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31.救援隊

 昼食は騎士団の皆さんがどれ程食べるのかを知らず、バタバタしてしまったが、サクリ村の成人男性の三倍かそれ以上食べると分かっていれば問題はない。

 前もって大量に作っておけばいいのだから。

 そんな訳で、米釜を二つほど突貫で作りました。はい。

 保温器も作ろうかと考えたけれど、簡単に素材へ戻せる釜と違い保温器は魔法が使われている分、解体が難しいので作るのを止めて、代わりに騎士団の魔法使いさん達にお願いして、保温効果付与の札を数枚作って貰いました。

 おかげで五時間前からご飯を炊き、炊き上がった順から札を張っておけば、何時でも温かいご飯を提供できる。

 これでご飯の問題は解決。そして晩御飯のメニューに選んだのはカレー。

 カレーなら作っておけば後は温めるだけ。素晴らしい!

 スープとサラダ。そしてカレーライスで十分だろうと思ったけれど、団員さんにから揚げと餃子が食べたいと泣き付かれ、餃子はちょっと無理という事でから揚げだけトッピングで付ける事になった。

 前もって準備万端にしておいたので、これといった混乱もなく晩御飯は終了。

 現在クリーナースライムの総司ちゃんと共にお皿の片付けをしている訳だけど、それもそろそろ終わりそうだ。

 トランクが開かれる音が聞こえ、階段を見ればレオナルド様が下りて来た。

 気持ち、表情が暗く見えるけど、何かあったのかな?

 最後のお皿を棚に戻し、カウンター席に座るレオナルド様に近付くと真剣な顔でメニュー表紙を見つめていた。


「アゼリア」

「はい」

「すまない」


 はい?

 すまないって、一体何があったの!?

 カレーを作っている時にマルマール様の人となりをフェリックス様に話していいか聞いて来たけど、それと関係あるのかな?。

 マルマール様の性格を知ればお近付きになりたいと思わないでくれるかもしれないと、許可したけど、説得に失敗したとか……。

 持ち出し禁止にした魔法使いの名前を知りたいと駄々捏ねられたとか……。


「朝ご飯なんだが……」


 は?

 朝ご飯?


「フェリックス様がお子様ランチを食べたいと言っていてな……」


 お子様ランチ……。


「何だ、そんな事ですか」

「そんな事って、作るのが手間だろう」

「確かに手間ですが、仕込みしておけば大丈夫です。ただ、団員全員分は難しいのでフェリックス様限定でいいですか?」

「ああ。問題ない」

「フェリックス様はお子様ランチでいいとして、他の方達はどうしましょう?」

「カレーとから揚げでいいんじゃないか? 先ほども食べたいと呟いていたぞ」

「朝からカレーとから揚げじゃ胃もたれしませんか? あ! お子様ランチも胃もたれしそうなものばかりですがいいんでしょうか?」

「フェリックス様はご自身で指定したのだから構わないだろう。団員達も大丈夫じゃないのか」


 本当に大丈夫なんだろうか?


「朝ご飯のメニューはカレーとから揚げにしますが、念の為煮物やおひたしも用意しておきますね」

「品数を増やして大丈夫か?」

「作り置きできますから問題ないです」


 ただ皮を剥く量ややる事が多いのでレオナルド様は勿論、獣人の皆さんにも手伝って頂きますが……。






 翌朝。

 獣人の皆さんには天幕の外にて野菜の皮剥きをお願いして、私はキッチンで霽月の朝ご飯を用意していた。

 レオナルド様は団長の仕事があるとかで終わり次第トランクへ来てくれる事になっているので、それまでは一人で準備である。

 捕ってきたレッドボアを食べさせろと霽月にせがまれたので、レッドボアの角煮を煮ている間にステーキ用の肉を切っておく。

 それが終わったら団員さん達の朝ご飯にみそ汁の準備だ。

 水を沸騰させ、沸騰したら火を止めて鰹節を入れる。鰹節が鍋の底に沈んだらこして、出汁のできあがり。そこにみそ汁の具材。今日はキャベツとネギを入れてひと煮して、火を止めたら味噌こしに味噌を入れて、鍋に投入。


「今日も朝から飲むよ、ふっふふん~みそ汁ぅ~。今日も元気になれるよ、ふっふふん~みそ汁ぅ~。み~んな笑顔になるよ、ふっふふん~みそ汁ぅ~。二日酔いにもイイネ、ふっふふん~みそ汁ぅ~。美味しくなぁ~れ、萌え萌えきゅん♪」


 母から伝授されたみそ汁の歌を歌いながら菜箸で味噌を溶かしていると、人の気配を感じて振り返れば、カウンターテーブル前にレオナルド様が居た。


「レッ、レオナルド様、何時からそこに……」

「元気になるよ、ふっふふん~辺りからか」


 ほぼ最初!?

