33 そろそろ外国いくぞー
AI少女の異世界旅行完結です!
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
「思えば、ベンが関与していないはずがないのよね」
ブツブツと文句を言いながらノアがベン手作りのお菓子を頬張る。文句は言うモノの、その表情はとても嬉しそうだ。そんな顔をして貰えるなら作りがいがある、とベンは思う。
最初はなんて無茶ぶりをするんだと思ったが、やってみると案外お菓子作りは楽しいモノだった。今では人様に振る舞っても恥ずかしくないくらいの腕になったと自負している。
アナザーホーム内ではなく、国境近くのとある街の高級宿の一室に二人はいた。
国内での巡視を粗方終えた二人は、これから国外への視察に赴くのである。
これは王の代理の正式なモノであるため、それなりの人数に守られていかなければならない。気楽な二人旅が終わってしまい、大変面倒というのが正直なところだ。
「そう言うなよ。
お陰で供に連れて行くやつは最低限ですむんだぜ?
何せ天使様が着いてりゃ警備はあんまりいらないからな」
ノアが文句を言っているのは『鋼の天使』というノアの二つ名についてだ。
孤児院での一件以来、鋼の翼を持つ天使様の噂は爆発的に広まっていった。そりゃあそうだ。王弟が一枚噛んでいるのだから。というよりも、鋼の天使にボディガードしてもらっているのが王弟で、国内を密かに巡視している、という噂が流れた。
王弟と天使は神出鬼没で、噂よりも早く国内を駆け巡る。そのため、不正を働いていた連中は証拠を隠滅する暇もなく粛清された。逆に、正当な評価を得られていなかった人物はより励めるような環境を整えられた。
不正のせいで滞っていた税収など、お金の巡りが格段に良くなり、少しずつではあるが国は豊かになってきている。国王であるベンの兄からは「仕事を増やしやがって」と「ありがとう」が同じくらい散りばめられた手紙が届いていた。あちらはあちらで忙しそうである。
「…まぁ、確かにあんまり知らない人とお話するのは得意じゃないけれど…。
だからって天使はおかしい」
天使と言う称号については大層不満があるノアだが、それによって得られる恩恵のことは重々承知しているようだ。何より、天使は甘いものが好きらしいと広まったおかげで、こっそりと貢物をもらっているのも知っている。
ちなみに今季一番の賑わいを見せているのが菓子に使う砂糖やハチミツ、果物界隈と聞いている。
「今回行くのは友好国だからな。事前にお忍びもオーケーしてもらってるし、そこまで堅苦しくはならんだろ。
何よりあちらさんは、こちらの国で評判の天使様に興味津々と来た」
「見世物になる気はないのだけど…」
「お前さんはお前さんで国を見て回るんだからお相子だろ」
「なにその理屈…」
すっかりベン手作りのお菓子を完食したノアは、またいつもの無表情に戻ってしまった。
この無表情も何故か「クールビューティー」として人気があり、鋼の天使様の笑顔を見れた者には幸運が訪れるなどと言われていたりする。
「まぁいいか。
普通の旅行にあこがれはするけど、国境越えたりとかその国のルールってベンと出会わなかったらわからなかったし…。
結局これが一番いいとは思うもの。悔しいけど」
世界は気楽に旅行して回れるほど甘くない。確かにノアは強いし学習能力もあるが、それだけでは世界は回れないのだ。
その点、王弟のベンがいれば大概のことに融通は聞く。事前の知識もきちんと収集でき、悪目立ちせず安全にあちこちを見て回ることができるのだ。最近のノアは外国の言葉に興味を示しており、既に何か国語かはマスターしている。
今回の旅で通訳としての役目も果たしてくれるのであれば、その人員も減らせるなーなどと考えていた。
「納得してくれてるなら何よりだ。
折角の外国なんだから楽しもうや」
「…そういうこと言ってるときって、何か絶対裏があるよね」
「やだなぁ。おじさん何も企んでナイヨー。
全く、ノアときたら人を疑うことを知っちまって…」
大変怪しくわざとらしいカタコトだが、そういう時は決まって口を割らない。
それに、大概のことはなんだかんだとノアの許容範囲内であり、多少不本意なことがあっても楽しめることも多いという実績がある。
「ワタシ、この前ベンのことを示すピッタリの言葉を見つけたの。
腹黒いっていうんだって、ベンみたいな人」
「何言ってんだ。俺の腹は真っ白に決まってるだろ。
ただの昼行燈な王弟だからなー」
「…今までの功績をほぼ『天使様のお力添えあってのこと』とか言ってたんだって?」
要するに、優秀なのは自分じゃなく天使と言われているノアだ、と言って回っているのだベンは。
相変わらず自分の功績をわざと下げる男だ。
「うわぁ…お前さんどこから聞いたのそれ」
「ワタシ耳もいいから」
ちょんちょん、と誇るように耳を示す姿は大変可愛らしいが恐ろしくもある。
「…ただ、天使様とかいうのの恩恵もあって、各地の甘味がすごく容易に手に入ったというのはあるんだよね」
「そりゃ良かったじゃないか」
「天使の好物は甘味って言いふらした輩がいるからね。
はぁ…ほんとなんだかんだでベンの思い通りになってて悔しい」
「これでも俺としちゃ感謝してんだがねぇ」
「感謝するのと利用するのは別腹なんでしょ?
