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9 冒険者ギルドにて

いつも感想ありがとうごさまいます


「質問する前に前提条件を確認したいんだけど、このアイテムボックスの所有者確認方法はわかっているんだよね?」


 アイテムボックスは悪用すればいくらでも悪事を働くことができる。

 生きているモノは入れられないので誘拐には使えないものの、密輸なんかにはぴったりの道具だ。そのため、アイテムボックスはきちんと所持者の身分が確認できるようになっている。

 具体的には、ギルドで登録するのだ。

 この世界には冒険者ギルドや商人ギルドなど様々なギルドがある。アイテムボックスはそのどちらかで登録をし、全ギルドで所有者を確認できるシステムになっているのだ。一番悪事に使いやすいのが冒険者と商人だから、というのが大きい。


「当然だ。ギルドで照会すればいい」


「ギルド非登録のアイテムボックスはどういう扱いか知ってる?」


「先程から何を言いたいんですか!

 ギルドに登録されていないアイテムボックスなんて不正したものでしかありえません!」


 よほど正義感に萌えるタチなのか、買い取り受付の女の子が憤慨している。

 職務に忠実な子って貴重だよねぇ。好感度あがるわー。

 でも、今はちょっとご遠慮願いたい。騒ぎめんどくさい。


「…本当に?」


 部屋にいる人間を一人一人見渡して、ベンは念を押す。一人くらい汲み取ってくれないかなぁという期待を込めて。

 すると、疑わしい目をする職員の中で、一人だけ顔を青くしている人物がいた。先程目に留まった妙に強そうな人だ。


「そこのめっちゃ強そうなおにーさんや。ちょっとおじさんと内緒話をしないかい?

 たぶんあなたがここで一番エライ人なんでしょ?」


 冒険者ギルドは、その登録人数が膨大なこと、そして荒っぽいのも多いというのが特徴だ。ならず者の最後の砦と言ってもいいかもしれない。だからこそ、そこを長たる人物は昔名を馳せた冒険者であることが多いと聞いたことがある。


「…皆、この人の言う通り一度部屋を出ていってほしい。聞き耳もたてるな」


「えっ!?」


「なんでですか!? もしも暴れたりしたら…」


「いやいやいや、こんなか弱そうなおじさんと女の子だよ?

 それ抑えられないようならギルドのエラい人つとまらないっしょ~」


 まぁか弱そうな少女は全然か弱くないのだが、それは棚上げする。


「魔物をたった二人で狩ってきたと言い張るんだろう、お前らは!

