夏のイベント
いつの間にやら季節は夏に移ろうとしている。アメリアは余所行きの夏服の手入れをしていた。
もうすぐ主神殿主催のお祭りがおこなわれるのだ。
「そういえば、これイベントだったな」
そんなことを呟く。しかしすべての攻略対象と縁を切ったつもりのアメリアには関係ない。
お祭り期間は三日、初日は家族で楽しみ、翌日はキャロルと遊び、最終日はスティーブンとデートと決まっている。
余所行きは最終日のデート用だ。
弟はお祭りお祭りとはしゃいでいる。
初日は曲芸師がいくつかの広場に集まりおひねりを集める。そのおひねりのうち一割ほどを神殿に奉納することになっている。つまりおひねりを投げることが神殿への奉仕となるわけだ。
翌日は神殿で法話を聞いたりお祈りをしたりと真面目な催しものだが、いろいろと退屈な貴族女性にとってはそれすらも娯楽。聖歌隊の合唱や音楽祭の要素もある。
最終日は聖職者のパレードと、王宮内でパーティがある。
決まった相手のあるものはデートを、決まっていないものはいち早く決めるべく相手を探すイベントとなっている。
幼い弟が楽しめるのは初日だけだなとアメリアは思った。
「アメリア、ちょっと来てくれ」
王宮の仕事から戻った父親から呼び出された。
「パウンドケーキとクッキーを露店販売するんだが、やはり切り分けたほうがいいか?」
切り分けるとその日に売らなければならない、半端が出るときつい。
「全部は切らなくてもいいけど、切り分けるための作業スペースはないの?」
切っててしばらく置いておくと著しく味が落ちる。切り分けながら売るのが最適だ。
「やはり、店で切って持っていくのはまずいか?」
「それなら包装で乾くのを防ぐしかないけど、乾燥を防ぐ紙って結構高かったよね」
油をしみこませた紙を包装に使っている、この世界にサランラップはない。
「その場で切れば包装紙いらないと思うの、その場で食べるだろうし」
それならば普通の紙袋に手渡しすればいい。そういうと父親はあっさり納得してくれた。
お祭りはお菓子屋さんを始めた父にとっても掻き入れ時らしい。果たして父はお祭り見物に付き合う暇があるかしらとアメリアは悩む。
父親はそれでも過労死覚悟で一時間家族と過ごしてくれた。一番大きな広場に家族で見物に行ったが一時間したら、店の支配人に連行されていったけれど、その一時間は楽しかったとアメリアは思う。
父親がいなくなり男性使用人が庭師達しかいないため、アメリア達の背後を一番若い庭師見習いがついていく。
頼りないがいないよりましだ。こういう催し物に限っては女子供だけで歩いているといろいろと危ないことも多いのだ。
長い薄布を使って、新体操のリボン演技のような踊りを踊っている美女に鼻の下を伸ばしながら見とれていてはぐれそうになり、アメリアの母親に盛大に叱られていたが、それでもいないよりましなのだ。
弟のマテルがもらったコインをジャグリングをしている少年に投げてやる。
渋い好みだとアメリアは感心した。
アメリアも投げる用のコインをいくばくか貰っている。さあ誰に投げようと芸人を物色する。
竹馬のようなものに乗って歩いている者もいる。宙返りをする芸人たち。子犬に芸をさせている中年男。いろいろと目移りしてしまう。
同じようにきょろきょろと弟も首を回している。
アメリアの前を横切った誰かがいきなり転んだ。身なりのいい、アメリアより少し年下の少年に見えた。
「大丈夫ですか?」
放っておくのも何なのでアメリアがそっと体をかがめて少年に話しかけた。
奇麗な金髪のなかなか見目好い少年だと思った、アメリアはそっとハンカチを渡し、ほこりの付いた頬をぬぐうように言った。
「それではごきげんよう」
汚れたハンカチを背後の従者に渡してアメリアは別の芸人を見ようと別の広場に歩いて行った。
ちょっとした親切、アメリアにとってそれはそれだけのことだった。




