪った。


「では、フェリックス様に許可を貰いに行って来る」


 私をその場に残し、颯爽と駆けて行くレオナルド様の背中を見送りながら、ふと思う。

 あれ?

 ヴァシェーヌに行く事、決定しちゃった!?

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