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第11話 Blade of the Oni

「ソフィ様に対して失礼だぞ小僧!そもそも貴様、ソフィ様に馴れ馴れしいのだ!なんだ貴様は!」

「ソフィの相棒だって言ってんだろ!おっさん!」

「貴様のような奴が相棒だと?身の程をわきまえんか!」

「テメェこそ、ソフィに自分の理想を押し付けてんじゃねぇのか?!」

「はっ!ソフィ様の事をわかっていないな…理想を押し付けるなど、出来るお方ではない!」

「…まぁそれは、なんとなくわかる……だけどな───」


 二人は、何かどうでも良い事で言い争いを続けている。

 引き篭もりというのを、理解している訳では無いが、前世の自分がそれに当てはまる気はする。

 だからケンジの言う事は間違ってはいないのだし、従者─ヴェロリックの奴は何をそんなに怒るのか……。

 それより、二人はこちらを見ていないようだし、座り方を変えよう。

 さっきから脚が、痛いを通り越して感覚がおかしくなっている。

 なんだか、一回りほど大きくなっているかのような、脚がなくなってしまったかのような感覚……。触ってみるとそんな事は無いのだけど。

 触るとビリビリしていたのが、今は触らなくてもビリビリする。

 これ、ちゃんと元に戻るのだろうな……。


「おーい、ヴェロリック?ここか?」


 突然、テントの外から声がかけられた。

 ……そこまで気を張ってはいなかったが、それでもここまで近付かれ、声をかけられるまで、全く気づかなかった……。


「開けていいかー?」

「ツバキ殿か。どうぞ入ってくだされ」


 ヴェロリックの返事を受けてテントが開かれる。

 黒髪と額の片側に角を持った、少し気怠そうな女が顔を見せた。


「うわっせまっ…入れって、無理でしょ、これ」

「座れば大丈夫では?」

「アタシにも正座しろって?勘弁してよ。君らが出て来なさいよ」

「仕方ありませんな……」


そう言ってヴェロリックとケンジは立ち上がってテントから出ていく……が──私、立てそうにないのだが?


「?ソフィ、どうかした……あ…足が痺れてるのか?」

「ソフィ様、感覚がおかしいだけで、動かせば動きます。気合いですぞ!」

「うるさいぞ!お前、こういう時はいっつもそれだな?!」


 そう言いながら、なんとか気合いを入れて足を動かして立ち上がる。

 ひぃう…ピリピリするぅ……。

 上手く動いてくれない足で、なんとかテントから出るが、そこでバランスを崩してしまう。


「おっと、気をつけなよ?」


 そう言って、ツバキとやらがそっと抱いて支えてくれた。

 ……こうして近くで触れても、普通の──いや、かなり鍛えられているのはわかるが、その程度しかわからない。

 なのに、私はこの女が危険だと感じている。

 あの神のような強烈な、得体の知れないプレッシャーは無い。

 しかし、だからこそ、どこまでも普通に感じられるのが、かえって不自然な気がしてならないのだ。


「ふーん……コレがヴェロリックの言ってた魔王サマ?ただの女の子みたいだけど」

「エルムソフィラ様だ。人間に転生なされたのだ。それと、コレ呼ばわりはやめてもらおうか」

「はいはい。人間……人族ヒューマンの女の子か……随分と可愛らしいけど、コレは貴方の趣味かな?」

「え?俺?ち、違いますよ!」


 値踏みするような視線で私を見ながら、そっと手を離すツバキ。

 次の瞬間、私の首が斬り落とされた──ような、そんな錯覚を起こした。

 さすり…と、首を触って確かめながら、ツバキを睨みつける。


「…どういうつもりだ?」

「お〜…今の、ちゃんとわかるんだ」

「ツバキ殿!ソフィ様に何をするか!」


 おどけたように、まるで悪びれた様子も無く、ツバキはこちらを微笑みながら見据えている。


「どういうつもりか聞いているのだが?ツバキとやら」

「君達も、ヴェロリックと同じ"使徒"なんでしょ?どんなモノかと思ってさ」

「え?なに?何かあったのか?」


 どうやらケンジは、何も感じず、気付いてもいないようだ。

 鈍い奴だな……。


「彼氏君は、見た通りのド素人と…。

 貴女も、正直ヴェロリックの方が《《出来る》》ように思うんだけど…もしかして転生した時に力を失ったとか?」

「……貴様、私を侮るか!」

「か、彼氏じゃないです!」

「不敬だぞツバキ殿!」


 なるほど、わかった。この女は敵だな!

