15話
喫茶店から走り続けること三時間。
俺は紫苑と始めて出合った雑木林に辿り着いた。
ここに来るまでに俺は、紫苑が疲れ果てて倒れても地を這い蹲り進む紫苑を見て、何度手を差し伸べたくなった。
結局、俺は紫苑のこと今でも可愛そうと思っている。
だから、助ける。
「く、ろむ......く、ろむ......く、ろむ......」
山の祠でさらに二時間待って、日が完全に落ちた森の中に暗闇で姿がよく見えないが紫苑が来たのは分かる。
「黒夢殿、チャンスは一度だけだぞ。」
「あぁ、分かっている。」
紫苑が来るまで時間があったから、練習を一通り繰り返すことが出来たが、俺は霊術なんてやったことはないから上手くやれるか不安しかない。
「黒夢、何で、私は一生愛されないの?」
陣の周囲に立てられた蝋燭の明かりに照らされた紫苑の顔は泣いていた。
「集中力を乱すな。」
「はい。」
俺は陣の中心に手を合わせて、呪文を唱える。
後ろで善狐がサポートしてくれるので、霊術なんて全く使えない俺でも、善狐の支えがあってこそ術は発動できる。
「ねぇ、、黒夢。私は黒夢が好きだから、私のことを忘れないでね。」
「紫苑、何か勘違いしてないか。」
「?」
陣の枠線に火が灯り激しく光り出し、術を発動する。
息が上がり俺は地面に倒れる。
何も身体は動かしていないのに全身が痺れて動けない。
「善狐、術は成功したか?」
「あぁ、まさか素人が神を式神として契約するとは驚いた。」
「紫苑は無事か。」
「無事だ、すやすやと寝息を立てておる。」
「そうか、ありがとうな善狐。」
俺は紫苑が来るまで、白狐と紫苑を助ける方法は話し合った。
そして出た答えが、紫苑を俺の式神にすることで神の座から引き離し、契約を結ぶことで紫苑が悪霊に成らないように押さえ込む方法。
下手すると死ぬと言われたけど、俺は紫苑を見捨てて生きても、後悔しながら生きるのは無理だ。
「俺の寿命はどれくらい縮んだか。」
「今回は、私の寿命を使ったからお主の寿命は縮んではない。」
「大丈夫か善狐。」
「神に寿命など無いに等しい、気にするな。それよりもお主は死んだ後のことは考えたか?」
「さぁな、この命が尽きるまでには決めるつもりだ。」
俺はしばらく夜空を見上げる。
木々の隙間から見える三日月が笑っているようだ。
、
、、
、、、
、、、、
「黒夢、今日こそ美味しいと言わせるのだ。」
「お座り。」
いつもの変わらない日常。
家から帰ってきたら、エプロン姿の紫苑だ飛びついてくるが、俺の命令ですぐに犬のようにお座りをする紫苑。
式神にしたことで、紫苑は俺の命令を聞かないといけなくなった。
「黒夢、まだか、足が痺れきた。」
「あ、ごめん。」
始めは精神が不安定は紫苑をなだめるのに学校を長期欠席したが、今は紫苑の状態が安定しているから週に三日は学校に行けるようになった。
俺は長い時間をかけて紫苑のヤンデレを治すことにした。
「今日は一緒に豆腐ハンバーグでも作るか。」
「黒夢、実はもう豆腐カレーを作ったのだ。」
「豆腐カレー?」
恐る恐る、台所に行くと豆腐がグチャグチャになって入っているカレーが不気味にグツグツと泡ぶいている。
仕方なく食べる事にしたが、味はカレーってよりも汁ものに近かったが、食えなかったことはなかったが進んで食えるほどでもなかった。
「料理が上達したな紫苑。」
「そうか、そうか!」
尻尾を大きく振り、全身で喜びをあらわす紫苑は子犬のように可愛い。
食事を食べ終わり、食器と悲惨な状態の台所を紫苑と掃除しようとしていたら、ピンポーンとチャイムが鳴り俺は玄関に向かう。
「紫苑、先に洗い物をして。」
「わかったのだ。」
ドアを開けると、全身真っ白の女性がいる。
「久しぶりだな、黒夢殿。」
「お久しぶりです。」
「これ、つまらない物ですが渡しに来たぞ。」
「指輪?」
「知り合いこういうものを作るのが上手い人が居てな。」
白狐から受け取ったものは二つの黄金色の指輪。
「黒夢、まだか 白狐!」
手が泡塗れの紫苑が驚く。
床にボタボタと泡が足跡のように落ちている。
「黒夢殿、紫苑。今日はめでたい天赦日だ、遅くなったがささやかな幸せを祝いに来た。」
善狐はそう言うと、ドコからともなく煙が湧き上がり。
気付くと俺は外に出ていて、隣には花嫁衣裳を着た紫苑があたふたしている。
そして、周りには提燈を持った狐達が行列を作っている。
「善狐、何の真似だ?」
「実はなお主の契約が不完全ということが分かったから、サプライズ結婚式でちゃんとした契約を結ばせることにした。」
「結婚! 黒夢、私達ついに結婚するのか?」
「ちょっと待て急にそんなこと言われても何も準備が出来ないぞ。」
「準備はもうしてある。それに親御さんも乗り気だったぞ。」
母さんなら急に結婚式を上げてもおかしくないな。
ここは、諦めて流れに身をゆだねるしかないな。
そして、俺はそのまま暗い夜道を運ばれるが、途中すれ違う人はいるが誰も俺達の存在に気付いていないのようだ。
「普通の人間にはこの百鬼夜行は見えないから安心しろ。」
「それは、凄いな。」
「......」
「そう言えば。紫苑が静かになっているけど。」
「どうやら、失神しているようです。」
あまりの嬉しさで意識を失った紫苑を起こす。
「ハッ、夢?」
「夢ではないぞ。」
「そうか、フッフッフ。」
「白坂さん、結婚おめでとうございます。」
「お前の覚悟に応えて夫婦円満を祈願してやろう。」
神社の中はすでに式の準備が出来ており、凪沙さんとおのちゃんに迎えいられる。
「黒夢、紫苑ちゃんを幸せにしないと罰ゲームをやらせるからね。」
「母上、私はもうとても幸せだ。」
「人間、まさま狐と結婚するとは世の中分からないのぅ。」
「自分だって、まさか今年結婚するなんて思って無いし、婚約届けを出しても役所に通るか分からないし、結構不安だ。」
「黒夢殿、戸籍のことは私がなんとかしよう。」
神職の格好に着替えた白狐がどうにかしてくれるそうだ。
もう俺の独身が消滅するのは決定事項に成ったようだ。
「なぁ紫苑。」
「なんだ黒夢?」
「結婚は不安だらけだけど、これからもよろしくなぁ。」
「黒夢、私の方こそ、ちゃんと黒夢を支えられるか不安だが頑張る。」
「じゃ、俺も頑張るから幸せになろうか。」
「うん!」
二人の幸せを願った。
狐と人の結婚式は日を跨ぐまで続いたそうだ。




