表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
始原の使徒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/89

第48話 帰還

アストリオンが、雲を割った。

 眼下に広がるのは、無数の浮遊島だった。

 蒼い大気の中を、大小さまざまな岩塊が緩やかに漂っている。その上に街並みが築かれ、島と島の間を光の橋が結んでいた。

 そして、その中心に——。

 黒曜石を削り出したような巨大な城塞が聳えている。

 尖塔の頂きに、蒼い星環がゆっくりと回転していた。


「管制空域に入ります。位相転移、準備開始」


 水晶知性体の声が静かに響いた。

 アストリオンの外環が分離し、幾何学的な紋様を描きながら再構成されていく。

 紫の光が膨らみ——弾けた。



      ◇



 城外広場。

 転送光が消えた瞬間、数千の兵が整然と姿を現した。

 妖狼族の重装歩兵。蒼月魔導団の術士たち。

 遠征の疲労を纏いながらも、隊列は崩れていない。


 スレイアが深く息を吸い込んだ。


「やっぱりね……この魔力の濃さ。身体が楽だわ」


 肩を回し、首を鳴らす。

 セリーヌは城塞を見上げたまま、何も言わなかった。


 その時。

 ルーシーの背筋を、冷たいものが走った。


(何か——見ている)


 理由は分からない。ただ、身体が先に反応していた。

 無意識に、顔を伏せた。


 頭上の虚空に、星が滲んだ。

 光の粒子が渦を描き、凝縮し——人の形を成していく。

 透き通った輪郭。星屑を纏った、女の幻影。

 足元に影はなく、吐息もない。

 ただ、そこに「在る」という圧だけが、広場を満たした。


 周囲の兵士たちが息を呑む。

 妖狼族の古参が、音もなく膝を折った。それに倣い、波紋のように兵士たちが片膝をついていく。


『遠征、ご苦労様でした』


 声は静かで、柔らかい。だが、広場の隅々にまで届いた。

 セリーヌとスレイアが、同時に一歩前へ出た。


「お迎えいただくとは、光栄です」


 二人が拳を胸に当てる。


「「幻霊殿」」


 幻霊——ターゲルの星環が、わずかに揺れた。


『お久しぶりです、セリ——』


 一拍の間。


『——セリーヌ卿、スレイア卿』


 それだけで、周囲の空気がさらに引き締まる。


『陛下がお待ちです。どうぞ——』


 セリーヌはフィリスに目配せした。

 フィリスが頷き、隊列の指揮を引き継ぐ。

 ケインも無言で顎を引いた。


 ルーシーはエドを背負ったまま、立ち尽くしていた。

 セリーヌの背中が遠ざかっていく。

 言葉はかけられなかった。

 ただ、背中の温もりを確かめるように、紐をもう一度、締め直した。


 ターゲルの指先が宙を滑った。

 セリーヌとスレイアの足元に星の紋様が浮かび、二人の身体が光の粒子に溶けていく。


 ——次の瞬間。

 視界が開けた。


 高い。

 天蓋が遠い。蒼黒の穹頂に星環が廻っている。

 足元には深紅の絨毯が一筋、奥へと伸びていた。

 両脇に、元老院の重鎮たちが居並んでいる。

 誰もが沈黙し、二人を見つめていた。


 その視線の奥——玉座。

 スカロディアが、そこにいた。

 淡い水色の長髪が、玉座の肘掛けに流れている。

 純白の礼装。神聖さと冷徹さを同時に湛えた美貌。

 瞳が、静かにセリーヌを捉えた。


 玉座の傍らには、すでにターゲルが佇んでいる。

 反対側にも影が一つ。だが、セリーヌの意識はそこに向かなかった。


「帰還を歓迎します——二位」


 スカロディアの声は、空気を揺らさなかった。

 柔らかく、だが一切の反論を許さない音色。


 セリーヌが膝を折り、拳を胸に当てた。


「——ただいま、戻りました」


 スレイアは半歩遅れて同じ姿勢を取った。

 だが膝をつく直前、右手がわずかに衣の裾を引いた。

 戒律の杖の傷が、まだ疼いている。


 元老たちの視線が、二人の上に重く降りていた。

 歓迎か。審判か。

 その境目は、まだ見えなかった。

少しでも「楽しめた」、ページ下の【★★★★★】にして評価いただけると、泣いて喜びます!

ブックマークとあわせて、ぜひ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