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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
グランディ帝国編

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第19話 星辰と緋月

天蓋を埋め尽くす緋色の海。

雲の裂け目からは、絶え間なく赤黒い雷霆(らいてい)が降り注いでいる。


監獄の外庭は、発狂した人々の絶叫と祈りが混ざり合う、混沌の坩堝(るつぼ)と化していた。


その制御不能な喧騒の中――。


「――スレイア」


一言。

決して張り上げた声ではない。

だがその声は、物理的な質量を持って場の空気を制圧した。


風が、一瞬だけ息を止めた。


緋色の光を纏い、空中に浮遊していた少女が、ゆっくりと首を傾げる。


遥か上空。

暴風の只中に、セリーヌは立っていた。

純白の軍服が風に揺れる。

その袖口には、まだ乾ききっていない暗赤色の染みが残っていた。

だが、その身に纏う覇気は揺らぐことすらない。


「自分の不始末のツケを、どれだけの人間が払っていると思っている」


スレイアはパチクリと瞬きをした。

まるで、舞踏会の最中に水を差された令嬢のように。

その唇には、まだあどけない笑みが残っている。


ヒュン、ヒュン、ヒュン――!


銀色の流星群が雲を突き破る。

九つの影が、隕石のように大地へ降り立った。


「――展開ッ!!」


先頭に立つフィリスが長槍を地面に突き立てる。

展開される浄化術式。

清浄な光の波紋が広場を覆い尽くす。


「あ、ぐ……っ」


頭を抱えてのたうち回っていた人々――貴族も、魔導師も、平民も――その呼吸が整っていく。

脳髄を犯していた異質な精神干渉が、薄皮を剥ぐように除去されていく。


空騎兵団は無言で動く。

彼女たちの任務は戦闘ではない。

統帥級の戦いが起きたとき、周りの世界を「生き残らせる」ことだ。


半空。

スレイアは眼下のフィリスを一瞥し、小首をかしげた。

瞳の奥で、不吉な緋色が明滅する。


だが、次の瞬間。


「遊びは終わりだ」


気配もなく。

セリーヌが目の前に転移していた。

互いの吐息がかかるほどの至近距離。


「その程度の浸食、お前なら自分で戻せるはずだ」


セリーヌの手が伸びる。

掌に収束した青白い浄化の光が、スレイアの胸元――暴走の核となっている『日月輝石』へと迫る。


パシッ!!


「――触らないでッ!!」


スレイアが感電したようにセリーヌの手を払い除け、大きくバックステップした。

その声には、明らかな恐怖が滲んでいる。


(そこは……ダメ……!)


ドオオォォォォォォンッ!!!


スレイアの周囲に、数十もの巨大魔法陣が同時展開される。

爆裂、殲滅、奥義級の魔力奔流。

手加減一切なし。国一つを更地にする規模の破壊魔法。


セリーヌが一瞬、呆れたように目を見開いた。


「……馬鹿者が。こんな場所で――」


言葉は飲み込まれた。

魔法が炸裂する。


カッッッ――――!!!!


世界が光に塗り潰される。

衝撃波が森を薙ぎ倒し、大地を抉る。


「全員、シールド展開ッ!!!」


フィリスが叫び、光のドームで生存者たちを覆い隠す。


砂煙が舞い上がる。

スレイアは爆心地を見つめ、無邪気で、残酷な笑みを浮かべた。


しかし。


フッ……。


一陣の清風が、硝煙を吹き飛ばした。

セリーヌは、そこにいた。

傷一つなく。

軍服の裾さえ焦がさずに。


彼女の周囲には、星空を切り取ったような「蒼き領域」が展開され、細かな光の粒子が流転している。


「……っ」


スレイアの笑顔が凍りつく。

本能的な畏怖。足が勝手に後ずさる。


「まだ遊び足りないか?」


セリーヌの手が、腰の剣へ伸びる。

鯉口(こいぐち)を切る音。

ゆっくりと、抜き放たれる白刃。


「だが、私は付き合いきれんぞ」

「イヤァァァァァァッ!!」


スレイアが絶叫する。

緋色のオーラが爆発的に膨れ上がる。

天雷が交錯し、大地が悲鳴を上げる。

自然界そのものが、彼女の恐怖に共鳴しているかのようだ。


地上では、貴族たちが恐怖のあまり失禁し、腰を抜かして這いずり回っている。


ブォン――!!


無数の緋色魔法陣が起動。

光の矢が、雨のようにセリーヌへ切っ先を向ける。

必殺のロックオン。


セリーヌの額を、一筋の冷や汗が伝う。

だが、退かない。

蒼き闘気が立ち昇る。

剣を正眼に構える。

その鏡のような刀身に、スレイアの緋色の瞳が映り込む。


一度、まばたき。

次に開いたとき――瞳孔の奥で、星辰が燃え上がった。


『無我ノ剣意・“魂殤(こんしょう)”』


スレイアにとって。

世界は、ただ一瞬、白く閃いただけだった。


次の瞬間。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ――!!!」


魂の根源から炸裂する激痛。

スレイアは頭を抱え、糸が切れたように墜落した。


その一太刀は、肉体を斬らない。

断ち切ったのは――彼女と、暴走する「彼女」を繋ぐパス(回路)のみ。


行き場を失った膨大な暴走エネルギーが、逆流してセリーヌへと襲いかかる。

だが、セリーヌは動じない。

刀身に、深淵なる星の光を宿す。


一閃。


『星砕・斬撃式』


光の軌跡が走る。

狂乱のエネルギーは、まるで最初から幻であったかのように、キラキラと輝く星屑となって消滅した。


ヒュン。


セリーヌが急降下し、落ちていく少女を受け止める。

腕の中で、スレイアは激しく痙攣し、苦痛に涙を流していた。


「……すまなかったな」


セリーヌは掌を輝石に押し当てる。

純粋な魔力を注入。

緋色の浸食が、急速に退いていく。

髪の色が、毒々しい赤から、柔らかなピンクブロンドへと戻っていく。


スレイアが薄く目を開ける。

金色の瞳に映ったのは、セリーヌの額に滲む汗だった。


「ごめ……セリーヌ……また、迷惑……」


消え入るような声。

セリーヌは答えなかった。

ただ、抱きとめる腕に少しだけ力を込める。


スレイアは安堵したように微笑み、そのまま深い眠りへと落ちた。


トン。

セリーヌが地上へ降り立つ。

周囲は廃墟と化している。


彼女は腕の中の親友の寝顔を見下ろし、呆れたように吐息した。


「目が覚めたら、たっぷり叱ってやる」


駆け寄ってきたフィリスに、乱暴にスレイアを預ける。


「連れて帰って休ませろ」

「はッ!」


その時。

セリーヌの視線が、瓦礫の隙間に倒れる少年の姿を捉えた。


「……」


セリーヌは歩み寄る。

意識を失っているエド。

その腰には、見るもおぞましい「生首の束」がぶら下がっている。


彼女は眉間に深い皺を刻んだ。


「……悪趣味な飾りだ。何のつもりだ?」


しゃがみ込み、少年を検分する。


(どうやって独房から抜け出した……?)


ふと、少年の口元に視線が止まる。

半開きになった唇の端から、細い金属の光が見えていた。

針金。


「……開錠か」


セリーヌの表情から、険しさが消え、複雑な色が浮かぶ。

腰には生首。

口には針金。


(……一体どんな人生を送れば、子供がこうなる?)

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