 それならば警戒するのは当たり前だ」


 残念。一人です。

 でもそうだった、そういう設定だった。

 しかし、このエラい人ずいぶん慕われてるらしい。信用できそうで何よりだ。


「大丈夫だ。俺の顔に免じて一度出てくれ。

 頼む」


 そういってエラい人は皆に頭を下げる。

 そこまでされては言うことを聞かないわけにもいかず、皆しぶしぶと部屋を出ていった。聞き耳くらいは立てられてるかもなぁ。

 まぁそこは妥協しよう。


「通じてくれて助かった。お礼言わなくちゃね、ありがとう」


「…この町のギルド長のライアンと言います。

 一応、アイテムボックスを改めさせてもらえますか」


「どうぞどうぞ」


 お仕事だもんね。むしろこの人にはちょっと同情してしまう。厄介ごとに巻き込んでごめんねー。

 ライアンさんは緊張した面持ちでアイテムボックスを開く。

 そこには袋の底が見当たらず、深い闇だけがあった。袋の外側から裏表をひっくりがえすように、途中までめくる。そこには魔法でこの国の紋章が刻まれていた。


「っ…大変、失礼をいたしました。王弟殿下!!」


「おーてー…?」


 あちゃー。言っちゃった。

 不思議そうにノアが首を傾げる。語彙力は増えたけど、その分知らないことに対する興味半端ないんだよな。

 また質問攻めにあうか、と身構えていると。


「王弟。王の、弟

 殿下。王族に対する、敬称」


「お前さん、いつそれ覚えたの…」


 そんな会話はしていないからまさか通じてしまうとは思わなかった。

 ベンが喋った言葉を驚異的なスピードで理解しただけじゃないのか。


「言語の法則性からの推測」


「なんでもアリだなお前さん」


 改めて彼女のすごさに感服しつつ、とりあえずこの場をうまく収めなければならない。

 ノアは色々聞きたそうではあるが、空気を読んでくれたようだ。あとで質問攻めにされることだけは覚悟しておこう。


「えーとね。俺はちょーっと訳ありで冒険者ギルド登録をしていない、旅人のベンって奴で、この子は…」


「ワタシはノア。ホーンドボアと刺し違えてくれたオトウサンがいて、今はオトウサンの知り合いのベンに面倒を見てもらってる」


「うん、そんな感じ」


 ノアちゃんと設定覚えてたな。えらいえらい。

 こんな感じで大変うさんくさい自己紹介をする。


「…その設定大分無理がありませんかね?」


 突っ込まれてしまった。

 けれど可愛い女の子とくたびれたおじさんのセットって他にどう設定していいかわからなかったから仕方がない。

 親子設定にしてしまうと、あとあとめんどくさいしね。


「いやぁ…俺自ら偽名で冒険者登録できないでしょ。

 お約束を権力使って率先して破ったらだーれもついてきてくれなくなる。

 あとギルドの袋叩きコワイ」


「まぁ…ギルドのなかに、規約を破ったものに情状酌量の余地なしという奴らがいるのは否定しませんが…」


「そういう人も必要だよ。肝心なのはエラい人が手綱を握れるかどうか。がんばってねー」


 簡単に言われてライアンさんががっくりしてる。抗議はしたいがベンにどのくらい意見してもいいのかわからない、と言った感じだろうか。

 ともかく、立場はわかってもらえたので、なんとかなるだろう。


「まぁそういう設定でごり押ししといてくれる?」


「このギルド内においてはそれですみますが、他でアイテムボックスを使うとそうもいきませんよ」


「この先はノアの前以外では使わないから大丈夫じゃないかな?

 今俺金欠でさ。金貨は持ってるんだけど、それはそれで厄介でしょ?」


 アイテムボックスほどではないが、金貨を持っている人間は珍しい。そもそも金貨は商会同士の大口取引で使うようなものであって、その辺の雑貨屋さんで鍋を買うのに金貨だしてたらお釣りがままならない。

 最悪、強盗犯の疑いをかけられる可能性すらある。

 もっと最悪なのは、商会に情報を売られることだ。それだけは避けたかった。

 そんな事情を読み取ってくれたらしく、ライアンは深いため息をついた。このごり押し設定で了承してくれるらしい。


「はぁ…一日も早いお戻りを期待しています」


「俺はあんまり戻りたくないんだけどねー」


「では、通常の買い取り業務に戻りましょう。

 アイテムボックスは…」


「見間違いってことでいいんじゃないかな?」


「…ごり押すこちらの身にもなってください」


「がんばれー」


「ベンが悪人に見える」


 そんなこんなで無事にギルドの登録と買い取りが終了する。周囲のギルド職員、とくに買い取り受付をしてくれた正義感の強そうなお嬢さんが納得いかないという顔をしていたが。どうしても暴走しそうなら教えても構わない、と言っておいたがどうなることやら。


「ベン、買い物いこ。

 調理器具と、調味料と、保存食も買う」


「おう、いくかー。あとリュック二人分だな」


 アイテムボックスを人前で使わないとなると、依頼の品なんかは全部自分の力で運ばなければならない。そこまで熱心に冒険者として活動するつもりもないけれど。


「買い物が終わったら、説明」


「お、おう」


 一瞬ノアににらまれてしまったような気がする。これは満足いく説明をするまでは寝かせてもらえないかもしれない。

 そんな未来を想像しつつ、久しぶりの買い物を満喫するのだった。

  

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