 恥ずか死ぬ!!

 てか、レオナルド様が歌ったよ!?


「随分といい香りだな」

「よ、よかったら味見しますか?」


 歌をなかった事にすべく小皿にできたてのみそ汁を入れて渡すと、レオナルド様はふーふーと冷ましてから飲んだ。


「美味いな。こんなに美味い味噌スープは初めてだ。騎士団の食堂のはもっと水っぽい味だ」


 よかった。ヴァシェーヌ国にも味噌はあるんだ。


「水っぽいのは、もしかしたら出汁がちゃんと取れていないのかも知れませんね」

「そっちのは?」

「こっちは霽月用のレッドボアの角煮です」


 じっと見ているけど、食べたいのかな?


「できあがったら一緒に味見しましょう」


 常に下がっている口角が僅かに上がったのを私は見逃さなかった。

 好きな食べ物はないと言っていた騎士様が、私の料理に興味を持ってくれている。

 これってカフェマスターとしての勝利と言っていいのではないだろうか?


 むふふっ。

 むふふっ。


 勝利に酔いしれていると、レオナルド様は緩めていた表情を引き締めた。


「どうしたアゼリア。変な顔をして。くしゃみでも出そうなのか?」


 変な顔って……。

 どんな顔をしていたの私?


「今日もお手伝いを宜しくお願いいたします」


 キリッと真面目な顔でお願いすると、レオナルド様は固く頷いた。






 恒例のから揚げの仕込みをレオナルド様に任せ、隣でおひたし用の野菜を洗っていると、ふとある疑問が頭を掠めた。


「レオナルド様。確か、食事は三食分となっていましたが、今日のお昼ご飯は用意しなくてもいいんでしょうか?」

「それなんだが、救援隊の到着が遅れれば頼むかも知れない」


 救援隊?


「あの。救援隊を待つ理由って何かあるんですか? 私が売ったポーションで皆さん元気ですし、待つよりも、向かった方が合流が早く済むんじゃないですか?」

「確かに通常ならそうするところだが、ダンジョンの見張りの為にここを動く訳にはいかないんだ」

「見張りですか?」

「フロアダガルにA級の魔物が五体も出たと話したのを覚えているか?」

「はい」

「魔物がダンジョン内で生まれたものならば外に出る事はないが、外から運び込まれたものなら出てくる恐れがある。だから見張る必要があるんだ」

「なるほど」


 昔、母に聞いた事がある。

 ダンジョン内で魔素が凝縮し作られた魔核を基に生み出された魔物はダンジョンから一歩でも出ると魔素の供給が立たれ、霧散すると。

 ダンジョン生まれの魔物が血も肉もないお化けみたいな感じなのに比べ、地上の魔物は血と肉を持った動物に近い。人やその他の動物を食べる事で生命活動を可能にし、何処へでも行ける。とかなんとか。


「救援隊の出発の知らせは伝書魔法で届いている。遅くとも今日の夕方には着くはずだ」

「その救援隊と言うのは他の騎士団が来るんですか?」

「壁の内側は我々騎士団の管轄だが、外の事は冒険者の領分だ。来るのはSランクの冒険者パーティーだ」


 おおう!

 リッカ母さんとマルマール様以外のSランク冒険者って初めて見るかも。

 リッカ母さんは自分達はレジェンドだからLランクだって言っていたけど、そんなランク冒険者にはないくらい私でも知っている。

 トップランクの冒険者かぁ。ちょっと楽しみだな。






 レオナルド様と獣人の皆さんの手を借りて、朝ご飯の用意は完璧!

 団員のご飯の前に霽月にご飯を上げねばと、岡持ちにステーキと角煮を入れていると、突如レオナルド様がトランクを飛び出して行った。

 何事かと、岡持ちをそのままに開いたままのトランクから顔を覗かせれば、人の怒鳴り声が聞こえた。

 敵襲? それとも団員同士のケンカかと様子を伺っていると、レオナルド様から呼ばれた。


「アゼリア。出てきてくれ!」


 私が呼ばれるという事は、ご飯関係の揉め事だろうか?

