・第二話
それからの数日間、友津はとにかく呆然としていた。
授業も何もかも上の空で、クラスメイト達からの虐めに対しても何だか自分の事の様な気がしない。
ただ……
ふと、気になる事があった。
自分が虐められているのを見ても……彼はまるで見て見ぬふりをしていた。
まあ、別に良いだろう。友津は目を閉じて思った。彼に危険な目に遭って欲しくは無い。
それにうっかり自分を庇って、いつも自分を虐める相手に目を付けられたりなんかしたら……そう思って友津は身震いした。だから別に助けてくれなくても良い。それに……
友津は微かに笑う。自分は……
彼と……もうすぐ遊びに行くんだ。
その時の事を考えて、懸命に堪えた。
そこまで考えて、友津は目を開けた。
そう。あの時まで自分は……
自分は、幸せだった。虐められても我慢が出来た。もうすぐ彼と二人きりで遊びに行くんだ。その事だけを支えに堪えてきた。
だが……
だがそれが……
あんな事になるなんて。
友津は軽く息を吐いた。
そして彼と遊びに行く日。
友津は、普段は着ないような可愛らしい服を着て、待ち合わせ場所の駅前にやって来た。
だけど……
時間になっても彼は来なかった。何度彼に連絡しても繋がらない。まさか彼の身に何かあったのか? そんな不安に駆られる。頼む……何でも良い、連絡をくれ。
そういう風に思いながら、友津は必死になって彼に連絡をしていた。
額に。
手に。
全身に。
嫌な汗が滲んでくる。そうして待ち続け、そろそろ三時間が経過した頃……
「あっれー?」
こちらを小馬鹿にした声が、突然響いた。
声がした方を振り返る。
そこにいたのは、いつも自分を虐めている女子数名と。
「……どうして……?」
友津は小さい声で呟く。
そこにいたのは、彼だった。バカにした様な顔でこちらを見る。
大好きな……
否。
大好きだと思っていた。
彼。
それからの事を、友津は鮮明に覚えている。
自分を虐めている奴らと彼がグルで、自分を騙していたのだと話す彼の下卑た笑顔。
自分が何時間待っているか、皆で賭けをしていた事、金額はたったの千円だった事。
それらの事を、自分を虐めていた女子連中は、楽しそうにゲラゲラと笑って語って来た。
そこから先は正直なところ、いつもと何も変わらない流れだ。我慢出来ずに殴りかかった友津を、数人が囲んで殴り、人の来ない路地裏に引きずられて服を脱がされ、裸の画像を撮られた。
そして裸のままで路地裏に放り投げられた時は、もう夕方になっていた。服だけは大分ボロボロになっていたけれど目の前に落ちていたから、それを身に纏い、自宅近くの公園のトイレで顔を洗い、何事も無かった様に帰宅した。
友津は、息を吐く。
その日から、友津の心の中では何かが変わった。
もう誰も信用はしない。
自分は一人で生きる。
誰とも関わる必要は無い。どうせ関わったところで無駄だ、この世の中にいるのは所詮、自分を騙す人間と、傷つける人間だけ、本気で自分の事を考えてくれたり、愛してくれる人間など何処にもいない。
だから関わるだけ時間の無駄だ。
誰の事も、信頼する必要は無い。
世界の人間は全て、嘘つきだ。
そう思って、友津はずっと一人でいた。
別に構う物か。人間など信頼するだけ無駄だ。
そうしてずっと一人で孤独に生きてきた友津は、いつしか他人と会話する術を忘れた。
勉強の方も、ずっと虐められて来ていたおかげで集中出来ずに、正直あまり成績は良く無かった。だからろくに大学にも行けなかった、そもそも両親は、成績も人当たりも良い姉に夢中で、自分の事など気にしていなかった。だから一人暮らしをしたいと言った時にも、ろくに話を聞いていなかった。
別にそれで構う物か。両親すら自分にとっては単なる他人でしか無いのだ。
この世に……
自分を愛してくれる者はいない。
だから、一人で生きる。
そう決めたんだ。




