真綿で首を締める
アメリアの家で、なぜかキャロルが死んでいた。テーブルに突っ伏してぐったりしている。
「死ぬなら自分の家でどうぞ」
アメリアはお茶を飲みながら冷たく言った。
「あんたはいいわよ、彼氏に慰めてもらったんでしょう」
その通りだが、グダグダ言われると腹が立つ。
「それでどうなったの?」
ヘンリー殿下にエクストラがどうにかすると言っていた日が昨日だ。おそらく何かしらあったのだろう。アメリアが目撃したような惨劇があったのかもしれない。
「ああ、それはねえ」
キャロルは遠い目をして呟いた。
その日。キャロルはエクストラに呼び出された。
前日、アメリアからジョージ殿下の末路を伝えられたばかりだ。
哀れだと思うが成仏してほしい。もしかしなくてもこの世界に仏教はないみたいだが。
キャロルは侍女とともにサックス公爵家の門をくぐった。
すでに縛り上げられ、吊し上げ態勢のヘンリー殿下がそこにいた。
そこには、エクストラのみならず、公爵様本人と公爵夫人まで立ち会っていた。
証拠となる恋文はエクストラの前に積み上げられていた。そしてエクストラはその前で嫣然とほほ笑んでいた。
「証人が来たようですわよ」
一瞬ヘンリー殿下の目が輝いた気がしたが、キャロルは黙殺した。キャロルにとってはただのストーカーだ。
「キャロル、ヘンリー殿下にどのように付きまとわれたの」
「付きまとったなど、何を言っているのだ、キャロル、お前は私を愛しているのだろう」
「申し訳ありませんが、この場で殿下を愛していると申し上げたら私の身に危険が迫りますのでお答えできません」
立て板に水な勢いでキャロルは返答を拒否する。
「どういうことだ、初めてあったその時から」
「申し訳ありません、私の身分からして、殿下に否と申し上げることができませんでしたが、私婚約者のいる人と恋愛するつもりはありません」
キャロルの言葉にサックス公爵家の面々はうんうんと頷いている。
「当然でしょう、貴方は王子、男爵家の娘ごときが貴方のいうことに異を唱えられるとでも?」
ピンヒールで、椅子に縛り付けられたヘンリー殿下の膝を踏みにじりつつエクストラが嘲笑った。
「お前は、王子である私に」
「そういう貴方は後見である私達をコケにしてどうなるかわかっているのかしら」
スリットから覗く脚線美が目の前にあるがそれどころではないヘンリー殿下。
「それと、最初に貴方に届けられた手紙を押収しましたけれど、おかしいですわね、この手紙の通りに動いた結果彼女、キャロルにあった、間違いございませんわね」
そう言って、便せんを開く
「この筆跡はキャロルのものではありませんわ」
そう言って、別の紙を見せる。
「この書類はキャロルが私の目の前で書いたものですが、字が全く違うでしょう」
そう言って、支出、雑収入。借入金などと謎の単語の書かれた紙を見せる。
「お疑いなら、キャロル、今ここで適当な文章を書いて見せなさい、それで筆跡と文体を確認してもらいましょうね」
そう言われて、机につかされる。
筆跡はともかく文体はどうすればいいのかとしばらく悩んだがままよとばかりに庭に植えられた林檎の話など書いてみた。
思わず泣きたくなるくらい幼稚な文章だった。
昔から作文や詩作は苦手だったので死んだような気持ちでその紙を差し出した。
「どちらがキャロルの筆跡でしょう」
恋文と書類と作文を並べる。
文字の特徴は明らかに書類寄りだ。
信じられないという顔でヘンリー殿下はキャロルを見た。
「さて、この手紙は誰が出したのでしょうねえ」
にこにことサックス公爵家の皆様が笑う。
ようやく事態を把握したらしいヘンリー殿下の顔から血の気が引いた。
「キャロル、解っているでしょうけれど、この場で見聞きしたことは他言無用よ」
キャロルはこくこくと頷いた。そして、帰るようにと言われてそそくさとその場を後にした。おそらくこれから本格的につるし上げられるヘンリー殿下を残して。
「ほんっとに王子様から逃げて正解だった」
キャロルの言葉にアメリアは心から同意した。




