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彼らに明日は来なかった。  作者: ヤブ
番外編「太田と古和田」
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26/30

可笑しい

「なあ古和田」


 放課後、明日から休みでうきうきしている私に太田が話しかけてきた。


「ん?」

「あのさあ、日曜日勉強教えてくんねえ?」

「うん、良いよ」


 太田がそう言うのはテスト前にも何回かあったから、慣れっこである。はじめの方は全く理解しない太田に腹を立てていたが、今では何度も説明してあげるほど落ち着いている。


 さすがに太田も焦っているのだろうか。確かに今の太田の学力では合格は難しいかもしれない。もう少し頑張らないと、合格しても高校で苦労するだろう。


「じゃあ、日曜日の昼からな」

「うん」


 それだけいうと、太田は帰っていった。



 日曜日。

 太陽が出ているため、外にいれば暖かい。時々吹く風が冷たいが、太陽のお陰で何とかしのげる。


 太田の家は結構遠い。小学校が違ったこともあり、大体二キロほどある。太田が来てくれた方がこちらとしては助かるのだが、「お前だって時々運動せな太るで?」と言われて以降、私が太田の家に行くことになった。


 太田の家はこれまで何度も行ったことがある。親は共働きで毎回二人きりだが、別にいやらしいことはない。ぶっちゃけて言うと、まだキスさえしたことが無い。ハグをしたりデートで手を繋いだりはあるが、キスまではしたことがない。恐らく、私と太田がすることはない。


「おじゃましまーす」


 インターホンを鳴らさずに引き戸を開ける。インターホンを鳴らすと太田が飼っているゴールデンレトリバーのふとしが吠えるため、鳴らさないのだ。


 二階から太田が降りてくる。

「おう。らっしゃい」


 開いている扉からふとしが顔を覗かせる。

「よっ、ふとし」


 ちなみにふとしの名前は太田の「太」からきているらしい。

 ふとしは一回吠えると、私に近づいてきた。頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。


「ジュース持っていくから、先にあがってろ」

「ん」


 私はふとしに手を振ると、階段を上がった。

 太田の部屋は、一言で言うと殺風景だ。机と棚タンスしかなく、押入れの中も敷き布団しかない。


 私は端に積んである座布団を二枚とり、机の回りに置いた。

太田が一階から上がってきた。


「ありがと」


 そう言って、ジュースを受けとる。

 一息ついたところで、早速勉強を始める。


「どこおしえてほしいの?」

「えーっとな」


 そう言いながら、参考書を開ける。

 参考書を見る限り、しっかりと勉強しているようで、赤ペンで直してあったり蛍光ペンで線が引いてあったりする。


「ああ、ここだ」


 開けたページを見ると、そこは分母の有理化の問題が書かれていた。

 分母の有理化とは、分数の分母がルートであるとき、分母がルートでない形にすることをいう。


「これは、分母と同じやつを分母にも分子にもかける」

「おう」

「それだけ」

「えっ、そうなん。めっちゃ簡単やんけ」


 簡単とか言いながら出来ていない太田を見て、私は思わず笑ってしまった。


「何笑ってんだよ」

「別にー」


 太田が勉強熱心になるのは良いことだ。やはり、受験に向けて焦っているのだろうか。


「なあ、太田? どこの高校受けるの?」

「……」


 太田はなにも言わない。

 可笑しい。前の事もあり、分かった。太田はどうやら行きたい高校を言いたくないようだ。


 今までなら私が聞いたことにはちゃんと答えてくれたが、今回は言いたくない。


「なあ、太田?」


 勉強を教えてあげているのに、それはないだろう。まさか、高校を行かずに就職する気か? いやいや、さすがの太田でもそんなバカなことは考えないだろう。


「聞いてるの?」

「……うるさいなあ」


 その言葉に、私は頭にきた。


「なにそれ。勉強教えてあげてるんだから、言ってくれてもいいじゃん。なのに、うるさいって何なの?」


 太田はなにも言わない。

 私はいらいらして、鞄を持った。


「意味わかんない。もう教えてあげない」

そう言って立ち上がった。部屋を出ようとしたとき、

「わ、悪かったって。ごめんて」


 と言いながら、太田が腕を掴んできた。


「何なの? もういいよ。言いたくなかったら言わなくていいし。二度と勉強教えてやんない」

「ごめんて、ほんとごめん」


「ごめんばっかり言うな。付き合ってるんだから言ってくれるとか思ってたけど、太田はそうじゃないんだね。もう分かったよ」

こんなの、ただの八つ当たりだ。何で私は太田に当たっているんだろう。

「待てって。帰るな」

「もう帰る。やだ」


 すると、急に体を引っ張られ、私は尻餅をついた。目の前に太田の顔が現れ、そのまま押し倒される。

「ちょ、太田。やめて……」


 頭が痛くなってきた。思い出したくない記憶がうっすらと流れ込んでくる。


 唇に何かを感じた。私はすぐに危険を察知し、暴れた。

 私は咄嗟に太田の急所に膝をいれた。


 一瞬うろたえた太田の隙を見て、私は鞄を持って部屋を出た。

 家を出たとき、体の震えが止まらなかった。

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