 急いで天幕から出て行くと、臨戦態勢の霽月とそれを囲むように陣をひいている冒険者達がいた。

 これは一体……。


「魔大陸の魔獣が、しかもフェンリルが人間に従う訳がないだろう」


 ああ。

 忘れていたけど、霽月ってば要注意魔獣だった。


「霽月お座り!」


 牙をむき出しにして、今にも飛び掛かりそうな霽月に命令すると、さっとその場に座った。

 これぞ犬座りの見本!

 そう言って差支えがないほど凛々しく座る姿に、武器を構える冒険者達は目を見張り、困惑気に眉を寄せた。


「このフェンリルは私の従魔なので、武器を下して頂けませんか?」


 疑わしいと言わんばかりに睨まれ、嘘偽りがない事を示す為に「伏せ」を命じた。


 犬座りから瞬時にぺたりと伏せて見せたフェンリルを見て、冒険者達は漸く武器を下してくれた。


「だから言っただろう。ギルフォード」


 レオナルド様の知り合いなのか、霽月の正面で大剣を構えていた四十前後の男性冒険者をそう呼んだ。


「普通、フェンリルが従魔だと聞いて、信じる訳がないだろう」

「事実、従えている」


 レオナルド様の視線を追うようにギルフォードさんの視線が私に向けられ、気まずさから営業スマイルを返した。

 すると……。


「黒髪の乙女……貴方が噂の聖女様ですかい?」


 はい?

 黒髪の乙女?

 噂って、何の事?


 ギルフォードさんが片手を上げ、合図を送ると四方に散らばっていた冒険者達が集まった。そして、半数は霽月を観察し始め、残り半数はじりじりと取り囲むように私に近寄って来た。


「奇跡の御業で殿下をお救いしたと聞きましたが、本当ですか?」


 弓矢を持ったタレ目の美形に興奮気味に聞かれ「違います」と答えたが、聞いては貰えず。


「私、初めて聖女様見ました」


 巨乳な美人魔法使いさんにも「違います」と答え。


「いや~生きている間に聖女様にお会いできるとは、光栄です」


 生き字引と言った貫禄の魔法使いさんにも「違います」と説明し。


「聖女って本当に存在していたんだね」


 斜に構えた感じの斥候ぽい人にも「違います」と返し。


「聖女様なら、従魔がフェンリルなのも頷けます」


 大盾を持ったさわやか笑顔の青年にも「違います」と真実を述べたが、誰も聞く耳を持ってはくれなかった。

 どうやって誤解を解いたらいいものかと困り果てていると、背に庇う様にレオナルド様が私の前に立ちはだかった。


「自分達の興味を満たすよりも先にやる事があるんじゃないのか? レオナルド様がお待ちだぞ」


 死神と呼ばれる騎士に睨まれ、興奮気味に私を取り囲んでいた冒険者達はスンと一気に温度を下げた。


「お前達。聖女様や伝説の魔獣が気になるのは分かるが、まずは殿下に挨拶だ」

 

 ギルフォードさんがリーダーなのか、手を打ち鳴らすと冒険者達は私と霽月から離れ、集結した。

 そこへ魔法使いのハリソンとルーイ。そして見覚えのない騎士二人がやって来た。


「おおう。ガロスにユエン。お前達冒険者を廃業して騎士になったと聞いていたが、本当だったんだな」

「殿下がお待ちだ。早く行け」

「相変わらず不愛想な奴だな。ガロス。そんなんじゃ女に持てないぞ」

「あんたに関係ないだろ」


 筋肉こそ最強の鎧だと言わんばかりの筋肉ゴリゴリの巨体のギルフォードさんに背中をバシバシと叩かれ、これまた筋肉こそ最強の武器と言った感じの巨漢騎士さんが迷惑そうに顔を顰め対応。そこへ人懐っこい笑顔を浮かべた細マッチョな騎士さんが入って行く。


「ギルフォードさん。相変わらず声デカイですね。うるさいんでもう少し静かに喋って下さいよ~」

「ユエン。お前、俺に貸しがあるの、忘れたのか?」

「ああ……ギルフォードさん。今日も素晴らしい声量ですね。殿下がお待ちなんで行きましょうか?」


 知己の仲なのか、そんなやり取りをする三人にレオナルド様は「早く行け」と促し、冒険者一行は漸く歩き出した。

ある(ガロス)と同期の冒険者上がり騎士ユエン。再び登場です。

今後もちょくちょく出てきます。


誤字脱字報告を何時も有難う御座います。

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