 確かに今は前世の頃より弱くはなっているが、関係ない──!

 目にもの見せてやる!


「ケンジ、承認をよこせ!この女に私の力を教えてやる!」

「駄目だ。力は誇示する為に使うものじゃないよ」

「ケンジ!」

「はははっ…君、言う事はカッコいいね。

 だけど……」


 次の瞬間、ケンジの首元にツバキの剣先がつきつけられていた。

 ……一体いつ抜いたのか、目を離してなどいなかったはずだが…。


「そういうのってさ、実力があるからカッコイイんだよ?

 もし君がこの娘の力に頼りきりなら──黙ってなよ」

「な、なにを……」

「実力の無い大口は、カッコ悪いって話さ」


 そう言うと、ツバキは剣を腰の鞘に納めた。

 改めてツバキの姿を確認する。

 背はケンジより少し低めで細見。艶のある黒髪は肩辺りで切り揃えられている。

 腰には真っ直ぐの長剣と少し弧を描いている長剣の二本を装備しており、後ろにも短剣を付けているようだ。

 ずいぶん重武装だが、まるで重さを感じさせない佇まいだ。

 強者であるはずなのに、その雰囲気を感じないのはどういう事なのか……。


「ツバキ殿、いい加減本題に入ってはどうだ?

 小僧にそんな事を言う為に来たわけではあるまい」

「いやいや、この少年もアンタと同じ"神"に遣わされたんでしょ?

 どんな力を持っているのか、一応確認しとかないと」

「ふん…なんの力も無い小僧にしか見えんぞ」

「…ツバキさん。貴女は一体、なんなんですか?」


 そうだそうだ。

 いきなり現れて失礼な事ばかり、挑発までしてなんなんだコイツは。


「アタシはただの冒険者だよ。

 少しばかり異質なドラゴンがいたからさ、ブチのめしたら『魔王様~』なんて情けなく鳴くもんだから、どんなモンか見てみたくってね。ここまでこの変態ドラゴンを追ってきたんだよ」

「誰が変態ドラゴンだ。

 それに、ただの冒険者などと…悪い冗談はよせ」

「結局、貴女はなんなんですか?」

「ヴェロリック、知っているのなら早く話せ」

「はい、ソフィ様。余計な事をして場を乱すのはもう止めてもらおうか。ツバキ殿」

「はいはい…」


 肩を竦めて視線を逸らすツバキ。……隙だらけの様に感じるが、おそらく擬態だろうな。


「失礼致しました。彼女はツバキ殿と言って私が光の神の元に行くのに助力してくれた冒険者でして、どうやら神の身内らしく……私も、その…一度手痛い敗北を喫した実力者でございます」

「な──神の眷属だとでもいうのか?!」


 確かに実力者ではあるのだろうが、この女が神の眷属だと?

 ……いや、確かに…言われてみれば、少し普通とは違う感じがするな……。


「違う違う。アタシの旦那が二柱ふたりの子供ってだけだよ」

「え…てことは……神様の奥さんってこと?!」

「そんな大層なもんじゃないよ。旦那も……ま、単なるイイ男ってだけ」


 いや、神と神の子供なら当然そいつも神なのでは?

 話を聞いたら余計に訳が分からなくなってしまったぞ……。


「それで、行動を共にした時にソフィ様の事を少々お話ししたところ、興味を持ったようでして……」

「アレは……少々じゃなかったぞ?」

「飛んできたお前を追って来た。という訳か」

「はい。ソフィ様の強さに興味を持っていたようですが…まさかいきなりあのような暴挙に出るとは思わず。申し訳ございません」

「あっはっはっは、ごめんね」


 笑いながら謝られてもな……本当に悪いと思っているのか?この女……。


「それで、少しは君の実力を見せて欲しいんだけど…いい?」

「ケンジ」

「……わかったよ。でもやり過ぎないように」


 よし!承認は得たぞ。

 目にもの見せてやろう!

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