流石にその辺りは察するようになった。ほんと、この世界に着て一番最初に出会ったのがベンだったっていうの、幸運って素直に言いたくはないな」
「俺は幸運にもほどがあるなぁ。
命も兄貴も、ひいては国も助けてもらった。
…そういやアレクとはどうなんだ?」
「どうって…文通友達…かな。
最近は文章も砕けてきた、と思う。と言ってもうまく手紙が届かないことも多いけど」
「そりゃお前さんの移動速度が馬より早いからな。
今後はお供に合わせて馬の移動になるから、うまくすれば追い付いてくれるんじゃないか?」
そうは言っても少数精鋭。馬車は使わず全員で馬にのっていく予定だった。
供の者も、護衛に戦闘侍女という武闘派で揃えているので馬を乗りこなせるものばかりだ。
「うま……」
ポツリとノアが呟いたことで顔を見合わせる二人。
ノアは疑問符を浮かべた状態で、ベンはしまったという顔で。
「…忘れてた、お前さん乗馬経験ないか」
「うん」
ノアがなんでもできるから忘れていた。初歩的なミスだ。
仕方がないので到着が遅れることを詫びる手紙を書くか、と思ったところでノアが目を輝かせた。
「ねぇ、乗ってもいいの?」
「そりゃ全然かまわねぇが…乗れるのか?」
「わからない。でも、やってみたい」
ノアは学習能力がべらぼうに高い。
少し練習すれば乗れる可能性は大いにある。
「んあー…じゃあちょっと今から乗ってみるか。
お前さんのイメージ合わせてそれなりに足の早い白馬用意してもらったんだわ」
「…いくら天使のイメージをつけてもらっても、そのイメージ通りにワタシが動けると思わないんだけど…」
「別にいいさ。お前さんが好きに行動して、俺がそれにふさわしい言い訳を考えればいいだけだ。
そういうのがおじさんの仕事ってわけ」
「…腹黒だけじゃなくペテン師ってのも当てはまりそうだね、ベンは」
「天使とペテン師の組み合わせかぁ? それもまぁいいんじゃないか?」
「もう…。
でも、なんだかんだ楽しいからいい…かな?
希望通り、色んな場所を見て色んな美味しいモノも食べた。
…多分、ノゾミの希望も叶った。まだまだ叶えるつもりではあるけれど」
そう言ってノアは微笑む。
クールビューティな天使と言われながらも、ベンの前では大分笑顔が出るようになった。
身長も少しずつ伸びている気がするので、多分内面も外面も成長しているのだろう。
「そりゃあ良かった。ま、国外になると俺も見たことないものたくさんあるからな。
色々観光しようや」
「うん。とりあえずは馬だね」
まだ見ぬモノ、まだしたことのない体験。そういったモノはいくらでもある。
ノゾミの最期の願いも、少しずつ叶えられている。
(大事という定義はよくわからないけれど、この国の人はベンの大事だから大事にしたい。
たぶん、私の大事な人はベンなんだろうな)
それが、この世界で初めて出会った人だから、という刷り込みによるものかはわからない。
でもいつか、色々な体験をして魔法や不思議な技術に触れて。ノゾミに出会えるような事があれば、多分ノアはベンをそうやって紹介する。
「強いて言えば恩人…かなぁ?」
「何がだ?」
「ふふふ、ナイショ。
新しい場所、楽しみ」
ノアは上機嫌に笑う。
それに釣られてベンは同じように笑みをこぼした。
閲覧ありがとうございました。
ここまで完走できたのも見て下さる皆様のおかげです。
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また次回作でお会いしましょう~。




